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12.決意

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「いけませんゲイト様!!そのような口を聞いて良いお相手ではありません!こちらはスベーディア伯爵家の御令息、リブライ様でいらっしゃいます!!」


「何っ!?伯爵家の!?どう言う事だ!!」

(だめだ。まだ夕方だというのに酒の臭いがする…!これは…酔っている…!)


「何度も!何度もゲイト様にお伝えしました!スベーディア伯爵夫人へ車椅子を作っていると!」


「そんな事言っていたか…?しかし、部屋に男と女が2人きりになって…!セレーナ!お前俺が浮気したって怒っていたわりに自分もしているなんてな!!」

勿論、リブライ様の従者も部屋にはいる為2人きりでは無い。


(リブライ様の前で…!信じられない…!)

思わず歯軋りをしてしまう。

そんな私の前にリブライ様が一歩出た。

「これはこれは、ご主人。私はリブライ・スベーディアと申します。奥様には私の母の車椅子を作って頂いている。挨拶が遅れた事は謝る。しかし、いきなり入ってきて、そのような言い草はいかがかと思うが。私が伯爵家の者と分かってそのような態度を取るならば…。どうなったって文句は言えないな。」

いつもは穏やかで和かなリブライ様の目が、ゲイトを見る目はとてつもなく冷たく怖い。

「ぬぁっ…!」


「リブライ様はそのような方ではありません!誰か!!」


早くゲイトを追い出したくて、家のものを呼ぶ。

「旦那様は酔っ払っていらっしゃるようなので、別室で休ませてあげて!」

すぐに家の使用人がとんできてゲイトを連れ出してもらった…。

パタンッと扉が閉まり、気まずいながらもリブライ様を見る。


「大変…失礼致しました…。このような醜態を晒してしまい、本当に申し訳ございません…!!」

深く頭を下げる。

「セレーナ殿、顔を上げて。」

ゆっくり顔を上げると、いつもの優しい目をしたリブライ様がいた。

「今まで、1人でよく頑張ってきたんだね。」

そう言われ、何かのタガが外れたのか涙が溢れる。両親が亡くなりここに嫁いで来た時に、ここで頑張って生きていこうと心に決めた。義両親に叱られた時にも、夫であるゲイトの浮気現場を見た時でも涙を流さなかった。

なのに…。

リブライ様のその一言で涙が止まらなくなってしまった。

「今、私はセレーナ嬢を抱きしめて慰めてあげたいけど…。それは貴女の為にはならないだろうから…。せめてこれを…。」


そう言ってハンカチを渡してくださった。

それからしばらく泣いていた私を、リブライ様は何も言わず見守ってくださっていたのだった。







「申し訳ありません…。重ね重ね恥ずかしい姿をお見せしてしまって…。」


「私なら貴女を泣かせたりしないのに…。いや…今泣かせたのは私になるのかな…?」

本気で考え込んだ表情をするリブライ様を見て思わず笑ってしまう。


「…やっぱりセレーナ嬢は笑った顔と…楽しそうに仕事をする顔が素敵だな。」


「ありがとうございます…。」


「さぁ、あまり長居するとまたいらぬ疑いをかけられてしまうからそろそろ退散しようかな。」


「すみません…。」


「謝らないで?セレーナ嬢は何も謝る事は無いよ。では、また数日後に。」



リブライ様を見送る。
玄関の扉を出る寸前にリブライ様が、


「今はまだ手を取れないけれど…いつか…。」


何かをおっしゃったように見えたけれど、聞き取れなかった。


扉が閉まり、扉を見つめて思う。




(そろそろ…私も決着をつける時ね。)




貸して頂いたハンカチを握りしめ決意するのだった。

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