24 / 26
「……俺は馬鹿か」
しおりを挟む理性が焼き切れる、という例えを、まさか己に使う日が来るとは思わなかった。
「……俺は馬鹿か」
目の前には気絶して寝台に横たわるフィルエシュカがいる。つい先ほど「やめないで」という可愛すぎるおねだりをしてくれた、ウォルフリートの唯一愛しい女だ。
彼女のおねだりは、そうするように仕向けたのが己だとしても、理性を破壊するのに充分だった。
(話したいことも、しなければならんことも、山ほどあるというのに)
フィルエシュカが気絶したのは間違いなく自分の仕業なので、叱るならば自分自身だろう。
あのおねだりのあと――ウォルフリートは我を失い、フィルエシュカに貪るような口づけをした。
昨日交わした二度の口付けなど児戯のようなもの、と言わんばかりに、執拗に口内を嬲った。それで息も絶え絶えになった彼女を寝台に押し倒して、首から胸へ無数に跡を刻みつけながら移動した。その上で、可愛らしい蕾をたたえる膨らみをいじめ抜いたのである。
無論、その過程でゆったりとしたネグリジェは、はだけてしまった。いや、脱がしたというのが正しい。
初めて目にする彼女の丸くて美しい二つの膨らみ。
その頂点で可哀想なくらい腫れ上がった、桃色の蕾。
それらを目にした時、ウォルフリートは、危うく暴発するかと思った。
膨らみを丁寧に撫で、蕾を周りからじわじわと責め抜くと、彼女は何度ものけぞった。
フィルエシュカの口から、抑えきれぬ甘い嬌声が漏れ出るたび、ここぞとばかりに快楽に弱い蕾を、執拗に吸い上げた記憶がある。
そのせいで彼女は軽く達したはずだが、今更己を止めることなど出来ず。
ネグリジェの裾をまくりあげ、白い小さな生地に覆われた彼女の秘密の場所を、指で撫で上げた。
フィルエシュカは、何をされたか分からなかったのだろう。けれど達したばかりの体に、その刺激はあまりにも強かったに違いない。
嬌声が悲鳴じみた響きに変わるまでは、あっという間だった。
ウォルフリートは布越しに秘裂を撫で上げ、時折、指を深く沈めた。
しっとりと布が水分を吸い込んでいた。いずれ此処も舐め上げるつもりだが、今日はまだ口付け一つしていない。ということは、この水分は彼女から滲み出ている。
そう考えるだけで、ウォルフリートの雄は痛いくらいに膨らんだ。
獣とウォルフリート。どちらが理性的か。
そう問われても仕方ないほどに。
そして秘裂に添えた指を上へずらし、花芯に触れた瞬間。
フィルエシュカは陸に揚げられた魚のように跳ねた。
「――っあ、あぁ……っ!!」
「フィル、エシュカ……!」
涙を流して、その粒が四方に散るほど首を振って。
顔を真っ赤にして、歪めて――ウォルフリートへ、動揺と困惑と、快楽で塗り潰された目を向けて。
そんな顔をされて止まれるはずがなかった。
煩わしい布越しに、花芯を円を描くように撫で、痛まぬ程度に押しつぶし、指先で引っ掻いた。
その間、彼女の健康的な太腿は、何度も痙攣していた。
彼女の上げる声、反応に夢中になって、指を止めてやれず気がついたら。
すでにフィルエシュカは……気絶していたのである。
さすがのウォルフリートも、二度目の気絶で眠る彼女を目の前にすると、やってしまった、という気持ちのほうが強かった。
フィルエシュカは男から愛撫されたことなど、勿論ないだろう。男女の営みの流れさえ知らなかったのだ。経験などあるはずがない。
一方の自分は、実践こそなかったとは言え、皇族の男として厳しく閨の講義を受けてきた。
閨の講義。
そこでは、女性を悦ばせる方法が、八割以上を占める。
なぜならば、それは皇族の男にとって最も必要とされる技能の一つだから。
呪い持ちの皇族の男子が最も恐れること。
それは、妻に愛想を尽かされることだ。
魔女にかけられた生涯にたった一人しか愛せない呪い。これは、例え妻が夫を拒否しても、他の男に心変わりしても、妻自身が亡くなっても無慈悲に適用される。
だから皇族の男は、妻を失わぬように、代々あらゆる手を尽くしてきた。
離宮を建て、女官と侍女、女騎士で妻の周囲を固めて徹底的に他の男を排除するのは、序ノ口だ。
病や怪我で健康を損なったり、ましてや死ぬことなどないよう、女医を複数人つけるのも当たり前。
貴族の男が出入りする城で公務をさせるなど、とんでもない。公的な、妃の出席が必須の行事でない限り、精鋭の女官がその仕事を全て支えられるよう、長年にわたって仕組みを作ってきた。
(狂った制度だと思っていたが……)
フィルエシュカを愛した今ならば分かる。
皇族の狂気とも言えるほどの執拗な愛。その根源は、強い恐怖だ。
彼女に口をきいてもらえなくなったら。
目を合わせてもらえなくなったら。
愛してもらえなくなったら。
何をしていても頭はそればかり考えてしまう。寝ても覚めても、とはまさにこのことだった。
いよいよ己も狂った皇族の仲間入りか、と自嘲の笑みが漏れるが、それを悪くないと思う自分がいた。
***
フィルエシュカに、腹が立つほど薄い毛布を掛けて、寝室を後にした。
