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第八章
ヒロインのヘンリエッタ2
「その異世界にはなんでもあって、人は娯楽としていろんなものを作ったわ。そのうちのひとつがこの世界。恋愛シュミレーション、乙女ゲーム『私の陽光』……。私はその世界の主人公で『ヒロイン』。攻略対象に特定の行動をして進んでいけば、相手は『ヘンリエッタ』を好きになるの」
ここはそういう世界なのよ、とヘンリエッタは自慢げに言う。
「あなたのお義理母様は異世界人なの……?」
「違うわ。『転生者』よ」
とっさに話を合わせたレインに、ヘンリエッタは嬉しそうだ。
彼女の目には、おびえてぐずぐずと泣くアレンが見えないらしい。
「お義母様は私のためになんでもしてくれた。悪役令嬢……悪役王女?イリスレインを攫って、奴隷に堕とす手引きだってしてくれたの。全部全部、『ヘンリエッタ』のために」
ヘンリエッタはくるりと回る。『ヒロイン』の正装を見せつけるように。
「『ヒロイン』は優しくていい子なの。かわいくて、慈愛にあふれてて、悲しんでいるひとを見かけると放っておけない。手を差し伸べてしまう。だから、みんなに愛されるの」
夢見るような顔で続けるヘンリエッタ。
レインは――レインは、ぐっと奥歯を噛みしめた。痛いくらいの力で。
そうした理由の感情に名前をつけるなら――……。
「それは」
――怒り、だ。
「あなたのことではないわね、ヘンリエッタ」
「……え?」
「悲しんでいるひとに手を差し伸べるのが『ヒロイン』なら、あなたは真逆だと言ったのよ。だってあなたは、今泣いているアレン王子を無視している」
「…………え」
ヘンリエッタの顔が強張る。レインはアレンの頭を守るように抱きなおして、続けた。
「あなたは異世界人ではなく、義母が元異世界人だというのなら、聞きかじった情報しかもっていない。本当の『ヒロイン』、ヘンリエッタを知らないのではなくて? あなたは――あなたは、本当に、自分が『ヒロイン』の『ヘンリエッタ』だと思っているの?」
レインの言葉がその場に落ちた瞬間、ヘンリエッタの顔が仮面にのようになって、表情が消えた。
震える声でヘンリエッタが呟く。
「だって、お義母様は、私が『ヘンリエッタ』だって」
「ええ、そうだったのでしょう、きっと、もとはそうだった。私はそれを否定しません。でも、あなたの話を聞いていると、なんだか違和感があるの。……大丈夫よ、アレン王子」
「おねえたま……」
レインはアレンににっこりと笑いかけ、ヘンリエッタに向き直る。
「私はあなたに嫉妬を感じないの。ユリウスをもの扱いして、手に入れる、と言ったことに怒りを感じても。それはどうしてか、考えたの」
レインの後ろを囲む使用人たちは、何も反応しない。まるで薬物中毒のような様子と、うつろな目。何も反応しないお人形のようだ。
「――あなたは、ユリウスのことも、オリバーのことも……ほかの人のことも、好きではないのね」
「――……ッ!」
ひゅ、と息を呑む音がした。ヘンリエッタの目が驚いたように見開かれる。
震える唇が紡ぐ。
ここはそういう世界なのよ、とヘンリエッタは自慢げに言う。
「あなたのお義理母様は異世界人なの……?」
「違うわ。『転生者』よ」
とっさに話を合わせたレインに、ヘンリエッタは嬉しそうだ。
彼女の目には、おびえてぐずぐずと泣くアレンが見えないらしい。
「お義母様は私のためになんでもしてくれた。悪役令嬢……悪役王女?イリスレインを攫って、奴隷に堕とす手引きだってしてくれたの。全部全部、『ヘンリエッタ』のために」
ヘンリエッタはくるりと回る。『ヒロイン』の正装を見せつけるように。
「『ヒロイン』は優しくていい子なの。かわいくて、慈愛にあふれてて、悲しんでいるひとを見かけると放っておけない。手を差し伸べてしまう。だから、みんなに愛されるの」
夢見るような顔で続けるヘンリエッタ。
レインは――レインは、ぐっと奥歯を噛みしめた。痛いくらいの力で。
そうした理由の感情に名前をつけるなら――……。
「それは」
――怒り、だ。
「あなたのことではないわね、ヘンリエッタ」
「……え?」
「悲しんでいるひとに手を差し伸べるのが『ヒロイン』なら、あなたは真逆だと言ったのよ。だってあなたは、今泣いているアレン王子を無視している」
「…………え」
ヘンリエッタの顔が強張る。レインはアレンの頭を守るように抱きなおして、続けた。
「あなたは異世界人ではなく、義母が元異世界人だというのなら、聞きかじった情報しかもっていない。本当の『ヒロイン』、ヘンリエッタを知らないのではなくて? あなたは――あなたは、本当に、自分が『ヒロイン』の『ヘンリエッタ』だと思っているの?」
レインの言葉がその場に落ちた瞬間、ヘンリエッタの顔が仮面にのようになって、表情が消えた。
震える声でヘンリエッタが呟く。
「だって、お義母様は、私が『ヘンリエッタ』だって」
「ええ、そうだったのでしょう、きっと、もとはそうだった。私はそれを否定しません。でも、あなたの話を聞いていると、なんだか違和感があるの。……大丈夫よ、アレン王子」
「おねえたま……」
レインはアレンににっこりと笑いかけ、ヘンリエッタに向き直る。
「私はあなたに嫉妬を感じないの。ユリウスをもの扱いして、手に入れる、と言ったことに怒りを感じても。それはどうしてか、考えたの」
レインの後ろを囲む使用人たちは、何も反応しない。まるで薬物中毒のような様子と、うつろな目。何も反応しないお人形のようだ。
「――あなたは、ユリウスのことも、オリバーのことも……ほかの人のことも、好きではないのね」
「――……ッ!」
ひゅ、と息を呑む音がした。ヘンリエッタの目が驚いたように見開かれる。
震える唇が紡ぐ。
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