60 / 67
第八章
ヒロインのヘンリエッタ1
しおりを挟む
レインたちが連れてこられたのは、どうやらどこかの貴族の屋敷のようだった。
眠ってしまったアレンを抱いたまま、屋敷の使用人に、先ほどとまでとは打って変わって丁寧に案内される。それが不気味だ。仮面のような顔をした使用人に話しかけても返事は返ってこない。
そうして客間のような場所にたどり着いたレインたちを待っていたのは、髪と同じ、薄桃色のドレスで、まるで姫君のように着飾ったヘンリエッタだった。
「コックスさん……」
「あんた、また私のことをそう呼ぶの? コックス様、もしくはヘンリエッタ様、でしょう? 私は王太子妃になるんだから」
レインの後ろに使用人二人が張り付く。逃げられない。
ヘンリエッタを刺激するのはよくない、と考えて、レインは口をつぐんだ。
そうやって、しばしの沈黙の中、ヘンリエッタの様子を観察する。
少し痩せただろうか。
大きかった目が今はさらに大きく見え、ぎょろりとしてこちらを向いている。
肌は青白く、髪はよく見ればぱさついていた。
「どうして……」
レインは小さく息をして、なるべく落ち着いて見えるように口を開いた。
「……どうして私をここに連れて来たんですか」
レインが丁寧な言葉を使ったからだろうか。ヘンリエッタが満足そうに唇を歪める。
「そんなの決まってるじゃない。あんたに正式な書面で王位継承権を放棄しました、私はただの奴隷ですって書かせて、最後にあんたを殺すためよ」
ぞっとするようなことを歌うように言うヘンリエッタに心臓がどくどくと拍動する。それを無理矢理抑え込んで、レインは静かに尋ねた。
「王位継承権……?」
そう言えば、先ほどヘンリエッタは「王太子妃」と口にしていた。
まさか、この一連の出来事には、オリバーがかかわっているのだろうか。
黙ったレインが気おされたと思ったのか、ヘンリエッタは嬉し気に続ける。
「そう、私は王太子妃になって、あんたは死んで、そしてあんたがいなくなるから、ユリウス様は私のものになる」
「ユリウス、が?」
「今は『バグ』なの、『不具合』なの。ゲームの『システム』が少しおかしくなってるだけ。だって本当のゲームではユリウスはヒロインのヘンリエッタを好きになるものなんだもの!」
「ユリウスはものじゃないわ!」
とっさにレインが口にした言葉に、ヘンリエッタはぎょろついた目をレインに向け、つかつかと近寄ってきた。がし、と前髪を鷲掴まれ、レインは呻く。
「う……ッ」
「なあに? さっきからユリウス、ユリウスって呼び捨てにして……。まるでまるでヘンリエッタと結ばれたあとの、ヒロインからユリウスへの呼び方じゃない。あんたが……悪役令嬢がユリウスと結ばれるはずないでしょ? ふざけてるの?」
どん、と突飛ばされ、レインはアレンを抱いたままたたらを踏む。
衝撃に目を覚ましたアレンがぐずりはじめ、ヘンリエッタはそれに片眉を上げた。
「何、モブの第二王子が、どうしてここにいるの?」
今までアレンの存在に気付かなかった様子で、ヘンリエッタが首を傾げる。
「ふええん……」
「大丈夫よ、アレン王子」
「それ、アレンっていうの? ゲームのシナリオには出てこなかったから、知らないのよね」
「……あなた、何を言ってるの……?」
レインはぞっと背筋を震わせた。
アレンを同じ人間だと思っていないようなヘンリエッタの言葉が理解できない。
けれど、そんなレインの様子を気にもせず、ヘンリエッタは「決まってるじゃない、この世界の話よ」と、あたかもそれが常識的なことであるかのように目を瞬いた。
「この世界……?」
「そう、お義母様が教えてくれたわ。この世界は、異世界人が作ったゲームの世界なの」
「『ゲーム』……?」
眠ってしまったアレンを抱いたまま、屋敷の使用人に、先ほどとまでとは打って変わって丁寧に案内される。それが不気味だ。仮面のような顔をした使用人に話しかけても返事は返ってこない。
そうして客間のような場所にたどり着いたレインたちを待っていたのは、髪と同じ、薄桃色のドレスで、まるで姫君のように着飾ったヘンリエッタだった。
「コックスさん……」
「あんた、また私のことをそう呼ぶの? コックス様、もしくはヘンリエッタ様、でしょう? 私は王太子妃になるんだから」
レインの後ろに使用人二人が張り付く。逃げられない。
ヘンリエッタを刺激するのはよくない、と考えて、レインは口をつぐんだ。
そうやって、しばしの沈黙の中、ヘンリエッタの様子を観察する。
少し痩せただろうか。
大きかった目が今はさらに大きく見え、ぎょろりとしてこちらを向いている。
