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6.双子の姉
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過去の忌々しい記憶を思い出しながら自宅に向かっていたアズリエールだが、自宅に近づけば近づく程、気持ちがどんどん重くなる……。
その為、わざと遠回りをしようと子供の頃によく遊び場にしていた幼馴染の家の近くにある草原の大きな木の元へと向かう。
幼馴染……。
今ではその呼び方をしまっていいのか、アズリエールの中では分からなくなってしまった相手。
4年前まで婚約者だったリックスの家の近くの草原には、幼少期によく登って遊んだ大きな木がある。
アズリエールは、幼少期の頃に婚約者だったリックスの家を訪れると、よくこの大きな木の周辺でリックスはもちろん、その友人でもあるノリスとエリック、4人でこれでもかと言うほど一日中遊びつくす日々を過ごしていたのだ。
そんな思い出のあるこの場所は、アズリエールにとって一番楽しかった記憶がたくさん詰まった場所なのだ。
元婚約者のリックス、幼馴染のノリスとエリック。
今日は何をして遊ぶかで4人で集まり、毎日楽しい悩みしかなかった日々。
しかし、それは姉と共に受けてしまったあの忌々しいトラウマの所為で、一瞬で失われた時間と居場所だ……。
それでもアズリエールにとって今でも悩んだりした時には必ずと言っていい程、訪れてしまう場所にもなっている。
その悩みが姉が絡んでいる事である時は、特にだ……。
その為、無意識でここを目指してしまった今の自分には、心に重い気持ちを抱いている事を改めて認実感してしまう。
その気持ちを少しでも静めようと、風をまといながらその大きな木に上空からアズリエールが近づくと、サワサワと葉が騒めいた。
その葉を無駄に散らせないようにアズリエールは、フワリといつも腰かけている定位置の太めの枝に腰かける。
その大きな木は、草原内で少し丘になっている一番高い場所に生えており、その木に登ると草原全体が見渡せるのだ。
そしてその光景は、今の夕刻が一番美しく色づく。
草花が夕日によってまるで黄金の穂のように輝いて見えるのだ。
その素晴らしい光景が起こる事は、昔一緒に遊んでいた幼馴染達が羨んでいた空を飛ぶ事が出来るアズリエールだけの特権でもあった。
皆で一日中遊びつくして、各両親達に帰宅する為に声を掛けられる直前、一瞬だけ見る事が出来る美しい光景。
ただ婚約者だったリックスだけは、その幼馴染仲間の中で唯一木登りが得意だった為、何度かアズリエールと一緒にこの光景を見た事があった。
だが再び同じような状況が起こる事はないだろう。
リックスが姉のユリアエールに心奪われてから、アズリエールとの関係は静かに壊れてしまったような状態になってしまったのだから……。
徐々に藍色に支配されていく時間限定の黄金の草原を呆然と見つめていたアズリエール。
草原が藍色に完全に染め上がると、アズリエールは大きなため息をつく。
そろそろ家に帰らなければ、皆が心配する……。
その当たり前の日々の行動が、今のアズリエールにとっては、かなり難しい。
だが、あまりにも帰りが遅いと父達を心配させてしまう。
諦めるように重くなってしまった腰を座っていた太い枝ぶりから、ズルリ落とす。
そのまま大きな木から落下すると、再び風がアズリエールの体に優しくまとわりついた。
その風力でふわりと上昇したアズリエールは、気を引きしめる為、口元をギュッとさせながら家へと向かった。
そんな厳しい表情を浮かべながら、三分程飛行していると、あっという間に自宅の屋敷が見えてきた。
そのまま自室のバルコニーへと直に降り立ったアズリエール。
願わくば、このままギリギリまで姉のユリアエールとは接触はしたくないと思いつつも、バルコニーに降り立った瞬間にその願いは崩れ去る。
アズリエールの自室では、すでに姉が待ち構えるように待機していたからだ。
その事を確認したアズリエールが、諦めるようにそっと息を吐く。
そして浮かない表情から一変するように笑顔を無理矢理張り付けた。
「ユリー、ただいま! どうしたの? もしかして僕が帰ってくるまでここで待っていてくれた?」
