【完結】愛されているのに気づかない魔術師と、ずっと隣にいたい番犬剣士の話

物村

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エピローグ

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昼下がり。

冒険者ギルドのカウンターで、ノンナはいつも通り忙しく事務作業をこなしていた。
書類を仕分け、通知札を各タグへ振り分けている最中、ふと視界の端に見慣れた姿が映る。

カイルとセフィナが、いつものように並んでギルドへ入ってくる。
ただ今日は、ふたりのあいだに流れる空気が、いつもより柔らかくて温かかった。

カイルが何かを囁き、セフィナがくすくすと笑う。
見せびらかすような甘さではないのに、互いを求め、受け入れている気配だけは隠せない。ひと目でわかるほどの、特別な熱がそこにあった。

……よかった。胸の奥で、ふっと安心が広がる。

挨拶しようとした手をそっと戻し、近づいてくるふたりを静かに迎えた。

「よっす」
「ノンナ、この間はありがとう」

いつもの調子で挨拶してくれるふたり。
その声音の端々には、晴れやかな落ち着きがあった。

「二人ともいらっしゃい! セフィナは……もう大丈夫そうだね」
「うん、心配かけてごめんなさい。差し入れ、どれも美味しかったよ。これ、お返し。良かったら、あとで食べて」

笑顔で紙袋を差し出すセフィナの目は澄んでいて、数日前の不安げな翳りは微塵もない。
それだけで、ノンナは胸が温かくなった。

「でね……ちょっと、お願いがあって」

セフィナが、少し緊張した面持ちで続ける。
背後のカイルは無言のまま、視線だけでしっかりと彼女を支えていた。

「相互認証制度、利用したいの。……カイルと、私で」

思わず、笑みがこぼれる。

「ああ、いいよ。申請書すぐ出せる。……ちゃんと決めたんだね」

それは、ギルドが定めた冒険者同士のペア登録制度だ。
署名と合意にもとづいて“正式なペア”として扱われ、依頼では優先的に同じパーティで組まれる。伝言や緊急時の通知も互いに届くようになる。

正式名称は『冒険者相互認証制度』だが、ギルド内では『タグ繋ぎ』の名で通っていた。
本来は長期任務用の仕組みだが、相棒同士や大切な誰かとの誓いとして登録する者も多い。

必要書類を手に、三人でギルド奥の個室へ移動した。
口頭で確認しながら、項目をひとつずつ丁寧に埋めていく。

「……セフィナには全部話したよ。俺が裏で、色々手を回してたこと」

カイルが真剣な声で告げると、ノンナは目を細めて笑った。

「そっか。やっと言えたんだね。正直、いつまで続けるんだろって思ってたけど……ま、助かった場面も多かったし。ありがとう、ってことで」

セフィナは小さく「……そっか、ノンナも、そうだよね」と呟き、ふっと息を吐いた。

「今度からは、私も把握した上で動きたいって伝えた。……そのうえで、懸念があるなら話してほしいって」
「うん、それが一番。これからはふたりで、ちゃんと話し合って決めていきな」

書類の記載が済むと、三人は個室を出て受付カウンターへ戻った。
最後の処理とタグ発行だけは、専用機器のあるカウンター前で行う必要がある。
──そのぶん、視線も集まりやすい。

ノンナが端末に書類を通す。
しばらくして、鈴のようにちり、と音を立て、小さな金属片が二つ排出された。

差し出されたそれを、ふたりはそれぞれの冒険者タグのチェーンへ通していく。
胸元で、金属の音が揃って鳴った。

「はいっ。これで正式に繋がったよ。二人を結ぶ新しいタグね。使い方は、さっき渡した冊子に書いてあるから」

ノンナは、あえていつもより少し大きな声で告げた。
これで、カイルとセフィナはもう“正式なペア”だ。
余計なちょっかいをかける者がいたとしても、もう許されない──そのくらいの牽制はしておく。

ふたりは揃って礼を述べ、ギルドをあとにした。
ノンナは扉越しに、並んで歩いていく背中を見送る。肩を寄せるふたりの向こうには、陽に照らされた澄んだ空が広がっていた。

扉が閉まると同時に、案の定、ギルドの中はざわめきに包まれた。
「……マジ?」「やられた~~!」と驚きや未練の声が飛び交う。
ふたりの背中は、もともとよく目立っていたのだ。

「さあさあ、見せもんじゃないっての! 散った散った!」

ノンナがパンパンと手を叩き場を仕切る。
どこか誇らしげな笑みが、その横顔に滲んでいた。

──この先に、何があったとしても。
あの二人の未来が、晴れやかに続いていきますように。
ノンナは、そう願いながらそっと目を伏せた。
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