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アラナギ編
海祇の褥にて
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アラナギのもとにやってきてからというもの、サクヤは寝台から降りていなかった。アラナギが降ろしてくれない、というのもある。
サクヤという名前をくれたアラナギは、愛されたかったサクヤに甘やかな囁きとともに愛情をくれた。誰かに抱きしめられ一緒に朝を迎えるくすぐったい喜びを教えてくれた。
花嫁として身体を作り替えられたサクヤにとって、今やアラナギの存在が全てだった。
「アラナギ」
名を呼べば微笑みを見せる人ならざるものは、力強くまっすぐな声でサクヤの名を呼ぶ。
「どうした、サクヤ」
名を呼ばれるたびに感じる衝動めいたものは日に日に強くなっていった。
「あ……」
喉まで出かかるのに、言葉にはできない。サクヤもまだ、その感情が何なのかわかっていなかった。
「何が欲しい。お前が望むなら、何でも与えてやる」
アラナギは目を細め、その甘やな言葉でサクヤの欲望を優しく引き出していく。
自分の抱く感情の何もかもが許されたような気持ちになって、サクヤはアラナギにその胸に湧く思いを素直に言葉にした。
「……抱きしめてほしい」
「お前は愛らしいな、サクヤ」
温もりの薄い力強い腕に抱きしめられると、胸の奥がじわりと温かくなる。欲しかった愛情が注がれているのがわかって、サクヤはため息に喜びを滲ませる。
「アラナギ、嬉しい」
そうやって、サクヤは素直に喜びを口にするようになった。言葉にして伝えると、アラナギがその端正な顔立ちを綻ばせて笑うからだ。
サクヤはアラナギの笑った顔が好きだった。精悍で意思の強さを感じるその表情が柔らかく綻びる様は、見るたびにサクヤの胸を温かくした。
「お前がそんなに喜ぶのなら、いくらでもしてやる」
目を細めたアラナギは節の目立つ指でサクヤの艶やかな黒髪を梳き、赤みの差した頰を撫でた。アラナギの大きな手に撫でられると、甘く温かくなって溶け出しそうなサクヤの心臓は、穏やかな鼓動を奏でる。
気がつけばその心ははすっかりアラナギの虜になっていた。
時の流れの曖昧な寝台の上で、サクヤはアラナギにゆるく穏やかに愛され続けた。
そうやって昼と夜をゆったりと繰り返していくうち、サクヤが陸でのことを思い出すこともほとんどなくなっていた。
アラナギはひたすらに優しくサクヤに触れ、甘やかな言葉を吹き込み、丁寧にサクヤの身体と心を開き、溶かしていく。
アラナギは、決してサクヤが嫌がることはしない。欲しがるものを、欲しがるままに与えてくれる。
四六時中ずっと、アラナギがサクヤに寄り添っていた。
睦言の合間に唇が重なり、深い口づけで唾液を与えられる。腹が減らないのはそのせいだと気がついたのはしばらく経ってからだった。
口づけを交わすたび、名を呼ばれるたび、サクヤの腹の奥はずくずくと熱を帯びて疼く。それは少しずつ強くなって、欲望としてサクヤの中で形を明らかにしつつあった。
その日も、サクヤはずっと寝台の上でアラナギの腕の中に閉じ込められていた。
少しずつ腹の奥の熱は膨らんで、いよいよ無視できないくらいはっきりと、言葉にできるほどにその形を明らかにしていた。
「アラナギ、抱いてほしい」
サクヤの声には迷いはなかった。甘い睦言も温かな腕の中も好きだが、ほしいのはもっと深いところまで届く快感だった。
「いま、そうしているだろう」
アラナギはサクヤの求めるものをわかって、わざとそんなことを言っているようだった。
どう言えば伝わるだろうとサクヤは逡巡した。セックス、と言ってもきっと伝わらないだろう。どうしたら目の前の海の神にこの欲を伝えられるのか、サクヤは考えた。
「アラナギに、腹の奥まで掻き回されたい。アラナギので、俺の腹を満たして」
サクヤは、自分の声が甘く濡れるのがわかった。腹の底が疼く。男である自分がどうやって抱かれるのか、知識だけはある。作り替えられた身体でもそうなのかはわからないが、サクヤの腹はすでに期待で熱を帯びていた。
「お前の胎に、俺の精を注いでいいのか」
耳元に吹き込まれるアラナギの声は甘く低いものだった。サクヤの背を、アラナギの声とともに甘いものが這い上がる。
「あ……」
その意味がわからないサクヤではない。
「ん、そうしてほしい」
サクヤが見上げると、アラナギはその瞳に宿る獰猛な光を隠すように目を細めた。
「ならば、その身体の拓き方を教えてやろう」
サクヤに向けられたアラナギの微笑みは、内に秘めた獣性をはっきりと滲ませていた。
