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第七章
前に進むために1
「お兄様……あ」
「ユリウス、だろう、レイン」
「はい、ユリウス様……」
冬が終わりを迎え、温かくなってきた春の初め、タンポポの花が咲き乱れる庭園に設えられた東屋で、レインはユリウスとお茶をしていた。
お茶はダージリン春摘みの新茶をいち早くに取り寄せたものは香り高く、味も爽やかだ。
厨房のコックが腕を振るってくれた持ち運びもしやすいクッキーはスパイスがきいていておいしい。苺のペストリーも苺が甘く、うっかり食べ過ぎそうになるくらいだった。
けれどいっとうレインが気に入っているのは、黄色いタンポポと琥珀色のダリアが一面に、絨毯のように咲くこの庭だ。庭師のダンの腕がいいのか、下品でなく植わったタンポポと、ところどころに咲いた大きなダリアがよく映えている。
レインは、未だにユリウスのことを「お兄様」と呼んでしまうことをユリウスに甘くとがめられながらはにかんだ。
「レイン、どうしてそんなに遠くにいるんだい? こっちへおいで」
恥ずかしがってベンチの向こう。ひと二人分ほどの間を開けて座っていたレインをユリウスは手招いた。
「は、はい、お兄……ユリウス様」
そうして一人分席を詰めたレインだったが、ユリウスはレインの腰をそっとささえ、軽く持ち上げて自分の膝の上に移動させてしまった。
自然と横抱きにされる形になったレインは、どうしたらいいのかわからずあわあわするばかりになってしまう。
だってユリウスが近い。ユリウスの、爽やかな森のような香りが近くて、美しい顔が近くて、その顔がレインを見てほころぶように笑んでいる。
「ユリ、ウス様……」
「その、様、というのも、いらないのだけれど。まだ慣れないね。私の可愛いレインは」
可愛いいレイン。愛しいレイン、とうたうように繰り返されて、レインは自分の頬が熱くなるのを感じていた。心臓がどきどきして、今すぐ逃げ出したいような、けれどずっとこうしていたいような気持ちになる。
「ほら、レイン。おいしいよ」
ユリウスの白い指先が、きつね色に焼けたスパイスクッキーをレインの口元に運んでくる。まるで、鳥が行う求愛行動――給餌行動だわ、と思って、レインは胸を押さえて口を開いた。
「いい子だね、レイン」
レインの口にそっとクッキーが差し込まれる。さくり、と噛んだクッキーは、口に入った途端ほろほろと崩れ、きつすぎない胡椒の味を舌に伝えてくる。
「おいしいかい?」
「お、おいしい……です」
「そうか」
目の前にわずかに影がかかる。次いで、ちゅ、とこめかみに触れる柔らかい感触。
口付けされたのだと気付いて、レインはもうどうしようもなく緊張してしまった。
世の中の恋人同士というものは、みんなこういうものなのだろうか。……そう思うと同時に、ユリウスより甘いひとはいないんじゃないか、とも思った。
「ふふ」
「ユリウス様?」
「ごめんね、レインがかわいくて、つい、キスしてしまった」
「からかっていらしたのですか?」
「からかってなんかいないよ。いつだって、私はかわいいレインのこの唇に、キスしたいと思っているとも。でも、きっとレインにはまだ早いから、こめかみで我慢しているんだ」
「あ……」
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