20 / 23
リンダの心境
しおりを挟む
イーサンがけがをしてから二週間がすぎた。そろそろ抜糸をするので、いまの勤務から通常勤務にもどす話が進んでいた。
イーサンはけがの状態がおちつくと掃除をしたり、食事を作ったりと家事を手伝うようになった。
「人に教えるのは時間も手間もかかるから大変だろうけど一度おぼえれば一人で出来るようになる。しばらくリンダに迷惑かけるけど教えてもらえないか?」
イーサンはリンダが恐縮するほど積極的に家事をおぼえようとした。
イーサンのことは幼馴染みとはいえ結婚し一緒に暮らすまで知らないことが多かった。
結婚してから多くのことを知るようになったが、それでも家事をしながらお互いの仕事の話や、友人、親や親戚の話などをしていると、イーサンのことを知っているようで知らなかったと思うことが多かった。
リンダはとなりで眠っているイーサンの寝顔をみた。勤務している時はなでつけている髪がほつれているので幼くみえた。
もうイーサンに子どものような丸みは体中どこをさがしてもないはずだが、頬の線に丸みがあるようにみえる。子どものころの面影がかさなった。
胸に痛みがはしった。あの頃のように無邪気にイーサンを好きだといえない現状がうらめしかった。
しばらくイーサンの寝顔をみていたが眠気はもどってこない。
リンダはそっと起き上がり音をたてないように部屋をでた。
明かりをつけるか迷ったが、眠気はすぐにもどってこないようなので白湯を飲むためランプに火をともした。
薄明かりのなかリンダはこれからのことを考える。
リンダが仕事からもどると母が訪ねてきた。王都に住む母の幼馴染みであるダイアンから返事がきたという。
ダイアンは住み込みの仕事を紹介できると返事をしてきたので、もしリンダが王都に行くなら母も一緒に行くという。
リンダは母が本気で王都の仕事をさがしてくれていたこと、そして母も一緒に行こうとしていることに胸がいっぱいになった。
母はいつもリンダをやさしく支えてくれた。イーサンとの離婚も反対せず、リンダが望むようにすればよいといってくれた。
リンダは迷っていた。
イーサンのけがで家にもどってはきたが、このままでよいのかとずっと迷っている。
このままイーサンと一緒にいられたらと思う気持ちはある。とくに今はイーサンがリンダと同じような勤務時間で働いている。イーサンと初めておだやかな生活を送っていた。
しかしその生活はもうすぐ終わる。再び通常勤務をするようになればこれまでのような生活をしなくてはならない。
しかし以前のような生活をしていく自信がなかった。
リンダは王都行きについて考える。これまでとちがう生活をしてみたい。その気持ちは離婚を決心した日からすこしづつ形をもつようになっていった。
リンダはこれまで王都にいったことがない。住んでいる町は王国で三番目に大きな町でにぎやかだが、王都のにぎやかさは桁違いときく。
これまで王都にいくことなど考えたこともなかったが、自分が望めばいくことができる。そのような可能性自体これまで考えたことがなかった。
イーサンが騎士をやめることをどれほど本気で考えているのか分からないが、それもリンダが考えたことのない可能性だった。
イーサンに騎士をやめてほしいと思っていないが、もしリンダが望めばイーサンは騎士でない道をさがしてくれるかもしれない。
やはり自分は子供だなと思う。年齢的には大人だが、あまりにも未熟で物をしらず自分のことを大人だと思えない。
きっとリンダが知らないだけでほかにも可能性や選択肢はあるのだろう。
「これまでのように生きていかなくてもよい」
その思いはリンダの胸のなかで少しづつ大きくなっていった。
リンダはイーサンのことを考える。
イーサンのことが好きなのか?