肌は青白く、髪はよく見ればぱさついていた。
「どうして……」
レインは小さく息をして、なるべく落ち着いて見えるように口を開いた。
「……どうして私をここに連れて来たんですか」
レインが丁寧な言葉を使ったからだろうか。ヘンリエッタが満足そうに唇を歪める。
「そんなの決まってるじゃない。あんたに正式な書面で王位継承権を放棄しました、私はただの奴隷ですって書かせて、最後にあんたを殺すためよ」
ぞっとするようなことを歌うように言うヘンリエッタに心臓がどくどくと拍動する。それを無理矢理抑え込んで、レインは静かに尋ねた。
「王位継承権……?」
そう言えば、先ほどヘンリエッタは「王太子妃」と口にしていた。
まさか、この一連の出来事には、オリバーがかかわっているのだろうか。
黙ったレインが気おされたと思ったのか、ヘンリエッタは嬉し気に続ける。
「そう、私は王太子妃になって、あんたは死んで、そしてあんたがいなくなるから、ユリウス様は私のものになる」
「ユリウス、が?」
「今は『バグ』なの、『不具合』なの。ゲームの『システム』が少しおかしくなってるだけ。だって本当のゲームではユリウスはヒロインのヘンリエッタを好きになるものなんだもの!」
「ユリウスはものじゃないわ!」
とっさにレインが口にした言葉に、ヘンリエッタはぎょろついた目をレインに向け、つかつかと近寄ってきた。がし、と前髪を鷲掴まれ、レインは呻く。
「う……ッ」
「なあに? さっきからユリウス、ユリウスって呼び捨てにして……。まるでまるでヘンリエッタと結ばれたあとの、ヒロインからユリウスへの呼び方じゃない。あんたが……悪役令嬢がユリウスと結ばれるはずないでしょ? ふざけてるの?」
どん、と突飛ばされ、レインはアレンを抱いたままたたらを踏む。
衝撃に目を覚ましたアレンがぐずりはじめ、ヘンリエッタはそれに片眉を上げた。
「何、モブの第二王子が、どうしてここにいるの?」
今までアレンの存在に気付かなかった様子で、ヘンリエッタが首を傾げる。
「ふええん……」
「大丈夫よ、アレン王子」
「それ、アレンっていうの? ゲームのシナリオには出てこなかったから、知らないのよね」
「……あなた、何を言ってるの……?」
レインはぞっと背筋を震わせた。
アレンを同じ人間だと思っていないようなヘンリエッタの言葉が理解できない。
けれど、そんなレインの様子を気にもせず、ヘンリエッタは「決まってるじゃない、この世界の話よ」と、あたかもそれが常識的なことであるかのように目を瞬いた。
「この世界……?」
「そう、お義母様が教えてくれたわ。この世界は、異世界人が作ったゲームの世界なの」
「『ゲーム』……?」
12
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい
鍋
恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。
尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。
でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。
新米冒険者として日々奮闘中。
のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。
自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。
王太子はあげるから、私をほっといて~
(旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。
26話で完結
後日談も書いてます。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~
春風由実
恋愛
お城の庭園で大泣きしてしまった十二歳の私。
かつての記憶を取り戻し、自分が物語の序盤で早々に退場する悪しき公爵令嬢であることを思い出します。
私は目立たず密やかに穏やかに、そして出来るだけ長く生きたいのです。
それにこんなに泣き虫だから、王太子殿下の婚約者だなんて重たい役目は無理、無理、無理。
だから早々に逃げ出そうと決めていたのに。
どうして目の前にこの方が座っているのでしょうか?
※本編十七話、番外編四話の短いお話です。
※こちらはさっと完結します。(2022.11.8完結)
※カクヨムにも掲載しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる