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第百七十四話 イドニア(ゴンザール、森林領首都) ギルグレム
しおりを挟むドラゴニアのはるか東の海に面する国ゴンザール。
そのゴンザールの大部分を占める魔物の森の真ん中にある街イドニア。
この森の領主アッテウス・アレミリウスの森林領の首都だ。
現在はその魔物の森を一直線東の海側から西の荒地側まで突っ切る安全な大街道がある。
その所々に街が配され、森の魔獣狩りの冒険者達の良い拠点となっている。
ゴンザールはドラゴニアが建国するまでは、善き冒険者達にとっては唯一の”まともに人間扱いしてくれる良い国”だった。ゴンザールを除けば最もマシな国イスターニャにはあまり良い狩場も無く、冒険者を食い物にしないけれども”よそ者”扱いであった。
ゴンザールは、一部の善き冒険者達にとっては、行くべき憧れの地だったのだ。
ゴンザール自体は10万人ほどの小さな国だった。現在は人口は増えている。
ドラゴニア建国以降、周辺各国から冒険者をはじめまともな者達が難民となりドラゴニアとゴンザールに流入した。まともでない者達は国境で追い返され、国境を超えて中に入ることは出来なかった。
周囲を高い城壁に囲まれた魔物の森の中心部にある。現在人口2万人ほどの森林領で1万人の人を抱える街イドニア。
大街道(新街道)と並行して旧街道もイドニアと東西を結んでいるが、大街道に比べて細い。なので魔物に襲われる機会が多い。なので今は物好き以外は通らない道になっている。
その旧街道を、荒地側からイドニアに向かって走る一風変わった4頭建ての馬車。
馬には足まで覆われる鎧が着せてある。荷車側は箱型で外側や屋根に鉄板が貼り付けてある。御者席も覆われている。
左右の扉は大きめ。前後天井、床にも扉がある。扉以外にも全周囲に小窓が開くように成っている。矢窓だ。
御者席にいるのは、元冒険者ギルドゴンザール支部ギルドマスターだったギルグレム。
ゴンザールとドラゴニアが共同で新冒険者ギルドを立ち上げた時、独断で旧ギルドを閉鎖した。そして冒険者に戻った。
旧ギルドは手数料をぼったくる組織であった。本部規定で3割。支部によっては健康税とか支部税とかどーでもいい名目を付けて6-8割までぼったくっていり、挙句獲物の査定を最低限にする、という悪徳尽くしも多かった。
が、このゴンザール支部はそんな中で最もまともだったようで、本部から規定されている3割のみ。そこから支部の取り分は5%のみ。25%分を本部に送らねばならなかった。
なので、経営が厳しくて、ギルマス自身が頻繁に獲物を狩りに行き、得たカネを支部の費用に使っていた。
それでも、悪徳組織の一員であったことは事実であった。彼はそれを負い目に持ち、領主や国王の誘いを辞退して冒険者に戻っていた。冒険者達はそんな彼を判っていたので、彼の冒険者復帰を歓迎した。
その馬車に乗るのは、ギルグレムの他に弓の得意なサカス、剣や槍が得意なゴメス、魔法と格闘が好きなアッカリア、アッカリアの妹ウッカリア。ウッカリア以外は皆ギルグレムの部下だった。
皆、ギルグレムがカネを稼ぎに行く時に付き合ってくれていた良い仲間だ。
ギルドを閉めた時、皆も領主から新ギルドに来てくれと請われたが、行かなかった。
ギルグレムは自分がこだわって行かなかったため、皆も行かなかったのだろうと思っている。
皆はそんなことはないと言うが、ギルグレムにとってはその事も少し負い目だ。
冒険者復帰の最初の頃はゴンザールを旅して国内を見て回っていた。最後に荒地のほうに出て、その発展ぶりに驚いた。その時、荒地の砦の外の街に泊まった時、その宿屋の紹介で馬車の制作から販売、貸出までする店を紹介してもらった。そこで、そこの店主と面白がって作ったのが、この装甲馬車だ。馬も特別だ。
「フツーは貸出さえしないんだぜ?お前は特別だからな。いらなくなったら返せよ。」と念を押された、魔物の馬だ。
温厚でギルグレムの言うことを理解し、指示をよくきいている。
「いざとなったらお前たち全員より強いから、勿論1頭でだ。」
と、ギルグレム達の最後の切り札ともなっている。
なんか、馬車自体にも強化魔法を掛けてくれたようだった。
しかも
「俺の遊びだから、」と、普通の荷馬車同様の代金しか受け取らなかった。
宿の店主もそうだったが、そこの街の魔人は一風変わっているようだった。
ーー
旧街道は急速に自然に帰ってきている。人通りが無いのだから当然だろう。
そこに大音響をたてて馬車がゆっくり走っていく。
街道近くにいた魔獣には良い餌だと思われ、襲われる。
が、
ギルグレム達にとっては、勝手に来てくれる獲物、になる。
襲ってきたのをサカスが射殺す。アッカリアがストレージに入れる。これだけ。
なので馬車から出ないでの単純作業に近いことになってしまっている。
荒地側から入ってイレグイ状態が続く。幸いアッカリアはストレージを持っている。閉めた旧ギルドの備品だったのを退職金代わりに与えたものだ。当時職員達には好きなものを与えた、カネはなかったので仕方なかった。
サカスは弓、ゴメスは剣を選んだ。
「ギルさーん、、この調子だと、街に着くのはかなり遅くなるんじゃないのか?」サカス
「・・そうだな、、でも野宿は面倒だよな?」
「いやだね」
「だな」
「や」
「や」
「んじゃ、少し早めるわ、もう獲物は狩らないでいいよな?」ギル
「ええ、結構いっぱいです」アッカリア
「了解」
夜も更けてきた頃にやっとイドニアの北門に到着。
こちらの旧街道を使う者はほとんどいないので、衛兵も外にはいない。
壁の上にいる者に声を掛け、大きめの通用門を開けてもらう。
下町に近い、いつも利用していた安宿に向かう。
この街は今は南に広がりつつある。新街道が南にあるのだ。
なので北側は古い街となっている。安いし、うるさくないので居心地はいい方だろう。
ギルドに勤めているときからこの宿に泊まっていた。
自宅なぞ持っていない。部下たちも同じだ、他の安宿暮らしだった。
今はパーティ全員この宿に泊まっている。
厩も馬車置き場もある、街の隅っこの宿。
繁華しているとおりに出るまで少し歩くが、逆に静かで良い。城塞内は治安はいいのでそのような場所でも問題ない。
馬を厩に戻してから、装備を部屋に置き、普段着で銭湯に向かう。
昔はあまり見ることがなかった風呂屋だ。いいもんができたものだ。
中に入ると、サカスとゴメスがもう来ていた。
じゃぼん、、
「ふうーー、、」ギル
「風呂はいいっすねぇ、、」サカス
「風呂出たあとのエールと飯が美味いよな」ゴメス
「「だなぁ、、」」
そのあとがよく眠れるのだ。風呂、エール、飯、で寝る。
今日は宿に帰ってメシ食って寝るだけだ。
獲物を売りにギルドに行くのは明日皆で。
依頼なんぞ殆ど無い。ここいらの冒険者の稼ぎの殆どは獲物を売ることなのだ。今も昔もここはそういうところだ。
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