無邪気さを装いながら、小首を傾げて姉に問うと、自分と同じ顔をした姉が自分では絶対に出来ない美しくも儚げな笑みを浮かべた。
「ええ……。だって今日、アズがお父様とご一緒にお城に呼び出されたのは、マリンパールの第二王子様との婚約をする為だと聞いたから心配になって……。だっていきなり婚約の話を持ち出されたのでしょう?」
そう零した姉は、そっと目を伏せるように俯く。
するとアズリエールと違い、腰まである姉の長い髪が、サラリと肩から滑り落ちる。
その光景が、一層姉の儚そうな印象を深めた。
そうして如何にも妹を心配している様子を見せる姉だが……本心は定かではない。
「その事なのだけれど……。実は僕、一週間前のお見合いお茶会の時にオルクティス殿下に直接婚約を申し込まれていたんだ」
アズリエールのその返答に姉が大きく目を見開く。
「そう……なの? じゃあ何故、アズはその事を私に教えてくれなかったの?」
「ごめんね……。あの時は僕の一存では返答出来なかったから、アレク兄様に判断を任せたいとお伝えして、どうなるか分からない状態だったんだ。だから、もしかしたら破談になる可能性もあったから、はっきりしない状態でユリ―に話してしまうと、余計な心配をかけてしまうかと思って……」
悲し気な表情でやんわりと抗議してきた姉にアズリエールが、申し訳なさそうに答える。
すると姉は更に悲し気な表情を濃くした。
「アズは……話さなかった方が尚更、私が心配してしまうとは考えてくれなかったの?」
「ごめんね……。だってユリーは、僕とリックスが婚約解消してしまった事に凄く責任を感じているでしょ? だから今回の婚約話を話してしまうと、またその事で自分の事を責めだしちゃうかもって思ってしまったんだ」
「だからって……これでは私だけ除け者にされてしまったような気がしてしまうわ……」
「この件に関しては、お父様しか知らないよ? だからユリーだけに伝えなかった訳じゃないんだ。お母様もチビ助二人にも一切伝えていないし」
アズリエールにはユリアエールの他に下に二人の妹がいる。
だがこの二人は10歳と8歳なので、まだ幼い。
アズリエールがオルクティスとの婚約話が上がっている事を話しても大して興味は持たないだろう。
母に関しては、実は父に報告した際に一緒にいたので今回の事は伝えてはあった。
しかし、父の判断で敢えて知らないふりをして貰っている。
「アズは何でも一人で抱えて決めてしまうのね……」
「本当にごめんね? でも皆が僕の婚約がなかなか決まらない事を凄く心配してくれているから、正式に婚約が決まるまでは、ぬか喜びさせたくなかったんだ」
「それでも私には教えて欲しかったわ……」
そうポツリ呟く姉の言葉にアズリエールは、罪悪感だけでなく警戒心も抱いてしまう。
伝えてしまえば、姉がどういう行動を取るかが容易に想像出来たからだ。
「ねぇ。オルクティス殿下ってどんな方なの? お噂では、とても美丈夫で誠実な方と聞いた事があるのだけれど」
急に振られた話題の内容から、いかにもオルクティスに興味があるというような姉の態度を感じ、アズリエールは一瞬ヒヤリとした。
それを悟られないように敢えて婚約に関しては、あまり関心がないように当たり障りのない返答を心がける。
「凄く素敵な方だよ。サラサラの銀髪に淡い青緑色の涼やかな瞳をした綺麗なお顔立ちだから。でも流石に大陸全体の安全を担っている国の王子様だけあって、体は凄く鍛えている感じでシュッとしてた。背も物凄く高いしね。話し方も穏やかで年齢よりも凄く落ち着いている雰囲気なんだー。でもまだ幼さも残っている部分もあるから、そこまで恐縮はしないけれど……。でも婚約者と言うよりかは、物凄く面倒見のいいお兄様って感じの方が強いかな?」
「お兄様?」
「うん。アレク兄様と違って、ホワイトなお兄様!」
するとユリアエールが苦笑した。
「それではアレク様がブラックなお兄様になってしまうわ」
「アレク兄様はブラックだよ? 本人も認めたし」
「それではアレク様に対して不敬になってしまうわよ?」
「平気平気! アレク兄様と僕の仲だもの」
そんな冗談を言い合っていたが、ふとユリアエールの表情が変わった。
「でもそんな素敵な王子様が婚約者になってしまったら、流石のアズも恋に落ちてしまうかもしれないわね……」
