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第九章
【最終話】あなたとともに歩む未来
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あれから、オリバーは法によって裁きを受け。辺境の地にある砦に幽閉となった。
オリバーに協力していた貴族も、それぞれに罰を受けたらしい。
コックス子爵夫人にも違法な薬物の所持、使用などの余罪が見つかり、精神病院から帰ったら裁きを受けることになっている。……もっとも、その精神病院から出てこられるのかはわからないが。
ヘンリエッタの母親は、彼女の故郷にある村のはずれ、子爵家の管理する小さな家に閉じ込められるようにして暮らしていた。
やつれてはいたが、王都の病院でヘンリエッタに再会した瞬間立ち上がり、細い腕の中にヘンリエッタを抱きしめ、涙を流してヘンリエッタを呼んだ。
「おかあさん、おかあさん……!」
「ヘンリエッタ……!」
ヘンリエッタの犯した罪は消えないが、情状酌量の余地があるとされ、修道院で母子ともに奉仕活動をしながら暮らす、ということになった。出入りは制限されるが、もともと予定されていた北の修道院よりは過ごしやすいところだ。
それに、レインが女王になる頃にはその罪も許され、普通に暮らせるだろう。
「イリスレイン王女殿下、本当に、なんとお礼を申し上げていいか……。ヘンリエッタを助けてくださってありがとうございます……!」
ヘンリエッタの母は、ヘンリエッタを抱きしめたまま、何度もレインに頭を下げた。
ヘンリエッタも、しゃくりあげた声で「レイン様、ありがとうございます」と続ける。
ユリウスの隣でそれを聞きながら、レインは初めて誰かを救えたことに、不思議な気持ちになった。
ユリウスに救われて生きて来た自分が、誰かを救う。
ああ、と思った。そうして繋がっていくんだわ、と。
今日は青い空が広がっている。雲一つない晴天だった。
レインはユリウスを見上げて微笑んだ。ユリウスが目を細め、レインを見つめ返す。
今日はレインとユリウスの結婚式だった。
「ユリウス様」
「おや、呼び方が戻ってしまったね」
「だってやっぱり違和感があったんです。なぜだろうと思ったら、私、ずっとユリウス様を好きだったから――私のおひさまだと思っていたから、尊敬していて、そしてそれは今でも同じで、だから、その……もうしばらくは、こう呼んでいたいなって」
「……いいよ。レインらしい理由だね」
ユリウスは微笑んで、レインとともに一歩踏み出した。
司祭のところにたどり着く。結婚証明書にサインを書くとき、喜びで手が震えそうになってしまった。
司祭が告げる。
「新郎、ユリウス・アンダーサン。あなたはここにいるイリスレイン・アンダーサンを、病めるときも、健やかなるときも、富めるときも、貧しきときも、これを愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」
「はい、誓います」
「新婦、イリスレイン、アンダーサン。あなたはここにいるユリウス・アンダーサンを、病めるときも、健やかなるときも、富めるときも、貧しきときも、これを愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」
「はい、誓います」
司祭が微笑む。
「では、誓いのキスを」
透けたヴェールがユリウスの手によって持ち上げられる。
ユリウスの琥珀色の目と、レインの暁の虹が交わって、互いの瞳に映った。
――ここまで、たくさんのことがあった。
奴隷になって、救われて、愛されて、オリバーと婚約して、破棄があって、と思えばユリウスと婚約していて。
目まぐるしい人生だった。
命の危険だってあった。
遠くでダンゼントやベンジャミンがおいおいと泣いている。
ベルやチコ、アンダーサン家の使用人たちだって、涙ぐんでいる。
そうやって愛を受け取って、生きてこられたのは、あなたがいたからだ。
私の陽光――私のあなた。
雨は、陽光があるから虹を空に描ける。
「レイン、愛している。君を、この先一生、何があっても」
「私も……」
レインは、あふれるような思いを込めて、囁くようにつぶやいた。胸がいっぱいで、それだけしか出なかった。
「私も、ユリウス様を、愛しています」
――抱きしめられ、口付けられた。触れた場所から想いがこみ上げてくる。
貴方が好きだと、愛していると。
こんなに幸せな日はない。
――雨の日に見つけたから、君はレインというんだよ――……。
私の、私だけのあなた。レインにとっての陽光がユリウスだというのなら、きっとユリウスにとってもレインは雨なのだろう。
だから――だから、レインはずっと前を向ける。ユリウスを、愛しているから。
空はどこまでも青く、高く。雲一つない晴天だ。
それは、二人のこの先の未来を表しているかのようだった。
女王イリスレインは民を愛し、民に愛された君主だった。
彼女の治世は穏やかで、戦争もなく、けれど王配とともに打ち出した政策で国を富ませていった。
また、イリスレイン女王が、王配であるアンダーサン公爵に溺愛されていたという文言は、どの歴史書にも残っているほどで、それほど夫婦仲がよかったという。
夫との間に三男三女をもうけ、子供たち全員の成人を待って、第一子に王位を譲ったイリスレイン女王は、その後は自らが育ち、王配の実家でもあるアンダーサン公爵家でおだやかな余生を送ったという。
――私の陽光。
現代において愛する人をそう称するが、これを最初に言いだしたのは、まさにこのイリスレイン女王である。
その相手であるアンダーサン公爵が、彼女の妻のことを「私の慈雨」と呼んでいたことから、夫婦で互いを「雨と陽光」と呼びあうことが定着したのだろう。
