《瞑想小説 狩人》

交差

色服男とガラス瓶

：：：：：：：：：：：：：：：：：：

暴走する月見草は破廉恥を画策しており
朗々たる卯月の下弦と上弦に張られた
鋼鉄弦は緊張感と達成感で轢断されたまま
中空を彷徨いながら上手な誰かを待っていた
其の末端と末端を繋げて結節を作成するのも
両末端を引き伸ばし再度展張するのも
魔所作であり知恵の行為であり老獪の技

片側に機械仕掛けの張力計があり
逆端には滑車が複数個／見えるだらう
一の力を参にし倍にし／更に乗じ
其の弦が再度張力を取り戻そうとしている

雲間に追い詰められて見えぬ
早々に消えてしまったものをもう一度…
決して解けぬパズルと緊縛の宴を
知恵の輪と数字の美学に和解を
其の指と指を繋げ決して解けぬよう

『ではそろそろ』
毒蜘蛛が消氣した娘に跨りながら言う

『ではそろそろ』
淫靡な球体から滴る液体を笑い紳士は言う

『そうですな／次へと』
松ぼっくりの振動数を逆延長する男が言う

『では起こすとしましょうや』
…ピエロを模した服を着用した男が袖から現れる
　卯月は彼のものであり年度の支配者であり
　本奴隷市場で彼は注目の的たる存在であった
　所謂／階級で言えば准将と少将の丁度中間くらい
　其の彼は数人の従者を従え鉄製の実験容器に
　陰気を煮詰めてボコボコと沸騰させた
　ありとあらゆる陰具と淫具を携帯している

毒蜘蛛は彼の事を知っているようであった
互いの所作を良くゝ見ると／右といへば右
左といへば左／上方といへば上方
下方といへば下方にWinWinの関係を築いている

毒蜘蛛は彼女から唇を離し／其の可憐な頬を見る
嗚呼／其の寝息の美しさに危うく見惚れるところ
股座の振動球体を操る紳士にしてもそう
出番はまだかと睨みを効かせてみるものの
次の主役は此のピエロ様なのだと閲覧者全員が
納得し確信し改心し回診と会心の妙技を待っていた

シリンダーの中に詰められる液体の色は有色で
市場の『入口』よりも仄暗い／そんな色
シリンダーは大層な容量を担保しており
議事録に残らぬ忖度の内容を全掌握している
ピエロの従者が其の淫靡なシリンダーを満たすのと
毒蜘蛛が新たな体位で彼女を縛るのは同時だった

滑らかに滑（すべ）るやうな液体ではなく
随分と粘り気があるものと遠目でも解る
市場の王は其の内容物の正体を知っているし
どのやうに使うのかも全部お見通しであるが故
『こく』『こく』『こく』ジントニックを飲みつつ
『こく』『こく』『こく』三度深く頷いた
液体の色は黄土色／禁色／許し色の混合色
更に人間といふ種に畏怖を植え付ける根本色

『………』彼は従者を促し右手に注射器のやうな
『………』ガラス製のシリンダーを持ち笑う
『………』毒蜘蛛は彼女の緊縛を背面位にし
『………』肩甲骨から腰椎末端までを舐めてみる
『………』彼女の反応がない事を確認すると
『………』色服男はガラスを右手で持ち構える
『………』其の突端であり先端は娘を包囲し
『………』後ろ蕾に冷たい気配がするぞ
『………』先ずは粘り気を／と気づいた従者が
『………』其の切っ先と頂きに蜂蜜を塗る
『………』蜂蜜はマヌカハニーよりも上等で
『………』板藍根よりも心地よいかほり
『………』蜂蜜は滑らかさを其処に付し
『………』杜仲茶よりも綺麗に蕾を開かせる
『……！』娘の内部／直腸の入口は狭く
『……！』ガラスシリンダーの突端を迎えるには
『……！』経験も浅く反抗期の霧よりも無知だった
『……！』ゆへに単位はセンチメートルで十分で
『……！』其処に色服男が狙いを定めることに対し
『……！』助け舟はなく／助け人はないのである

：：：：：：：：：：：：：：：：：：：：：：