意志弱流され気質は反吐が出る!ヒロインは悪役令嬢にキャラ変します。

シュガーコクーン

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引きこもり

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「ツクヨミ?怒ってないから出てきなさい。何時間そこにいると思っているの?」

 ルルーシェは優雅な午後のティータイムの最中である。
 それはいつもの習慣なので特段変わったことではない。
 しかし強いて言うのであれば、それはルルーシェの膝上にツクヨミが寝そべっていないということだろうか。

 そのツクヨミは今、ルルーシェが座るソファーの下に身を潜めている。
 使用人達が仕事をしっかりとこなしているのだとわかっているルルーシェは出てきたらゴミだらけ、なんていう心配はしなくて済んでいる。

 しかし、ツクヨミが立て籠もってもう三時間。
 ルルーシェはただただ、今日中に出てきてくれるだろうか、と心配になってきた。

「ツクヨミー?」






 三時間前、ルルーシェはこの部屋で羽が舞う光景を見た。

 空間の上半分だけを切り抜いたなら、まるで幻想の世界にいるような心地になるだろう。
 しかし下半分を見てみると、ソファーのクッションは布がズタズタに切り裂かれ羽が無惨に飛び出していることが目に入る。


 扉を開けたことで風が生まれたらしく、事実を主張するがごとく舞う羽が邪魔で部屋に踏み込むことにルルーシェは躊躇う。
 視界を埋める羽なんてどこ吹く風だと言わんばかりに足取り軽く歩いて行くフレアンヌは凄いと素直に思った。

(ツクヨミ、こんなことする子じゃないと思ったのだけれど。今回は言い聞かせていなかった私がいけないわね。後で掃除してくれる人達に謝らないと)


 ルルーシェは一歩部屋に踏み込んだ状態で立ち尽くした。
 どこを見ても羽が目に飛び込むのだ。
 罪悪感を持っている身として、この残骸はそっと見なかったことにして視線を外したい事案である。

「ルルーシェ様」
「なぁに?」

 ルルーシェはちらりといつの間にか隣に佇んでいたフレアンヌを見上げる。

「ツクヨミがソファーの下から出てきません。引き摺り出しますか?」

 可愛らしく小首を傾げられても、言っている内容は可愛らしくない。

「ありがとう。でもいいわ」

 ルルーシェは緩く首を横に振り、今度こそ部屋の中を歩く。



 実行犯な黒猫の姿が見当たらないと思ったら、既に隠れ済みだったとは。
 ツクヨミもしおらしく反省しているようなので、叱らずに優しく誘い出してやろうとルルーシェはソファーの前でしゃがむ。

「ツクヨミ?大丈夫、誰も怒っていないわ。反省しているのならこれから気をつければいいのよ。出てきなさい?」
「…………」
「ツクヨミー?」
「…………」
「ねぇ、ツクヨミってば」
「…………」
「え、いるわよね?」

 心配になったルルーシェはフレアンヌの方を振り返って尋ねた。

「はい、居ます」
「そうよね」

 ツクヨミの匂いはソファーの下からする。
 しかし、こんなにもルルーシェが話しかけて無言を返されることはこれまでになかったのだ。


「…………ツクヨミ、大丈夫?」
「………………」

 ルルーシェは眉を下げる。

「大丈夫なら、いいのよ。出てきたくなったら出て顔を見てね?」




「ツクヨミ?怒ってないから出てきなさい。何時間そこにいると思っているの?」

 三時間強経過した頃、少し前から感じていた部屋の外の騒めきがいっそう強くなったように感じる。
 しかし、ルルーシェが何も知らされないということは、関わらない方がいいということだ。
 気になるが、とても気になるが、今はツクヨミをソファーの下から出すことだけに集中する。


 結局ツクヨミは空腹に負けルルーシェの膝上へと姿を現し、ルルーシェは自分は食欲より下なのかと若干落ち込んだ。

(食欲は三大欲求の一つだもの。勝てるわけないのよ)

 ルルーシェは自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。







 ルルーシェはツクヨミと共にベッドに寝そべって何か重要だったであろう事項を思い出そうと唸っている。

 屋敷中が騒がしいだけならばまだルルーシェは気にしないが、今日はいつも絶対に晩餐は共にするラカーシェが食堂に来なかったので気掛かりなのだ。

「ゔう~」

 もやもやとした突っ掛かりが気になって心が晴れない。

「んーー!」

 何か、小説で出来事があった気がする。

「ゔ~、うぅ………、………………」


 心が晴れなかろうが思い出せなかろうが幼い体は眠気に抗えないものである。
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