その答えはまだはっきりしない。きらいではない。たしかにいえることはそれだけだった。
イーサンはリンダが家にもどってから、これまでが嘘のようにリンダに愛情を伝えるようになった。
初めのうちは決死の覚悟をしたかのような表情で愛しているといわれ、そこまで無理していってもらわなくてよいと思うほどだった。
言われたこちらも気恥ずかしいので言わなくても大丈夫だといおうとしたが、イーサンが変わろうとしてくれているのをさまたげてはいけないと思い直した。
イーサンは変わろうとしてくれている。
リンダと離婚せず一緒に幸せになりたいといい変わろうとしてくれている。
離婚してあらたに妻となる女性をさがすのが面倒なのではと考えたが、自分の行動を変えるのも十分面倒くさい。
どちらがより面倒なのかは分からないが、面倒なことをしてでもリンダと一緒にいたいと行動しているのだと思えた。
イーサンをきらいになれたらどれだけ楽だろう。顔もみたくない、離婚してすっきりしたいと思えるほどきらいになりたい。そうすれば迷わず離婚できる。
もし体に感情をつくりだす器官があるなら、それをそっくり切り取ってしまいたいと思う。
もう何も感じなくなってしまいたい。幸せも喜びも感じられなくなってよいので、わきおこるさまざまな感情をなくしてしまいたい。
リンダはランプの明かりをじっと見た。
暖かそうな炎の色が父を思いおこさせた。
父から感じた温かいものを父の愛情だと思えたことが心にうかんだ。
無いと思っていた父の愛情は存在していた。そして変わらないと思っていた父も変わった。
きっと自分も変わらなくてはいけないのだろう。
苦しい。もう何もかも投げだしてしまいたいほど苦しい。
しかし周りの人達はリンダの幸せを願ってくれている。幸せになるために自分が出来ることをやらなくてはならない。
リンダは再び王都行きについて考えをめぐらせた。
イーサンはけがの状態がおちつくと掃除をしたり、食事を作ったりと家事を手伝うようになった。
「人に教えるのは時間も手間もかかるから大変だろうけど一度おぼえれば一人で出来るようになる。しばらくリンダに迷惑かけるけど教えてもらえないか?」
イーサンはリンダが恐縮するほど積極的に家事をおぼえようとした。
イーサンのことは幼馴染みとはいえ結婚し一緒に暮らすまで知らないことが多かった。
結婚してから多くのことを知るようになったが、それでも家事をしながらお互いの仕事の話や、友人、親や親戚の話などをしていると、イーサンのことを知っているようで知らなかったと思うことが多かった。
リンダはとなりで眠っているイーサンの寝顔をみた。勤務している時はなでつけている髪がほつれているので幼くみえた。
もうイーサンに子どものような丸みは体中どこをさがしてもないはずだが、頬の線に丸みがあるようにみえる。子どものころの面影がかさなった。
胸に痛みがはしった。あの頃のように無邪気にイーサンを好きだといえない現状がうらめしかった。
しばらくイーサンの寝顔をみていたが眠気はもどってこない。
リンダはそっと起き上がり音をたてないように部屋をでた。
明かりをつけるか迷ったが、眠気はすぐにもどってこないようなので白湯を飲むためランプに火をともした。
薄明かりのなかリンダはこれからのことを考える。
リンダが仕事からもどると母が訪ねてきた。王都に住む母の幼馴染みであるダイアンから返事がきたという。
ダイアンは住み込みの仕事を紹介できると返事をしてきたので、もしリンダが王都に行くなら母も一緒に行くという。
リンダは母が本気で王都の仕事をさがしてくれていたこと、そして母も一緒に行こうとしていることに胸がいっぱいになった。
母はいつもリンダをやさしく支えてくれた。イーサンとの離婚も反対せず、リンダが望むようにすればよいといってくれた。
リンダは迷っていた。
イーサンのけがで家にもどってはきたが、このままでよいのかとずっと迷っている。
このままイーサンと一緒にいられたらと思う気持ちはある。とくに今はイーサンがリンダと同じような勤務時間で働いている。イーサンと初めておだやかな生活を送っていた。
しかしその生活はもうすぐ終わる。再び通常勤務をするようになればこれまでのような生活をしなくてはならない。
しかし以前のような生活をしていく自信がなかった。
リンダは王都行きについて考える。これまでとちがう生活をしてみたい。その気持ちは離婚を決心した日からすこしづつ形をもつようになっていった。
リンダはこれまで王都にいったことがない。住んでいる町は王国で三番目に大きな町でにぎやかだが、王都のにぎやかさは桁違いときく。
これまで王都にいくことなど考えたこともなかったが、自分が望めばいくことができる。そのような可能性自体これまで考えたことがなかった。
イーサンが騎士をやめることをどれほど本気で考えているのか分からないが、それもリンダが考えたことのない可能性だった。
イーサンに騎士をやめてほしいと思っていないが、もしリンダが望めばイーサンは騎士でない道をさがしてくれるかもしれない。
やはり自分は子供だなと思う。年齢的には大人だが、あまりにも未熟で物をしらず自分のことを大人だと思えない。
きっとリンダが知らないだけでほかにも可能性や選択肢はあるのだろう。
「これまでのように生きていかなくてもよい」
その思いはリンダの胸のなかで少しづつ大きくなっていった。
リンダはイーサンのことを考える。
イーサンのことが好きなのか?