その姉の呟きにアズリエールは、一瞬ぞくりとした寒気を感じ、一気に警戒心が溢れだす。
今回もいつものパターンになってしまうのではないかと……。
それを振り払おうと、敢えてあっさりとした返答をする。
「どうかな? そもそもこの婚約は、友人という関係を続けると言う前提で交わされた婚約だし」
「友人?」
やや怪訝そうな表情を浮かべながら、ユリアエールが聞き返してきた。
「僕はこの便利な空を飛べる巫女力を失いたくない。オルクティス殿下の方は、自国の為に船の入港管理に大いに役立つこの巫女力を手に入れたい。だからお互いにこの巫女力を失いたくないという条件が、一致して交わされた婚約なんだ。だからもし結婚までに至ったとしても恐らく白い結婚生活になるし、もしオルクティス殿下が家族を持ちたいと思う事があれば、すぐにそれは解消されると思う。僕にとってはオルクティス殿下の婚約者である限り、煩わしい婚活を強いられないで済むし、何よりも結婚後も巫女力を失う危険性はないという好条件での婚約なんだ」
「でも……」
「だからユリー、安心して? これはいずれ終わりのある婚約、あるいは結婚なのだから」
敢えてその部分強調する言い方をしたアズリエールにユリアエールが大きく目を見開く。
だが、それはすぐに綺麗な笑みへと変わった。
「『終わりのある』だなんて⋅⋅⋅⋅⋅⋅安心どころか不安しかないわ。だって私は、アズには幸せな結婚をして欲しいと思っているのに⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
苦笑しながら、そう返してきた姉の言葉の中に含まれた別の意図をどうしてもアズリエールは、探さずにはいられなかった。
そんな無意識でしてしまった考えを打ち消すように敢えて話題を変える。
「僕よりもまず長女のユリーが、先に幸せな結婚をしないとね!」
するとユリアエールが困ったような笑みを浮かべた。
その反応で、アズリエールは自分が姉を無意識に牽制してしまった事に気付く。
意図しているのかは分からないが、毎回アズリエールの元に来た縁談話をいつの間にか自分向けにしてしまう姉。
そして相手をその気にさせた後は、何故かその婚約の申し入れを渋り、受け入れない⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
その真意が分からず、抱きたくない疑いを姉に抱いてしまう自分に嫌気がさしてしまう。
姉は単に自分の婚約を妨害する事に躍起になっているだけではないかと⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
来週には、定期的に外交でサンライズを訪れるオルクティスとの面会が始まる。
その場所に姉が姿を表す可能性は、非常に高い。
それを父と王太子アレクシスは全力で阻止してくれるだろうが、もし姉が今までのようにその行動をとった場合、自分は姉とどう向き合えばいいのだろうか。
8年前の婚約を解消されてしまった時から、自分と全く同じ顔をしている姉が、本当は自分の事をどう思っているのか分からない不安が、アズリエールには常に付きまとっていた。
その為、わざと遠回りをしようと子供の頃によく遊び場にしていた幼馴染の家の近くにある草原の大きな木の元へと向かう。
幼馴染……。
今ではその呼び方をしまっていいのか、アズリエールの中では分からなくなってしまった相手。
4年前まで婚約者だったリックスの家の近くの草原には、幼少期によく登って遊んだ大きな木がある。
アズリエールは、幼少期の頃に婚約者だったリックスの家を訪れると、よくこの大きな木の周辺でリックスはもちろん、その友人でもあるノリスとエリック、4人でこれでもかと言うほど一日中遊びつくす日々を過ごしていたのだ。
そんな思い出のあるこの場所は、アズリエールにとって一番楽しかった記憶がたくさん詰まった場所なのだ。
元婚約者のリックス、幼馴染のノリスとエリック。
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しかし、それは姉と共に受けてしまったあの忌々しいトラウマの所為で、一瞬で失われた時間と居場所だ……。
それでもアズリエールにとって今でも悩んだりした時には必ずと言っていい程、訪れてしまう場所にもなっている。
