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閑話.聖女と偽られて(中編)
しおりを挟む「えっ?メラニーさんに?」
「はい。だって、メラニーさんは離れる時に泣いてくれる程私に愛情を注いでくれていたんでしょ?私はその事を知らず、礼も言えてないし、成長した姿を見せる事もしていない。」
「それは…すまない。私が中々ノエルにこの事を言い出せず…。」
「父さんを責めているんじゃ無いさ!ただ、"貴女のお陰で無事ここまで大きくなれました。ありがとうございます。"と伝えたいだけなんだ。」
「ノエル…。そうだな。手紙では何度か報告はしたが、メラニーさんもきっと今のノエルを見たら喜ぶだろう。よし!では仕事の都合をつけてメラニーさんに会いに行くとしよう!」
「ありがとう、父さん!あと、侯爵にもお礼を言わないと!」
普通なら平民である私達が侯爵家に行く事なんてできないが、サンダーム侯爵の好意により、会う約束ができた。
(私が産まれて一歳まで育った場所…。育ててくれたメラニーさん…。救ってくれたサンダーム侯爵…。お会いできるのが楽しみだ!)
そうして待望の日がやってきた。
「お、大きい…!今まで何度か貴族の家には仕事で行ったけれど、こんな素晴らしい屋敷は初めてだ。こんな所で私は産まれたなんて信じられない…。」
「ははは。そうだろうな。では行こう。」
屋敷の門を潜り、扉の前に立つ。
すると扉が動き、中からメラニーさん……ではなくて、私と同じくらいの年の可愛らしいメイドが出てきた。
「あ!あの!こんにちは!!」
しどろもどろになる私に比べ、落ち着いた様子の父が挨拶をする。
「ご無沙汰しております。オレイン商会のデニスです。」
「侯爵様からお聞きしていますわ。どうぞお入りください。」
ニコッと笑うその可愛らしい表情に、胸が撃ち抜かれたような衝撃が走る。
(いやいや!私はここに何しに来たのだ!)
邪念を振り払い屋敷に入る。
立派な客間に通され、待っていると優しそうな30代くらいの女性が口を覆いながら現れた。
「ノエル様っ……!!大きくなられましたね……!立派になって…!!うぅ。」
泣きながら話すこの女性は、メラニーさんに間違いないだろう。
「こ、こんにちは!ノエルです。あの…メラニーさんですか…??」
「うぅ。申し遅れましたメラニーと申します。ノエル様が産まれたばかりの時に乳母をさせて頂いていました。今日は元気なお姿を拝見できてとても嬉しく思いますわ。デニスさんもお久しぶりです。お元気そうで何よりですわ。」
「メラニーさん。お久しぶりです。そちらこそ。ノエル。ノエルという名前もメラニーさんがつけてくださったのだよ。」
「そうなのですね!メラニーさんありがとうございます!そして私は平民です。ノエルとお呼びください。」
「本当に立派になって…。分かりましたわ。では、ノエルはその…ここに来たという事は、貴方の母親の事については聞いてきたのでしょうか…。」
「はい。聞きました。」
「そう……。」
メラニーさんは、気まずそうに顔を背ける。
「しかし、私は今とても幸せなのです。商会の皆は仲良く、私に良くしてくれるし、父もいつも私の事を思って育ててくれました。その上、こんなに優しそうなメラニーさんに一歳まで育てて頂いていた事を知れて、私は本当に多くの人に愛されて育った事が分かりました!」
「ノエル……!!私は貴方が幸せである事がどれだけ嬉しい事であるか…。」
涙を流すメラニーさん。
これだけは伝えたかった。
「メラニーさん、一歳まで私を守ってくださりありがとうございます。今日はお礼が言いたくて来たのです。」
「こちらこそ…ありがとうございます…。」
私も思わず涙を流してしまうのだった…。
そこに、
「久々の再会に水をさして申し訳ございません…。侯爵様がお帰りになりました。」
先程の可愛らしく、笑顔が素敵なメイドさんが声を掛けてきて、私の胸は再び高まるのだった。
次回最終話です。
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