サクヤはそれに喉を鳴らす。
自分の欲を満たしてくれるアラナギの荒ぶる劣情をその身に感じ、サクヤはその痩せた身体を震わせた。
サクヤという名前をくれたアラナギは、愛されたかったサクヤに甘やかな囁きとともに愛情をくれた。誰かに抱きしめられ一緒に朝を迎えるくすぐったい喜びを教えてくれた。
花嫁として身体を作り替えられたサクヤにとって、今やアラナギの存在が全てだった。
「アラナギ」
名を呼べば微笑みを見せる人ならざるものは、力強くまっすぐな声でサクヤの名を呼ぶ。
「どうした、サクヤ」
名を呼ばれるたびに感じる衝動めいたものは日に日に強くなっていった。
「あ……」
喉まで出かかるのに、言葉にはできない。サクヤもまだ、その感情が何なのかわかっていなかった。
「何が欲しい。お前が望むなら、何でも与えてやる」
アラナギは目を細め、その甘やな言葉でサクヤの欲望を優しく引き出していく。
自分の抱く感情の何もかもが許されたような気持ちになって、サクヤはアラナギにその胸に湧く思いを素直に言葉にした。
「……抱きしめてほしい」
「お前は愛らしいな、サクヤ」
温もりの薄い力強い腕に抱きしめられると、胸の奥がじわりと温かくなる。欲しかった愛情が注がれているのがわかって、サクヤはため息に喜びを滲ませる。
「アラナギ、嬉しい」
そうやって、サクヤは素直に喜びを口にするようになった。言葉にして伝えると、アラナギがその端正な顔立ちを綻ばせて笑うからだ。
サクヤはアラナギの笑った顔が好きだった。精悍で意思の強さを感じるその表情が柔らかく綻びる様は、見るたびにサクヤの胸を温かくした。
「お前がそんなに喜ぶのなら、いくらでもしてやる」
目を細めたアラナギは節の目立つ指でサクヤの艶やかな黒髪を梳き、赤みの差した頰を撫でた。アラナギの大きな手に撫でられると、甘く温かくなって溶け出しそうなサクヤの心臓は、穏やかな鼓動を奏でる。
気がつけばその心ははすっかりアラナギの虜になっていた。
時の流れの曖昧な寝台の上で、サクヤはアラナギにゆるく穏やかに愛され続けた。
そうやって昼と夜をゆったりと繰り返していくうち、サクヤが陸でのことを思い出すこともほとんどなくなっていた。
アラナギはひたすらに優しくサクヤに触れ、甘やかな言葉を吹き込み、丁寧にサクヤの身体と心を開き、溶かしていく。
アラナギは、決してサクヤが嫌がることはしない。欲しがるものを、欲しがるままに与えてくれる。
四六時中ずっと、アラナギがサクヤに寄り添っていた。
睦言の合間に唇が重なり、深い口づけで唾液を与えられる。腹が減らないのはそのせいだと気がついたのはしばらく経ってからだった。
口づけを交わすたび、名を呼ばれるたび、サクヤの腹の奥はずくずくと熱を帯びて疼く。それは少しずつ強くなって、欲望としてサクヤの中で形を明らかにしつつあった。
その日も、サクヤはずっと寝台の上でアラナギの腕の中に閉じ込められていた。
少しずつ腹の奥の熱は膨らんで、いよいよ無視できないくらいはっきりと、言葉にできるほどにその形を明らかにしていた。
「アラナギ、抱いてほしい」
サクヤの声には迷いはなかった。甘い睦言も温かな腕の中も好きだが、ほしいのはもっと深いところまで届く快感だった。
「いま、そうしているだろう」
アラナギはサクヤの求めるものをわかって、わざとそんなことを言っているようだった。
どう言えば伝わるだろうとサクヤは逡巡した。セックス、と言ってもきっと伝わらないだろう。どうしたら目の前の海の神にこの欲を伝えられるのか、サクヤは考えた。
「アラナギに、腹の奥まで掻き回されたい。アラナギので、俺の腹を満たして」
サクヤは、自分の声が甘く濡れるのがわかった。腹の底が疼く。男である自分がどうやって抱かれるのか、知識だけはある。作り替えられた身体でもそうなのかはわからないが、サクヤの腹はすでに期待で熱を帯びていた。
「お前の胎に、俺の精を注いでいいのか」
耳元に吹き込まれるアラナギの声は甘く低いものだった。サクヤの背を、アラナギの声とともに甘いものが這い上がる。
「あ……」
その意味がわからないサクヤではない。
「ん、そうしてほしい」
サクヤが見上げると、アラナギはその瞳に宿る獰猛な光を隠すように目を細めた。
「ならば、その身体の拓き方を教えてやろう」
サクヤに向けられたアラナギの微笑みは、内に秘めた獣性をはっきりと滲ませていた。
サクヤはそれに喉を鳴らす。
自分の欲を満たしてくれるアラナギの荒ぶる劣情をその身に感じ、サクヤはその痩せた身体を震わせた。
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