R18 短編集

上島治麻

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「え、一応芸能人だから?」
「うーん、それもあるけど不正解」
不正解と言いながらニコニコ笑っている。今日の夏目君は始終機嫌が良い。付き合う前はこんな感じじゃなかった。受け入れてはくれるけど、どちらかというとクールで俺の方が話しかけたりニコニコしていたと思う。今までの夏目君はアイスコーヒーのように冷たくて漆黒の美しい瞳を持っている人だった。今日の夏目君はホットミルクのように優しくて温かい。どちらが好きとかは無い。どちらも好きだ。けど、あまりの温度差に戸惑ってしまう。いつか、慣れる時が来るのだろうか?
「答えは?」
「分からない?」
気まぐれで高貴な猫のように目を細めて聞いてくる。
「うん」
本当に分からなくて素直に頷く。
夏目君が机を挟んだ向こう側から少し身を乗り出して顔を近づけてくる。俺の耳元に唇が触れるか触れないかのところで囁く。
「ちゅー出来るから」
ふっと息だけで笑うと夏目君は離れていく。
「あ、う、え、はい」
恥ずかしいという言葉が合うのかは分からないけれど、それに近い感情が心の中を埋め尽くして意味のない日本語を壊れたラジオのように発声する。かっこいい。好きだ。好きっていう言葉じゃ足りないくらいに愛おしさが溢れる。好きという名のグラスに入れた愛おしいという名の水が、どんどん零れてく。もう、どうして良いか分からない。キャパオーバーだ。手を頬に当てて、熱を冷ます。それでも冷めない熱に戸惑う。
「冗談。こんなとこじゃしないよ」
ひとしきり笑った夏目君が冗談だという。
「あ、冗談」
安心したような、残念なような複雑な気持ちが心中を渦巻く。揶揄われたのに、怒りがわかないのが不思議だ。あるのは、結局、好きという気持ちだけ。
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