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第4章 資質~国をつかさどる者のとは
(1)条件~王の器と与えられし者
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翌日、すっかり元気になったエリオルは早い段階で目覚める。
よほど心配してくれていたのか、キールとアーメルが側で毛布にくるまって眠っていた。
瞳を閉じて、ガーリャの気配を探す。
ガーリャはまだ、すぐ側にいた。
昨日のことで怒らせてしまったかとも思ったが、とりあえず見捨てられてはいないらしい。
「キール、アーメル、おはよう」
起き上がってキールとアーメルの側に行き、揺り起こす。
反射的にふたりはすぐに起きた。
「エリオル、身体は大丈夫ですか?」
「もう、起きても大丈夫なの?」
ふたりはめちゃくちゃ心配してくれた。
「ふたりとも、すまない。心配をかけた。大丈夫、これでも身体は鍛えているから。少し身体を動かしたら、多分、大丈夫だと思う」
昨日は衣装合わせをしただけで、終わってしまったので、踊り手らしい動きや感じを掴めないでいた。
「そうですか? あまり無理はしないでくださいよ。後でハワードに殺されますから」
そう口では言うものの、エリオルの様子から、本当に大丈夫だということが分かったのか、少しだけ笑顔になった。
「それじゃあ、音合せでもしてみる?」
アーメルの提案にふたりして頷く。
「そうだな、ありがとう。アーメル」
アーメルが手渡してくれるおもちゃの剣を受け取りながら、昨日力尽きて眠ってしまったことを思いだした。
軽い、当然のことだが、エリオルには軽すぎて羽根の様に感じる。
エリオルの持っている剣は普通よりも少し短くて、細くて鋭い。
そして外見的には分からないが、普通よりもかなり重い。
その剣に慣れてしまっているエリオルにとっては、少し心もとない程の軽さに思えた。
「では、少し合せてみますか?」
キールが竪琴を持つとそれを奏で始める。
アーメルはキールがそんなことをしているのを、一度も見たことはなかったが、いざ始めてみると、なかなかの腕前で少しビックリした。
どこか物憂げで、優しい音色。キールの本質をそのまま写したような音はすごく、心地いい。
その音を少しだけ聞いたエリオルは、剣を構えると身体を動かし始める。
音を感じるまま、動くままに身体を動かすエリオルだったが、その動きは変わらず流れる様にしなやかで、動きの一つひとつがとても美しかった。
思わずキールとアーメルがその動きをウットリと見つめる。
しばらくして、ジオールとガーリオが部屋に入ってきた。
キールの奏でる竪琴の音に誘われたらしい。
目の前のエリオルの見事なまでの踊りっぷりに、ふたりしてその姿を固まって見ている。
途中からアーメルも同じ様におもちゃの剣をもって、踊りに参加する。
ふたりの踊り子の剣舞はそれは見事に仕上がっていた。
そして、キールが音を消すのと同時に、計ったかの様にふたりの動きも停止する。
その瞬間、ジオールとガーリオが割れんばかりの拍手をする。
「すごいじゃないかお前たち。まさか、本当に踊り子をしていたとか言わないだろうな?」
ジオールの言葉にエリオルは顔色ひとつ変えることなく答える。
「いや、残念ながら、そんなものに縁はない。この剣は軽いからどんな動きでもできるんだよ」
当然の様に言うエリオルにそれでもジオールは感心していた。
「それにしてもすごい! 見事だ。で、エリオル、身体の方は大丈夫なのか?」
顔色はベールのせいで分からないので、とにかく問いかけた。
「大丈夫、何も問題はない。予定通りタムール国の王子をさらってきてやる。あっ、そうだ。ガーリオ、昨日、目は痛んだか?」
思い出したかの様に言うエリオルにガーリオは首を振る。
「いいや、エリオル、お前は大した腕だ。必ずやこれからもジオール様のお役に立てる。今度、何かあったら、私を切り捨てればいい」
ガーリオはひどく年老いた老人のその心境のままで言うと、エリオルを見つめる。
片目が見えなくなったから、余計に歳を感じるのだろう。
いつ死ぬかも分からない恐怖に、彼を誰かに託したいと思ったとしても、それは無理もないことなのかもしれない。
ただ、エリオルとしては彼を託されても困る。
正確には敵であることに違いはないのだから。
「ガーリオ、何を言っているんだ。俺はお前を切り捨てたりしない。
お前は唯一、俺を『王』と認めてくれた。
ガーリオ、俺は必ず、王になるからな」
それは絶対に無理!
