ぜんぶのませて

はち

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きみのくちびるで

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 吉井が起き出したのは昼前だった。
 ベッドには自分だけが布団の中で丸まっていて、隣に羽鳥の姿はなかった。吉井は起き上がると部屋着を着てリビングへ向かった。
 羽鳥はすでに一通りの家事を済ませたようで、部屋着姿でソファで寛いでいた。
 リビングに漂う香ばしい香りは、羽鳥の淹れたコーヒーの匂いだ。

「おはよ、たもつさん」

 出たのは掠れた声だった。散々喚き散らしたせいで喉が痛んだ。昨夜の情事を思い出して少し恥ずかしくなる。

「おはよう、誉くん、大丈夫?」

 羽鳥は昨夜の獰猛さなど見る影もなく、穏やかだった。

「おはよ。ちょっと、喉痛いかも」
「無茶させちゃったね。ごめん、飲み物持ってくるよ」

 立ち上がった羽鳥は吉井をソファに座らせ、キッチンから湯気の踊るマグカップを持ってきてくれた。

「熱いから、気をつけてね」

 中身はハチミツ入りで牛乳多めのカフェオレだった。休みの日にいつも羽鳥が作ってくれる吉井のお気に入りの飲み物だった。
 吹いて冷まして一口飲むと、蜂蜜の甘みが喉に染みた。からからだった喉が潤いを取り戻すのがわかる。

「そういえば、誉くんに何か届いたよ」

隣に座った羽鳥がローテーブルの脇から取り上げたのは小ぶりなダンボール箱だった。そのサイズ感から吉井が思いつくものはひとつだった。

「あ、搾乳器、かな」
「搾乳器?」
「うん。まえに、買ってって言ったやつ。今日、使っていい?保さん」
「ん、いいよ」
「やった」

 吉井は声を弾ませ、飲みかけのマグカップをテーブルに置くとダンボール箱を受け取って開封する。
 中から出てきたのは淡いイエローの可愛いパッケージだった。

「かわいいね」

 隣から覗き込む羽鳥が笑う。自分が使われる側だというのに、呑気な感想を述べる羽鳥がかわいいと思ってしまう。
 パッケージの箱を開け、緩衝材でしっかり梱包されていたのは、パッケージと同じような色の搾乳器だった。手に馴染む丸いフォルムで、女性の手に合わせて作られているであろうそれはΩといえど男の吉井には小さく感じた。

「思ったより小さいね」
「ふふ、すぐいっぱいになっちゃうかも」

 そんな冗談を言い合いながら、二人で取り扱い説明書を読んだ。準備の仕方と使い方の動画も見て、予習は完璧だった。

「夜、楽しみにしてるね」

 まだ日も昇りきっていないうちから羽鳥にそんなことを囁かれて、吉井は頬を染めるしかできなかった。
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