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許婚と結婚して本当に幸せになれるのか
何もできないことが歯がゆい
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イザベラ・シュミットは自分の目の前で昼食をたべているステラをみながら歯がゆさをかんじていた。
ステラはいつもより疲れた顔をしているが、自分にできることはデザートにとクッキーをさしだすことぐらいしかできない。
ここ二週間ほどステラはノルン行きの話に翻弄されていた。
ノルン行きの話があった次の日、ステラは母からノルン行きの了承をえて晴れやかな気持ちで学園へくるだろうと思っていた。
しかしあらわれたステラはげっそりしていた。
「どうしたの?」
「ノルン行きを母に反対された」
「どうして?!」
「異国で生活するのがどれだけ大変か分かってないっていわれた。
ノルン語が多少はなせるから大丈夫だろうと思ってるようだけど、おままごと程度しか話せないし、ノルンの習慣なんてほとんど知らないも同然で、自分の能力を過大評価してるって。
それに教師になるために高等学校へいったのだから、ノルンへいくような無駄なことをするなっていわれた」
イザベラはステラの母に強い怒りをかんじた。
イザベラは前々からステラの母に良い感情をもっていない。イザベラはステラの母とこれまで何度か顔を合わせているが、そのたびにステラをけなすようなことをいった。
イザベラがステラの母と初めて会った時に、世間話をしていたにもかかわらず、突然ステラの家事の能力が低い、気が利かないといったことをいいだしおどろいた。
その後も会うたびに何かしらステラをけなすようなことをいい、ステラがスペンサー学園の特待生になれたのは「学園のおなさけ」といった時は我慢ができず反論した。
ステラがスペンサー学園の特待生になったのはもともと選ばれた学生が家の事情で辞退したためだったという話はステラからきいていた。
それをステラの母がおなさけとひどい言い方をするのが許せなかった。
「運も実力のひとつですから」とイザベラがいうと、
「本当に実力がある人はそのようなことをいわないと思うわ」あきれたようにいわれた。
ステラの母と言い合いをすれば、ステラがあとで気まずい思いをすると必死にこらえたが気分が悪かった。
スペンサー学園の特待生は簡単になれない。
特待生になるには試験があるが面接もある。成績だけでなく人柄もみるという。うまく学園にとけこめるかをみるようだ。
スペンサー学園のように特待生制度がある学校はすくない。そのため高等学校へ通いたい庶民の優等生が殺到した。
その中で一番になるのがどれほどむずかしいか。二番であっても一番との差はほんのわずかだろう。
それにもかかわらずステラをまるで落ちこぼれのように話すステラの母の気持ちがイザベラには理解できなかった。
「もしかしたらノルン国も身内をほめない文化なのかも」
イザベラが自身の母にステラの母のことを話すとそのようにいわれた。
海をへだてた大陸の国のひとつ、ポバーグ国では自慢は「はしたない」こととされ、そのため身内をほめるようなことをしないらしい。
母の曽祖母がポバーグ出身で、母方の親戚はポバーグのその習慣を世代をこえて引き継いでいて自慢をほとんどしない。
しかしイザベラはノルン村で子供自慢しているステラの知り合いをみている。それだけにノルンの文化だとは思えなかった。
そしてステラの母の言葉は自慢しないよう謙虚な言い方をしているというものではなく、明らかにステラをけなすものだった。
ステラは自身の母のことを物言いがきついから誤解されやすいといっていたが、ステラへの言葉は物言いがきついというものではないとイザベラは思った。
ノルン行きに対しても娘のことを心配して物言いがきつくなったという面はあるだろうが、ステラの能力がまるで低いような言い方をすることが許せなかった。
もしステラのノルン語に不安があったとしても、ステラなら努力をおしまず話せるように頑張るだろうし、ステラが知っておくべきノルンの習慣についても出発までに教えればステラはちゃんとおぼえるはずだ。
イザベラはステラにノルン行きをかなえてほしかった。あれほどうれしそうなステラを見たのは初めてだった。
