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リオン編   その日

リオン編   その日7

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 寝台から身を起こしても、まだ心臓がどきどきしている。
 じっとりと汗が寝巻きを濡らし、涙が頬を伝う。

 悲しくて悲しくて、涙が止まらない。

 何故こんな夢を見るのだろう?
 ありえるはずがないのに。

 ほら、僕は生きている。それに、毎日とても幸せに暮らしている。

 兄様が、僕の目覚めに気がついて駆け寄ってきた。
 怖い夢に涙を流す僕を、いつものように抱きしめて、よしよしと頭を撫でて下さる。

「それは夢だよ。ただの夢。俺が一番大事なのはお前だよ」

 あやすように繰り返して、僕が泣き止むまで、いつもそうしていて下さる。

 あの夢は本当に生々しい。
 まるで、現実にあったのではないかと思ってしまうぐらいに。

 でも僕は生きている。兄様はいつもお優しい。
 あの悪夢だって、昔は毎日のように見たが、今は以前ほどには見なくなった。
 生々しさも、以前よりは薄れてきた。

 もうこの村に来て4年になる。
 先日誕生日を祝っていただいて、僕は15歳になった。
 夢の中の僕はその年まで生きられなかったので、時々不思議な気持ちになってしまう。

 兄様との密会が、師であるクロスⅦにバレた僕らは身分を剥奪され……遠い国の辺境へと追放された。
 だから兄様はもう王子ではなく、僕も神官魔道士ではない。

 城を追い出されたあたりの記憶は全くなくて、その経緯は兄に聞いた話でしか知らない。

 けれど事実、僕の中から魔獣の息吹は消えている。
 こんなことは常人には無理なので、やはり兄様の言うとおり、神官魔道士の身分を剥奪され、地下神殿から追い出されたのだろう。

 兄様が言うには、記憶を失ったのも魔獣を僕から無理やり引き出した時の後遺症で、怖い夢を見るのも、そのせいだろうということだった。

 でも、僕には優しい兄様がずっと一緒に居て下さるから平気だ。
 悲しいときも、嬉しいときも……ずっと兄様が僕と共にいて下さるのだから。

 身分を剥奪された兄様は今、念写真師として身を立てている。
 そうして、僕と仲良く村で暮らしている。

 兄様の潜在魔力が高いのは知っていたけど、こんな特技があったなんて……。
 まったく聞いた事すらなかったその特技に、僕はとてもビックリした。

 だけど、僕もその技術を教えていただいて、今は兄様と共に頑張っている。

 今はこんな風だけど…………村に来たばかりの頃は、僕の頭を悩ませる大変なことが続いていた。

 そう、兄様の美貌は近隣の村にまで鳴り響き、それに惑った女の子たちが大挙して連日押しかけてきたのだ。

 兄様はとても麗しくていらっしゃる。
 年に似合わず立ち上がるときは必ず、

「どっこいしょ」「あ~、ヤレヤレ」

 ……と言ってしまうジジくさい一面はあるが、そんなことでは兄様の美しさに傷をつけることは出来ない。

 僕は毎日とても心配した。

 あの夢のように、兄様が僕を忘れてしまったらどうしよう。
 美しい女性に惑わされて、捨てられてしまったらどうしよう。

 でも、そんなのは杞憂だった。

「うん? 俺の趣味は弟を可愛がること」

「好みのタイプの女の子は……俺がカノジョの100億倍、弟を大事にしても温かく見守ってくれるコ」

 兄様は飽きもせず、毎日毎回女の子たちに言い続けた。

 その結果、女の子たちに盛大にドン引きされた。


 当初3年は、兄様を独り占めできることがとても嬉しかったが、常識を身に付けた今の僕は、こんな兄の将来がやや不安だ。

 兄は僕が20才になっても、30才になっても……永遠にこういうことを言い続けるのではないだろうか?
 だって僕が15歳になった現在でも、様子は全く変わらない。

 大丈夫なんだろうかこの人は……。


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