真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

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第202話 憤怒のネル

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 「「「「「「「「シャルル……」」」」」」」」

 八つの頭がゆっくりとモロ達の方へと近付き、モロは後退りをしながら唸る。

 「ガルル……キュウベイ、どうする?」

 「正直、この暗い空間では勝ち目は無いですね。 どちらかが囮となり、雛達を連れて脱出すべきかと」  

 「ワフ、その通りだよキュウベイ。 よし、君は手が塞がっているだろう? だから、私が囮となろう。 隙を見て彼処の出入り口に走ってくれ」 

 モロは八つ首のポイズンスネークが様子見をしている間に、キュウベイを下ろし2足型へと変身した。

 「ですが……それだとモロ殿が」

 「ガウッ、はは! 大丈夫だよ。 私はこう見えて、強いから」

 モロは暗闇の中を飛び上がり、鋭い爪で八つ首のポイズンスネークに斬り掛かった。

 「「「「「「「「シャルル?!」」」」」」」」

 獲物が突如として襲い掛かってきた事に驚いたのか、身動ぎをした隙をキュウベイは見逃さずに走り出す。

 「モロ殿、直ぐにネルの姉御に報告しやすから! お願いしやす!」

 雛達を落とさないように抱きしめながら走っていると、松明の明かりが上から降ってくる影を照らした。

 「アォーーン! やらせないよ! ウインドカッター!」

 キュウベイ達を押し潰そうと持ち上げられた尻尾をモロの風魔法が斬りつけ壁へと押し付ける。   

 「ガウッ! キュウベイ今だ、行くんだー!」

 今度こそキュウベイは空間の出入り口に辿り着き、後ろを振り返る事無く洞窟を走った。   

 「モロ殿……どうかご無事で!」

 ◆◇◆ 

 「姉御ーー! ネルの姉御ーー!」

 キュウベイは洞穴まで無事に到着し、急いで階段を駆け上がる。 出入り口の近くには座って待っているネルの姿があった。

 「キュウベイ! 良かった、大きい反応がキュウベイとモロに近付いてたか……ら。 あれ? モロは?」

 キュウベイはネルと合流し、八咫烏の雛達を下ろす。

 「はぁはぁはぁ……モロ殿は、俺や八咫烏の雛達が逃げる為に囮になりやした! 今も、八つ首の巨大なポイズンスネークと真っ暗な洞窟の空間で戦ってる筈でさぁ!」

 「何ですって!?」

 ネルはハルバードを手に持ち、立ち上がる。

 八咫烏の雛達は突如として目の前で立ち上がったネルに怯え逃げ惑うが、今はそれどころでは無い。

 (鑑定! どういう事?! 私の気配察知では、残ってるのは大きい気配だけなんだけど! も、もしかして……もう)

 «――推測。 モロの気配が大きな気配に飲み込まれ察知出来ないと推測。 ネル、まだ諦めてはいけません»

 (でも、どうすれば良いのよ! 私は洞穴に入れない、モロを助けに行けないよ)

 «――進言。 ネル、洞穴に居るのはモロと八つ首のポイズンスネークのみです。 少しの衝撃や余波で死ぬ雛達は居ません。 ならば、近くまで土魔法を使用し開通させる事を推奨»

 「そっか! よし、キュウベイ! 雛達を安全な場所に避難させたら下りてきて」

 「へ、へい! ですが、ネルの姉御は洞穴に入れないんじゃ……」

 「大丈夫。 私に考えがあるから」

 ◆◇◆

 「着いた!! おっと、キュウベイが下りれるように階段作っとかないと……」

 ネルは洞穴を土魔法で凄まじく広くし、底に飛び降りた。

 「それと、モロが居る場所まで開通! おりゃー!」

 土魔法でガリガリと洞窟を削り、激しい振動が大地を揺らす。

 「モロー! 今行くからねー!」

 「ネルの姉御! お待たせしやした!」

 すると、キュウベイが肩に降り立ち弓を構える。

 「雛達は案内の八咫烏に預けたので安心です! 早くモロ殿を助けに向かいやしょう!」

 「ありがとうキュウベイ! よーし! 後少しだー!」

 岩が崩れ、土が抉れ、ネルが立てるほどの巨大な洞窟が掘られていく。

 そして、遂に広い空間が見えた。

 その空間はネルの腰までの高さしか無く、ネルは屈んで手を突っ込む。

 「モローー! って、何よコレ!」

 出入り口は紫の斑模様が入ったポイズンスネークの胴体が塞いでおり、ネルは力任せに引っ張った。 だが、力が強く引き出せない。

 「この気持ち悪い毒蛇め! もし、私の大切な友達を食べてたりしたらぶち殺すからね!」

 「姉御、矢で穿ちやしょうか?!」

 「待って、もしモロに当たったらいけないから。 おりゃぁぁぁぁぁ!!」

 抵抗するポイズンスネークの胴体にハルバードの斧側を引っ掛け、全力で引っこ抜いた。

 「「「「「「「「シャルル?!」」」」」」」」

 引っこ抜かれた八つ首のポイズンスネークは全身が傷だらけになっており、モロと激しく戦っていた事が窺える。

 「にぎゃぁぁぁぁぁ?! 何でこのポイズンスネーク首が8本もあるのよ! 気持ち悪過ぎでしょー!」

 ニュルニュルとハルバードに纏わりつく八つ首のポイズンスネークをネルは拡張した洞穴の壁に思いっきり叩き付けた。

 「うわぁ……何かベタベタしてる。 あ、それより! モロー! 無事ー?!」

 ネルはモロを呼ぶが、空間からはモロの気配も声もしなかった。

 「モロ殿……? そんな、まさか」

 空間を松明で照らして探したキュウベイは、最悪の事態が起きたことを察しネルを見上げる。

 「モロ……? モロが、食べ、られ……た? 嘘……だよね? 嘘、嘘だ。 私の、私のせいだ、私がまた失敗した。 守れなかった、私のせいだ私のせいだ私のせいだ」

 «――ネル! 落ち着いて下さい! まだ腹の中で生きている可能性だって残っています。 怒りに呑まれてはいけません!»

 「私のせいだ、私の……私から、私から奪う奴は殺す。 殺さなきゃ! 殺さないと守れない! 殺す、殺す!」

 「姉御! ネルの姉御!! 落ち着いて下さい!」

 ネルの赤髪が燃えるように光り、揺らめく。

 「「「「「「「「シャルル……」」」」」」」」

 八つ首のポイズンスネークは自身よりも大きなネルを警戒しているが、何やら動きづらそうにしており逃げ出す気配は無かった。

 「許さない、絶対に殺してやる!」

 すると、ネルの両手が突如として真っ赤な炎に包まれた。

 「大切なハルバードをお前なんかの血で汚してたまるか! この拳で死ぬまで苦痛を与えてやるから覚悟しろぉぉぉ!」

 ネルには鑑定の声もキュウベイの声も届かない。

 そして、燃える拳を握り締め八つ首のポイズンスネークに殴り掛かった。
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