ステラにキャンベル先生に相談するようにすすめた。キャンベル先生ならステラの母を説得するために動いてくれるだろうと思ったからだ。
キャンベル先生はイザベラの父と面識があり、イザベラは学園に入る前からキャンベル先生のことを知っていた。
イザベラはキャンベル先生が学園の精神である「挑戦」を大切にする人だということをよく知っていた。
イザベラが思ったとおりキャンベル先生がステラの母を説得し、ステラのノルン行きが決まった。
しかしステラの母がノルン行きをうなずくまでに母と娘のあいだで消耗する話し合いがあったようで、とくにここ数日ステラの顔色はよくなかった。
「甘い物でも食べて元気つけてね」
ステラが礼をいいクッキーを口にする。甘い物で気持ちがほぐれたのかステラの表情がゆるんだ。
ステラのその表情をみながら、イザベラは自分の無力さがうらめしかった。
ステラは母からの厳しい言葉や物言いのきつさになれているせいか、けなされてもとくに何とも思っていないようだったがイザベラはくやしかった。
イザベラの母がステラの母のようなことをイザベラに言ったなら傷つき落ち込むだろう。
イザベラにとって母は一番の理解者だった。イザベラのことを理解してくれるだけでなく、何かあれば励ましてくれ、イザベラのやりたいことを後押ししてくれた。
もしイザベラの母がステラの母であったなら、ステラがノルン国へ行けることになったことを自分のことのように喜ぶだけでなく、ステラがノルンへいって困らないよう必要なことを手取り足取りおしえるだろう。
それだけで済まず心配だからと一緒にノルンへいき、ステラが一人で大丈夫かを確認するまでそばにいそうだ。
ステラの母にステラにやさしくしろといいたい。ステラがどれほど素晴らしい女の子なのかを分からせたい。
しかし親子の問題は他人が口をだしてよいものではないと母に釘をさされている。
「イザベラ、クッキーありがとう。今度、ノルン村に来た時におごるね」
「そんなこと気にしないの。このぐらいでおごってもらったらこっちが気にするわよ」
ステラがふわりとほほえんだ。イザベラはステラがもっと自分に甘えてほしいと思うが、ステラはそれをよしとしないだろう。
その寂しさをかくすようにイザベラもほほえんだ。
ステラはいつもより疲れた顔をしているが、自分にできることはデザートにとクッキーをさしだすことぐらいしかできない。
ここ二週間ほどステラはノルン行きの話に翻弄されていた。
ノルン行きの話があった次の日、ステラは母からノルン行きの了承をえて晴れやかな気持ちで学園へくるだろうと思っていた。
しかしあらわれたステラはげっそりしていた。
「どうしたの?」
「ノルン行きを母に反対された」
「どうして?!」
「異国で生活するのがどれだけ大変か分かってないっていわれた。
ノルン語が多少はなせるから大丈夫だろうと思ってるようだけど、おままごと程度しか話せないし、ノルンの習慣なんてほとんど知らないも同然で、自分の能力を過大評価してるって。
それに教師になるために高等学校へいったのだから、ノルンへいくような無駄なことをするなっていわれた」
イザベラはステラの母に強い怒りをかんじた。
イザベラは前々からステラの母に良い感情をもっていない。イザベラはステラの母とこれまで何度か顔を合わせているが、そのたびにステラをけなすようなことをいった。
イザベラがステラの母と初めて会った時に、世間話をしていたにもかかわらず、突然ステラの家事の能力が低い、気が利かないといったことをいいだしおどろいた。
その後も会うたびに何かしらステラをけなすようなことをいい、ステラがスペンサー学園の特待生になれたのは「学園のおなさけ」といった時は我慢ができず反論した。
ステラがスペンサー学園の特待生になったのはもともと選ばれた学生が家の事情で辞退したためだったという話はステラからきいていた。
それをステラの母がおなさけとひどい言い方をするのが許せなかった。
「運も実力のひとつですから」とイザベラがいうと、
「本当に実力がある人はそのようなことをいわないと思うわ」あきれたようにいわれた。
ステラの母と言い合いをすれば、ステラがあとで気まずい思いをすると必死にこらえたが気分が悪かった。