その答えはまだはっきりしない。きらいではない。たしかにいえることはそれだけだった。
イーサンはリンダが家にもどってから、これまでが嘘のようにリンダに愛情を伝えるようになった。
初めのうちは決死の覚悟をしたかのような表情で愛しているといわれ、そこまで無理していってもらわなくてよいと思うほどだった。
言われたこちらも気恥ずかしいので言わなくても大丈夫だといおうとしたが、イーサンが変わろうとしてくれているのをさまたげてはいけないと思い直した。
イーサンは変わろうとしてくれている。
リンダと離婚せず一緒に幸せになりたいといい変わろうとしてくれている。
離婚してあらたに妻となる女性をさがすのが面倒なのではと考えたが、自分の行動を変えるのも十分面倒くさい。
どちらがより面倒なのかは分からないが、面倒なことをしてでもリンダと一緒にいたいと行動しているのだと思えた。
イーサンをきらいになれたらどれだけ楽だろう。顔もみたくない、離婚してすっきりしたいと思えるほどきらいになりたい。そうすれば迷わず離婚できる。
もし体に感情をつくりだす器官があるなら、それをそっくり切り取ってしまいたいと思う。
もう何も感じなくなってしまいたい。幸せも喜びも感じられなくなってよいので、わきおこるさまざまな感情をなくしてしまいたい。
リンダはランプの明かりをじっと見た。
暖かそうな炎の色が父を思いおこさせた。
父から感じた温かいものを父の愛情だと思えたことが心にうかんだ。
無いと思っていた父の愛情は存在していた。そして変わらないと思っていた父も変わった。
きっと自分も変わらなくてはいけないのだろう。
苦しい。もう何もかも投げだしてしまいたいほど苦しい。
しかし周りの人達はリンダの幸せを願ってくれている。幸せになるために自分が出来ることをやらなくてはならない。
リンダは再び王都行きについて考えをめぐらせた。
180
あなたにおすすめの小説
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
誰も愛してくれないと言ったのは、あなたでしょう?〜冷徹家臣と偽りの妻契約〜
山田空
恋愛
王国有数の名家に生まれたエルナは、
幼い頃から“家の役目”を果たすためだけに生きてきた。
父に褒められたことは一度もなく、
婚約者には「君に愛情などない」と言われ、
社交界では「冷たい令嬢」と噂され続けた。
——ある夜。
唯一の味方だった侍女が「あなたのせいで」と呟いて去っていく。
心が折れかけていたその時、
父の側近であり冷徹で有名な青年・レオンが
淡々と告げた。
「エルナ様、家を出ましょう。
あなたはもう、これ以上傷つく必要がない」
突然の“駆け落ち”に見える提案。
だがその実態は——
『他家からの縁談に対抗するための“偽装夫婦契約”。
期間は一年、互いに干渉しないこと』
はずだった。
しかし共に暮らし始めてすぐ、
レオンの態度は“契約の冷たさ”とは程遠くなる。
「……触れていいですか」
「無理をしないで。泣きたいなら泣きなさい」
「あなたを愛さないなど、できるはずがない」
彼の優しさは偽りか、それとも——。
一年後、契約の終わりが迫る頃、
エルナの前に姿を見せたのは
かつて彼女を切り捨てた婚約者だった。
「戻ってきてくれ。
本当に愛していたのは……君だ」
愛を知らずに生きてきた令嬢が人生で初めて“選ぶ”物語。
十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした
柴田はつみ
恋愛
侯爵令嬢エラナは、父親の命令で突然、10歳年上の国王アレンと結婚することに。
幼馴染みだったものの、年の差と疎遠だった期間のせいですっかり他人行儀な二人の新婚生活は、どこかギクシャクしていました。エラナは国王の冷たい態度に心を閉ざし、離婚を決意します。
そんなある日、国王と聖女マリアが親密に話している姿を頻繁に目撃したエラナは、二人の関係を不審に思い始めます。
護衛騎士レオナルドの協力を得て真相を突き止めることにしますが、逆に国王からはレオナルドとの仲を疑われてしまい、事態は思わぬ方向に進んでいきます。
王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく
木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。
侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。
震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。
二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。
けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。
殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。
「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」
優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎泡雪 / 木風 雪乃
【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!
たまこ
恋愛
エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。
だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる