フロイント

ねこうさぎしゃ

文字の大きさ
26 / 114
三つめの願い

しおりを挟む
 鳥は全身をぶるりと震わせると、今度はフロイントの方に向き直り、じっと黒い目を見据えながら近づいて来た。思わず身を引いたフロイントに構うことなく、鳥はその黒いくちばしの先をフロイントの腕に押し当てた。瞬間、フロイントの体内には、何かひんやりとした液体のようなものが注ぎ込まれ、それがさっと全身に広がったような感覚がした。
「これはいったい……」
 言いかけたとき、体の中に焼けつくような熱を感じた。臓腑を燃やし尽くさんばかりの熱さに、フロイントは身をよじって呻いた。
「フロイント!?」
 アデライデが悲鳴のような声で名を呼ぶが、大丈夫だと言って安心させてやる余裕もなかった。だが次の瞬間、体内を暴れまわっていた熱が急激に静まるのと同時に、フロイントの体内からは罠によって受けた痛みが、まるで波が引くように消えていった。
「フロイント、大丈夫ですか……!?」
 今にも泣き出しそうな声で言うアデライデを振り返り、フロイントは荒い息をつきながら頷いた。
「あぁ、大丈夫だ。どうやら俺の傷もすっかり癒えたようだ……」
 アデライデとフロイントは聳動しょうどうのうちに鳥を見た。鳥は鮮やかな多色の羽を大きく揺すり、悠然とした足取りで窓に向かって歩きだした。その様子は優雅であると言ってもよく、つい先ほどまで凶悪な魔力を発散する罠の足枷に倒れていたとは到底思えない姿だった。
 鳥はアデライデに向き直ると、大きく翼を広げたままゆっくりと頭を下げた。アデライデは我に返り、つられるように頭を下げた。アデライデの姿を目を細めるようにして眺めていた鳥は、ちらりとフロイントを一瞥すると、くちばしで窓を指し、翼をばさばさと動かした。フロイントが窓を開けると、鳥は吹きこんでくる冷たい風の中、大きく翼を羽ばたかせ、勢いよく床を蹴って飛び立った。
 鳥が去ると、フロイントは室内を旋回する冷たい風を締め出すために窓を閉じ、館の内側から空を見上げて鳥の姿をさがしたが、その鮮やかな尾羽の一部すら、もうどこにも見つけることはできなかった。
「……わたし、あの鳥を前にすると何故だか落ち着かない気分になっていたけれど、もしかすると、それはおそれのためだったのでしょうか……」
 小さなアデライデの声に、フロイントは振り返った。アデライデは床に座ったまま、鳥の舌が触れた自分の指を見つめていたが、ゆっくりと顔を上げて、どこかぼんやりとした目つきでフロイントを見た。
「あの鳥は、聖なる鳥なのでしょうか……」
 フロイントには答えるべき言葉が見つからなかった。今目の前で見、体験したものは確かに治癒の力であることに相違はない。だがそれが神聖な力を根源とした癒しの力なのかどうかは、フロイントにはわからなかった。
 ただ、ひとつだけはっきりしていることは、フロイントの胸には依然として得体の知れない不安が暗雲のように立ち込めているということだけだった。フロイントは黙ったまま、ただアデライデを見つめているより他なかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハピネコは、ニャアと笑う

東 里胡
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞受賞 目が覚めたら昨日だった。知ってる会話、見覚えのあるニュース。 二度目の今日を迎えた小学五年生のメイのもとに、空から黒ネコが落ちてきた。 人間の言葉を話し魔法を使える自称ハッピーネコのチロル。 彼は西暦2200年の未来から、逃げ出した友達ハピネコのアイルの後を追って、現代にやってきたという。 ハピネコとは、人間を幸せにするために存在する半分AIのネコ。 そのため、幸せの押し付けをするチロルに、メイは疑問を投げかける。 「幸せって、みんなそれぞれ違うでしょ? それに、誰かにしてもらうものじゃない」 「じゃあ、ボクはどうしたらいいの? メイのことを幸せにできないの?」 だけど、チロルにはどうしても人間を幸せにしなければいけないハピネコとしての使命があって……。 幼なじみのヒューガ、メイのことを嫌うミサキちゃんを巻き込みながら、チロルの友達アイルを探す日々の中で、メイ自身も幸せについて、友達について考えていく。 表紙はイラストAC様よりお借りしました。

