真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

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第158話 暴食の母

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 何やら怒っていた少女は音に気付き振り返り、クウネルと完全に目が合ってしまった。

 既に言い逃れも隠れる事も出来ない状況に陥ったクウネルは、苦笑いを浮かべながら挨拶する。

 「あっはーん、速効で見つかりましたやん。 えっと……お帰りなさい? お母さん? っていうか、お母さん滅茶苦茶可愛いな! 本当に邪神なの?」

 見た目はクウネルの姿に何処と無く似ており、身長もそんなに変わらない。 並んだら姉妹だと言われても違和感が無い程に似ていた。

 「うーん、本当に実のお母さん説が無きにしもあらずやね」

 固まっていた少女がようやく再起動し、涙を浮かべながらクウネルに飛び付く。

 「あ、あ、あ、クウちゃぁぁぁぁぁんっ!!」

 「ぎゃあぁぁぁぁ、抱きつかないでー! 犯罪! 犯罪の匂いがするから! 世間体に悪いから! 今年で19歳だからー! いや、でも本当の親子ならいいのか……?」

 胸の中で泣きじゃくる少女の背中を擦りながら、クウネルは混乱するのであった。

 ◆◇◆
 
 ――って感じで、起きたら部屋だった。 あむあむ ミチミチ ブチッ!」

 クウネルは少女に薦められ、テーブルに乗っていた大量の干し肉を食べながら事情を話していた。

 テーブルには椅子が3つ並び、その内の1つにクウネルは座っている。

 「ほむ~、はるむまぁんへむふふむね」

 テーブルの向かい側の椅子に座り事情を聞いていた少女は、美味しそうに干し肉を口いっぱいに頬張り何を言ってるのかさっぱり分からない

 「む~、むめなぐめうへっぬなぬ!」  

 少女の行儀が悪いのを注意しようとクウネルは思ったが、残念ながらクウネルの口の中もいっぱいだ。

 不味いアンデッドワイバーンの骨を食べたせいか、クウネルの異様な空腹は止まらない。 ひたすらに干し肉を噛み千切る。

 「ぷはー! 美味しぃ~! それで、クウちゃんの中に黒い靄が出てるのね。 もー、無茶したわね。 もし、あの娘が無理矢理代わらなかったら死んでたわよ~?」

 少女は口を拭いながらクウネルを叱った。 クウネルは自分がそんなに危険な状態だったと聞き目を見開く。

 「ごくん! えー、そんなにヤバい状態だったの? 今は元気いっぱい何ですけど? その黒い靄とやらも見えないし……う~ん、よく分からん」

 首を傾げるクウネルに、少女は優しく微笑みかける。

 「もうそんなの食べたらダメよ? でも、大丈夫。 少し時間は掛かるけどお母さんが綺麗に食べとくから。 終わるまでゆっくりして行って♪」

 自身の事をお母さんと名乗るという事は、やはりこの少女が暴食の邪神という事なのだろう。

 クウネルはまだ少し警戒しながらも、言葉を慎重に選ぶ。

 「……うん。 えっと、ありがとう……お母さん」

 何故なら、目の前の暴食の邪神が本当に母親なのか味方なのかすら分からないのだ。 

 だが、それでも少女を母と呼ぶのに抵抗が無かった事にクウネルは若干の違和感を感じていた。
 
 「う、うう、ううう、きゃわぃぃぃぃぃ!! 生クウちゃん、きゃわぃぃぃぃぃ!!」

 しかし、そんな違和感の正体を考える暇も無く満面の笑顔の暴食の邪神がクウネルを抱きしめ、頭をワシャワシャと撫で回し始める。

 「ちょっ! 止めて! 止めてくださーい! 止めてえぇぇぇぇ!?」

 警戒していたのが馬鹿らしい程に溺愛され、クウネルは少し照れながら身を捩った。

 ◆◇◆

 クウネルは暴食の邪神との話を終え、居間の見馴れないソファで寛いでいた。

 暴食の邪神は台所で何やら片付けをしている。

 クウネルは干し肉を山程食べたばかりだが、既に腹の虫がなっており夕食を待ちわびていた。

 「っっっっしゃ!!  久し振りの天丼! て! ん! ど! ん!!」

 暴食の邪神から夕食は、向こうの世界だったら絶対食べれない天丼だと聞きクウネルは様々な疑念を全て放り捨てて大人しく待っている。

 「……しかし暇だ。 馬鹿でかいテレビでも付けるか~。 お母さーん、テレビ付けてもいいー?」

 居間には巨大なテレビが設置されており、クウネルはリモコンを手に取った。

 「んー? いいわよー? あの娘視点だけど、向こうの様子見れるわよ~♪」

 暴食の邪神はクウネルに直接会えたのが本当に嬉しいらしく、上機嫌の返事が返ってきた。

 「あはは、お母さんえらく上機嫌だね。 そんなに私に会えたのが嬉しいか、やれやれ照れちゃうね! ……って、さっきなんて言った!? 電源電源!」

 テレビに映し出されたのは、何故かあの場に居なかった筈のキュウベイだった。

 癒しの族長が何やら止めに入るも、キュウベイはおもむろに腕をアンデッドっぽい森狼に差し出し、そして噛まれた。

 「はぁ?! 何やってんのキュウベイ!!」

 『グルル? ガァッ! ガギン!』

 『あぐっ!! 族長! 早く確認を!!』

 テレビに映し出されるのは赤髪のクウネルが見て聴いてる物だけの様だ。 クウネルには、何故あの場にキュウベイが居たのか何故態と噛まれたのかすら分からない。

 「なんでキュウベイが!? 何があったの! ちょっと、赤髪の私! 何とかしろぉぉぉぉ!」

 テレビの目の前で叫ぶが、此方の声は届かない。

 『キュウベイ!? なに考えてんのよ! 馬鹿馬鹿馬鹿! そんなことしたら、キュウベイも死んじゃうじゃんか!』

 テレビのスピーカーからクウネルの声が聞こえる。

 「この声は……私? 違う、赤髪の心の声だ。 っていうか、何で私の弟分にちょっと懐いてんの?! 何してたの?! おぃぃぃぃ! 」

 『ギガ! 女神様は動かないで下さい! す、直ぐに確認するから動かないで……本当に無茶苦茶ね。 私が何とか出来なかったら、貴方も女神様も死ぬのよ?』

 テレビに癒しの族長が映り、クウネルはテレビに齧り付くように至近距離で叫ぶ。

 「 癒しの族長さん! お願い、キュウベイを助けて! 早く!!」

 『うぐぐぐ……もし、姉御を守れないなら、俺の命なんか要りません』

 キュウベイの言葉に、クウネルはキレた。

 「ちょっ、キュウベイ、てめこの野郎! 私より先に死ぬなって約束したでしょうがあぁぁぁ!」

 ガッタンガッタンガッタンと居間に異音が響き、何事かと暴食の邪神が見に来るとクウネルがテレビに掴み掛かり揺らしていた。

 「ちょ!? クウちゃん、どうしたの?! 待って待って、落ち着いてー!」

 「落ち着いてられるかぁぁぁ! 私の身内がピンチなんだよぉぉぉぉぉ!」
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