と口に出すわけにはいかないが、それでも、ふたりの結びつきの深さには感動する。
「そう言う話は、事が上手く行ってからいくらでも話し合ってくれ。
とにかく、オレたちはタムール国に行く」
エリオルが話の区切りにそう言うと、ふたりは即座に頷いた。
「じゃあ、失敗した時の為に私のゾルクを連れて行くがいい」
ガーリオがポケットから取り出したのは、小さなゾルク。
手のひらに余裕で乗るゾルクに思わず目が点になる。
「これは?」
「ゾルク。私が式神で作り出すゾルクの大元はこれだ。
最初は別の獣に結合させてゾルクを作っていたんだが、式神でも能力が変わらないことが分かったんだ。
見た目も変わらないし、式神で何体も作り出す方が速くて簡単だから、途中からは完全に式神だけを使っていたんだ」
まさか、あんなに大きくて、仕留めるのが大変で、めちゃくちゃ手こずるゾルクが、こんなに小さくてかわいい生き物だなんて思いもしなかった。
「いいのか? こいつに何かあればもうゾルクは作れなくなるんだろ?」
「ああ、別に構わない。お前たちが無事に王子を連れて来てくれて、ジオール様が王になられれば用はなくなる。
魔境国に行けば『ゾルク』と呼ばれる獣はいろんな種類がうようよしている。どうしてもいる様なら、その時に考えればいい」
すでに自分のしでかしたことが魔境王にバレているということは分かってはいるだろうが、それでもエリオルを安心させる為にガーリオはそう言った。
「そうか、分かった。それじゃあ、借りて行く」
ガーリオから借りたそれを、キールに手渡すエリオル。
キールは念の為、そのゾルクを薄いベールで丸く包み込むと、大事そうにポケットにしまった。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるわ。大丈夫、きっと上手くいくわ」
アーメルはそう言って自信ありげに頷くとニッコリと笑った。
綺麗な顔なので、かなり栄える。
そうして三人は砂漠をタムール国に向けて歩き出した。
何も問いかけをしなくても、エリオルの側のガーリャが一番近い道順を教えてくれた。
「ここまでは何とか予定通りだけど、あっちはどうなっているのかしら?」
アーメルの呟きに、エリオルはふと思い出した。
後で連絡すると言っておいて、その後倒れてしまったので、その先ハワードに何の連絡もしないままになっていた。
「そう言えば、今思い出した。結局ハワードにいつ行くかって連絡しないままになっているんだが」
「仕方ありませんよ。状況が状況でしたから。
でもまあ、ライアス様にハワード、ネビィスがいますから、上手く私たちが乗り込んで行きやすいように、何らか策は施してくださっていると思いますよ」
キールはさして気にも止めた様子もなくそう言うと、そのまま優雅に歩を進める。
エリオルはキールの仲間への信頼の厚さに感心する。
まあ、確かにライアスとその仲間たちにはかなり強い絆があることはよく分かった。
タムール国の入り口の門まで来て、大きな看板が目に止まる。
アーメルがそれを読みあげる。
「ライアス王子、正式に王位決定!
国内外からの祝い歓迎!」
反射的に目が点になる。
キールが苦笑を浮かべて言う。
「また、かなり思い切ったことをなさいましたね。
まあ、王になるのが遅いくらいですから別にいいですけど。
この条件で事を起こして大丈夫なんでしょうかね?」
それは誰にも分からない。
でもこれで潜り込むのが易しくなったのは事実だ。
エリオルは少しだけ考えてから、ハワードに気を送る。
(ハワード、聞こえるか?)
