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第10話
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昼を少し回った頃に、レイはバイトに行くと言って出かけていった。
タブレットの使い方を教えてほしいと言ったものの、基本操作を教わったあとは身の回りのことを質問していた。買い物はどうしたらいいのかと訊いたときも驚いた。
この世界では現金がなかった。すべて電子通貨で、決済は携帯で行う。財布口座というシステムがあって、メイン口座、サブ口座など支払いする口座を切り替えることができるようになっていた。サキのいた世界も将来的にはそうなるのかもしれないと思った。
レイが出かけたあとは、携帯の充電をするため自室に戻っていた。早く使い方を覚えたくて夢中になって触っていた。
どれくらい熱中していたのだろうか。
不意に疲れを感じ、画面から目を離すと、窓の外は暗くなっていた。
肩と首を回しながらタブレットの時刻を見ると、午後七時を過ぎている。レイは九時頃帰ってくると言っていた。
夕飯でも作るか、と立ち上がったとき、突如電子音が鳴り響いた。
びっくりして音の方に目を向けると、受電器の上で携帯が鳴っている。手に取ると、『ソフィア』という文字が出ていた。
どうしよう、とためらいつつも、とりあえず通話マークを押してみる。
「もしもし?」
おそるおそる出てみると、
『泉! なにやってんだ! 今日、早番だぞ!!』
いきなり怒鳴られた。
あまりに大きな男の声で、思わず耳から携帯を離す。それから男の言葉を反芻した。
(早番……バイトか?!)
『おい、聞いてんのか!!』
サキは思いがけない事態におろおろした。
「す、すみません、あの、おれ……」
記憶喪失で、と続けようとしたが、
『さっさと来い!!』
男の怒声に掻き消された。そして通話は切れてしまった。相手の男はかなり怒っている。
サキは携帯画面を見ながら、しまったな、と思った。
元の魂の日常というものを失念していた。予定くらいあって当然だ。
どうしようか迷ったが、とりあえず行ってみて事情を説明するしかない。
サキは着信画面を開き、〈ソフィア〉の文字を触った。電話番号や住所といった、詳細が出てくる。
ソフィアは店の名前だった。アクセスのマークを押すと、ここから二駅先にある店だということがわかった。
サキは部屋の鍵と携帯だけを持ってマンションを出た。
タブレットの使い方を教えてほしいと言ったものの、基本操作を教わったあとは身の回りのことを質問していた。買い物はどうしたらいいのかと訊いたときも驚いた。
この世界では現金がなかった。すべて電子通貨で、決済は携帯で行う。財布口座というシステムがあって、メイン口座、サブ口座など支払いする口座を切り替えることができるようになっていた。サキのいた世界も将来的にはそうなるのかもしれないと思った。
レイが出かけたあとは、携帯の充電をするため自室に戻っていた。早く使い方を覚えたくて夢中になって触っていた。
どれくらい熱中していたのだろうか。
不意に疲れを感じ、画面から目を離すと、窓の外は暗くなっていた。
肩と首を回しながらタブレットの時刻を見ると、午後七時を過ぎている。レイは九時頃帰ってくると言っていた。
夕飯でも作るか、と立ち上がったとき、突如電子音が鳴り響いた。
びっくりして音の方に目を向けると、受電器の上で携帯が鳴っている。手に取ると、『ソフィア』という文字が出ていた。
どうしよう、とためらいつつも、とりあえず通話マークを押してみる。
「もしもし?」
おそるおそる出てみると、
『泉! なにやってんだ! 今日、早番だぞ!!』
いきなり怒鳴られた。
あまりに大きな男の声で、思わず耳から携帯を離す。それから男の言葉を反芻した。
(早番……バイトか?!)
『おい、聞いてんのか!!』
サキは思いがけない事態におろおろした。
「す、すみません、あの、おれ……」
記憶喪失で、と続けようとしたが、
『さっさと来い!!』
男の怒声に掻き消された。そして通話は切れてしまった。相手の男はかなり怒っている。
サキは携帯画面を見ながら、しまったな、と思った。
元の魂の日常というものを失念していた。予定くらいあって当然だ。
どうしようか迷ったが、とりあえず行ってみて事情を説明するしかない。
サキは着信画面を開き、〈ソフィア〉の文字を触った。電話番号や住所といった、詳細が出てくる。
ソフィアは店の名前だった。アクセスのマークを押すと、ここから二駅先にある店だということがわかった。
サキは部屋の鍵と携帯だけを持ってマンションを出た。
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