真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

文字の大きさ
231 / 247

第225話 水竜王神からの誘い

しおりを挟む
 「ぎゃー! ちょっといい加減にしなさいよ!」

 ネルは大集落跡地が見える浜辺まで水竜達に運ばれ、ようやく解放された。

 「ぺっぺっぺっ! うわぁ……ヌルヌルだ。 もう、本当に最悪!!」

 «――警戒。 水竜達が海に戻って行きました。 ネル、恐らくですが水竜達を操る何かが居ます»

 (はぁ? 何よ、何かって。 でも、気配察知には同じ様な気配しか無いわよ?)

 «――不明。 とりあえず、近くの木片に火炎で焚き火を作り身体の粘液を落としましょう。 このままでは逃げる事も出来ません»

 ネルは海を警戒しながら身体を捩る。 そして、粘液の道を這って抜け出し近くの木片を集めて火をつけた。

 「おー……凄いわね。 このヌルヌル、熱に弱いって事なのか。 火の側に居るだけで粘液がどんどん落ちてく」

 ネルは更に木片を焚べて、巨大な焚き火にする。

 「よし、これなら水竜が来ようと大丈夫でしょ!」

 ハルバードも焚き火で炙り、粘液を落とし振るう。 全身の粘液も落とし、立ち上がった直後頭の中に鑑定の警告が響いた。

 «――警告! 海側の空に空間の歪みを検知!! 何か空から見ています!!»

 ネルはハルバードを構え、空を見上げるが何も見えない。

 「え!? 何も居ないわよ?! 気配察知にも……水竜しか居ない」

 «――スキルです! 何かを空に投げて下さい!»

 「そうか、姿を隠してるのね! 姿を見せなさい、覗き魔!」

 ネルは巨大な焚き火から燃える大きな木片を手に取り、空に向かって投げた。

 すると、燃える木片は空中で消え去り直後に空間が揺らぐ。

 「カッカッカ! 我を見つけるか、面白き面白き。 本当に不思議な雌だ。 それに、我等が嫌う火を知っていた。 粘液を迷うこと無く落とした。 良きかな、良きかな」

 「っ?! で、デカ過ぎでしょ……何よ、コイツ」

 ネルの見上げる空には超巨大な水竜の顔があった。 ネルの身体よりも巨大なその顔は長く太い首を果てし無く遠い海の上から伸びている。

 «――危険! ネル、絶対に鑑定を使用しないで下さい! 今の貴女が使えば最悪脳が焼き切れます!»

 不吉な鑑定からの警告にネルは寸前の所でスキル鑑定を使うのを踏み止まり、ギリギリのタイミングに顔を顰める。

 (危ないわね……後少しで使ってたわよ。 それで……鑑定。 コイツ何なの?)

 «――推測。 恐らくですが、以前にクウが戦った地竜王神と同じ存在でしょう。 強さは明らかに此方の方が上ですが»

 (ちっ……最悪じゃない。 火炎で逃げれると思う?)

 «――不可能。 計算しましたが、逃げ切れる確率は0%です»

 ネルは既に絶望的な状況になっているのだと悟るが、死ぬつもりは全くなく寧ろ現れた超巨大な水竜に中指を立てた。

 「ねぇ! 私に何の用なのよ!! 気持ち悪い蛇顔!」

 明らかな挑発を聞いた超巨大な水竜は何が可笑しいと笑い始める。

 「カーーカッカッカッカッ! 面白き面白き、やはり食うのは勿体無い。 お主、我等の仲間にならぬか?」

 「はぁ? そもそも、アンタが誰かも知らないのに仲間になれって? 残念だけど、知らない奴の仲間になるなって偉大な祖父からの教えなの」

 «――注意。 ネル、あまり挑発しないで下さい»

 「ふむ……確かにな。 成る程、成る程……賢き賢き。 ならば教えよう。 我は水竜王神なり、この辺境の地以外の海を統べし神だ。 お主の事は地竜王神の小僧から聞いている。 何やら面白き反撃をしたのだろう? カッカッカッカッ、良きかな良きかな」

 水竜王神はネルの挑発に乗ることはなく、寧ろ情報を聞き出そうとするネルの態度を気に入ったようだ。

 «ーー水竜王神。 やはり……ネル、注意を。 地竜王神は凄まじい強さでした。 ソレを小僧呼ばわり……恐らく地竜王神よりも上位の存在でしょう»

 (あー……アイツがゴブリン達を逃がす為に戦った意味分かんない強さのアレね。 アレより強いって……何の冗談なのよ。 まぁ、どのみち敵なのは変わらないわね)

 救いなのはまだ水竜王神から敵意が向けられていない事だろう。 もし戦闘になればネルの命は消え去る事になる。

 「それで? 仲間になるつもりも無いし、お前達はトロール達の仇。 だから、私は少なくとも水竜達を狩るけど……お前はどうするのよ」

 絶望的な状況にあっても、ネルの態度は変わらない。 寧ろ怒りが沸いてきている。 マグマの様なドロドロとした怒りがネルの心を燃やしていた。

 「カッカッカッカッ! トロールの味方をするか。 あの! 面白き面白き、ならば……今は仲間に誘うのは諦めようぞ。 それに、我もお主を気に入った。 眷属達を下がらせ、トロール達を襲わんと誓おう」

 何やら意味深な発言をする水竜王神は、本当にネルが気に入ったのか巨大な瞳が笑う。

 「ふん! ならさっさと帰りなさいよ! そして、二度と来ないで! トロール達にも手出しはしないで! さもないと、偉大な巨人トールの孫にして戦士であるこの私がその馬鹿でかい首を叩き斬るわよ!」

 ネルは怒りながらハルバードを水竜王神へと向け、怒りには身を任せて啖呵を切った。

 すると、笑っていた水竜王神の目が突如として見開き唸り始める。

 「シャガルルルル………今、巨人と言ったか? まさか、お主……巨神の眷属では無いだろうな? カッカッカッカッ! そうか、生き残っていたのか! この辺境の地で! カッカッカッカッ!! これは驚嘆、驚嘆」

 「はぁ? あんた、巨神様を知ってるの? 私は別に巨神様の眷属とかじゃないけど、誇り高き戦士である巨人よ!」

 水竜王神はひとしきり笑い、残念そうにため息を吐いた。

 「ハァ~……残念だ。 本当に残念だ。 お主を……殺さねばならん。 巨神は我の父を、先代の水竜王神を殺した憎き仇よ。 まぁ……奴の腕は我が噛み千切ってやったがな!」

 «ーー殺気! ネル、注意を!»

 「ちょっ?! きゃぁっ!」

 直後に凄まじい殺気がネルに叩き付けられ、吹き飛ばされる。

 「我が手を出せば、折角の食べ応えのある獲物が台無しになるな。 行け、我が眷属達よ! あの巨人を我の前まで連れて来い! 賢き雌……いや、巨人よ。 我の領域で待っているぞ……カッカッカッカッ!」

 水竜王神は笑いながら遠い海の中へと帰って行き、直ぐに海面がうねり始めた。

 «ーー警告! ネル、来ます! 早く逃走を!»

 「ふ~ん……そっか、巨神様をあんな姿にしたのってアイツなのか。 うんうん、理由とかどうでもいい。 お祖父ちゃんが信仰する大切な巨神様に酷い事したの絶対に後悔させてやる! 来なさい! この気持ち悪い海蛇共!!」

 鑑定が警告するも、既にネルは怒りに呑まれ冷静な判断が出来る状態では無い。

 燃えるように赤髪が揺れ、目が爛々と赤く光りハルバードを持つ手がチリチリと微かに燃え始めるのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...