細めの雪にはなれなくて

雨門ゆうき

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崩壊の序章 其の一

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 かおりは東京にいた。現在は19歳。高校卒業後は大学へと進学せず就職の道を選んだ。とある人材会社の営業職として働いている。この会社は求人票にも大学卒が必須ではなく、試しに受けてみると一度の面接でいとも簡単に入れてしまった。初めての東京での一人暮らしに不安はあったが、それでも東北の田舎しか知らなかったかおりにとっては、東京というだけで無条件に惹かれるものがあった。

 当然上京を申し出た際、両親は反対した。特に父親の怒りはすごかった。昔から優しかった父だが、娘が大学へ進学せず東京で一人暮らしをして働くというのだ、心配でどうしても行かせたくなかった。魚屋を営んでいた両親に、東京の営業職がどんなものか、あまりリアルに想像はできなかったが、不安で仕方がなかったのだ。その為、ほとんど家出に近い形で上京することになった。恋人の進藤奏介とともに……。

 彼とはかおりが高校生の時に告白をしてから絵描きデートを続け、良い関係を続けることができていた。彼には夢があった。彼の主として描いていたものは水彩画であり、いつかはその絵で自分だけの個展を開けるようになりたかったのだ。その為には奏介も東京に出て勝負する必要があった。かおりがまだ将来について決めかねている時に、奏介は自分が東京に行くことを打ち明けた。そして、かおりは奏介の知らない間に東京での就職先を決めていたのだった。

 これには奏介も驚き戸惑ったが、素直にうれしい気持ちもあった。年の差こそあったが、付き合っていく内、彼にとってもかおりは唯一の大切な人になっていたからだ。しかし、二人は一緒に暮らす道を選ばなかった。かおりは仕事で不規則な生活になることが想像できたし、奏介は奏介で、独りで絵に没頭する生活を欲していたからだ。こうして二人はそれぞれに、東京と言う場所で新しいスタートを切ることになった。

 そんな中かおりは、初めての職場で社会の現実、“ブラック企業”という大きな壁にぶち当たり、打ちのめされ、人そのものが嫌いになっていく。

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