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夜
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僕は、人形。
ただ、「サイショウ」の言うことを忠実に行えばいい。
簡単だ。
僕は、無能らしい。
だから全て任せておけって。
決して、悪いようにはしないからって言ったのにね。
何度も何度も脳裏に蘇る光景がある。
それは夜が執念に張り付く城の中で剣に囲まれている、裏切りの景色。
「悪魔には断罪を!」
こう真っ先に言ったのは「サイショウ」だ。
その声を皮切りに次々と罵りが襲いかかってくる。
悪魔、疫病神、ニセモノ、愚王、死神。
どれほどのことを言われたかはあやふやだが、全て穢らわしいモノを蔑む表情だったというのはハッキリと覚えている。
「その瞳、その髪色。まさに魔の色だ!あぁ、こんなことに気がつかなかったなんて、自分がとても情けない」
「そんなことありません」
「そうですよ、今こうして終わるのです」
「サイショウ」を慰める人々は、剣を突き出したまま。
(僕よりも、お前達の方がよっぽど悪魔だ)
どうして。
そう口だけを動かした。
声は出ない。
出るはずがない。
口の中だけでなく喉までカラカラなのだ。
「陛下、いや悪魔よ。殺しでもしたらどんな災いが振り撒くことか。そんな事態にしないためにも、お前は地下へと封印する。永遠に、だ」
悲しそうな表情を作る「サイショウ」。
その中で口元だけが、耐えられないとばかりに歪に笑っていた。
そこでようやく気づいた。
(ああ、僕はサイショウにずっとずっと、最初から騙されていたんだなぁ)
悲しくて悲しくて、涙が溢れそうになる。
でも泣いてなんかやるものか。
「サイショウ、サイショウのこと大好きだった。だからこそ、今、憎くて憎くて堪らない」
だから笑ってやる。
笑ってやる。
きっと、サイショウと同じような笑み。
「望み通り、呪ってやる」
一瞬身を竦めた「サイショウ」は直ぐ気丈に持ち直す。
しかし、怒鳴るのは恐怖からだろう。
「連れて行け!!」
両腕をそれぞれ乱雑に持たれ、引きずるように連行される。
そして入れられたのは、地下。
石の無機質で冷酷な温度。
そんな温度に身を委ね、この現実は嘘だと思いたくて、視界を消す。
そして戻す。
それでも景色は、現実は変わらなかった。
掃除のされていない不衛生な牢の中、鉄格子が己と外を遮っている。
(呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる絶対呪う)
そうして眠りについた。
ガツガツと怒りを足音から滲ませている、「サイショウ」の気配を直に感じて目が覚める。
しかし動いてなんてやらない。
背を石にもたれさせたまま、目を開くだけにとどめる。
「悪魔よ、お前は一生此処で永遠に生き続けるのだ」
「永遠?」
自分の声の冷たさに驚くが面には意図せずともピクリとさえ出ない。
永遠とは、素晴らしい。
だったら、どれほどの呪いをかけられることだろう。
「そう、永遠だ。此処は時間が経たない。此処に囚われるお前は、永遠に生きる」
「そんな話聞いたことがない」
「そうだろうな。私が教えなかったのだから」
しゃがみ込み、「サイショウ」は皮肉げに笑ってみせた。
「お前は私と、私のこれからの子孫達の治世の礎となるのだよ。素晴らしいだろう?」
「はっ!」
思わず笑いが漏れる。
何故己が生かされているのかを知ったからだ。
(そうか、サイショウ、お前の血では結界を維持できないものね)
己に流れる血は魔力量がとてつもなく多い。
それを利用して魔物が入れない結界を国に張り続けるから、敬われ皇族であり続けた血。
サイショウはによく、無能だと言われていたが、共に血は優秀だとも言われ続けた。
あの言葉は、サイショウの劣等感から来ていたのだと初めてしった。
(あぁ、なんて滑稽に踊らされ続けているのだろう。そしてなんて滑稽にさも優雅そうに踊るサイショウ)
自分は「サイショウ」が王になるために利用し尽くされるのだ。
「反吐がでる。絶対に呪ってやる」
「はっ!」
今度は笑われた。
「できるならばやってみろ」
精々足掻け、と嘲笑しながら去って行った。
数日後、ようやく嘲笑の意味に気づいた。
この足首に付いている足枷、魔力を抜き取る魔道具なのだ。
魔力枯渇寸前から抜け出せない。
それでも、必死に魔道具の力から逃れようとした。
多くは無理でも、毎日コツコツと。
少しずつ魔力を体の中で隠した。
そうして隠しきれなくなる寸前で呪いを創る。
しかし必死の思いで創り出したその呪いは弱すぎた。
呪っても少し不調だなぁと思わせることができないくらいには弱かった。
呪いは力を強めるため、無意識化に力を求めて彷徨う。
どれくらいの時が過ぎたのだろうか。
わからない。
ただ、とても長かった気がする。
質の良い魔力を取り込み、遂に実体化するほどまでとなった。
取り憑いていた魔力の持ち主から抜ける時、出る反動で体を押してしまったようだ。
もっと魔力を取り込んでいたかったのに湖に落ちてしまった。
(もっと、もっともっと)
そう強く望んでいたら、意識を読み取っていただけのはずの呪いに魂が移ってしまった。
(何が起きた?)
