とびくま

とびくま

　とびくまというクマには、生うまれつき背中せなかに大きな翼つばさが生はえていて、空そらを飛とぶことができました。

　自由じゆうに大空おおぞらを飛とぶことができるとびくまですが、とてもとても乱暴らんぼうなクマで、他ほかのクマ達たちから怖こわがられていました。

　そのせいか、とびくまの住すむ森もりには、他ほかのクマたちは近ちかづきません。

　ある日ひ、とびくまは考かんがえました。

　どうして、ぼくには友達ともだちができないのだろう？

　みんな逃にげて行いくのは何なんで？

えーと・・・・・・・・・・・・・・・

　あっ、ぼくが強つよすぎて、みんな怖こわがるんだ。

　どうすれば良いいのかな？

んーと・・・・んーと・・・・・・・・・

　そうだ！　

　弱よわくなればいいんだ。


　明日あすは、早起はやおきして病院びょういんに行いこう。

　次つぎの日ひの朝あさ、とびくまは、大おおきな川かわの川辺かわべにある大おおきなワニの先生せんせいが居いる、あまり大おおきくない病院びょういんに行いきました。

　とびくまは、朝一番あさいちばんに来きたつもりでしたが、病院びょういんの診察室しんさつしつには、診察中しんさつちゅうと書かかれた札ふだが掛かかっていました。

　待まつのが、大嫌だいきらいなとびくまでも、ここは仕方しかたないと思おもい、待合室まちあいしつのイスに座すわり、ゆっくり待まつことにしました。



　しかし、待まてども待まてども、前まえの患者かんじゃが出でてきません。

　しびれを切きらしたとびくまは、文句もんくを言いってやろうと、診察室しんさつしつの前まえまで行いきました。

　すると、診察室しんさつしつのドアの向むこうから何なにやら声こえが聞きこえてきます。
    
　とびくまは、少すこし興味きょうみを持もちました。
　
　ドアに耳みみを当あてて、診察室しんさつしつの中なかの様子ようすを盗ぬすみ聞ぎきします。
　　
「おい医者いしゃ、ぼくの翼つばさはどうしても治なおらないというのだな。」

「あたりまえだな、君きみの翼つばさは根本ねもとからごっそり抜ぬけ落おちているからな。」

　診察室しんさつしつの中なかの先生せんせいと患者かんじゃの声こえと話はなしの内容ないようがわかったとびくまは、診察室しんさつしつのドアを開あけました。

　診察室しんさつしつの中なかには、大おおきなワニのお医者いしゃさんと、ちっちゃい人間にんげんの子供こどもがいました。

　ワニの先生せんせいと人間にんげんの子供こどもは、いきなり入はいってきたとびくまを見みて、口くちを大おおきく開あけたまま、お話はなしが止とまりました。

「とびくまくん、今いまは診察中しんさつちゅうだよ。」

「やい、先生せんせい。　そいつは、翼つばさが欲ほしいのか？」

　とびくまが、しゃべると人間にんげんの子供こどもは、顔かおを真真まっ赤かにして怒おこりました。

「おい、くま！
　誰だれに向むかって、"そいつ"って言いってるんだ。
　僕ぼくは、偉大いだいな月つきの天使てんしさまなんだぞ！」

　とびくまは、驚おどろきました。　何なんで、こんな所ところに天使てんしがいるのだろう。

　でも、よく見みてみると目めの前まえの天使てんしには、天使てんしのくせに翼つばさも頭あたまの上うえのわっかも無ない。　ボロボロの服ふくに黄色きいろい曲まがったとんがり帽子ぼうしをかぶっていて、鼻はながすごく長ながくて、どう見みても天使てんしには見みえません。

　とびくまは、この子供こどもはウソをついてるんだと思おもいました。

「天使てんしくん、君きみはウソをつき過すぎて翼つばさが取とれたのだよ。
　ここで、自分じぶんが天使てんしだと言いい張はっても、とびくまくんは、信しんじないだろう。
　証拠しょうこも無ないしね。　それならウソをついているのといっしょだよ。」

