真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

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第150話 不死との戦いと走るゴブリン達

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 ◆クウネルside◆

 骨だけになった飛竜王がゆっくりとした足どりで真っ直ぐクウネルに向かって来る。

 真っ赤な瞳がクウネルに対する憎悪を感じさせた。

 「目の前に居るのに、気配察知の反応は無い……って事は、アンデッドは生きてないから気配が無いってこと?」

 «――確認。 此方の気配察知にも反応無しです»

 「こりゃ、今後は気配察知に頼りすぎるのもいけないな」

 後ろを確認すると、ゴブリン兵士達は癒しの族長を囲んだまま恐怖で固まってしまっていた。 癒しの族長の身体の震えも異常だ。

 「……なんかあるな。 久しぶりの鑑定!!」

 ステータス画面

 種族 アンデッド ワイバーン(変異)

 年齢 0

 レベル 1

 HP 3000/3000

 FP 100/100

 攻撃力 1500

 防御力 500

 知力 1

 速力 200

 スキル 不死. 死の呪い. 即死の瘴気. 死の威圧

 魔法 無し

 戦技 無し

 状態異常 憎悪

 「完全に別物の魔物になってるやん! ステータスは貧弱だけど、スキルは物騒なヤツばっかりだな……族長さんの震えはどれが原因だ?」

 クウネルが鑑定している間にも、アンデッドワイバーンはゆっくりとした足取りで向かって来ている。

 「スキルも確認しとくか! 鑑定!」

 『不死 身体の1部が欠損、損壊しても再生する 物理、魔法で殺すことは不可能』

 「あかーーーーん! これはダメかも! 殺せないのはダメだよ! チートだよ! もういいっ、次だ!」

 『死の呪い 憎む対象や宿主を殺した対象に即死の呪いを自動で掛ける 掛かった対象は即座に死ぬ』

 「OH MY GOD! ゴブリン達がピンチ! 多分、憎悪は殺した私に向いてるからゴブリン達が巻き込まれないようにしなきゃ!」

 『即死の瘴気 口から漏れる瘴気 触れる、もしくは吸い込むと即死する その後アンデッドとして生き返る』

 「どんだけ即死させたいんだよ! 即死即死うるさいな!」 

 『死の威圧 宿主から発される威圧 弱い者がこの威圧を向けられ長時間曝されると死に至る』

 「族長さんの震えはこれか! やばたにえんやん! 癒しの族長って呼ばれるぐらいだから、戦闘向けのステータスじゃないんだろうし……どっちにしても不味いぞ。 不死で倒せないなら、族長さん達が避難する時間を稼がなきゃ!」

 クウネルは近くにあった石を拾い上げ、アンデッドワイバーンにぶん投げる。 当たりはしなかったが、気が逸れたおかげか癒しの族長達はようやく動ける様になった様だ。

 「族長さん、こいつ倒せないっぽい! 時間稼ぐから逃げて! 側に居たら、それだけで死ぬよ!」

 「ギバ!? わ、分かりました! 皆さん、行きましょう! 女神様が無事に逃げる為に、私達が避難しないと!」

 「「「「ギバ!」」」」

 ゴブリン兵士達は癒しの族長を囲んだまま、街に向かって走り始めた。 走り出したゴブリン達を見送るクウネルはため息を吐く。

 「はぁ……なんか最近の戦いこんな感じが多くない? 殿するのが趣味な訳じゃないんですけどー?」

 「クルル? ……ガアァァァァッ!」

 クウネルと逃げ出したゴブリン達を交互に見て悩んでいたが、結局クウネルに向かってアンデッドワイバーンは突撃した。

 「だよね、お前を殺したのは私だもんね。 いやぁ、美味しかったよ? お前のお肉。 今度食べてみたら?」

 «――警告! クウネル、来ます!!»