なぜなら、雨のあとには、必ず陽光がやさしくあたりを照らす。そうして生まれる虹こそ、幸せの象徴だからだ。
オリバーに協力していた貴族も、それぞれに罰を受けたらしい。
コックス子爵夫人にも違法な薬物の所持、使用などの余罪が見つかり、精神病院から帰ったら裁きを受けることになっている。……もっとも、その精神病院から出てこられるのかはわからないが。
ヘンリエッタの母親は、彼女の故郷にある村のはずれ、子爵家の管理する小さな家に閉じ込められるようにして暮らしていた。
やつれてはいたが、王都の病院でヘンリエッタに再会した瞬間立ち上がり、細い腕の中にヘンリエッタを抱きしめ、涙を流してヘンリエッタを呼んだ。
「おかあさん、おかあさん……!」
「ヘンリエッタ……!」
ヘンリエッタの犯した罪は消えないが、情状酌量の余地があるとされ、修道院で母子ともに奉仕活動をしながら暮らす、ということになった。出入りは制限されるが、もともと予定されていた北の修道院よりは過ごしやすいところだ。
それに、レインが女王になる頃にはその罪も許され、普通に暮らせるだろう。
「イリスレイン王女殿下、本当に、なんとお礼を申し上げていいか……。ヘンリエッタを助けてくださってありがとうございます……!」
ヘンリエッタの母は、ヘンリエッタを抱きしめたまま、何度もレインに頭を下げた。
ヘンリエッタも、しゃくりあげた声で「レイン様、ありがとうございます」と続ける。
ユリウスの隣でそれを聞きながら、レインは初めて誰かを救えたことに、不思議な気持ちになった。
ユリウスに救われて生きて来た自分が、誰かを救う。
ああ、と思った。そうして繋がっていくんだわ、と。
今日は青い空が広がっている。雲一つない晴天だった。
レインはユリウスを見上げて微笑んだ。ユリウスが目を細め、レインを見つめ返す。
今日はレインとユリウスの結婚式だった。
「ユリウス様」
「おや、呼び方が戻ってしまったね」
「だってやっぱり違和感があったんです。なぜだろうと思ったら、私、ずっとユリウス様を好きだったから――私のおひさまだと思っていたから、尊敬していて、そしてそれは今でも同じで、だから、その……もうしばらくは、こう呼んでいたいなって」
「……いいよ。レインらしい理由だね」
ユリウスは微笑んで、レインとともに一歩踏み出した。
司祭のところにたどり着く。結婚証明書にサインを書くとき、喜びで手が震えそうになってしまった。
司祭が告げる。
「新郎、ユリウス・アンダーサン。あなたはここにいるイリスレイン・アンダーサンを、病めるときも、健やかなるときも、富めるときも、貧しきときも、これを愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」
「はい、誓います」
「新婦、イリスレイン、アンダーサン。あなたはここにいるユリウス・アンダーサンを、病めるときも、健やかなるときも、富めるときも、貧しきときも、これを愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」
「はい、誓います」
司祭が微笑む。
「では、誓いのキスを」
透けたヴェールがユリウスの手によって持ち上げられる。
ユリウスの琥珀色の目と、レインの暁の虹が交わって、互いの瞳に映った。
――ここまで、たくさんのことがあった。
奴隷になって、救われて、愛されて、オリバーと婚約して、破棄があって、と思えばユリウスと婚約していて。
目まぐるしい人生だった。
命の危険だってあった。
遠くでダンゼントやベンジャミンがおいおいと泣いている。
ベルやチコ、アンダーサン家の使用人たちだって、涙ぐんでいる。
そうやって愛を受け取って、生きてこられたのは、あなたがいたからだ。
私の陽光――私のあなた。
雨は、陽光があるから虹を空に描ける。
「レイン、愛している。君を、この先一生、何があっても」
「私も……」
レインは、あふれるような思いを込めて、囁くようにつぶやいた。胸がいっぱいで、それだけしか出なかった。
「私も、ユリウス様を、愛しています」
――抱きしめられ、口付けられた。触れた場所から想いがこみ上げてくる。
貴方が好きだと、愛していると。
こんなに幸せな日はない。
――雨の日に見つけたから、君はレインというんだよ――……。
私の、私だけのあなた。レインにとっての陽光がユリウスだというのなら、きっとユリウスにとってもレインは雨なのだろう。
だから――だから、レインはずっと前を向ける。ユリウスを、愛しているから。
空はどこまでも青く、高く。雲一つない晴天だ。
それは、二人のこの先の未来を表しているかのようだった。
女王イリスレインは民を愛し、民に愛された君主だった。
彼女の治世は穏やかで、戦争もなく、けれど王配とともに打ち出した政策で国を富ませていった。
また、イリスレイン女王が、王配であるアンダーサン公爵に溺愛されていたという文言は、どの歴史書にも残っているほどで、それほど夫婦仲がよかったという。
夫との間に三男三女をもうけ、子供たち全員の成人を待って、第一子に王位を譲ったイリスレイン女王は、その後は自らが育ち、王配の実家でもあるアンダーサン公爵家でおだやかな余生を送ったという。
――私の陽光。
現代において愛する人をそう称するが、これを最初に言いだしたのは、まさにこのイリスレイン女王である。
その相手であるアンダーサン公爵が、彼女の妻のことを「私の慈雨」と呼んでいたことから、夫婦で互いを「雨と陽光」と呼びあうことが定着したのだろう。
なぜなら、雨のあとには、必ず陽光がやさしくあたりを照らす。そうして生まれる虹こそ、幸せの象徴だからだ。
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