　ワニの先生せんせいは、子供こども、いや天使てんしにやさしくていねいに言いい聞きかせています。

「どうしたら信しんじてもらえるの？」

「信しんじてもらえる努力どりょくをしなければならない。
　けど、それは難むずかしい。
　君きみが今いままでに、ウソをついたり、誰だれかにいじわるをしたのなら、もっともっと難むずかしいよ。
　だけど、君きみが天使てんしにもどりたいのならがんばらないといけないよ。」

　天使てんしの目むは、涙なみだでいっぱいです。

　その顔かおをワニの先生せんせいは、やさしく見みつめています。

　とびくまは、ふたりを見みながら早はやく終おわらないかなと思おもいました。　そして、すごいことを思おもいつきました。

「やい、先生せんせい。　僕ぼくは、けんかを弱よわくしてもらうために病院びょういんにきたんだ。
　だから、僕ぼくの翼つばさをこいつにやる。」

　とびくまの思おもいつきを聞きいて、ワニの先生先生と天使てんしは顔かおを見合みあわせておどろきました。

「とびくまくん、翼つばさを切きり取とる手術しゅじゅつはすごく痛いたい。　それに、君きみのご両親りょうしんだって悲かなしむだろう。」

　ワニの先生せんせいは、とびくまに考かんがえ直なおすように説得せっとくしました。

「痛いたいのなんてへっちゃらだね。
　遠とおくにいる母かあさんだって、乱暴者らんぼうものでひとりぼっちで居いるよりも、翼つばさがなくなって弱よわくなっても友達ともだちがいるほうが喜よろこんでくれるさ。」

　ワニの先生せんせいは、う～んと考かんがえます。

「おいクマ、おまえの翼つばさだと大おおきすぎて飛とべないかもしれない。　それに茶色ちゃいろくてきたない。」
　
「なんだとー！」　

　とびくまが、せっかく翼つばさをあげると言いっているのに天使てんしは、えらそうに文句もんくをつけてきました。　さすがに、とびくまも腹はらが立たち今いまにもケンカがはじまりそうないきおいです。

　その時とき、ワニの先生せんせいはひらめきました。

「君きみたちに、必要ひつようなのは翼つばさを取とったり付つけたりすることではないな。」
　
　今いまにもケンカが初はじまりそうでしたが、ワニの先生せんせいの言葉ことばで、ふたりともピタリととまりました。

「たとえば、翼つばさがなくなっても乱暴者らんぼうもののままでは、友達ともだちはできないよ。」

　とびくまは、すこし考かんがえてなっとくしました。
　その横よこで天使てんしは、ばかにしたふうに笑わらっています。

「たとえば、翼つばさがあっても誰だれからも信頼しんらいされなければ飛とぶこともなく、またくさりおちるだけだよ。」

　天使てんしは、下したをむいてだまりました。

　どうやら天使てんしというものは、たくさんの人達ひとたちに信頼しんらいされることで空そらを飛とんだり、ちいさな奇跡きせきをおこすことができるみたいです。
　そして、信頼しんらいされなくなると翼つばさが取とれたりして弱よわってしまいます。

「先生せんせい、どうすればいい？」

　ふたりは、ワニの先生せんせいの顔かおを見上みあげて言いいました。
　
「とびくまくんの翼つばさを切きりとって、天使てんしくんの背中せなかにつける手術しゅじゅつをするのはどうかな？」

　ワニの先生せんせいは、とびくまの思おもいつきを、そのまま言いいました。

　とびくまは、何なにも言いわずにうなずきました。

　しかし、天使てんしは嫌いやそうな顔かおをしています。

「天使てんしくん、とびくまくんの大おおきな翼つばさをうまく使つかいこなせれば、前まえよりも高たかく、はやく飛とぶことができるようになるよ。」

　ワニの先生せんせいの話はなしを聞きき、天使てんしは目むの色いろを変かえて立たちあがりました。

「おいクマ、今いまさらあげませんとかなしだからな！」

「天使てんしくん、君きみには思おもいやりがなさすぎるよ。
　そのままじゃあ手術しゅじゅつは成功せいこうするけどぜったいに飛とべないよ。」

　天使てんしは反省はんせいしたのか、とびくまとワニの先生せんせいの顔かおを見みくらべています。


　はたして、とびくまと天使てんしの手術しゅじゅつは成功せいこうするのでしょうか

　そして、天使てんしは飛とべるようになり、とびくまには、ともだちができるようになるのでしょうか

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