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本編
第15話 広まる噂
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「ちょっとアステ!魔王城の女ども、あなたの噂で持ちきりじゃない!」
恒例の絵のレッスン。少し遅れて飛び込んできたエディさんはあいさつもそこそこに話し出す。その勢いにログさんも何事かと身を乗り出す。
「え?え?なになに?何の話?」
「あら王妃様知らなかったの?アステのお相手が、前まで魔王城にいた超絶美形の男の子だって噂」
これはまさか、という顔でこちらを見てくるログさんに、私もどう反応したらいいか分からず、戸惑う。ふたりで見つめあって、その間にもエディさんの話は止まらない。
「ミーも何度か彼の事見かけたことあるけれど、本当に綺麗な顔してたもの。女どもが騒ぐのもわかるわ。ま、ミーの好みじゃないけどね。で?どうなのアステ?噂、本当なの?」
そう迫ってくるエディさんにたじろぐ私。すると、そこに割って入るように、ログさんがこんな事を言った。
「エディさん、実は……一体どうしてそんな噂が流れたんだろって、さっきふたりで話してたんです。アステさんすごく困ってて……ね?アステさん」
「そ、そうなんです!噂なんて私、どうしたらいいか……」
全くの嘘である。ログさんとそんな会話は全くしていなかった。でも、ログさんの話に私は必死で乗っかる。
それを聞いたエディさんは、申し訳なさそうな表情になる。
「あら……そうだったの……根も葉もない噂を流されるなんてかわいそうに……」
「そうそう!アステさんは目立ちたくなんかないのに、そうやって噂であれこれ言われて相当参っちゃってるんですよ!」
ログさんは、噂が嘘だとは一言も言わずに、かつエディさんに嘘だと思われるよう話を展開していく。
「ごめんなさいねアステ……ミーったらあなたが困るような話をしちゃって……」
「そうですよ、アステさん結婚前なのにこんな騒ぎになって……これで結婚が立ち消えになったら大変!」
まるで追い打ちをかけるように話すログさんに、私は慌てる。
「あ……あの……もうこの話はおしまいにしましょう?ログさんも、あともう少ししたら、しばらく絵を習えなくなりますし……」
「たしかに……もういつ産まれてもおかしくないって言われてるもんなあ……」
そう言ってログさんは、随分大きくなったお腹を優しくなでる。その姿に、エディさんも私も目を細める。
「ねえ、わたしがまた戻ってくるまで、やめちゃったりしない?」
「しませんよ……ね?エディさん」
「そうよ。まだまだ教える事はたくさんあるのよ。こんなところでやめさせるわけないじゃない。王妃様の事、いつまでも待ってるわ。……さ、時間がもったいないわ、早速レッスンはじめましょ?」
――
今日の帰り道も、エディさんが送ってくれた。彼は私に気を遣ってくれたのか、噂についての話題はひとつも出さずにいてくれた。
「そういえばこの間、パトロン仲間に会ったわ。みんな、アステの事を心配していたわよ。絵が完成したらぜひ見せに来てくれって言ってたわ」
「それは……責任重大ですね……」
「そんなに気負わなくていいわよ。半分は、あなたに会う口実ためのみたいなものなんだから」
「ふふ、そうなんですか?」
「そうよ。でも、ミーが教えてるんだから、中途半端なものは見せられないわ。しっかり指導するから、そのつもりでね」
「はい、よろしくお願いします」
そんな話をしているうちに、もう目的地の前まで到着した。別れの挨拶をして建物の中に入ろうとする私に、エディさんが声をかけてきた。
「噂の事、本当にごめんなさいね」
「いいえ……お気になさらず。もし……きちんと結婚する日が決まったら、その時はすぐエディさんに報告しますから……」
「……ありがとう。その日が来るのを楽しみにしているわ。その時はちゃんと、お相手も紹介してくれるのかしら?」
「……はい、きっと」
そうして私はエディさんと別れ、建物の中に入る。
