27 / 29
閑話.聖女と偽られて(前編)
しおりを挟む私はオレイン商会のノエル。今日で15歳だ。
父のデニスと共に働いている。
昔は小さい商会だったようだが、今ではこの国屈指の大商会と成長している。
私には母がいない。何か訳ありなようで、理由は聞いていない。
父は息子の私から見たら中々の良い男だと思うのだが、(まだ30歳だし。)再婚はしないようだ。再婚を進めるものの、女は懲り懲りだと言っていた。
中々酷い目にあったのだろうか…。
まあしかし、母親がいなくとも商会の従業員や父が愛情たっぷりに育ててくれたので寂しい思いは全くして来なかった。
今日も忙しい一日が終わり、やっと
夕食を取ることができた。
誕生日という事もあり、私の好きなメニューばかりだった。
「ふー!今日も疲れた!では、父さん。お休みなさい。」
そう言って席を立とうとすると、
「ノエル…。話がある。座りなさい。」
いつもとは違う雰囲気の父に言われ、座り直す。
「ノエル、15歳の誕生日おめでとう。よくここまで立派に育ってくれた。まず、初めに言っておく。ノエル。お前は私の自慢の息子だ。」
「な、なんだよ父さん。そんな改まって…照れるじゃないか~。」
そう笑って見せたが、父は真剣な表情だった。
「父さん…?」
父がふーっと大きく息を吐く。
「お前も今日で15歳。立派な大人だ。お前の生い立ちや母について知る権利がある。覚悟はいいか?」
今まで、母の事は誰も教えてくれなかった。聞いても誰も教えてくれないので、いつからか途中で聞くのをやめた。
「……はい。」
「お前は、今は無いがウォール男爵家の娘と私の子どもだ。」
「私に貴族の血が…。」
「男爵家と取引していた時にそこの令嬢マーガレットに脅され関係を持った。そしてノエルを妊娠したんだ。」
「ええっ!!」
「私は勿論結婚するつもりだった。しかし、マーガレットは侯爵家の息子との子どもとして育てたかった。だから私にも侯爵家にも何も言わず侯爵家の息子と結婚したんだ。」
「酷いな…。」
「しかし、産まれた子どもは黒髪に灰色の目だった。それを見た侯爵家の息子は本当に自分の子か怪しんだ。」
私は黒髪で、伯母や祖母と同じ髪色だ。瞳の色も、昔はもっと濃い灰色だったと聞いている。今では父とあまり変わらない灰色がかった青色だが…。
「そこで、あろう事かノエルを聖女と仕立てようとした。額に自分で十字の刻印を書いて。」
「えええーーー!!そんなのすぐにバレるじゃ無いか!!」
「そうだ。しかしその頃ちょうど大きな厄災があり神殿長が留守にしていて聖女検証まで時間がかかったんだ。だから、聖女検証が行われる直前にノエルを消してしまおうと企んでいたんだ。」
「えっ…。」
背筋がゾクリとした。
「しかし、その事に気付いた今のサンダーム侯爵が、マーガレットにわざと予定よりも遅い日を検証の日だと教え、油断させた所に突然検証を行いその計画を阻止したんだ。私も侯爵に連絡を貰って初めてその事を知り、すぐ神殿に駆けつけたんだ。」
サンダーム侯爵が…。
「そしてそのマーガレットという女は…。」
「あぁ。悪質だということで、罪人の刻印を額に押して国外追放となった。その後は………。行方不明だ。」
「はは!!私の額に偽の刻印を書いて、自分の額に罪人の刻印を押されるなんて、とんだ因果応報じゃないか!!」
ちょっと笑ってしまう。
笑う私を見た父が驚いた顔で私を見る。
「その…ショックでは無いのか…?自分の母親がこのような人間で…。」
(あぁ、優しい父さんは私の事を心配してそんな思い詰めた顔をしていたんだな。目の下にはクマがある。きっと、今日の事が心配で眠れなかったのだろう。)
「幼い頃、母親の事をお爺さんや父さんや従業員の皆に聞いた事があったけれど、皆気まずそうに誤魔化したり黙り込んでいたから、よっぽど酷い母親なのは予想ついていたからね。まぁ…。思っていたよりもちょっと酷かったけど!」
「そ、そうか…。すまなかったな…。」
「何で父さんが謝るんだよ!私は母親がいなくとも、こんなに幸せなんだからさ!ありがとう、父さん。」
「ううっ…。」
父が泣き崩れる。
その背中にそっと手を添えるのだった。
「でも、よくそんな女の元で私は一歳まで生き延びる事ができたもんだ…。」
「あぁそれなんだが、ノエルにはメラニーさんというとても素晴らしい乳母がついていて…。ノエルと離れる時もとても泣いておられた。ノエルはとても愛されていたよ。」
マーガレットの手から守ってくれ、我が子のように愛してくれた乳母がいたなんて…。
「…父さん!私、メラニーさんに会いに行きたいです!!」
80
あなたにおすすめの小説
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!
ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜
嘉神かろ
恋愛
魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。
妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。
これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる