騎士の妻ではいられない

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ウィルという人

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 リンダは仕事からの帰り道、夕飯に何をつくろうと考えながら歩いていた。イーサンがけがで通常勤務ができないためリンダと同じような勤務時間で体に負担がかからない仕事をしていた。

 これまでイーサンの勤務が不規則だったため、毎日一緒にご飯を食べることがむずかしかった。しかしけがのおかげで初めて一緒に食べるのが当たり前の生活をおくれていた。

 買う必要があるものを考えていると、「よう、奇遇だな」ウィルに声をかけられた。

 会いたくない人に会ってしまった。リンダは挨拶だけして通り過ぎようとした。

 しかし思った通りウィルは素通りさせてくれない。

「この間は悪かったな。ちょっと話さないか」

 ウィルと話すことなど何もないが、リンダはなぜウィルがここまでリンダにかかわろうとするのか知りたかった。

 従兄といっても仲が良いわけではない。ウィルは伯母夫婦の長男でリンダと七歳年がはなれている。これまでかかわりが多かったといえない。

 商会の跡継ぎとして忙しくしているウィルが、なぜとくに仲が良いわけでもないリンダの問題に首を突っこもうとするのか。リンダにはウィルの考えがまったく分からなかった。

 ウィルは自分の自宅だと子供達がいて話にならないと、実家である伯母夫婦の家にリンダを連れてきた。

 リンダは伯母が家にいることを祈ったが伯母は出かけていた。伯父もまだ仕事から帰っていなかった。

「そんなにびくびくするなよ。まるで俺がいじめてるようだろう」

 リンダの様子をみたウィルに指摘され、思わず「いじめてるよね」リンダは本音を口にしていた。

 ウィルがそれを聞きたのしそうに笑った。

「ちょっとましになってきたみたいだな。無事に旦那と離婚できそうか?」

 リンダはため息をつきそうになるのをこらえ聞きたいことを口にした。

「ねえ、どうして私とイーサンのことにお節介をやくの? ウィルに関係ないしどうでもよいことでしょう」

 ウィルがにやりとすると座っていた椅子の背もたれに体をもたれかけた。

「ただの興味」

 リンダは今度はこらえきれずため息をついた。

「放っておいてもらえますか。他人にはおもしろい話かもしれないけど、私にはおもしろくも、おかしくもなんともないので」

 ウィルは先ほどからうかべている笑顔のままうなずいていた。

「よい傾向じゃないか。ちゃんと自分の気持ちをいえるようになってきたか」

 リンダはウィルの言葉にはっとする。

「お前にちょっかいだしてるのは、お前とジョージがかぶるからだ」

 リンダは伯母夫婦の次男、ジョージの名前がここで出てくるとは思わなかった。

「ジョージもお前と同じで自分の気持ちをためこんでいわない。そのおかげでねじ曲がった考え方をするから余計に何を考えてるのか分からない。

 リンダをみていると昔のジョージを見ているようでもどかしくなる。いまでこそジョージは自分の考えをいえるようになったが子供の時はひどかった」

 ウィルとちがい控えめなジョージをリンダは好きだった。ジョージはリンダと積極的にかかわろうとしなかったが話すと博識でたのしかった。

「俺は言いたいことをいう性格だから、嫌なことは嫌というし、我慢するより我慢せずにすむよう交渉したり、我慢しないですむ方法をさがす。

 でもジョージは気が弱い。だから言いたいことをいうより言うのを我慢する。自分の気持ちや考えをいうより我慢する方が楽らしい。

 だから俺に対して言いたいことをいわず、ずっと我慢してある日、俺に対して怒りを爆発させた」

 その時のことを思い出したのか小さく声をだしウィルが笑った。

「ジョージはなぜその時に言わないんだってことを我慢して言わなかった。

 俺があいつの好物のイチゴを独り占めしたとか、お気に入りのおもちゃをうばったとか、あいつのプレゼントあけるのを助けたら手伝いなんていらなかったとか、よくもまあそこまでためこんだなと言いたくなるほどだった。

 あとで文句をいうぐらい嫌だったなら、その時に言うべきだろう。その時にいえば修正できるしあやまれる。五年以上たってから言ったって、いまさらどうすればいいんだってことになるだろう」

 ウィルが苦笑した。

「俺だって他人の顔色はそれなりにうかがう。相手が嫌そうにしてたら相手に聞くし、それで嫌だといわれたらちゃんとひく。

 それなのにその時に何もいわず突然大昔のことをずるいとか、自分勝手だといわれても、俺にどうしろっていうんだよ。

 言わなかったお前が悪いだろうとしかいいようがない。俺は他人の考えてることは口に出していわれない限り分からないとジョージにいったら黙ってた。

 なぜ自分の考えを何もいってないのに俺があいつの気持ちを分かると思いこんでたのか不思議でしかない。

 あいつにしてみれば俺があいつの気持ちを言わせないようにしてたらしいが、そんな覚えまったくないけどな。

 俺がどのようにあいつの気持ちを言えなくしたか説明しろといったら黙られた。結局なぜそう思ったのか言わなかったから分からずじまいだ。

 だから俺が分かるよう、あいつに聞きつづけるしかないだろう。気になるし。

 ジョージが大爆発してから俺はジョージと話す時にしつこく本音を話せとやったら、どんどんジョージは怒りを爆発させるようになった。

 ジョージは心にためこんでたものを言うようになったんだよ。

 だからリンダに対しても同じようにわざと神経を逆なでることいってたわけだ。

 嫌な奴しているのは分かってる。リンダやジョージのように何でも我慢してためこむ奴には、そのぐらい荒療治が必要なんだと俺は思ってる」

 リンダはウィルに対し怒っているのか、呆れているのか、これまで通りウィルらしいといえばよいのか、何ともいえない気持ちになった。

「お節介すぎる。そのようなことを私は望んでないわ、ウィル」

「その調子だ、リンダ。そうやって自分の思ったことを言えばいいんだよ。むずかしいことは何もない」

 ウィルがうれしそうな顔をしている。

「ジョージとあなたの関係はいまどうなっているの? ジョージはあなたの荒療治を感謝してるの?」

 ウィルとジョージは、はたからみてそれほど仲が良いと思えない。いやみのつもりでリンダがウィルに問うとウィルが考える顔をした。

「そういえばジョージが俺のことをどう思ってるか聞いたことないなあ。

 まあ、普通に話すし、俺は兄弟として仲は良いと思ってるが、あいつはどうだろうな。今度聞かないと」

 ウィルがしきりに一人でうなずいていた。

「リンダ、隣国に『推測はおろか者がすること』という言葉がある。

 勝手に相手の気持ちを推測すると人間関係がこじれるという意味で、相手の気持ちは相手に聞けってことだ。

 ジョージが俺のことをどう思っているのかはジョージ本人に聞いてくれ」

 ウィルはそのようにいうと、そろそろ帰らないとイーサンが心配するだろうとリンダに帰るようにいった。

「ウィル、大きなお節介ありがとう」

 リンダの言葉にウィルは胸に手をあて礼をし「どういたしまして」と澄ました顔でこたえた。
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