意志弱流され気質は反吐が出る!ヒロインは悪役令嬢にキャラ変します。

シュガーコクーン

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迫る

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 いつもと違う朝が始まった。


 フレアンヌが優しくルルーシェの頰に触れて起こしてくれるまでは変わらない。

 そこから朝とは言え私室から出るのだからと貴族はゴテゴテに着飾るのが常だ。
 ルルーシェはそこまで着飾ることは好きではないので一般より控えめではあるのだがドレスなため手間と時間がかかる。


 しかし今日はさらに簡略化された。
 フレアンヌが説明することなく部屋を出て行ってしまうのだから、ルルーシェはただ立ち尽くすしかない。

 ガチャ。
 追い討ちを掛けるように鍵を閉められた。

「ええぇ」

 フレアンヌだけでなくフレアンヌの一連の行動を見守り従ってしまったルルーシェも駄目だったのだろう。
 尋ねたらフレアンヌは答えてくれるはずだから。



 コンコン。

「フレアンヌとトワイが参りました」
「どうぞ」

 ガチャ。

「失礼致します」

 ガチャン。

 頭の中でクエスチョンマークが乱舞する。

(これから食堂で会うというのに何故トワイをここに……?)

 勿論こんなことは初めてだ。
 トワイも無表情ながら戸惑っているように感じる。

 この場で困惑していないのはフレアンヌのみなのに説明は行わずに着席を促される。


 ルルーシェとトワイが座るのを見るとまたフレアンヌは部屋を出て行き鍵を締め、その一連の姿を何も言えずに見ていた二人は戸惑いを隠せず無言で顔を見合わせる。

 珍しく下がる眉が可愛いなぁと現実逃避で考えてしまう。
 現実逃避でなくとも思うだろうが、今は現実逃避として役立っているのでそういうことにしておく。



 コンコン。

「フレアンヌが参りました」
「どうぞ」

 ガチャ。

「失礼致します」

 ガチャン。
 フレアンヌはキャスターが付いた台座を転がしてルルーシェ達の元へとやって来る。

「朝食をお持ちしました」

(うん、そうだと思ったわ!)

 物の説明ではなく理由を説明してほしかった。


 しかしルルーシェは言葉に出さななったので当然フレアンヌによる理由説明は入らない。

「本日の朝食は美味しい採れたて牛乳のミルクロールパン、フレッシュ香草入りソーセージ、産みたてほやほや卵のスクランブルエッグ、愛を込めたサラダ、ヨーグルトの早摘ブルーベリー乗せ、これで一日元気に乗り切る!野菜スムージーです」
「「…………」」

 全員真顔だ。

(何!?)

 完全にフレアンヌのキャラではなかった。
 途中に一個だけ真面目な物を挟んだことが気になる。

「「…………」」

 ひたすらなる無言が続く。


 最初に無言の圧に耐えきれなくなったのはルルーシェだった。

「……何か読み上げたのかしら?」
「はい。料理長からのメモに書かれているものを読み上げさせてもらいました」

 ルルーシェが尋ね終わってからフレアンヌが反応するまでコンマ一秒もなかっただろう。
 フレアンヌ自身も何か思うところがあったらしく、全力で責任をガタイのいい料理長になすり付けに掛かっている。

「読まないと後でシバくと伝言されたのです」

 早口になっているフレアンヌは、言い訳段階で一歩二歩此方に踏み出していると気付かない程に必死である。
 珍しいと若干面白く必死なフレアンヌを見ていたルルーシェだが、止めないといつまでも続けそうなのでぶった切る。

「…………わかったわ」
「本当ですか」
「本当よ」
「本当の本当ですか」
「ええ」
「本当ですよね」
「いつまでやるんですか」

 トワイから呆れたような視線を貰うが、フレアンヌが続けるのであってルルーシェはどちらかと言うと被害者側であって、ルルーシェがその視線を貰うのはおかしいと納得いかない。


「食べませんか」
「ええ」

 ルルーシェの無言の抗議はさらりとかわされて終わった。




 食べ終わった食器を持って行く時もフレアンヌは鍵を閉めてしまった。
 相変わらず説明はされず、二人で戸惑うばかりだ。

「完全に軟禁ですね」

 開けられない扉を見てトワイがため息混じりに呟きルルーシェもそれに頷く。

(しかも此処私の部屋よ?何故トワイが此処にいるの……?)


