お付き様のおもわく

三々 こころ

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3-3. お着替えの時間(三)

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「しゅんっ…か」





「桃雪さま」

 ひときわ冷めた呼び方に、桃雪ははっとした。


「この袴ですと、褌は合いません。外から紐が浮いて見えるので。下の衣は脱いで着用しましょう」
「…え?」

 桃雪は隼樺から逃げ場を失ったままきょときょとした。
 極めて平坦な色をした目は、口以上のことを語らない。

 そして桃雪は、脱げと催促されていることに気づく。
 その脱げというのは、替えた褌のことだ。


 だが、熱くなったままのそこは、我慢しただけの大量の汁がほとばしっている。
 それが隼樺にも下履きごしに見られているわけだから、桃雪は尚更脱ぐことができない。


 そのとき突然、隼樺が笑った。

 桃雪には、けだるげだった隼樺の目の色が変わっているように見えた。
 水に飛び込んだ羽虫でも見るかのように、それはそれは冷ややかで、ぶしつけなまでに桃雪の情けない股間を憐れむような。
 その目に奪われて、桃雪は動けなくなった。
 隼樺はたいそう無様な様子を虐げる瞳でこう言った。

「ああ、今は無理ですか。それもそうですね」


 彼の言葉が、桃雪の身体中をせっつき、焦がせた。
 構われたそうなそこが、一段と大きくなった。

 籠の中で蝶よ花よと育てられてきた桃雪は、恥辱という経験をしたことがなかった。
 それが今、理性では制御できず、おっ勃ててしまった恥部を下着ごしにまじまじと見られ、しまいにはそれを呆れ蔑まれている。

 その状況、そして彼のすべてを見透かしてしまいそうな隼樺の瞳に、桃雪の息は上がり、期待したようによらす内腿が止まろうとしない。
 そして更にそれをいたぶるような桃雪の視線。
 循環する加虐と被虐の輪にのまれ、桃雪の頭はどんどんそれを欲しそうになる。



「…っ女官に、やってもらうから!!」

 気づけば桃雪は、血が巡りすぎて目が潤んでいた。

 桃雪は、ばっと漢袴をひったくり、触っていないのに音を立てて汁をこぼす自らの陰部を隠した。
 ひどく熱に浮かされた身体のまま、そう叫んで桃雪はそのまま隼樺の返事も待たず部屋を飛び出す。

 小座敷には隼樺が取り残された。



「申の刻には、来てくださいね」

 奥の廊下に呼びかけるが、応えは無い。

「…あんなに逃げなくてもいいのに」

 隼樺は呟いた。
 初心うぶな反応を寄越す桃雪にくつくつと笑いがこみ上げてくる。
 こらえきれないくらい可笑しな気分になり、隼樺は声を上げて笑った。

 ひとしきりの哄笑が済むと、彼はふと口をつぐんだ。

 隼樺は自分の胡座あぐらの手前に目を落とした。何かというと、なにかを確認したかったからだ。

「…うむ」

 隼樺は目を据えて、しばらくじっとした。
 が、

「着替えますか」

 膝を叩く。彼はそう言って、重い腰を鳴らしながら自室に向かうのだった。
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