スペンサー学園の特待生は簡単になれない。
特待生になるには試験があるが面接もある。成績だけでなく人柄もみるという。うまく学園にとけこめるかをみるようだ。
スペンサー学園のように特待生制度がある学校はすくない。そのため高等学校へ通いたい庶民の優等生が殺到した。
その中で一番になるのがどれほどむずかしいか。二番であっても一番との差はほんのわずかだろう。
それにもかかわらずステラをまるで落ちこぼれのように話すステラの母の気持ちがイザベラには理解できなかった。
「もしかしたらノルン国も身内をほめない文化なのかも」
イザベラが自身の母にステラの母のことを話すとそのようにいわれた。
海をへだてた大陸の国のひとつ、ポバーグ国では自慢は「はしたない」こととされ、そのため身内をほめるようなことをしないらしい。
母の曽祖母がポバーグ出身で、母方の親戚はポバーグのその習慣を世代をこえて引き継いでいて自慢をほとんどしない。
しかしイザベラはノルン村で子供自慢しているステラの知り合いをみている。それだけにノルンの文化だとは思えなかった。
そしてステラの母の言葉は自慢しないよう謙虚な言い方をしているというものではなく、明らかにステラをけなすものだった。
ステラは自身の母のことを物言いがきついから誤解されやすいといっていたが、ステラへの言葉は物言いがきついというものではないとイザベラは思った。
ノルン行きに対しても娘のことを心配して物言いがきつくなったという面はあるだろうが、ステラの能力がまるで低いような言い方をすることが許せなかった。
もしステラのノルン語に不安があったとしても、ステラなら努力をおしまず話せるように頑張るだろうし、ステラが知っておくべきノルンの習慣についても出発までに教えればステラはちゃんとおぼえるはずだ。
イザベラはステラにノルン行きをかなえてほしかった。あれほどうれしそうなステラを見たのは初めてだった。
ステラにキャンベル先生に相談するようにすすめた。キャンベル先生ならステラの母を説得するために動いてくれるだろうと思ったからだ。
キャンベル先生はイザベラの父と面識があり、イザベラは学園に入る前からキャンベル先生のことを知っていた。
イザベラはキャンベル先生が学園の精神である「挑戦」を大切にする人だということをよく知っていた。
イザベラが思ったとおりキャンベル先生がステラの母を説得し、ステラのノルン行きが決まった。
しかしステラの母がノルン行きをうなずくまでに母と娘のあいだで消耗する話し合いがあったようで、とくにここ数日ステラの顔色はよくなかった。
「甘い物でも食べて元気つけてね」
ステラが礼をいいクッキーを口にする。甘い物で気持ちがほぐれたのかステラの表情がゆるんだ。
ステラのその表情をみながら、イザベラは自分の無力さがうらめしかった。
ステラは母からの厳しい言葉や物言いのきつさになれているせいか、けなされてもとくに何とも思っていないようだったがイザベラはくやしかった。
イザベラの母がステラの母のようなことをイザベラに言ったなら傷つき落ち込むだろう。
イザベラにとって母は一番の理解者だった。イザベラのことを理解してくれるだけでなく、何かあれば励ましてくれ、イザベラのやりたいことを後押ししてくれた。
もしイザベラの母がステラの母であったなら、ステラがノルン国へ行けることになったことを自分のことのように喜ぶだけでなく、ステラがノルンへいって困らないよう必要なことを手取り足取りおしえるだろう。
それだけで済まず心配だからと一緒にノルンへいき、ステラが一人で大丈夫かを確認するまでそばにいそうだ。
ステラの母にステラにやさしくしろといいたい。ステラがどれほど素晴らしい女の子なのかを分からせたい。
しかし親子の問題は他人が口をだしてよいものではないと母に釘をさされている。
「イザベラ、クッキーありがとう。今度、ノルン村に来た時におごるね」
「そんなこと気にしないの。このぐらいでおごってもらったらこっちが気にするわよ」
ステラがふわりとほほえんだ。イザベラはステラがもっと自分に甘えてほしいと思うが、ステラはそれをよしとしないだろう。
その寂しさをかくすようにイザベラもほほえんだ。
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