「せめて説明してくれないかしら。フレアンヌ何も説明してくれないじゃない」
「僕も何も聞いていませんし、情報も制限されていますね、コレ」

 何故情報まで制限しないといけないのか。
 何かが記憶に引っかかる。
 しかしその何かが出てこない。


(軟禁ーー、監禁、隔離…………隔離?)

 そうだ隔離だ、では隔離する理由とは何か。

(隔離と言えば、病をうつさないために離すもの。でも私もトワイも健康そのものよ)

 実際二人はくしゃみも咳もしないし、体調不良な様子は微塵もない。


 ルルーシェは思い出そうと考え始めてから痛み続ける頭を押さえるが気休めにもならない。

(じゃあ、屋敷の誰かが病気になったのかしら?…………でもその罹った人を隔離するべきであり、私達を隔離必要はするないわ)


 ルルーシェとトワイという健康体な方を隔離する、それは罹る方をカバーできない時だけだろう。
 つまり。

(屋敷の皆が罹っている、もしくは罹る可能性がある?)

 インフルエンザみたいなものか、と納得しかけて止まる。
 インフルエンザは現代だからこそそこまで脅威でないのであって、この医療の発達していない時代の異世界でそんなモノが流行してしまったら一大事だ。


 屋敷の人が亡くなるという可能性を感じルルーシェはゾッと背筋が寒くなる。

 そして屋敷の皆は隔離されていないというのに、自分達だけが隔離されているという現状にもどかしさを感じて唸る。
 そしてまた行動を停止する。

 頭痛が酷くなる。


(ーーーーまって、流行病?そんな内容が小説にもあったわ)




 小説のルルーシェは、親を一気に亡くしたトワイを猫可愛がりしていたが、それをさらに加速させる出来事があった。

 トワイが流行病に罹るのだ。
 この医療の発達していない世界において死亡率のとても高い病で、トワイは高熱に侵されながらもなんとか目を覚ます。
 このことにルルーシェはたいそう喜びトワイの元へ直ぐに駆けつけるが、トワイが目が見えなくなってしまったという事実に嘆く。
 そして普通の生活が送れなくなったトワイを殊更ルルーシェは可愛がり、手助けしていく。
 そんなルルーシェがべったりとくっついて離れないトワイに王子が嫉妬してーーーー、そんな展開にするためのエピソードである。


(そんなくだらない展開にするためだけに、トワイを病になんて罹らせないわ!)

 ルルーシェは隔離エピソードがあるとは知らなかった。
 というか、隔離されているにもかかわらずトワイが何故罹ったのかは謎だが、まだトワイと一緒にされている内は物語が始まらないだろう。

 どれだけの猶予があるのかはわからないが、まだ間に合うのだ。




 トワイが病に罹る話には、もう一つのエピソードがある。
 トワイをなんとか治したいと思った心優しいルルーシェが図書館で大昔に記された流行病の特効薬を発見する、というものだ。
 流行病は国全土に広がっていたためルルーシェはこの功績を王家に讃えられることとなり、王子と結ばれることに対して文句が出にくくなった。


(…………王家とは、積極的に関わりたくはないわ……)

 王子と会いたくないルルーシェ。
 王子と会ってしまうと、ヒロインに近づく気がして嫌なのだ。

 しかも、小説ではお互い一目惚れ、と書いてあった。
 一目惚れなんてしないとルルーシェはわかっているが、惚れたなんだがなかろうと、幼い身で功績を上げたルルーシェを王家が野放しにするだろうか。
 婚約コース一直線は困る。

 そもそも王子がルルーシェの好みでない。
 ナヨナヨよりキリッとした人が好きなのだ。
 王子は違う。

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