その悩みが姉が絡んでいる事である時は、特にだ……。
その為、無意識でここを目指してしまった今の自分には、心に重い気持ちを抱いている事を改めて認実感してしまう。
その気持ちを少しでも静めようと、風をまといながらその大きな木に上空からアズリエールが近づくと、サワサワと葉が騒めいた。
その葉を無駄に散らせないようにアズリエールは、フワリといつも腰かけている定位置の太めの枝に腰かける。
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その素晴らしい光景が起こる事は、昔一緒に遊んでいた幼馴染達が羨んでいた空を飛ぶ事が出来るアズリエールだけの特権でもあった。
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ただ婚約者だったリックスだけは、その幼馴染仲間の中で唯一木登りが得意だった為、何度かアズリエールと一緒にこの光景を見た事があった。
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そろそろ家に帰らなければ、皆が心配する……。
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そのまま大きな木から落下すると、再び風がアズリエールの体に優しくまとわりついた。
その風力でふわりと上昇したアズリエールは、気を引きしめる為、口元をギュッとさせながら家へと向かった。
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するとアズリエールと違い、腰まである姉の長い髪が、サラリと肩から滑り落ちる。
その光景が、一層姉の儚そうな印象を深めた。
そうして如何にも妹を心配している様子を見せる姉だが……本心は定かではない。
「その事なのだけれど……。実は僕、一週間前のお見合いお茶会の時にオルクティス殿下に直接婚約を申し込まれていたんだ」
アズリエールのその返答に姉が大きく目を見開く。
「そう……なの? じゃあ何故、アズはその事を私に教えてくれなかったの?」
「ごめんね……。あの時は僕の一存では返答出来なかったから、アレク兄様に判断を任せたいとお伝えして、どうなるか分からない状態だったんだ。だから、もしかしたら破談になる可能性もあったから、はっきりしない状態でユリ―に話してしまうと、余計な心配をかけてしまうかと思って……」
悲し気な表情でやんわりと抗議してきた姉にアズリエールが、申し訳なさそうに答える。
すると姉は更に悲し気な表情を濃くした。
「アズは……話さなかった方が尚更、私が心配してしまうとは考えてくれなかったの?」
「ごめんね……。だってユリーは、僕とリックスが婚約解消してしまった事に凄く責任を感じているでしょ? だから今回の婚約話を話してしまうと、またその事で自分の事を責めだしちゃうかもって思ってしまったんだ」
「だからって……これでは私だけ除け者にされてしまったような気がしてしまうわ……」
「この件に関しては、お父様しか知らないよ? だからユリーだけに伝えなかった訳じゃないんだ。お母様もチビ助二人にも一切伝えていないし」
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だがこの二人は10歳と8歳なので、まだ幼い。
アズリエールがオルクティスとの婚約話が上がっている事を話しても大して興味は持たないだろう。
母に関しては、実は父に報告した際に一緒にいたので今回の事は伝えてはあった。
しかし、父の判断で敢えて知らないふりをして貰っている。
「アズは何でも一人で抱えて決めてしまうのね……」
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伝えてしまえば、姉がどういう行動を取るかが容易に想像出来たからだ。
「ねぇ。オルクティス殿下ってどんな方なの? お噂では、とても美丈夫で誠実な方と聞いた事があるのだけれど」
急に振られた話題の内容から、いかにもオルクティスに興味があるというような姉の態度を感じ、アズリエールは一瞬ヒヤリとした。
