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本編
第21話 別れ
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グユイさんと書庫で会話をした次の日、なんと彼女は、辞表だけ残して姿を消してしまった。
私が色々と言ってしまったからだろうか。もっと他に何かやりようがあったのではないか。感情に任せて話してしまっていたのでは。そんな風に、次から次と後悔が押し寄せてくる。
「とほほ……パイラ氏に続いてグユイ氏まで辞めてしまうなんて……これで仕事量が三倍になっちゃったよ……」
ふたりも事務担当が辞めてしまい、残されたポートさんは、頭を抱えてぶつぶつと呟いている。
「募集すればすぐ応募があるだろうけど……一から教えなきゃならないんだよね……とほほ……指導なんかしてたら仕事量が四倍だよ……ははは……」
私のせいでポートさんにも迷惑をかけてしまって、心が苦しい。でも、私のせいだと言えるわけもなく。
「ポートさん。落ち着くまで、私もできる範囲でお手伝いしますから……」
「ほ、本当!?アステ氏が!?ぜひお願いするよ!!」
ポートさんは満面の笑みを浮かべ、目にも止まらない速さで私の両手を握り、上下にぶんぶんと振る。
「アステ氏が手伝ってくれるなら仕事が四倍だろうがかまうもんか!じゃあ早速これを……やり方はここにまとまってるからよろしく!」
そして、私は山のような書類の束を渡されたのだった。
辞めたのは事務担当だけではなく、所長も引き継ぎが終わり次第辞めてしまう。そのため、研究員の方も役職が繰り上がる事になりドタバタしている。
おそらく、ここに入って一番日の浅い私も例外ではなく、これからは今まで以上に仕事が回ってくるだろう。
(しばらくは慌ただしい日が続きそうね……)
私は、抱えた書類の束を見て、ため息をついた。
そしてそれから一ヶ月間、私は目の回るような忙しさに襲われたのだった。
――
結局、業務が落ち着くまで一ヶ月もかかってしまった。その間の私はというと、平日は仕事から部屋に帰っても疲れでほとんど何もできず寝て過ごした記憶しかない。休日も、奉仕活動をするのが精一杯で、それ以外は外に出る気力さえなかった。
やっと落ち着いて、身も心も余裕ができた私は、久しぶりに魔王城の広場で読書をしていた。今日はスクルは来ておらず、私ひとりだ。
「アステさん」
突然、自分の名前が呼ばれ、私は驚いて顔を上げる。
「パイラさん……?」
そこにいたのは、パイラさんだった。驚く私をよそに、彼女は私の隣に座ってくる。
「ここに来てるかなって思って見に来たら、やっぱりいた。ごめんね、話しかけちゃって」
「そんな……謝ることでは……」
「だってパイラ、あなたにいっぱい迷惑かけたじゃない……パイラの顔見るのもいやでしょ?」
私は、そんなことはないと、慌てて否定する。
「そんなことありません!だって……パイラさんはもう、私に謝ったじゃないですか」
「……許して、くれるの?」
不安そうに私を見るパイラさん。私は、彼女の言葉を肯定するように、しっかりと頷く。
「ありがとうアステさん。……あのね、パイラ、実は実家に戻る事にしたの。今日、これから出発。でも、最後にあなたに会いたくて。だから、会えてよかった。アステさん……これからも、元気でいてね。それと……」
パイラさんの視線が、私の手元に移る。
「その指輪の相手と、幸せになってね」
「え、ええと、あの」
「なあに、顔真っ赤にしちゃって!ふふ!……それが言いたかっただけだし、パイラもう行くわ。じゃあね、アステさん」
「ええ、さようなら……パイラさん。私も、あなたにお別れを言えてよかった……どうかお元気で」
私がそう言うと、パイラさんは嬉しそうに笑ってから、私に背を向け、去っていく。
そんな彼女の背中を、私は、見えなくなるまで見送った。
私が色々と言ってしまったからだろうか。もっと他に何かやりようがあったのではないか。感情に任せて話してしまっていたのでは。そんな風に、次から次と後悔が押し寄せてくる。
「とほほ……パイラ氏に続いてグユイ氏まで辞めてしまうなんて……これで仕事量が三倍になっちゃったよ……」
ふたりも事務担当が辞めてしまい、残されたポートさんは、頭を抱えてぶつぶつと呟いている。
「募集すればすぐ応募があるだろうけど……一から教えなきゃならないんだよね……とほほ……指導なんかしてたら仕事量が四倍だよ……ははは……」
私のせいでポートさんにも迷惑をかけてしまって、心が苦しい。でも、私のせいだと言えるわけもなく。
「ポートさん。落ち着くまで、私もできる範囲でお手伝いしますから……」
「ほ、本当!?アステ氏が!?ぜひお願いするよ!!」
ポートさんは満面の笑みを浮かべ、目にも止まらない速さで私の両手を握り、上下にぶんぶんと振る。
「アステ氏が手伝ってくれるなら仕事が四倍だろうがかまうもんか!じゃあ早速これを……やり方はここにまとまってるからよろしく!」
そして、私は山のような書類の束を渡されたのだった。
辞めたのは事務担当だけではなく、所長も引き継ぎが終わり次第辞めてしまう。そのため、研究員の方も役職が繰り上がる事になりドタバタしている。
おそらく、ここに入って一番日の浅い私も例外ではなく、これからは今まで以上に仕事が回ってくるだろう。
(しばらくは慌ただしい日が続きそうね……)
私は、抱えた書類の束を見て、ため息をついた。
そしてそれから一ヶ月間、私は目の回るような忙しさに襲われたのだった。
――
結局、業務が落ち着くまで一ヶ月もかかってしまった。その間の私はというと、平日は仕事から部屋に帰っても疲れでほとんど何もできず寝て過ごした記憶しかない。休日も、奉仕活動をするのが精一杯で、それ以外は外に出る気力さえなかった。
やっと落ち着いて、身も心も余裕ができた私は、久しぶりに魔王城の広場で読書をしていた。今日はスクルは来ておらず、私ひとりだ。
「アステさん」
突然、自分の名前が呼ばれ、私は驚いて顔を上げる。
「パイラさん……?」
そこにいたのは、パイラさんだった。驚く私をよそに、彼女は私の隣に座ってくる。
「ここに来てるかなって思って見に来たら、やっぱりいた。ごめんね、話しかけちゃって」
「そんな……謝ることでは……」
「だってパイラ、あなたにいっぱい迷惑かけたじゃない……パイラの顔見るのもいやでしょ?」
私は、そんなことはないと、慌てて否定する。
「そんなことありません!だって……パイラさんはもう、私に謝ったじゃないですか」
「……許して、くれるの?」
不安そうに私を見るパイラさん。私は、彼女の言葉を肯定するように、しっかりと頷く。
「ありがとうアステさん。……あのね、パイラ、実は実家に戻る事にしたの。今日、これから出発。でも、最後にあなたに会いたくて。だから、会えてよかった。アステさん……これからも、元気でいてね。それと……」
パイラさんの視線が、私の手元に移る。
「その指輪の相手と、幸せになってね」
「え、ええと、あの」
「なあに、顔真っ赤にしちゃって!ふふ!……それが言いたかっただけだし、パイラもう行くわ。じゃあね、アステさん」
「ええ、さようなら……パイラさん。私も、あなたにお別れを言えてよかった……どうかお元気で」
私がそう言うと、パイラさんは嬉しそうに笑ってから、私に背を向け、去っていく。
そんな彼女の背中を、私は、見えなくなるまで見送った。
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