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第七章
おお、我らが姫様1
脚を踏み入れた王城の中は、知らない場所なのにどこか懐かしさを感じる、そんな不思議な場所だった。
この国の豊かさを示すような豪奢な家具は、レインの目には少しきらびやかが過ぎた。
ユリウスがどれだけレインのことを考えて部屋を整えてくれたのかがわかって、と同時に、こんな時でもユリウスのことばかり考えている自分に苦笑した。
隣についてくれているユリウスが「どうしたんだい、レイン」と尋ねてくれる。
そこにユリウスの優しい心と気遣いを感じて、レインは微笑んだ。
――大丈夫、怖がることなんてない。だって、ユリウスがいてくれるのだから。
長い回廊を通って、城の西側にたどり着く。
生前の先代女王――レインの母が使っていたという内殿だ。それをレインのものにしてくれるという国王には感謝してもしきれなかった。
そうして、内殿にレインが一歩、足を踏み入れた瞬間だった。
「――おかえりなさいませ! 姫様!」
何十人もの声が揃って聞こえ、レインの鼓膜を震わせる。
思わずユリウスの後ろに隠れそうになるのをこらえて目を瞬くと、大勢の使用人が内殿の入り口に整列しているのが見えた。
挨拶が終わったからだろうか。その使用人たちの中から何人かが進み出てくる。
「姫様、覚えておいでですか、姫様の乳母だったチコです」
「私は先代女王陛下の女官をしておりました。今は女官弔意をしております、ベルです」
「そして私が近衛騎士のダンゼントです」
その声に、聞き覚えがあり、そちらに視線を向けたレインはあっと声をあげた。身なりこそ騎士の隊服を着ているが、その顔の下半分ほどを埋める赤いひげには見覚えがある。
「庭師のダンじいや……?」
「ふふ、ダンじいやは仮の姿、今は姫様をお守りする近衛騎士です。おかえりなさいませ、おひいさま」
「ダンじいや……!」
見知った顔があってほっとすると同時に、驚いてしまって、レインは目をぱちぱちと瞬いた。
――くう!うらやましい!ダンゼントさん!
――私も姫様にばあやと言われたい……!
――ダンゼントさんばかりずるい……!
そこかしこから聞こえるひそやかな声は、ダンゼントへの嫉妬がにじんでいる。
(嫉妬? 私に呼ばれたダンじいやに?)
そう思って振り返った先、見渡す限りの使用人たちは、みんな一様にレインのことをあたたかな目で見つめている。
ここのあたたかさはそう、まるでアンダーサン公爵邸のようだ。
よそから来た元奴隷の王女、ということで、そう言った目で見られることも覚悟していたレインは、しかし今、ああ、と思った。
奴隷だったころのトラウマで、私が外の世界を見ようとしなかっただけで、世界はこんなにも優しいんだわ、と。
レインは、この優しい人たちの期待にこたえたい、と、その時初めて強く思った。
女王になりたい、という思いとは少し違う。けれど、この人たちを、この笑顔が崩されぬことがないよう守りたい、と思った。
「それでは姫様、お外は暑かったでしょう。まずおぐしを整えましょうね」
「え……? でも、どこも乱れていないわ」
「え、ああ、ええっと……」
「ふふ、レイン、女官たちは、レインを着飾りたくて仕方ないんだよ」
「そうなのですか!?」
レインが女官たちを振り返ると、うんうんと皆一様に頷いて見せた。
この国の豊かさを示すような豪奢な家具は、レインの目には少しきらびやかが過ぎた。
ユリウスがどれだけレインのことを考えて部屋を整えてくれたのかがわかって、と同時に、こんな時でもユリウスのことばかり考えている自分に苦笑した。
隣についてくれているユリウスが「どうしたんだい、レイン」と尋ねてくれる。
そこにユリウスの優しい心と気遣いを感じて、レインは微笑んだ。
――大丈夫、怖がることなんてない。だって、ユリウスがいてくれるのだから。
長い回廊を通って、城の西側にたどり着く。
生前の先代女王――レインの母が使っていたという内殿だ。それをレインのものにしてくれるという国王には感謝してもしきれなかった。
そうして、内殿にレインが一歩、足を踏み入れた瞬間だった。
「――おかえりなさいませ! 姫様!」
何十人もの声が揃って聞こえ、レインの鼓膜を震わせる。
思わずユリウスの後ろに隠れそうになるのをこらえて目を瞬くと、大勢の使用人が内殿の入り口に整列しているのが見えた。
挨拶が終わったからだろうか。その使用人たちの中から何人かが進み出てくる。
「姫様、覚えておいでですか、姫様の乳母だったチコです」
「私は先代女王陛下の女官をしておりました。今は女官弔意をしております、ベルです」
「そして私が近衛騎士のダンゼントです」
その声に、聞き覚えがあり、そちらに視線を向けたレインはあっと声をあげた。身なりこそ騎士の隊服を着ているが、その顔の下半分ほどを埋める赤いひげには見覚えがある。
「庭師のダンじいや……?」
「ふふ、ダンじいやは仮の姿、今は姫様をお守りする近衛騎士です。おかえりなさいませ、おひいさま」
「ダンじいや……!」
見知った顔があってほっとすると同時に、驚いてしまって、レインは目をぱちぱちと瞬いた。
――くう!うらやましい!ダンゼントさん!
――私も姫様にばあやと言われたい……!
――ダンゼントさんばかりずるい……!
そこかしこから聞こえるひそやかな声は、ダンゼントへの嫉妬がにじんでいる。
(嫉妬? 私に呼ばれたダンじいやに?)
そう思って振り返った先、見渡す限りの使用人たちは、みんな一様にレインのことをあたたかな目で見つめている。
ここのあたたかさはそう、まるでアンダーサン公爵邸のようだ。
よそから来た元奴隷の王女、ということで、そう言った目で見られることも覚悟していたレインは、しかし今、ああ、と思った。
奴隷だったころのトラウマで、私が外の世界を見ようとしなかっただけで、世界はこんなにも優しいんだわ、と。
レインは、この優しい人たちの期待にこたえたい、と、その時初めて強く思った。
女王になりたい、という思いとは少し違う。けれど、この人たちを、この笑顔が崩されぬことがないよう守りたい、と思った。
「それでは姫様、お外は暑かったでしょう。まずおぐしを整えましょうね」
「え……? でも、どこも乱れていないわ」
「え、ああ、ええっと……」
「ふふ、レイン、女官たちは、レインを着飾りたくて仕方ないんだよ」
「そうなのですか!?」
レインが女官たちを振り返ると、うんうんと皆一様に頷いて見せた。
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