(このまま何も起きずに……その日が来ますように)
私はそう強く願いながら、自分の部屋に帰った。
恒例の絵のレッスン。少し遅れて飛び込んできたエディさんはあいさつもそこそこに話し出す。その勢いにログさんも何事かと身を乗り出す。
「え?え?なになに?何の話?」
「あら王妃様知らなかったの?アステのお相手が、前まで魔王城にいた超絶美形の男の子だって噂」
これはまさか、という顔でこちらを見てくるログさんに、私もどう反応したらいいか分からず、戸惑う。ふたりで見つめあって、その間にもエディさんの話は止まらない。
「ミーも何度か彼の事見かけたことあるけれど、本当に綺麗な顔してたもの。女どもが騒ぐのもわかるわ。ま、ミーの好みじゃないけどね。で?どうなのアステ?噂、本当なの?」
そう迫ってくるエディさんにたじろぐ私。すると、そこに割って入るように、ログさんがこんな事を言った。
「エディさん、実は……一体どうしてそんな噂が流れたんだろって、さっきふたりで話してたんです。アステさんすごく困ってて……ね?アステさん」
「そ、そうなんです!噂なんて私、どうしたらいいか……」
全くの嘘である。ログさんとそんな会話は全くしていなかった。でも、ログさんの話に私は必死で乗っかる。
それを聞いたエディさんは、申し訳なさそうな表情になる。
「あら……そうだったの……根も葉もない噂を流されるなんてかわいそうに……」
「そうそう!アステさんは目立ちたくなんかないのに、そうやって噂であれこれ言われて相当参っちゃってるんですよ!」
ログさんは、噂が嘘だとは一言も言わずに、かつエディさんに嘘だと思われるよう話を展開していく。
「ごめんなさいねアステ……ミーったらあなたが困るような話をしちゃって……」
「そうですよ、アステさん結婚前なのにこんな騒ぎになって……これで結婚が立ち消えになったら大変!」
まるで追い打ちをかけるように話すログさんに、私は慌てる。
「あ……あの……もうこの話はおしまいにしましょう?ログさんも、あともう少ししたら、しばらく絵を習えなくなりますし……」
「たしかに……もういつ産まれてもおかしくないって言われてるもんなあ……」
そう言ってログさんは、随分大きくなったお腹を優しくなでる。その姿に、エディさんも私も目を細める。
「ねえ、わたしがまた戻ってくるまで、やめちゃったりしない?」
「しませんよ……ね?エディさん」
「そうよ。まだまだ教える事はたくさんあるのよ。こんなところでやめさせるわけないじゃない。王妃様の事、いつまでも待ってるわ。……さ、時間がもったいないわ、早速レッスンはじめましょ?」
――
今日の帰り道も、エディさんが送ってくれた。彼は私に気を遣ってくれたのか、噂についての話題はひとつも出さずにいてくれた。
「そういえばこの間、パトロン仲間に会ったわ。みんな、アステの事を心配していたわよ。絵が完成したらぜひ見せに来てくれって言ってたわ」
「それは……責任重大ですね……」
「そんなに気負わなくていいわよ。半分は、あなたに会う口実ためのみたいなものなんだから」
「ふふ、そうなんですか?」
「そうよ。でも、ミーが教えてるんだから、中途半端なものは見せられないわ。しっかり指導するから、そのつもりでね」
「はい、よろしくお願いします」
そんな話をしているうちに、もう目的地の前まで到着した。別れの挨拶をして建物の中に入ろうとする私に、エディさんが声をかけてきた。
「噂の事、本当にごめんなさいね」
「いいえ……お気になさらず。もし……きちんと結婚する日が決まったら、その時はすぐエディさんに報告しますから……」
「……ありがとう。その日が来るのを楽しみにしているわ。その時はちゃんと、お相手も紹介してくれるのかしら?」
「……はい、きっと」
そうして私はエディさんと別れ、建物の中に入る。
(このまま何も起きずに……その日が来ますように)
私はそう強く願いながら、自分の部屋に帰った。
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