異世界うんこ英雄ムサシ
……風は吹かない。
空は灰色。地面はひび割れて、死んだ土の匂いが鼻を刺した。
どこまでも広がる、枯れた世界。
黒く錆びついた鉄の塔が無数に突き立ち、沈黙の中に、わずかな機械音だけが漂っていた。
僕はそこにいた。
ただの鳥――ムサシ。
どうしてここにいるのか、わからない。
目を開けたら、もうこの世界だった。
命の気配はない。
動物も、草も、空気すらも、どこか死んでいた。
でも、僕の中にはまだ何かが残っていた。
本能が、動いていた。
体を少しだけ沈める。
そして――
……落ちた。
乾いた地面に、小さな湯気が立つ。
それは、静かにそこに在った。
何も起こらないと思った。
でも、土のひびの間から、じわりと何かが芽吹いた。
色のない大地に、かすかに滲む緑。
細い蔓が震えながら、光のない空に向かってのびていく。
それを、僕は動かずに見ていた。
この世界で、初めて目にした、生きものの色だった。
それは、小さな芽だった。
ひび割れた地面の隙間から、そっと顔を出していた。
風もなく、音もない世界で、それだけが……確かに生きていた。
僕は目を離せなかった。
どうしてかなんて、わからない。
でも、見ていると――
この世界の沈黙が、少しだけ揺らいでいくような気がした。
*
そのときだった。
背中に、ひやりとした気配が落ちた。
見られてる――そう思った。
振り返ると、遠くの塔のてっぺんで、赤い光が点滅していた。
冷たい、機械のまなざし。
そして、低い音。
ガリ……ゴガガ……。
塔の根元が裂け、鋼の塊のような何かが這い出してくる。
八本の脚、赤い単眼、蒸気を吐きながらのそのそと迫ってくる金属の虫。
「侵入生体、確認」
「排除対象:有機活動物」
無機質な声。
命令しか喋れない、殺すための存在。
僕は本能で走り出した。
飛ばない。走る。
芽があった場所が、巨大な脚で踏み潰される。
緑は、あっけなく消えた。
……でも、走りながら、ふと振り返った。
踏み荒らされた地面。
そのひびの奥に、なぜだか、かすかな違和感があった。
ほんの一瞬だけ、やわらかくなっているように見えた。
いや――
見えた、というより、感じた。
僕の“それ”が落ちた場所。
芽が生えた場所。
今は何も見えないけど……そこにはまだ、何かが、息を潜めている気がした。
たぶん、ただの勘だ。
根拠なんてない。
でも、僕の中で何かがはっきりしていた。
あれは、終わってない。
消されてなんか、いない。
走りながら、知らず口元が引き締まった。
鼓動が少しだけ強くなった。
この世界で僕だけが持っているもの。
この世界にとって、きっと、異物であり――可能性。
空は灰色。地面はひび割れて、死んだ土の匂いが鼻を刺した。
どこまでも広がる、枯れた世界。
黒く錆びついた鉄の塔が無数に突き立ち、沈黙の中に、わずかな機械音だけが漂っていた。
僕はそこにいた。
ただの鳥――ムサシ。
どうしてここにいるのか、わからない。
目を開けたら、もうこの世界だった。
命の気配はない。
動物も、草も、空気すらも、どこか死んでいた。
でも、僕の中にはまだ何かが残っていた。
本能が、動いていた。
体を少しだけ沈める。
そして――
……落ちた。
乾いた地面に、小さな湯気が立つ。
それは、静かにそこに在った。
何も起こらないと思った。
でも、土のひびの間から、じわりと何かが芽吹いた。
色のない大地に、かすかに滲む緑。
細い蔓が震えながら、光のない空に向かってのびていく。
それを、僕は動かずに見ていた。
この世界で、初めて目にした、生きものの色だった。
それは、小さな芽だった。
ひび割れた地面の隙間から、そっと顔を出していた。
風もなく、音もない世界で、それだけが……確かに生きていた。
僕は目を離せなかった。
どうしてかなんて、わからない。
でも、見ていると――
この世界の沈黙が、少しだけ揺らいでいくような気がした。
*
そのときだった。
背中に、ひやりとした気配が落ちた。
見られてる――そう思った。
振り返ると、遠くの塔のてっぺんで、赤い光が点滅していた。
冷たい、機械のまなざし。
そして、低い音。
ガリ……ゴガガ……。
塔の根元が裂け、鋼の塊のような何かが這い出してくる。
八本の脚、赤い単眼、蒸気を吐きながらのそのそと迫ってくる金属の虫。
「侵入生体、確認」
「排除対象:有機活動物」
無機質な声。
命令しか喋れない、殺すための存在。
僕は本能で走り出した。
飛ばない。走る。
芽があった場所が、巨大な脚で踏み潰される。
緑は、あっけなく消えた。
……でも、走りながら、ふと振り返った。
踏み荒らされた地面。
そのひびの奥に、なぜだか、かすかな違和感があった。
ほんの一瞬だけ、やわらかくなっているように見えた。
いや――
見えた、というより、感じた。
僕の“それ”が落ちた場所。
芽が生えた場所。
今は何も見えないけど……そこにはまだ、何かが、息を潜めている気がした。
たぶん、ただの勘だ。
根拠なんてない。
でも、僕の中で何かがはっきりしていた。
あれは、終わってない。
消されてなんか、いない。
走りながら、知らず口元が引き締まった。
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この世界で僕だけが持っているもの。
この世界にとって、きっと、異物であり――可能性。
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