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第5話 粛清の始まり

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 「女王陛下……今、なんと?」

 マリの発言に、1人の女貴族が聞き返す。

 (顔こっわ!! お酒の力に頼って無かったら泣いてるよ! 帰ろうかな……いやいや! 引いたらダメ! ルーたんの為に、ここは譲れない!)

 冷静な見た目とは裏腹に、マリの心中はグラグラだった。

 「んー? ひくっ、先に言っとくと此処に居ない女貴族は全員粛清するから。出ていった人達も一緒ね~」

 「なっ!? 何故そのような事を! 今まで、王国を王家を支えてきましたのに!」

 「「そうです! あんまりです!」」

 「亜人奴隷は大切な労働力、それを手放すなど正気では無いわ!」

 憤慨し始めた女貴族が出始めたが、マリの想定通りだ。

 (うわ~、前世のブラック企業も真っ青な言い分ね。 それに、もう調べはついてるんだよね~……他国と繋がってる貴族も、主人公が居る帝国に奴隷を横流ししてるのも)

 コン、コン、コン、コン

 面の皮が分厚い貴族達を相手に、マリのストレスはボルテージMAXだ。

 暫くして、発言を撤回しないマリを睨みながら会議室を出ていく女貴族達を円卓を叩きながら見送るマリ。

 残ったのは4人。

 予想よりも多く、結果は上々だ。

 「ひくっ、メリーさん。 さっき出ていった者達も粛清の対象に追加して。 身分、財産、領地、全部没収して。 もし……その時に謀反の証拠や汚職の証拠が出てきたら処刑して」

 「かしこまりました」

 メイド長メリーは、1ミリも表情を変えず羊皮紙のリストに記載を始めた。

 その冷酷な光景を見て、残った貴族達は戦々恐々とした。

 自分達の知っていたマリ王女は、前女王に甘やかされ我が儘なだけの小娘だった。

 信念を持ち、冷酷な改革に乗り出すとは此処に残った貴族も、出ていった貴族も、陳情してきた貴族達も予想していなかった。

 (ふ~……えーと、うん。 メリーさんから聞いてた、良心的な貴族しか残って無いね。 OK! 完璧じゃない?)

 「あ~、待たせてごめんね。 ひくっ、改めて、数日前に女王となったマリです。 文句を言わず、この場に集まり、話を聞こうとしてくれた皆さんを私は信用します。ひくっ、 では、順番に自己紹介といきましょう」

 顔を紅く染めた女王陛下は、先程とはガラリと変わり満面の笑顔で貴族達に接する。

 どうか、裏切らないでと願いながら。

 ◆◇◆

 「わ、私から紹介させて頂きます、ダルナ フォル リアンと申します。 爵位は侯爵です」

 最初に立ち上がり、自己紹介を始めたのは残った貴族で1番爵位が上のリアンだ。

 信頼のおける者にしか任せられない王都近くの領地を治め、現時点では最大の領地を経営している知恵者だ。
 
 年は40半ばで、褪せた金髪の貴族だ。

 (うん、1番優しそうだね。リアンさん……仲良く出来ると良いなぁ)

 「私は……ガルーダ フォル ルニアだ。 伯爵として、亜人側の領域に接する領地を治め防衛しています」

 2人目は、エントン王国最大の戦力とされる辺境伯爵ルニアだ。

 真っ赤な赤髪を揺らし、戦場で暴れる姿から赤い死神と呼ばれている。

 年はリアンと同じで40半ばだろう。

 他の貴族は、無駄に豪華な衣服なのにルニアは鎧姿なのが非常に目立っていた。

 (うぉ……気合いめちゃくちゃ入ってる。しかも、最初ちょっとタメ口だったよね?  最後無理矢理敬語にしたよね?!)

 「うちは、子爵のカン フォル メルいうます。 よろしゅうね、マリ女王陛下」

 3人目は、商業地区を治める凄腕商人だ。 現在の、エントン王国の経済を裏で支えている。

 紫の髪に、耳やら鼻にピアスを付けていてかなり派手だ。 年は1番若く、20代後半だろう。

 (メリーさんに、信用できるけど扱い注意って言われたの忘れないようにしなきゃ)

 「……子爵のイサミ。 ねぇ、陛下。 この場に子爵以下の女爵達が呼ばれてないのはなぜ? 彼女達も、一応貴族よ?」

 自己紹介の時点で、色々と喧嘩越しの4人目は子爵のアント フォル イサミだ。 王都の女爵達のトップでも有り、下の彼女達の意見を王家に伝える役目を持つ。

 珍しい黒髪をしており、喧嘩越しのイサミに対してマリの好感度は初対面で既にカンストしていた。

 年は30頃だ。

 (ふわわ~黒髪だよー! 前世の日本人を思わせる顔立ち! ファンタジーの世界にも、日本人っぽい娘を出したがる乙姫先生の趣味満載のイサミだよー!)
 
 「うんうん、皆よろしくね。 で、さっきイサミが言ってくれたけど。 女爵達は、今後皆の下で働いてもらうから。 王都で給金だけ貰って贅沢してる貴族は要らないの。 必要なのは民の為、王国の為に働いてくれる貴族だから」

 「ふむ。 つまり今後は、戦が有れば下に付く女爵達を戦場に駆り出せるということか」

 鎧を着たルニアが、顎に手を当て獰猛な笑みを浮かべる。

 (うん、そうなんだけど……怖いよ~ん)

 「武道派の女爵をメリーさんに選ばせてある。 メリーさん名簿を渡して」

 メリーが各女爵達の配属先が書かれた羊皮紙を配る。

 それを見て、4人は眼を見開いた。

 「待って待って、つまり……女爵以外の貴族がうちらだけって事は……領地の配分どないしますの?」

 「メルは鋭いね。今後は仕事の働きの具合で領地を追加で配分します。 ルニアには戦力の増強を、メルには経済の強化をお願い。 イサミには、農業の知識が有ると聞きました。 今後は大規模の農業改革をします。 その筆頭として働いてもらうので、そのつもりで」

 「「「はっ!」」」

 「そして、リアン。 貴女が1番の大役よ。 侯爵として恥じない働きを願います」

 「は……はい! お、お任せを」

 「これにて、会議はお終い! ジャック、粛清対象の結果は随時教えてね。 あ! ごめんなさい忘れてた! 皆、息子はいる?? 出来れば、年は下の」

 4人全員が手を上げたのを見て、マリは大喜びした。

 「やった! これは、私の我が儘になるんだけど……弟のルーデウスと仲良くして欲しい。 国の未来を任せれるぐらいに! よろしくねー!」

 最初の印象とは真反対の、眩しい笑顔でマリは会議室を去っていった。

 残された4人は、突然与えられた重責に心を踊らせたり、笑ったり、落ち込んだり、感謝したりと様々だ。
 
 誰がどんな反応をしているか、執事のジャックだけは最後まで冷たい目で観察していた。
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