6桁の数字と幻影ビルの金塊 〜化け猫ミッケと黒い天使2〜

ひろみ透夏
児童書・童話
ねこ目線のミステリー&ホラー&ファンタジー。知恵と根性だけでどうにかする少女《黒崎美玲》と化け猫《ミッケ》は、家出の途中で怪奇クラブ部長《綾小路薫》と遭遇。朝まで一緒に過ごす約束である場所へ向かった。それはある条件の夜にしか現れない幻影ビル。十億円以上の旧日本軍の金塊が隠されているという都市伝説のビルだった。足を踏み入れた二人と一匹。彼らの前に突如現れた男の正体と、怪奇的な6つの世界が混在する幻影ビルの真実とは……。戦後80年。昭和と令和のキャラが織りなす、現代の子どもたちに届けたい物語です。 ※ 演出上の理由により算用数字を使用しています。 ※ すでに完結済みですが、推敲しながら毎日1〜3話づつ投稿します。

VTuberデビュー! ~自分の声が苦手だったわたしが、VTuberになることになりました~ 

柚木ゆず
児童書・童話
「君の声はすごく可愛くて、僕の描いたキャラクターにピッタリなんです。もしよろしければ、VTuberになってくれませんか?」  声が変だと同級生や教師に笑われ続けたことが原因で、その時からずっと家族の前以外では声を出せなくなっていた女の子・佐倉美月。  そんな美月はある日偶然、隣家に引っ越してきた同い年の少年・田宮翔と――SNSで人気の中学生絵師に声を聞かれたことが切っ掛けとなり、やがて自分の声に対する認識が変わってゆくことになるのでした。

【奨励賞】花屋の花子さん

●やきいもほくほく●
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 『奨励賞』受賞しました!!!】 旧校舎の三階、女子トイレの個室の三番目。 そこには『誰か』が不思議な花を配っている。 真っ赤なスカートに白いシャツ。頭にはスカートと同じ赤いリボン。 一緒に遊ぼうと手招きする女の子から、あるものを渡される。 『あなたにこの花をあげるわ』 その花を受け取った後は運命の分かれ道。 幸せになれるのか、不幸になるのか……誰にも予想はできない。 「花子さん、こんにちは!」 『あら、小春。またここに来たのね』 「うん、一緒に遊ぼう!」 『いいわよ……あなたと一緒に遊んであげる』 これは旧校舎のトイレで花屋を開く花子さんとわたしの不思議なお話……。

魔法少女はまだ翔べない

東 里胡
児童書・童話
第15回絵本・児童書大賞、奨励賞をいただきました、応援下さった皆様、ありがとうございます! 中学一年生のキラリが転校先で出会ったのは、キラという男の子。 キラキラコンビと名付けられた二人とクラスの仲間たちは、ケンカしたり和解をして絆を深め合うが、キラリはとある事情で一時的に転校してきただけ。 駄菓子屋を営む、おばあちゃんや仲間たちと過ごす海辺の町、ひと夏の思い出。 そこで知った自分の家にまつわる秘密にキラリも覚醒して……。 果たしてキラリの夏は、キラキラになるのか、それとも? 表紙はpixivてんぱる様にお借りしております。

魔法使いたちへ

柏木みのり
児童書・童話
 十四歳の由は、毎日のように、魔法使いとそうでない人々がごく普通に一緒に暮らす隣の世界を姉の結花と伯母の雅代と共に訪れ、同じく十四歳の親友ジャンと魔法化学の実験に没頭する日々を送っていた。ある晩、秘密の実験中に事故が起き、由の目の前で光の炸裂と共にジャンは忽然と消え去った。  ジャンに何が起きたのか。再会は叶うのか。  「9日間」「はるのものがたり」「春の音が聴こえる」と関連した物語。 (also @なろう)

手ぶくろ

はまだかよこ
児童書・童話
バレンタインデイ 真由の黒歴史 いいもん、しあわせだもん ちょっと聞いてね、手ぶくろのお話し

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@1/9新刊発売
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

処理中です...