(エリオル、遅せえな。お前らがどうやって来るか分からんから、少し策を施した)
ハワードは口調とは裏腹に、穏やかにそう告げた。
ハワードも声には出さず、心の中で話しているらしい。
この辺の対策の徹底さが、さすがハワードと言いたいところだ。
(少しね・・・・・・まあ、いいけど、今タムール国の最初の門の前まで戻っている。剣舞を見せる踊り子ふたりと吟遊詩人ひとりになっている)
(踊り子と吟遊詩人? まあ、いい。分かった)
顔を合せている訳ではないので、いかんせんイメージが湧き辛いのか、ハワードの声のトーンはクエスチョンを含んでいた。
「一応、ハワードには言っておいた。とにかくこのまま城の中へと進んでみよう」
「OK!」
頭からベールをスッポリと被っているので、すぐに誰か気付かれる心配はない。が、かなり怪しい三人には違いなかった。
キールはベールを被っていないので、知っている人間が見ればバレバレなのだが、それでも今のところは上手くスルーされていた。
城の入り口ではネビィスと数人の剣士たちが対応に追われていた。
どうやらタムール国民はライアス王子が王様になることを心から望んでいるらしい。
たくさんの国民が何かしらの祝いの品を持って長い列を作っていた。
「すごいな。ライアス王子は国民に好かれているんだな」
しみじみと呟くエリオル。アーメルが速攻で返事する。
「当たり前じゃない、そんなこと」
「かなり変わった御方なので、昔からいろんなエリアを分け隔てなく回っておいででしたから。まあ、でもこれで、王族エリアと貴族エリアからの求婚合戦が本格的に始まるんでしょうね。
あの御方、女性にあまり興味を示さないので、正妃選びが大変だと思いますね」
ぼやきにも似たキールの言葉を聞きながら、少しずつ前に進んで行く。かなり時間をかけて、ようやくネビィスの前まで辿り着いた。
「私たちは旅の吟遊詩人と踊り子の一行です。この国の入り口でライアス王子様が王様になられる看板を拝見しました。
誠におめでたいことです。こんなタイミングにここを通りかかったのも何かの縁。ぜひ私どもにもお祝いに一舞いさせて頂きたく存じます。ライアス王子様にはご見聞していただけるでしょうか?」
この時点でネビィスにはキールだということは分かっている。
「そうか、それはご苦労。おそらくライアス様は喜んでご見聞くださるだろう。少しの間、別室で待機していてくれ」
ネビィスはそう言うとひとりの剣士に部屋へと案内させる。
まだ、あどけない顔の少年ディタ。
その腰にはエリオルが作って持たせた剣がちゃんとあった。
いくら別の部屋に通されても、どこで見られているのか分からない手前、おおぴらに親しく話をするわけにもいかず、一応は何事もないかの様に他人の振りをする。
「それではここでしばらくお待ちください」
ディタは丁寧な口調でそう言うと、何事もない自然な様子で部屋を出て行く。なかなか上手い仕草だった。
「とりあえず、ここまでは予定通りですね」
キールの口調に頷きを返して、エリオルが言う。
「あとはどうやってライアス王子を連れ去るか?