やたら地面に近い視界。
軽い体。
人ではない、肉球のある手。
三人が去った後、そっと湖に顔を寄せて驚いた。
(猫だ。……何で猫?)
魂が呪いに移るわその呪いが猫の形になるわ。
この世界は謎に満ち過ぎだと軽く呆れる。
美味しい魔力の子に近づきたいのに、隙のない人共が付かず離れずで中々接触できない。
それでも、近くにいるだけで良い魔力を多く取り込めるのだからこの美味しい魔力の子は凄い。
夜、美味しい魔力の子がわざわざ来てくれた。
朝、たしとベッドから床に着地し伸びをしつつ思う。
(あれ、なんで僕美味しい魔力の子の子になってるんだろう)
と。
多分魔力が美味しすぎて美味しい魔力の子に懐いちゃったのだろう。
我ながら現金なものだと呆れる。
けれど、この子の手の温かさに触れるとしばらくはこんな生活もいいかもしれない、って思ってしまうのだ。
もうしばらくは、このままで。
保留!!
生きとし生けるもの、誰もが知らない。
世界だけが知っている。
ルルーシェが世に降り注ぐはずだった災いを回避したのだと。
ずっとわからなければいい。
わかってしまうのは、回避した災いが再びやって来る時なのだから。
ただ、「サイショウ」の言うことを忠実に行えばいい。
簡単だ。
僕は、無能らしい。
だから全て任せておけって。
決して、悪いようにはしないからって言ったのにね。
何度も何度も脳裏に蘇る光景がある。
それは夜が執念に張り付く城の中で剣に囲まれている、裏切りの景色。
「悪魔には断罪を!」
こう真っ先に言ったのは「サイショウ」だ。
その声を皮切りに次々と罵りが襲いかかってくる。
悪魔、疫病神、ニセモノ、愚王、死神。
どれほどのことを言われたかはあやふやだが、全て穢らわしいモノを蔑む表情だったというのはハッキリと覚えている。
「その瞳、その髪色。まさに魔の色だ!あぁ、こんなことに気がつかなかったなんて、自分がとても情けない」
「そんなことありません」
「そうですよ、今こうして終わるのです」
「サイショウ」を慰める人々は、剣を突き出したまま。
(僕よりも、お前達の方がよっぽど悪魔だ)
どうして。
そう口だけを動かした。
声は出ない。
出るはずがない。
口の中だけでなく喉までカラカラなのだ。
「陛下、いや悪魔よ。殺しでもしたらどんな災いが振り撒くことか。そんな事態にしないためにも、お前は地下へと封印する。永遠に、だ」
悲しそうな表情を作る「サイショウ」。
その中で口元だけが、耐えられないとばかりに歪に笑っていた。
そこでようやく気づいた。
(ああ、僕はサイショウにずっとずっと、最初から騙されていたんだなぁ)
悲しくて悲しくて、涙が溢れそうになる。
でも泣いてなんかやるものか。
「サイショウ、サイショウのこと大好きだった。だからこそ、今、憎くて憎くて堪らない」
だから笑ってやる。
笑ってやる。
きっと、サイショウと同じような笑み。
「望み通り、呪ってやる」
一瞬身を竦めた「サイショウ」は直ぐ気丈に持ち直す。
しかし、怒鳴るのは恐怖からだろう。
「連れて行け!!」
両腕をそれぞれ乱雑に持たれ、引きずるように連行される。
そして入れられたのは、地下。
石の無機質で冷酷な温度。
そんな温度に身を委ね、この現実は嘘だと思いたくて、視界を消す。
そして戻す。
それでも景色は、現実は変わらなかった。
掃除のされていない不衛生な牢の中、鉄格子が己と外を遮っている。
(呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる絶対呪う)
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ガツガツと怒りを足音から滲ませている、「サイショウ」の気配を直に感じて目が覚める。
しかし動いてなんてやらない。