 「クルルルッ! ガァァァァッ!」

 「あいよぉぉぉっ! って、近っ!」

 アンデッドワイバーンの開いた空洞の口から漆黒の煙がクウネルに向かって吹き出した。

 「目の前で叫ぶな! 臭いんだよっ! 乙女パーーーーンチ!!」

 接近してきたアンデッドワイバーンの顔をクウネルは思いっきりぶん殴る。

 凄まじい衝撃音が響き渡り、クウネルの拳が直撃したアンデッドワイバーンの顔は砕け散った。

 「ガアァァァァッ!」 

 しかし、数秒後には砕け散った顔の骨が全て元に戻り再度クウネルに向かって襲い掛かる。

 飛び散った骨の欠片が逆再生するように戻る姿はこの世の者では無いと示している様であった。

 「ふんっ! なら、再生出来ない位の骨粉になるまでぶん殴ってやる! さぁ、こいやぁぁぁ!!」

 クウネルはアンデッドワイバーンを迎え討つ。 例え不死でも、身体を砕かれれば時間稼ぎにはなるだろう。

 ◆◇◆

 ◆癒しの族長side◆

 「ギガ! はぁはぁはぁ……! 脇腹が痛い、運動不足が祟ったわね」

 癒しの族長達は大分走ったが、まだ身体の震えが止まらない。 あの場に留まっていたら死んでいたと癒しの族長は自らの腕を抱いた。

 遠くではあの未知の魔物の雄叫びと、凄まじい戦闘音が聞こえる。

 「ギギ……女神様、私達を逃がすために自らが倒せないと判断した魔物と戦うなんて……。 あぁ……私が、私が希少な素材を使いきったりしなければ! 私の、私のせいだ!」

 癒しの族長は走りながら後悔を口にする。 しかし、時は戻せない。

 「ギガガ! あれだけ袋の中には素材があったのに! 私が使い込まなければ女神様がここに来る事も無かったかもしれないのに!」

 自身を責めれば責める程、足下がふらつく。

 「ギバ! 癒しの族長、私がおぶります! 早く背中に!」

 1匹のゴブリン兵士が癒しの族長を背中に乗せ走り出す。

 余程、癒しの族長の足は遅かったのだろう。 先程より、格段に早い速度で移動出来ていた。

 (私は……昔と変わらず本当に足手まといね。 ……よく、将軍や同僚達からも怒られてたっけ。 錬金術と薬術にしか能の無い自分が恨めしい)

 癒しの族長が唇を噛み締めていると、先を走る兵士が叫ぶ。

 「ギバ!? 前方に何か居ます!」

 警告を聞き、急停止したゴブリン達は警戒しながら武器を構えた。

 ボロボロな槍を突き出し、必死に癒しの族長を守ろうとゴブリン達は守りを固める。

 直後、前方の森から森狼が多数出てきた。

 「ギ!? まさか、フォレストウルフ達が助けに?」

 数秒後、癒しの族長の期待は裏切られた。

 「グルルルル……?」 「グルル? グ? グルル」

 「「「「グルル? ガァッ! ガァアアッ!」」」」

 現れた森狼達は目が飛び出し内臓もはみ出ており、到底生きている筈の無い見た目をしていた。

 「ギッ……酷い臭い。 さっきの骨の魔物といい、このフォレストウルフの様な魔物達はいったい何なの!?」

 「ギバ! 族長、お下がりを!」

 (それなりに長く生きる私でも見たことがない。 ましてや、死体が歩くなんて!)

 癒しの族長は悪夢の様な光景に吐き気すら催した。

 癒しの族長達は知らない様子だが、オタクだったクウネルはよく知っていた。 歩く屍、アンデッドだ。

 「ギ、なんて数だ! いったい、何処からこんな数が」

 前方はフォレストウルフのアンデッドの群れで埋め尽くされている。

 (いけない、このままでは女神様も兵士達も助からない)

 癒しの族長は腰に下げた袋をゴソゴソと探り、何かを取り出した。

 「ギギバ、聞いて。 これを飲めば、一定時間走る速度が上がる。 でも、1本しか無い。 誰か1匹がこれを飲んで、街に助けを求めて。 それまで、私達は後退しながら女神様の所にこの魔物達が行かないようにするのよ」

 幸い未知の魔物達は足の欠損も有り、歩く速度はそんなに早くない様子だ。 足の速度が上がった兵士なら群れを大回りしてから街に向かえば、直ぐに助けを呼べるだろう。

 「ギバ! 分かりました、俺が行きます。 お前達は族長と女神様を頼む!」
 
 「「「ギバ!」」」

 クウネルに率先して喋りかけていた兵士が薬を受け取り、一気に飲み干した。

 「ギギバ、早く行って! 薬の効果はそんなに長くは保たないわ」

 癒しの族長達は、街に向かう兵士とは反対の方角へと向かう。

 生きている生き物の数で反応しているのか、魔物の群れはゆっくりとした足どりで癒しの族長達に向かって進み始める。

 そして、その隙に薬を飲んだ兵士が走り出した。

 歩く屍達の横をすり抜けて、見えなくなったゴブリン兵士の無事を祈る。

 (上手くいったのかしら? 頼んだわよ……)

 癒しの族長達の死の鬼ごっこが始まった。

 ◆◇◆

 ◆クウネルside◆

 「あーくそ! 本当に殴っても殴っても再生しやがるやん! 鑑定さん、何か良い手は無い!?」

 «――検索。 ――申し訳ありません、システムに検知せず。 アンデッドは、本来のシステムから外れている存在です»

 「またピンチな時に気になる事言うねぇー! 今はいい、また今度教えて! その本来のシステムとやらを!」

 クウネルは武器も無く、ひたすら素手でアンデッドワイバーンを殴り続けていた。

 「クルルル……ガァァアアッ!!」

 再生したアンデッドワイバーンの口から、またもや漆黒の煙が吐き出された。

 「ぶへ?! けほっ! また即死の瘴気か! 私は効かないけど、ゴブリン達が逃げた方角に流れないようにしないと……どうする? どうする?! そうだ、壁を作れば良いんだ! ナイスアイディアァァ! 土魔法発動! 伸びろ壁!」

 クウネルとアンデッドワイバーンを囲むように高い石の壁が盛り上がり、口から吐き出される漆黒の煙を閉じ込めた。

 「よっしゃ! 第2ラウンドじゃあぁぁぁ!」
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