あまり人がいなければやりやすいんだがな」
めちゃくちゃ正論な言葉に、ふたりは大きく頷く。
「エリオル、貴方の剣もアーメルの槍も向こうに置いて来てしまいましたから、ライアス王子に近づいて連れ去る時は、私のこの短剣を使ってください」
キールがエリオルに手渡したのは、いつも呪術を使う時の短剣。
「いいのか? こんな大切なもの」
呪術を使う者が自分の術を引き出す時に使う道具を人に貸さないということをエリオルは知っていた。
どんなに大切と言われても、呪術の道具に関しては、式神の白い紙以外はハワードからもらった記憶がない。
「ええ、大丈夫ですよ。これ、見た目よりもよく切れますから、もしもライアス王子が抵抗する様なら、切りつけて構いません」
平気な顔をして、かなり物騒な言葉を並べるキール。
ただし、今の状況を考えた時にこのセリフは100%パーフェクトな回答と言えなくない。
「分かった。なるべく手荒なことはしたくないが」
言いながらエリオルは短剣を懐にしまい込む。
準備はできた。
後は一発勝負の演技に懸けるしかない。
良くも悪くもそれが、今できうる最高の選択に他ならないと信じているから。
それぞれの思いを胸にその時は刻一刻と迫っていた。
よほど心配してくれていたのか、キールとアーメルが側で毛布にくるまって眠っていた。
瞳を閉じて、ガーリャの気配を探す。
ガーリャはまだ、すぐ側にいた。
昨日のことで怒らせてしまったかとも思ったが、とりあえず見捨てられてはいないらしい。
「キール、アーメル、おはよう」
起き上がってキールとアーメルの側に行き、揺り起こす。
反射的にふたりはすぐに起きた。
「エリオル、身体は大丈夫ですか?」
「もう、起きても大丈夫なの?」
ふたりはめちゃくちゃ心配してくれた。
「ふたりとも、すまない。心配をかけた。大丈夫、これでも身体は鍛えているから。少し身体を動かしたら、多分、大丈夫だと思う」
昨日は衣装合わせをしただけで、終わってしまったので、踊り手らしい動きや感じを掴めないでいた。
「そうですか? あまり無理はしないでくださいよ。後でハワードに殺されますから」
そう口では言うものの、エリオルの様子から、本当に大丈夫だということが分かったのか、少しだけ笑顔になった。
「それじゃあ、音合せでもしてみる?」
アーメルの提案にふたりして頷く。
「そうだな、ありがとう。アーメル」
アーメルが手渡してくれるおもちゃの剣を受け取りながら、昨日力尽きて眠ってしまったことを思いだした。
軽い、当然のことだが、エリオルには軽すぎて羽根の様に感じる。
エリオルの持っている剣は普通よりも少し短くて、細くて鋭い。
そして外見的には分からないが、普通よりもかなり重い。
その剣に慣れてしまっているエリオルにとっては、少し心もとない程の軽さに思えた。
「では、少し合せてみますか?」
キールが竪琴を持つとそれを奏で始める。
アーメルはキールがそんなことをしているのを、一度も見たことはなかったが、いざ始めてみると、なかなかの腕前で少しビックリした。
どこか物憂げで、優しい音色。キールの本質をそのまま写したような音はすごく、心地いい。
その音を少しだけ聞いたエリオルは、剣を構えると身体を動かし始める。
音を感じるまま、動くままに身体を動かすエリオルだったが、その動きは変わらず流れる様にしなやかで、動きの一つひとつがとても美しかった。
思わずキールとアーメルがその動きをウットリと見つめる。
しばらくして、ジオールとガーリオが部屋に入ってきた。
キールの奏でる竪琴の音に誘われたらしい。
目の前のエリオルの見事なまでの踊りっぷりに、ふたりしてその姿を固まって見ている。
途中からアーメルも同じ様におもちゃの剣をもって、踊りに参加する。
ふたりの踊り子の剣舞はそれは見事に仕上がっていた。
そして、キールが音を消すのと同時に、計ったかの様にふたりの動きも停止する。
その瞬間、ジオールとガーリオが割れんばかりの拍手をする。
「すごいじゃないかお前たち。まさか、本当に踊り子をしていたとか言わないだろうな?」
ジオールの言葉にエリオルは顔色ひとつ変えることなく答える。
「いや、残念ながら、そんなものに縁はない。この剣は軽いからどんな動きでもできるんだよ」
当然の様に言うエリオルにそれでもジオールは感心していた。
「それにしてもすごい! 見事だ。で、エリオル、身体の方は大丈夫なのか?」
顔色はベールのせいで分からないので、とにかく問いかけた。
「大丈夫、何も問題はない。予定通りタムール国の王子をさらってきてやる。あっ、そうだ。ガーリオ、昨日、目は痛んだか?」
思い出したかの様に言うエリオルにガーリオは首を振る。
「いいや、エリオル、お前は大した腕だ。必ずやこれからもジオール様のお役に立てる。今度、何かあったら、私を切り捨てればいい」
ガーリオはひどく年老いた老人のその心境のままで言うと、エリオルを見つめる。
片目が見えなくなったから、余計に歳を感じるのだろう。
いつ死ぬかも分からない恐怖に、彼を誰かに託したいと思ったとしても、それは無理もないことなのかもしれない。
ただ、エリオルとしては彼を託されても困る。
正確には敵であることに違いはないのだから。
「ガーリオ、何を言っているんだ。俺はお前を切り捨てたりしない。
お前は唯一、俺を『王』と認めてくれた。
ガーリオ、俺は必ず、王になるからな」
それは絶対に無理!
