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ちかく、とおく、ふたりで、いっしょに
手を温め合う二人。おまけ
しおりを挟む「あきと!」
「紗江。来たのか」
仕事が早く終わった。連絡をせずに彰人の所に寄ったが、ちょうど仕事終わりだったようだ。彰人は水道で手を洗っていた。それが仕事終わりの合図ということを、紗江は知っていた。
「ちょうど終わりだったみたいだね」
「ああ。飯まだか?」
「うん!」
「じゃあどこか行くか。着替えてくる」
ボロボロのタオルで手を拭きながら彰人が提案してきた。しかし、紗江は首を横に振る。
「そのまんまでいいよ。いつもの所だったら平気でしょ?」
いつもの所とは、ふたり行きつけのラーメン屋だった。あそこなら気兼ねしなくていいという、紗江なりの気遣いだった。
「いや、今日は飲みたいんだ。着替えてくる。中で待ってるか?」
「すぐでしょ? ここでまってる」
「ちょっぱや、三分。待ってろ」
彰人の手が、紗江の頭を撫でた。髪の毛越しにも分かる、冷たさだった。
「あき、」
紗江が振り返った時には、彰人の姿は見えなかった。手の異常な冷たさが気になった。
ふと、先程彰人が手を洗っていた水道が目に入る。なんの気もなしに、蛇口を捻る。出てきた水は氷のように冷たかった。
「つめた!」
紗江は、すぐさま手を引っ込めた。じんじんと痛みを感じるほどの冷たさだった。
彰人はいつもここで手を洗っている。紗江が来た日は、いつもより念入りに洗っていることも知っていた。大切にされている。そう実感するとともに、少しだけ寂しくなった。
「お待たせ。ちょっぱや、二分五十秒ってとこかな?」
「うーん。ちょいオーバーってとこかな?」
「厳しいな」
声を上げて笑う彰人を、紗江は愛しく思う。無言で手を取ると、予想通り。氷のように冷えていた。
「俺、手、冷たいよ」
「ふふふ。あっためてあげたいの」
彰人の前に、紗江が割り込み。大きな二つの手を取り、ぎゅっと握りしめた。
「冷たいね」
「……紗江の手は温かい。子供みたいだな」
「あっ! もう!」
紗江はぷっと、頬を膨らませる。それを見た彰人がまた、声を上げて笑った。
「少し荒れてるね」
「ああ。いつものことだから」
「帰ったら、またハンドクリーム塗ったあげる」
彰人が私を大切にしてくれるのならば、私も彰人をうんと大切にしよう。
そう思った紗江は、再度彰人の手を握りしめた。
「お腹すいたね」
「いくか」
「うん!」
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