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第六章
婚約破棄から断罪へ1
――そんな決意をしたのに。
レインは今、ユリウスの腕の中で、オリバーとその側近が守るように囲むヘンリエッタと対峙していた。
……いいや、正確には、ユリウスに守られているから、安心してしまって、ぼんやりと自分たちを睨むオリバー、ヘンリエッタたちを見ていた。
卒業パーティーでオリバーから婚約破棄を告げられたのは今しがたのこと。そうして、ユリウスから、ユリウスと自分との婚約を教えられたのも、今しがたのことだった。
おかしい、自分は、さきほどまで断頭台に上るような気持ちでいたはずなのに……。
困惑するレインを、ユリウスが強く抱きかばう。
「ユリウス様! 離れてください! その人は悪役令嬢……いえ、危険人物です!」
「悪役令嬢だと? 勝手な造語で私のレインを侮辱するな!」
ヘンリエッタの言葉に、ユリウスは柳眉を吊り上げた。それにひくり、とヘンリエッタが委縮したのが見えた。ユリウスを好き、と言っていたのに、ユリウスの怒りに満ちた顔を見て恐ろしくなったのだろうか。レインはは、と息をつく。
「貴様らが親子でレインを貶めようとしたことは調べがついている。証拠も商人もそろっている。……ベン」
「はっ」
ユリウスが傍らのベンジャミンに声をかけると、ベンジャミンはすいと会場を見渡した。まもなく、一人の女に目をつけ、コックス子爵夫人だな、部下に確認をとった、部下が頷くと、コックス夫人を捕らえ、連行するようにして帰ってくる。突然のことにぎゃいぎゃいと騒ぎたてる女は身なりこそ綺麗なドレスを着ているが、レインが目を通した招待客リストの中にいない人物だった。おそらくコックス子爵夫人なのだろうが、その眉は恐ろしいほど吊り上がり、まるで悪魔のようだった。
「離しなさいよ!」
「お義母さま!」
ヘンリエッタが叫ぶ。ベンジャミンは「招待状もないのにどうやって潜り込んだんだ」と冷たい言葉でそれに返した。ユリウスがすぐに、何か書類のようなものを取り出し、話し始めた。
「コックス子爵夫人は社交界で自分はまもなく王妃の母となるのだと吹聴していた。それで調査をすると、とんでもないことがわかった」
ユリウスは会場を見回した。周囲の注目が集まってびくりと肩を震わせるレインの頭を、安心させるように撫でる。
「コックス子爵夫人は先だって処罰されたタンベット男爵といとこ同士の関係にあった。タンベット男爵一家の処罰については皆も記憶に新しいだろう。その罪状は違法である奴隷を所持していたこと、だったが。そこには伏せられていたもう一つの罪状があった」
タンベット男爵――レインは胸を押さえた。それは、レインを奴隷として「所持」していた一家の名前だったからだ。
ユリウスがいっそう声を張り上げる。
「彼らは王女を隠して虐待していたのだ。私が保護するまで、先代女王の忘れ形見である王女の状況は悲惨なものだった」
「え……?」
けれど、ユリウスの言葉の内容に、知らない情報があって、レインは思わず声をあげた。コックス子爵夫人が髪を振り乱す。ユリウスは会場に響くような声で続ける。
「嘘よ!」
「私と父は王女を保護し、公爵令嬢として育てた。王女が誘拐され、奴隷として虐待されていたことは許されがたいことだ。早くにつまびらかにされねばならないことだったが、まだ黒幕がわからない以上、王女に危険がある可能性がある。先代アンダーサン公爵は爵位を私に譲り、調査を始めた」
ユリウスはそこで一度言葉を切った。レインを見下ろし、ぐ、と奥歯を噛む。そうして、まっすぐにオリバーを見つめた。
「……ここまで見つからないわけだ。まさか、王族であり、王女のいとこである、王女を率先して守らねばならないはずのオリバー第一王子が黒幕を隠ぺいしていたのだから」
「な……でたらめを!」
急に水を向けられ、オリバーが目を見開く。けれど、その顔には脂汗がにじんでいた。