背を石にもたれさせたまま、目を開くだけにとどめる。
「悪魔よ、お前は一生此処で永遠に生き続けるのだ」
「永遠?」
自分の声の冷たさに驚くが面には意図せずともピクリとさえ出ない。
永遠とは、素晴らしい。
だったら、どれほどの呪いをかけられることだろう。
「そう、永遠だ。此処は時間が経たない。此処に囚われるお前は、永遠に生きる」
「そんな話聞いたことがない」
「そうだろうな。私が教えなかったのだから」
しゃがみ込み、「サイショウ」は皮肉げに笑ってみせた。
「お前は私と、私のこれからの子孫達の治世の礎となるのだよ。素晴らしいだろう?」
「はっ!」
思わず笑いが漏れる。
何故己が生かされているのかを知ったからだ。
(そうか、サイショウ、お前の血では結界を維持できないものね)
己に流れる血は魔力量がとてつもなく多い。
それを利用して魔物が入れない結界を国に張り続けるから、敬われ皇族であり続けた血。
サイショウはによく、無能だと言われていたが、共に血は優秀だとも言われ続けた。
あの言葉は、サイショウの劣等感から来ていたのだと初めてしった。
(あぁ、なんて滑稽に踊らされ続けているのだろう。そしてなんて滑稽にさも優雅そうに踊るサイショウ)
自分は「サイショウ」が王になるために利用し尽くされるのだ。
「反吐がでる。絶対に呪ってやる」
「はっ!」
今度は笑われた。
「できるならばやってみろ」
精々足掻け、と嘲笑しながら去って行った。
数日後、ようやく嘲笑の意味に気づいた。
この足首に付いている足枷、魔力を抜き取る魔道具なのだ。
魔力枯渇寸前から抜け出せない。
それでも、必死に魔道具の力から逃れようとした。
多くは無理でも、毎日コツコツと。
少しずつ魔力を体の中で隠した。
そうして隠しきれなくなる寸前で呪いを創る。
しかし必死の思いで創り出したその呪いは弱すぎた。
呪っても少し不調だなぁと思わせることができないくらいには弱かった。
呪いは力を強めるため、無意識化に力を求めて彷徨う。
どれくらいの時が過ぎたのだろうか。
わからない。
ただ、とても長かった気がする。
質の良い魔力を取り込み、遂に実体化するほどまでとなった。
取り憑いていた魔力の持ち主から抜ける時、出る反動で体を押してしまったようだ。
もっと魔力を取り込んでいたかったのに湖に落ちてしまった。
(もっと、もっともっと)
そう強く望んでいたら、意識を読み取っていただけのはずの呪いに魂が移ってしまった。
(何が起きた?)
やたら地面に近い視界。
軽い体。
人ではない、肉球のある手。
三人が去った後、そっと湖に顔を寄せて驚いた。
(猫だ。……何で猫?)
魂が呪いに移るわその呪いが猫の形になるわ。
この世界は謎に満ち過ぎだと軽く呆れる。
美味しい魔力の子に近づきたいのに、隙のない人共が付かず離れずで中々接触できない。
それでも、近くにいるだけで良い魔力を多く取り込めるのだからこの美味しい魔力の子は凄い。
夜、美味しい魔力の子がわざわざ来てくれた。
朝、たしとベッドから床に着地し伸びをしつつ思う。
(あれ、なんで僕美味しい魔力の子の子になってるんだろう)
と。
多分魔力が美味しすぎて美味しい魔力の子に懐いちゃったのだろう。
我ながら現金なものだと呆れる。
けれど、この子の手の温かさに触れるとしばらくはこんな生活もいいかもしれない、って思ってしまうのだ。
もうしばらくは、このままで。
保留!!
生きとし生けるもの、誰もが知らない。
世界だけが知っている。
ルルーシェが世に降り注ぐはずだった災いを回避したのだと。
ずっとわからなければいい。
わかってしまうのは、回避した災いが再びやって来る時なのだから。
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