火の気のない部屋はぶるりと悪寒が走るほど寒い。急いで暖炉に薪を並べ、その隙間に火をつけた細い枝を差し込む。
本当は熾火にしてやるといいのだが、古い暖炉では上手く出来なかった。
暖炉に背を向けると、ウォルフリートは昨日汲んだ水の残りで顔を洗った。それは自身の頭を冷やす、という行為も兼ねている。
それが終わると着替えて、手桶を持って外に出る。
冬がもうそこまで近づいているのだろう。北の地ほどではないが朝の空気が、温度でそれを教えてくれる。
小屋の前の畑を突っ切って、塀をくぐり、川を目指した。
この森の川には飲用に耐えうるほど清らかな水が流れている。
それを必ず朝に汲む。もう日課になっていた。
汲んだ水を両手に持ちながら、今後のことに考えを巡らせるのも日課だ。
今考えているのは、フィルエシュカを城に連れていく、その過程についてである。
発端は昨日届けられた手紙だった。
あの父が病で倒れたという報には流石に肝が冷えた。しかし、兄からの手紙には命に別状なし、ともあるので深く考えないことにした。
なぜ一度帰ってきて欲しいと兄が頼んできたのか、それは分からないが、ウォルフリートも人の子だ。実家に対して心配な気持ちもあるし、帰るのはやぶさかではない。
皇帝と皇弟。二人の父は、息子達に構う時間があるなら、皇妃である母のもとを訪れたいという人だった。なのであまり、構ってもらった記憶はない。そのことは、別にどうでもいいのだが。
しかしそれに、フィルエシュカは反応した。何か勘違いをして、必死に帰れと説得してきたのである。
自分を想ってくれる真剣な目に、言いようのない熱いものが込み上げていたのは、秘密だ。
問題はそのフィルエシュカである。
あの娘は自分一人ここに残っても問題ないような口ぶりだったが、それこそとんでもない。
この森から皇都の城までは馬車で片道一週間はかかる。数日滞在して急いで往復したとしても二十日以上。
その間に例の忌々しいディルクのような男が湧いてくるとも限らないだろうと、ウォルフリートはずっと苛立っていた。
こんな、ぼうっとして、危機感がなくて、迂闊で、一瞬たりとて目の離せぬ娘を置いていくという選択肢は、端からないのである。
そもそも娶ると決めているのだから、例え一時であったとしても、手元から離すはずがない。
思考がまとまらないうちに小屋に着いてしまった。中に入り、汲んできた水を、空の甕に移す。
水の流れる音を聞いていると、僅かに気持ちが落ち着いてきた。
ウォルフリートは城に着いたら、彼女を徹底的に甘やかす、と決めている。
本人はけろりとしているが、その生い立ちときたら、この国を統治してきた一族の端くれとして、恥ずかしくなるようなことばかりだった。
あの娘から両親を奪い、穏やかな暮らしと、安全な子供時代を奪ったのは、皇族ではない。けれど元を辿れば、原因は自分達の統治能力が不足していたせいである。
(影にアルラザのことを調べさせているが、年数が経ち過ぎている。もう少しかかるだろう)
皇帝からの密書を届けたり、皇族の手足となって調べ物をするのが得意な『影』。
ウォルフリートは彼らにフィルエシュカの故郷の情報と、その故郷を無残にも滅ぼした者について調べさせている。
いまだ有益な情報は集まってきていないが、別件で頼んだもう一つの調査については、概ね纏まった。ここを発つ前には綺麗に片付くだろう。
(全て片付けて、フィルエシュカを連れて行かなければ)
『影』は常時皇族の近くにいて、その手足となることを喜びに感じる一族である。
一族あげて医者であり、皇族にのみ仕える『医』の一族と並び立つ、皇帝一家の守刀だった。
そして彼らはこれから、フィルエシュカをも守ってくれるだろう。
水汲みは終えた。これから洗濯と掃除と食事の支度に取り掛かるが、その前に、と寝室へ足を向ける。
音を立てぬように、ウォルフリートはそっと中を覗き込んだ。
すやすやと眠る姿に、無意識に頬が緩んでしまう。足音を消して枕元に立ち、緩く波打つ金の髪を撫でる。
「……俺は絶対に、お前を手放さないからな」
その宣言を聞くべき娘は、いまだ、夢の中だった。
2
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
愛されヒロインの姉と、眼中外の妹のわたし
香月文香
恋愛
わが国の騎士団の精鋭二人が、治癒士の少女マリアンテを中心とする三角関係を作っているというのは、王宮では当然の常識だった。
治癒士、マリアンテ・リリベルは十八歳。容貌可憐な心優しい少女で、いつもにこやかな笑顔で周囲を癒す人気者。
そんな彼女を巡る男はヨシュア・カレンデュラとハル・シオニア。
二人とも騎士団の「双璧」と呼ばれる優秀な騎士で、ヨシュアは堅物、ハルは軽薄と気質は真逆だったが、女の好みは同じだった。
これは見目麗しい男女の三角関係の物語――ではなく。
そのかたわらで、誰の眼中にも入らない妹のわたしの物語だ。
※他サイトにも投稿しています
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる