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第46話 とっておきの作戦

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 ――俺が封印の鍵を砕いた瞬間から遡ること、半日前。

 こころにぶん殴られて覚悟を決めた翌日の朝。
 無言で家を出ようとする俺を引き留めたのはオノディンだった。

「――助けに行く気かい? ただの魔法少女の成れ果てにすら苦戦するキミが? かつて最強を誇った七人の魔法少女でも敵わなかったアビスの使徒相手に何が出来るって言うんだい?」

 中村を追うと決めた俺を、オノディンが理解できないと嘲笑う。
 いつもだったら食ってかかる場面だが、俺は黙ってその言葉を受け止める。
 オノディンの渇いた笑いが、何も出来ない自分自身にも向けられているのだと分かっていたから。

「このまま放って置けば世界は救われるんだよ。下手に封印の邪魔をしたら、それこそ世界は終わりだ。中村と奏多の覚悟を、キミは無駄にするつもりなのかい?」

 世界を救うために、自ら人柱になる事を選んだ中村の妹――奏多。
 中村はその奏多の元へ向かった。
 あいつが考えていることは何となく分かる。妹と一緒に心中するつもりだ。あいつはクソ真面目だからな。

「杉田、キミにだって家族がいるだろう? 友人がいるだろう? 彼女はいないだろうけど」
「余計なお世話だ」

 俺にはみくるたんがいるから良いんだよ。

「その大切な人達を危険に晒すのかい? 一人の犠牲で世界は平和になるんだ。しかも、キミは奏多に会ったことすらないじゃないか……」

 自分にとって何が一番大切なのか、よく考えて欲しい。
 オノディンは祈るように言った。

「何か勘違いしているみたいだから、まず初めに言っておくぞ。俺はあいつらの覚悟を無駄にするつもりも、世界を終わらせるつもりも、これっぽっちもねえんだよ」

 更に言えば、自己犠牲精神も持ち合わせちゃいない。

「中村は助けに行く。でも、世界も救う……か。杉田、キミは一体何をやるつもりなんだい?」

 その言葉を待っていたとばかりに、俺はニヤリと笑う。

「ま、黙って聞けよ。実はな、とっておきの作戦があるんだ――」


         ☆

「とっておきの作戦だと――お前、自分が何を言っているのか分かってるのか!?」

 中村の妹――奏多が自分の命を懸けて作り上げようとしていた封印の鍵を壊した俺。
 その俺の胸ぐらを、中村が思い切り掴み上げる。
 中村の瞳からは、冗談では済まさないという殺意すら感じられた。

「安心しろって。封印の鍵は砕けても、奏多の魂は時間が経てば還るべき肉体に戻るってよ。だから家で眠ってるお前の妹も、じきに目を覚ますだろうよ……」

 安全性については、オノディンに確認したから間違いない。

「そういうことを言っているんじゃない! お前のせいで世界が滅亡するんだぞ! 感じていないとは言わせないぞ。扉の向こうから溢れ出る、とんでもない化物共の気配を!」
「そりゃ、感じてるっての。不感症じゃねえんだからよ」

 いや、そういうのは未経験だから知らんけども。

「ならば分かるだろう、この扉の向こうにいるアビスの使徒の異常さが! これと比べたら、自分がどれだけ無力なのかを……。何がとっておきの作戦だ、ふざけるなよ。どんな策を講じたところで、こんなのに勝ち目なんてあるわけがない!」

 まぁ、それが普通の感想だよな。
 俺もここに来て、実際に肌で感じて、駄目だコリャって思ったからな。

 封印が完了する寸前だった異界の扉。
 そのわずかな隙間から漏れ出ている瘴気のヤバさといったら――オラわくわくしてきたぞ、とか絶対言えないレベルだ。
 何度も言うが、俺達がヤムチャだとすると、相手はフリーザだ。
 しかも、それが扉の向こうに70体くらい居やがる。
 
 な、絶対死ぬだろ? 

「ま、控えめに言って瞬殺されるだろうな。逆立ちしたって敵わない。魔法少女らしく一瞬で首をもがれて終わりだ。ただし……まともに戦えばだけどな」
「まともに戦えば――って、お前何を言って……」
「おいおい生徒会長さんよぉ。自分の台詞だぜ、忘れちまったのか? 『まともに戦って無理なら、正攻法なんて捨てればいい。今までと違った角度で攻めろ』――だったか?」
「それは――」
「ああそうだ。これは魔法少女・下野さんを助けたときの、お前の言葉だよ」

 そして、今回の作戦は、その言葉から発想を得たようなものだった。

「だから今までの固定観念は全部捨てる。そして、その上で俺達は〝魔法少女としての正攻法〟を取る!」
「杉田、お前一体何を……」
「よくよく考えれば、今までの俺達の方が邪道だったんだ……。まぁ、見てな。俺が……いや、俺たちが、本物の魔法少女ってやつを見せてやるんだよ!」
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