と口に出すわけにはいかないが、それでも、ふたりの結びつきの深さには感動する。
「そう言う話は、事が上手く行ってからいくらでも話し合ってくれ。
とにかく、オレたちはタムール国に行く」
エリオルが話の区切りにそう言うと、ふたりは即座に頷いた。
「じゃあ、失敗した時の為に私のゾルクを連れて行くがいい」
ガーリオがポケットから取り出したのは、小さなゾルク。
手のひらに余裕で乗るゾルクに思わず目が点になる。
「これは?」
「ゾルク。私が式神で作り出すゾルクの大元はこれだ。
最初は別の獣に結合させてゾルクを作っていたんだが、式神でも能力が変わらないことが分かったんだ。
見た目も変わらないし、式神で何体も作り出す方が速くて簡単だから、途中からは完全に式神だけを使っていたんだ」
まさか、あんなに大きくて、仕留めるのが大変で、めちゃくちゃ手こずるゾルクが、こんなに小さくてかわいい生き物だなんて思いもしなかった。
「いいのか? こいつに何かあればもうゾルクは作れなくなるんだろ?」
「ああ、別に構わない。お前たちが無事に王子を連れて来てくれて、ジオール様が王になられれば用はなくなる。
魔境国に行けば『ゾルク』と呼ばれる獣はいろんな種類がうようよしている。どうしてもいる様なら、その時に考えればいい」
すでに自分のしでかしたことが魔境王にバレているということは分かってはいるだろうが、それでもエリオルを安心させる為にガーリオはそう言った。
「そうか、分かった。それじゃあ、借りて行く」
ガーリオから借りたそれを、キールに手渡すエリオル。
キールは念の為、そのゾルクを薄いベールで丸く包み込むと、大事そうにポケットにしまった。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるわ。大丈夫、きっと上手くいくわ」
アーメルはそう言って自信ありげに頷くとニッコリと笑った。
綺麗な顔なので、かなり栄える。
そうして三人は砂漠をタムール国に向けて歩き出した。
何も問いかけをしなくても、エリオルの側のガーリャが一番近い道順を教えてくれた。
「ここまでは何とか予定通りだけど、あっちはどうなっているのかしら?」
アーメルの呟きに、エリオルはふと思い出した。
後で連絡すると言っておいて、その後倒れてしまったので、その先ハワードに何の連絡もしないままになっていた。
「そう言えば、今思い出した。結局ハワードにいつ行くかって連絡しないままになっているんだが」
「仕方ありませんよ。状況が状況でしたから。
でもまあ、ライアス様にハワード、ネビィスがいますから、上手く私たちが乗り込んで行きやすいように、何らか策は施してくださっていると思いますよ」
キールはさして気にも止めた様子もなくそう言うと、そのまま優雅に歩を進める。
エリオルはキールの仲間への信頼の厚さに感心する。
まあ、確かにライアスとその仲間たちにはかなり強い絆があることはよく分かった。
タムール国の入り口の門まで来て、大きな看板が目に止まる。
アーメルがそれを読みあげる。
「ライアス王子、正式に王位決定!
国内外からの祝い歓迎!」
反射的に目が点になる。
キールが苦笑を浮かべて言う。
「また、かなり思い切ったことをなさいましたね。
まあ、王になるのが遅いくらいですから別にいいですけど。
この条件で事を起こして大丈夫なんでしょうかね?」
それは誰にも分からない。
でもこれで潜り込むのが易しくなったのは事実だ。
エリオルは少しだけ考えてから、ハワードに気を送る。
(ハワード、聞こえるか?)
