【本編完結】混血才女と春売る女

本編

閑話 王子様の薬指

「うそ！？グユイ、フォールスくんに会ったの！？」
「ええ。仕事で魔王城に来ていたらしいわ」
「いいなあ……パイラも会いたかったなあ……はあ……残念」
「パイラ、王子様の事まだ忘れられてないの？」
「当たり前！あんなに綺麗な男の子、忘れられるわけないじゃない。あーあ、フォールスくんが魔王城やめないでくれたら、パイラにだってチャンスあったのにい……」
「……ねえパイラ。彼の事、もう諦めたほうがいいと思うわ」
「え、なんで！？」
「彼、右手の薬指にね、指輪をしていたのよ」
「う……うそでしょ！？やだ！！そんなの信じたくないい！！！」
「さすがに領主ともなれば結婚の話が出ててもおかしくないでしょう？きっと由緒正しい家の娘と婚約してるとかじゃないかしら」
「そんなあ……」
「もう……そんなに落ち込まないで。パイラならきっと他のいい男と出会えるわよ。そうだ、この前も確か、新しい出会いがあったんでしょ？」
「ああ、スクルさんのこと？そうだグユイ、他のひとから聞いたんだけど彼、魔王様の側近なんですって！もう、超エリート！びっくりよ！」
「そうなの？じゃあ、逃しちゃダメじゃない！早く仲良くならなくちゃ」
「そうなのよ！でも……よりによってあの女と仲がいいっていうのがね……」
「あら、どんな女にも優しいなんて素敵じゃない。見た目で判断するような軽い男じゃないって事でしょう？」
「そ、そうよね。確かにそうだわ」
「そうよ。せっかくそんないい男と出会ったんだから、頑張らないと。アタシ、うまくいくよう応援しているわ」
「ありがとうグユイ！パイラ頑張る！」
「あ……ねえパイラ。そういえばアタシ、ひとつ気になる事があるのよ。王子様がしていた指輪……どこかで見た事あるようなデザインだったんだけど……どうしても思い出せなくて」
「どこかでって……、最近アクセサリーショップにでも行ったんじゃないの？」
「いいえ、行ってないわ。きっと、誰かがつけていたものだと思うんだけど……」
「指輪、ねえ……。あ！そういえばあの女も、薬指に指輪なんてつけてたわよね！あんな女と付き合おうと思う男なんているのねってびっくりしたもの……いいえ、もしかしたらあまりにモテなさすぎて、自分で買ったってだけかも」
「……そうよ、アステさんの指輪だわ……王子様の指輪、あれにとてもよく似てたのよ」
「え……やだ……そんなのたまたまでしょ！？」
「そうね……たまたまよね……。でもちょっと待ってパイラ。確か前に一度、王子様がゴシップ紙に載った事があったわよね……あれって確か……」
「ええと……あれでしょ、女実業家の娘と付き合ってるとかなんとかって記事！でもそのすぐ後破局したって出てて、ガセだったんじゃないって言ってたやつよね」
「……その娘って、確か混血って話じゃなかったかしら」
「そうそう！混血だから本妻じゃなくて愛人だとかって書いてあった！」
「アステさんって……混血よね」
「そう……だけど……でもほらあの女は天涯孤独で親がいないはず！」
「……女実業家は、妹の娘を引き取って育てていたって話じゃない。だから、娘といっても親子関係ではなかった。それに、その女実業家が亡くなってからよね……アステさんが魔王城に来たの」
「まさかあ……でもでも、そんなお金持ちの家なら、遺産だってもらってるだろうし、わざわざ故郷を出てまで働く必要ある？」
「……それは、なにも問題がなかったらの話でしょう？領主とのスキャンダルなんて、ただでさえ混血ってだけで肩身が狭いのに、アタシが彼女の立場なら住んでいられないと思うわ」
「うう……そう言われるとそういう気がしてきたわ……。じゃあもし仮にあの女がその娘だとして、スクルくんと同じデザインの指輪ってことは……」
「ゴシップ紙のことが本当で、しかも、まだふたりの関係は終わっていないってことよ」
「そ、そんなの！！！絶対ないわよ！！！あの女が？フォールスくんと？ない、絶対にありえない！！！」
「そう……だといいわよね……。今の話も単なる推測でしかないから、ふふ、きっと偶然が重なっただけよね。アステさんがまさか、王子様となんて……」
「そ、そうよ！不釣り合いにも程があるわ！グユイ、もうこの話はおしまいにしましょ！」
「そうね。もっと楽しいお話がいいわ」