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拒絶と機転

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 ソウイチの口から出た静かな拒絶の言葉は、真山に驚愕と落胆をもたらした。
 声を発することもできず、真山は目の前の美しいアルファの男を見る。

 アルファだと見抜かれる日が来ないと思っていたわけではないが、こんなに静かに化けの皮が剥がされる日が来るとも思っていなかった。

 ショックを通り越して、真山の胸には感動が湧いてきた。後にはさすがエリート様は違うなという気持ちしか残らない。

 目の前の彼が纏うのは、所謂エリートのアルファのオーラだ。一般家庭に生まれたアルファである真山とは格が違うことはひと目でわかった。格が違うとそんなことまでわかるものなのだろうかと真山は混乱した頭で考える。

「ベータだと書いてあったはずだが。君は、アルファだろう」

 真山へと向けられる淡々とした声には怒気の欠片も感じられない。ただ呆然とした、低いが澄んだ声だった。

「もう一度言う……帰ってくれ」

 覚悟していた言葉が飛んできたが、それは真山が想像していたよりもずっと穏やかな声色だった。
 なんでアルファが、とか、オメガの真似事か、とか、そんな心無い言葉が叩きつけられるのではないかと身構えていた真山は肩透かしを食らった気分だった。

 しかしながら、ベータとして登録していたキャストがアルファだったとなれば、運営にクレームが入るだろう。そうなれば真山はこの仕事を辞めるしかない。

 あーあ、これでこのバイトも終わりか。

 諦めかけて、真山はふと考える。
 相手はオメガではなくわざわざベータを抱こうというアルファだ。何か訳ありなのかもしれない。そこが付け入る隙だろうと真山の本能が告げる。そこを突けば、もしかしたらいけるのではないか。
 マヤは今までも何度かこうやって当日キャンセルの危機を切り抜けてきた。アルファに抱かれたい真山にとっては死活問題だ。何とか丸め込んででも抱かれたいというのが今の本心だった。

 真山は飢えていた。
 なんとかしたい。
 内心の乱れを表に出さないように、真山は静かにソウイチに向き合う。

「わかりました。でも、いいんですか。ベータ抱くのもいいですけど、俺、上手いですよ」

 端正な顔立ちに人好きのする笑みを貼り付けて、真山はできるだけ相手の神経を逆撫でしないように声色を落ち着けて言う。所謂営業トークだ。
 大体はこれで良い反応が帰ってくるのだが、ソウイチは俯いてしまった。
 何かまずいことを言っただろうかと真山はソウイチの顔を覗き込む。

「ソウイチさん?」

 今度こそ、怒られるだろうか。
 一抹の不安を抱えて返事を待つ真山の耳に届いたのは、なんとか聞き取れるくらいのか弱い声だった。

「……はじめて、なんだ」
「は?」

 真山は目を瞠る。今、ソウイチは初めてだと言った。ただ、このサービスを使うのが初めてなのか、誰かとのセックスが初めてなのか、真山はすぐにはわからなかった。
 ソウイチはおずおずと躊躇いがちに言葉を継いだ。

「その、誰かとこういうことをするのは慣れてなくて、だから……」

 そうなるとセックスの方だろうが、意外だった。
 ソウイチはアルファの中では背は低い方だが、見た目は決して悪くない。言葉を交わした数は少ないが、何か性格に問題があるようにも見えない。ソウイチがオメガの恋人をつくることがそれほど難しいようには思えなかった。
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