「オリバー第一王子、あなたは王女が誘拐された十五年前の使用人名簿を改ざんしましたね。あなたがその名簿を閲覧した記録が残っています。そして改ざんされる前の記録は使用人に燃やすように命じた」
レインは今、ユリウスの腕の中で、オリバーとその側近が守るように囲むヘンリエッタと対峙していた。
……いいや、正確には、ユリウスに守られているから、安心してしまって、ぼんやりと自分たちを睨むオリバー、ヘンリエッタたちを見ていた。
卒業パーティーでオリバーから婚約破棄を告げられたのは今しがたのこと。そうして、ユリウスから、ユリウスと自分との婚約を教えられたのも、今しがたのことだった。
おかしい、自分は、さきほどまで断頭台に上るような気持ちでいたはずなのに……。
困惑するレインを、ユリウスが強く抱きかばう。
「ユリウス様! 離れてください! その人は悪役令嬢……いえ、危険人物です!」
「悪役令嬢だと? 勝手な造語で私のレインを侮辱するな!」
ヘンリエッタの言葉に、ユリウスは柳眉を吊り上げた。それにひくり、とヘンリエッタが委縮したのが見えた。ユリウスを好き、と言っていたのに、ユリウスの怒りに満ちた顔を見て恐ろしくなったのだろうか。レインはは、と息をつく。
「貴様らが親子でレインを貶めようとしたことは調べがついている。証拠も商人もそろっている。……ベン」
「はっ」
ユリウスが傍らのベンジャミンに声をかけると、ベンジャミンはすいと会場を見渡した。まもなく、一人の女に目をつけ、コックス子爵夫人だな、部下に確認をとった、部下が頷くと、コックス夫人を捕らえ、連行するようにして帰ってくる。突然のことにぎゃいぎゃいと騒ぎたてる女は身なりこそ綺麗なドレスを着ているが、レインが目を通した招待客リストの中にいない人物だった。おそらくコックス子爵夫人なのだろうが、その眉は恐ろしいほど吊り上がり、まるで悪魔のようだった。
「離しなさいよ!」
「お義母さま!」
ヘンリエッタが叫ぶ。ベンジャミンは「招待状もないのにどうやって潜り込んだんだ」と冷たい言葉でそれに返した。ユリウスがすぐに、何か書類のようなものを取り出し、話し始めた。
「コックス子爵夫人は社交界で自分はまもなく王妃の母となるのだと吹聴していた。それで調査をすると、とんでもないことがわかった」
ユリウスは会場を見回した。周囲の注目が集まってびくりと肩を震わせるレインの頭を、安心させるように撫でる。
「コックス子爵夫人は先だって処罰されたタンベット男爵といとこ同士の関係にあった。タンベット男爵一家の処罰については皆も記憶に新しいだろう。その罪状は違法である奴隷を所持していたこと、だったが。そこには伏せられていたもう一つの罪状があった」
タンベット男爵――レインは胸を押さえた。それは、レインを奴隷として「所持」していた一家の名前だったからだ。
ユリウスがいっそう声を張り上げる。
「彼らは王女を隠して虐待していたのだ。私が保護するまで、先代女王の忘れ形見である王女の状況は悲惨なものだった」
「え……?」
けれど、ユリウスの言葉の内容に、知らない情報があって、レインは思わず声をあげた。コックス子爵夫人が髪を振り乱す。ユリウスは会場に響くような声で続ける。
「嘘よ!」
「私と父は王女を保護し、公爵令嬢として育てた。王女が誘拐され、奴隷として虐待されていたことは許されがたいことだ。早くにつまびらかにされねばならないことだったが、まだ黒幕がわからない以上、王女に危険がある可能性がある。先代アンダーサン公爵は爵位を私に譲り、調査を始めた」
ユリウスはそこで一度言葉を切った。レインを見下ろし、ぐ、と奥歯を噛む。そうして、まっすぐにオリバーを見つめた。
「……ここまで見つからないわけだ。まさか、王族であり、王女のいとこである、王女を率先して守らねばならないはずのオリバー第一王子が黒幕を隠ぺいしていたのだから」
「な……でたらめを!」
急に水を向けられ、オリバーが目を見開く。けれど、その顔には脂汗がにじんでいた。
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