いつも通りの聖夜

GreenWings

文字の大きさ
1 / 7
第一幕:子供の事情

第一場:教室で

しおりを挟む
 賑わう休み時間の教室中が注目した程にどっと起こった笑いがとり囲む中で、拾ったばかりのごみを屑籠に放ると、周りに反発するように彼は軽くあごをあげた。
 
 おかしなことは言っていない、お前らがおかしいんだと、無言のままに眼差しで語る。 
 その様子にひときわ大柄な少年が明らかな侮蔑を声に混ぜて言った。

「ジャスティン君はいくつかなぁ?もう五歳になったのかなぁ? 」

「お前と同じ十歳だよマック」

 そう呼ばれた大柄な少年は再び笑った。

「十歳にもなってなんだって?サンタがいる?おい聞いたかみんな」

 周りの者達も口々に彼を馬鹿にするような言葉を漏らした。

「あのなぁ?ジャスティン、朝枕元にプレゼントがあるのはな?親が置いてんだよ! 」

「マック、そう言う事言っちゃかわいそうだよ。ジャスティンちは貧乏だからいつもプレゼント無いんだからさ」

「そうそう、買えない親だっているんだよ。察してやれよマック」

 周りから浴びせられる声に眉を寄せるジャスティンだったが、取り囲みのさらに外から声が飛んできた。

「ちょっとひどいわよ!ジャスティンの家にはお母さんしかいないの知っててそんな事言うなんて! 」

「いいんだ、ニネット。こいつらは知らないだけなんだから」

 ジャスティンが周りに聞こえるようにそう答える。

「おいおい、ニネット、まさかお前までサンタはいるとか言い出すんじゃないだろうな」

 マックに振り返られた少女は小さく戸惑いの声を漏らしたが、わからないわと相手を見て答えた。

「わからないわ。夜中まで起きていた事がないんだもの。だから居ないなんて言えないわ」

 するとマックの隣の少年がくすくす笑った。

「それは居るとも言っていないな。ニネットも苦しいよな、ジャスティンの味方をしたいけどそうできないんだから」

「何よネオ!じゃぁあなたは居ないって言いきれるの?なにかその証拠でもあるって言うの? 」

 するとネオはじゃぁと意地悪い笑みを浮かべて言った。

「プレゼントが来ないジャスティンは悪い子だって事だ」

 それはと口ごもるニネットだったがジャスティンは顔を伏せずに言った。

「見える形ばかりでプレゼントが来ると思うからそうなんだ。気づかない形でのものだってあるはずだ」

「それのどこに意味があるんだよ」

 マックを始め周りがさらに笑った。

「サンタに手紙を書く、これこれこいうものくださいってな。親がそれを読んで買ってくる。これならわかる。けどな、サンタに手紙が届いたなら、サンタは何で子供が欲しがるものじゃなくて見えもしない貰ったかどうかもわからないもの置いて行くんだよ。そりゃ都合よすぎじゃないか?ジャスティンちゃん」

 そうだそうだと野次が飛ぶ。

「もうやめなさいよ!大勢で寄ってたかって! 」

 ニネットが二人の間に割って入ったがそれは逆効果にジャスティンを怒らせた。

「よしてくれ!それじゃ俺が間違っているみたいじゃないか」

「ジャスティン…… 私はそう言うつもりでは…… 」

 勢いをなくすニネットの味方をしたのはマックだった。

「おいジャスティン、今のはお前がまずいぞ。ニネットはお前の味方をしたんじゃないか! 」

「へぇ そうかい」

 ジャスティンはゆっくりと囲みをこじ開けて去ろうとした。

「まてよ、お前がそこまで言うのなら一つ賭けをしようじゃないか」

 マックの申し出にジャスティンは足を止めて顔だけ振り向かせる。

「そこまでサンタがいるってならお前の中で確証があるのだろう。俺もいないって事に対してひっこめる気はねぇ。だから勝負だ」

「どういう事だよ」

 振り向いたジャスティンを真っ直ぐ見ながらマックは言った。

「お前はサンタに手紙を出せ。『この街のどのツリーよりも大きなクリスマスツリーを下さい、他のものは一切要りません』ってな」

「ツリ―? 」

「ああそうだ。どのツリーよりもでかい奴だ、ロックフェラーに負けないような奴だぞ? 」

「そんなものが持ってこれるものか! 」

「サンタだろ?何でもありじゃないのか?世界中の子供へのプレゼントが入る袋ならでっかい木が入ったっておかしくないじゃないか」

 再び笑いが起こった。

「それとも何かい?サンタには無理だってのか? 」

「いいだろう」

 ジャスティンは低く言った。

「は?今なんて言った? 」

 マックが耳を向け手をあてる。

「それでいいって言ったんだ」

「よし決まりだな」

 満足そうに腕を組むマック。

「もしサンタが来たなら、今年俺に届いたプレゼントをお前にやるよ。最新式のゲームのセットさ。もちろんサンタの所にいる妖精には作れない代物だけどな」

「来なかったらどうすんだマック? 」

 ネオが言う。

「べぇつに?こいつが笑い物になるってだけだろ?何もいらねぇよ。勝つってわかっているのにペナルティ科すのはひでぇからな」

「だったら、私があなたにあげるわよ! 」

 ニネットが身を乗り出して言った。

「もしサンタが大きなツリーを持ってこなかったら、私の所に届いたプレゼントをあなたにあげるわ! 」

 マックとネオが顔を見合わせる。

「おままごとのセットをもらったって嬉しかないからなぁ」

 自分も子供扱いされ顔を真っ赤にするニネットだったがそれ以上何も言わなかった。

 だったらとジャスティンは言った。

「朝礼で校長を押しのけて叫んでやるよ。俺がサンタがいるって信じていた間抜けだってな」

 ヒューとマックは口笛を吹いた。
 
「上等だ。折角いい条件にしてやったのに。言いだしたのはお前だからな」

 ジャスティンは相手を見つめたまま一度うなずいた後その場を後にした。
 小さく笑い合うマックとネオをニネットは唇を結んで見ていた。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ
ライト文芸
余命半年の夫と記憶喪失の妻のラブストーリー! 愛妻の推しと同じ病にかかった夫は余命半年を告げられる。妻を悲しませたくなく病気を打ち明けられなかったが、病気のことが妻にバレ、妻は家を飛び出す。そして妻は駅の階段から転落し、病院で目覚めると、夫のことを全て忘れていた。妻に悲しい思いをさせたくない夫は妻との離婚を決意し、妻が入院している間に、自分の痕跡を消し出て行くのだった。一ヶ月後、千葉県の海辺の町で生活を始めた夫は妻と遭遇する。なぜか妻はカフェ店員になっていた。はたして二人の運命は? ―――――――― ※第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞ありがとうございました!

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...