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第三章 その娘、金の薔薇にて

乱入者

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 獣の拳と、石の拳がぶつかり合った勝負を見て、会場は最高の熱気に包まれていた。
 そんな中、ゴルドーだけはそれに納得がいっていないようだ。

『どこぞの新参者に私のスパルタクスが負けるなどありえん……ありえんのだぁぁぁあああ!!』

 ゴルドーはスパルタクスに大金を賭けていたのと、ローズの前で面目を潰されたことによって激怒していた。
 それは理不尽極まる怒りだが、この地下闘技場では主催者がルールだ。

『今から特別試合を行う……! 二人はモンスター――シルバーゴーレムと戦ってもらうぞぉ!!』
「ゴルドーの奴、ムチャクチャなことをするな!!」
「シルバーゴーレムだと……!?」

 それを聞いてスパルタクスの獣耳がピクリと動いた。
 シルバーゴーレムは彼にとって因縁ある敵だ。
 一戦終えた後だというのに気炎を吐き出しながら立ち上がった。

「いくらスパルタクスと一緒だとはいえ、モンスター相手は……と思ったが、やる気十分みたいだな」
「僕が素手でモンスターを倒せるくらい強ければ、ローズ様はあんなことにはならなかった……ここでみそぎをする」
「しょうがねぇ、手伝ってやるよ」

 ノアクルは目配せをして、スパルタクスは静かに頷いた。
 一戦を交えた二人に余計な言葉は必要がない。
 それは種族が違ってもだ。

『ウォォォム……』

 不気味な唸り声をあげながら、モンスター専用の搬入口から巨大な存在がズシンズシンとやってきた。
 身長三メートルほどだろうか。
 シルバーゴーレムという名前の通り、全身が銀色に輝いている。

 歩くたびに地面に大きな足跡が刻みつけられ、その重量感が振動として伝わってくるほどだ。
 二メートルのスパルタクスで十分に大きいと思っていたが、シルバーゴーレム相手だと彼でも子どもサイズに見えてしまう。
 だが、最強の獣人闘士は怯まない。

「ウオォォォォ!!」

 雄叫びを上げながら、真っ正面から突っ込んで行く。
 体格差のあるシルバーゴーレムのパンチにパンチを合わせ、凄まじい衝撃音が響き渡る。
 信じられないことに、シルバーゴーレムの方が押されているのだ。

「スパルタクスすげぇな……っと、感心している場合じゃない。おい、こっちまで頼む!」
「心得た、ノアクル!」

 ノアクルは、少し前に二人が勝負を決した場所まで移動していた。
 それを見たスパルタクスは意図に気が付いたようだ。

「今まで殺された仲間の恨みだ、食らえ!!」

 スパルタクスのラッシュが始まった。
 フック、アッパー、回し蹴り、正拳突きなどコンボがシルバーゴーレムを少しずつ押して行く。
 その気迫は畏怖を通り越して、もう笑うしかない強さだ。

「よし、良い位置だ! スパルタクス、離れろ!」
「わかった!」

 崩れた岩壁付近まで移動させられたシルバーゴーレムは、突如現れた巨大な石槍に反応できなかった。

『ウォォォム……!?』
「スキル【リサイクル】で石槍を作って攻撃してみたが……どうだ!?」

 その巨体は後ろへと倒れた。
 しかし、すぐに立ち上がる。
 信じたくはないが、身体の表面は傷一つ付いていない。

「おいおい、シルバーって名前詐欺だろ……。こりゃ下手な鋼鉄より硬いぞ……」
「やはり……素手ではダメージを与えられないのか……」

 これまで身体能力が高い獣人たちが、シルバーゴーレムに勝てなかった理由。
 それは圧倒的な防御力を突破することができないからだ。
 加えて、シルバーゴーレムは疲れ知らずで獣人たちをなぶり殺しにする。
 ゴルドーからすれば最高の見世物だろう。

『ハハハハハ!! いいぞぉ、シルバーゴーレム! 無敵の力で、私に恥をかかせた奴らを無様に殺せぇ!』

 一番高い観覧席にいるゴルドーは大興奮だな……と、そちらをチラリと見ると、ローズがゴルドーから音声拡張用の魔道具をひったくっていた。

『そのシルバーゴーレムは身体の中心にコアがあって、それを破壊すれば止まるわ!! ゴルドーの書斎に忍び込んで調べたの!!』
『くっ、何を教える! どけぇ!!』
『きゃっ』

 ゴルドーに殴られ、ローズが地面に倒れて見えなくなってしまった。
 ノアクルは怒りを覚えたが、今はローズがくれたチャンスを逃すわけにはいかない。

「スパルタクス、頼みがある」
「どうした、僕が強引に胴体を殴り壊すか?」
「いや、シルバーゴーレムの動きを止めてくれるだけでいい」
「その目……どうやら信じていいようだな」
「ああ、ゴルドーみたいな使えないゴミをぶん殴るまでは死ねないからな」
「僕も同じことを考えていた」

 スパルタクスはノアクルを信じ、シルバーゴーレムに一直線へと向かって行く。
 その巨体をガッチリ掴むと、もう殴られても動かない。
 体格差など、ものともせずに固定を完了した。

「アスピ、使わせてもらうぞ」

 ノアクルは隠していたミスリルの欠片を取り出し、指の上に置き、ピンッと弾いた。
 小ささゆえに、観客やゴルドーからは見えなかっただろう。
 それは確かにシルバーゴーレムの首元へ届き――

『グ、グオォム……?』

 スキル【リサイクル】で極小のミスリル針へと姿を変えた。
 それが伸びて首のアゴ下と胸元の辺りにつっかえ棒のような形になり、どんどんと胴体の方へとミスリル針が突き進む。
 胴体中央のコアがあると思われる場所まで達した瞬間、針は数百本に伸びて内部からシルバーゴーレムを破壊した。

『グォォォォオオオオオ!?』

 それは、さながらミスリルの華が咲いたようだった。

「何という力だ……。ノアクル、お前は今まで獣人に対して手加減をしてくれていたのか……?」

 シルバーゴーレムが倒れたあと、唖然としているスパルタクスが聞いてきた。
 ノアクルはニヤリとしながら答える。

「お互い様だろ、お前たち獣人からも殺意は感じられなかったからな」
「食えない奴め」
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