(エリオル、遅せえな。お前らがどうやって来るか分からんから、少し策を施した)
ハワードは口調とは裏腹に、穏やかにそう告げた。
ハワードも声には出さず、心の中で話しているらしい。
この辺の対策の徹底さが、さすがハワードと言いたいところだ。
(少しね・・・・・・まあ、いいけど、今タムール国の最初の門の前まで戻っている。剣舞を見せる踊り子ふたりと吟遊詩人ひとりになっている)
(踊り子と吟遊詩人? まあ、いい。分かった)
顔を合せている訳ではないので、いかんせんイメージが湧き辛いのか、ハワードの声のトーンはクエスチョンを含んでいた。
「一応、ハワードには言っておいた。とにかくこのまま城の中へと進んでみよう」
「OK!」
頭からベールをスッポリと被っているので、すぐに誰か気付かれる心配はない。が、かなり怪しい三人には違いなかった。
キールはベールを被っていないので、知っている人間が見ればバレバレなのだが、それでも今のところは上手くスルーされていた。
城の入り口ではネビィスと数人の剣士たちが対応に追われていた。
どうやらタムール国民はライアス王子が王様になることを心から望んでいるらしい。
たくさんの国民が何かしらの祝いの品を持って長い列を作っていた。
「すごいな。ライアス王子は国民に好かれているんだな」
しみじみと呟くエリオル。アーメルが速攻で返事する。
「当たり前じゃない、そんなこと」
「かなり変わった御方なので、昔からいろんなエリアを分け隔てなく回っておいででしたから。まあ、でもこれで、王族エリアと貴族エリアからの求婚合戦が本格的に始まるんでしょうね。
あの御方、女性にあまり興味を示さないので、正妃選びが大変だと思いますね」
ぼやきにも似たキールの言葉を聞きながら、少しずつ前に進んで行く。かなり時間をかけて、ようやくネビィスの前まで辿り着いた。
「私たちは旅の吟遊詩人と踊り子の一行です。この国の入り口でライアス王子様が王様になられる看板を拝見しました。
誠におめでたいことです。こんなタイミングにここを通りかかったのも何かの縁。ぜひ私どもにもお祝いに一舞いさせて頂きたく存じます。ライアス王子様にはご見聞していただけるでしょうか?」
この時点でネビィスにはキールだということは分かっている。
「そうか、それはご苦労。おそらくライアス様は喜んでご見聞くださるだろう。少しの間、別室で待機していてくれ」
ネビィスはそう言うとひとりの剣士に部屋へと案内させる。
まだ、あどけない顔の少年ディタ。
その腰にはエリオルが作って持たせた剣がちゃんとあった。
いくら別の部屋に通されても、どこで見られているのか分からない手前、おおぴらに親しく話をするわけにもいかず、一応は何事もないかの様に他人の振りをする。
「それではここでしばらくお待ちください」
ディタは丁寧な口調でそう言うと、何事もない自然な様子で部屋を出て行く。なかなか上手い仕草だった。
「とりあえず、ここまでは予定通りですね」
キールの口調に頷きを返して、エリオルが言う。
「あとはどうやってライアス王子を連れ去るか?
あまり人がいなければやりやすいんだがな」
めちゃくちゃ正論な言葉に、ふたりは大きく頷く。
「エリオル、貴方の剣もアーメルの槍も向こうに置いて来てしまいましたから、ライアス王子に近づいて連れ去る時は、私のこの短剣を使ってください」
キールがエリオルに手渡したのは、いつも呪術を使う時の短剣。
「いいのか? こんな大切なもの」
呪術を使う者が自分の術を引き出す時に使う道具を人に貸さないということをエリオルは知っていた。
どんなに大切と言われても、呪術の道具に関しては、式神の白い紙以外はハワードからもらった記憶がない。
「ええ、大丈夫ですよ。これ、見た目よりもよく切れますから、もしもライアス王子が抵抗する様なら、切りつけて構いません」
平気な顔をして、かなり物騒な言葉を並べるキール。
ただし、今の状況を考えた時にこのセリフは100%パーフェクトな回答と言えなくない。
「分かった。なるべく手荒なことはしたくないが」
言いながらエリオルは短剣を懐にしまい込む。
準備はできた。
後は一発勝負の演技に懸けるしかない。
良くも悪くもそれが、今できうる最高の選択に他ならないと信じているから。
それぞれの思いを胸にその時は刻一刻と迫っていた。
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