それを悟られないように敢えて婚約に関しては、あまり関心がないように当たり障りのない返答を心がける。
「凄く素敵な方だよ。サラサラの銀髪に淡い青緑色の涼やかな瞳をした綺麗なお顔立ちだから。でも流石に大陸全体の安全を担っている国の王子様だけあって、体は凄く鍛えている感じでシュッとしてた。背も物凄く高いしね。話し方も穏やかで年齢よりも凄く落ち着いている雰囲気なんだー。でもまだ幼さも残っている部分もあるから、そこまで恐縮はしないけれど……。でも婚約者と言うよりかは、物凄く面倒見のいいお兄様って感じの方が強いかな?」
「お兄様?」
「うん。アレク兄様と違って、ホワイトなお兄様!」
するとユリアエールが苦笑した。
「それではアレク様がブラックなお兄様になってしまうわ」
「アレク兄様はブラックだよ? 本人も認めたし」
「それではアレク様に対して不敬になってしまうわよ?」
「平気平気! アレク兄様と僕の仲だもの」
そんな冗談を言い合っていたが、ふとユリアエールの表情が変わった。
「でもそんな素敵な王子様が婚約者になってしまったら、流石のアズも恋に落ちてしまうかもしれないわね……」
その姉の呟きにアズリエールは、一瞬ぞくりとした寒気を感じ、一気に警戒心が溢れだす。
今回もいつものパターンになってしまうのではないかと……。
それを振り払おうと、敢えてあっさりとした返答をする。
「どうかな? そもそもこの婚約は、友人という関係を続けると言う前提で交わされた婚約だし」
「友人?」
やや怪訝そうな表情を浮かべながら、ユリアエールが聞き返してきた。
「僕はこの便利な空を飛べる巫女力を失いたくない。オルクティス殿下の方は、自国の為に船の入港管理に大いに役立つこの巫女力を手に入れたい。だからお互いにこの巫女力を失いたくないという条件が、一致して交わされた婚約なんだ。だからもし結婚までに至ったとしても恐らく白い結婚生活になるし、もしオルクティス殿下が家族を持ちたいと思う事があれば、すぐにそれは解消されると思う。僕にとってはオルクティス殿下の婚約者である限り、煩わしい婚活を強いられないで済むし、何よりも結婚後も巫女力を失う危険性はないという好条件での婚約なんだ」
「でも……」
「だからユリー、安心して? これはいずれ終わりのある婚約、あるいは結婚なのだから」
敢えてその部分強調する言い方をしたアズリエールにユリアエールが大きく目を見開く。
だが、それはすぐに綺麗な笑みへと変わった。
「『終わりのある』だなんて⋅⋅⋅⋅⋅⋅安心どころか不安しかないわ。だって私は、アズには幸せな結婚をして欲しいと思っているのに⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
苦笑しながら、そう返してきた姉の言葉の中に含まれた別の意図をどうしてもアズリエールは、探さずにはいられなかった。
そんな無意識でしてしまった考えを打ち消すように敢えて話題を変える。
「僕よりもまず長女のユリーが、先に幸せな結婚をしないとね!」
するとユリアエールが困ったような笑みを浮かべた。
その反応で、アズリエールは自分が姉を無意識に牽制してしまった事に気付く。
意図しているのかは分からないが、毎回アズリエールの元に来た縁談話をいつの間にか自分向けにしてしまう姉。
そして相手をその気にさせた後は、何故かその婚約の申し入れを渋り、受け入れない⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
その真意が分からず、抱きたくない疑いを姉に抱いてしまう自分に嫌気がさしてしまう。
姉は単に自分の婚約を妨害する事に躍起になっているだけではないかと⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
来週には、定期的に外交でサンライズを訪れるオルクティスとの面会が始まる。
その場所に姉が姿を表す可能性は、非常に高い。
それを父と王太子アレクシスは全力で阻止してくれるだろうが、もし姉が今までのようにその行動をとった場合、自分は姉とどう向き合えばいいのだろうか。
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