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解樹歴元年ー
遭遇、しかしそれも運命
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僕はルルーさんに訓練を続けてもらい、少しだけ自信がついてきた。ルルーさんみたいに強くなったわけじゃない。ただ、弱くて何もできなかった自分を少しだけ見返せたような気がして嬉しかった。新しい玩具を買い与えられたような高揚や万能感に近いかもしれない。僕はなんの根拠もない優越感に酔いしれてしまっていた。その危うい感情の浮遊は自身に迫る影さえも見落としてしまうものだった。
「ね、ルルーさん。今度は何するの?」
「そうですね。いっくんの成長には私も驚きました。少し前まで泣いてばかりいたのに。」
「えへへ。」
「ですが、この間も言いましたがあまり己を過信してはいけませんよ。無理をして身体を壊してもいけませんし、無謀に敵わない相手に挑むこともいけません。いいですか。鍛錬というものは積み重ねなのです。たとえ少しばかり強くなっただけでもゼロよりは大きく感じるものです。ですから、より強い者にさえ平気で挑みかかろうとする者もいるのです。そこで敗北を知り己の力の程度を知るのもいいでしょう。しかしいっくんが無謀にも異形に挑んだとしたらその先に待つのは死のみです。死んでしまったら何も残らないのです。持ち帰れないのです。つまりは日々の鍛錬を怠ることなく自身の力を最大限に高めた上で……。」
「ああああ!わかったよー!」
「あっ!いっくん!そうやって話をきかないのはフラグなんですよ!」
僕は走って街に逃げた。
「ふぅ、ここまでくればとりあえずは…。」
街の中でも人気の少ない森の泉に来た。
「ルルーさんの言うこともわかるけど、やっぱりちょっと試してみたいんだよね…。武器だってもらったんだし。」
僕は懐から銀色に光るダガーを取り出した。身の軽さからルルーさんが僕に合わせて用意してくれた武器だ。訓練のおかげで体力もスピードもついた僕はこれがあればムテキなのだ。
「まあそう簡単にモンスターみたいなものは出るはずもないんだけどね。」
「うわぁあぁあ!」
「え、なに!?」
森の中に唐突に叫び声が響いた。
「誰かが襲われてる!」
僕は声のした方へ走った。そこにはとんがった帽子を被ってマントをつけた10代くらいの子がいて、緑色の液体状の何かに片足を引き込まれていた。
「うわあぁあ!助けてぇえ!ボクはおいしくないよ~!」
ルルーさんは、こういう時こそ冷静に観察するべきだと言っていた。この人が危険に直面してる今は急ぐべきかもしれないがひとまずこの何かの特徴から対処法を考えなければ…。
じたばたとしているが液体状の何かに突っ込んだ足は動いていない。包まれて重いのか、或いは麻痺にするような効果があるのか。…よく見ると、この液体の中にボールのようなものが浮かんでいる。
「おや?おやおやぁ?こんなところにヒトが来るなんて思わなかった…。いや、思わぬ助けが来てくれたよ!見ての通りボクは襲われてるんだよぅ!叫び声を上げて正解だった!ね、ね、お願い!助けて!このままだとゲルゲルにもにゅもにゅされちゃうよぉ~!」
「そ、そうは言っても…。」
「手にもってるそれ!キミって戦える子じゃないの?お願いはやくぅ!」
「う…えーい!」
僕は思い切ってその液体にダガーを斬りこんだ。
「あれっ!通り抜けちゃった!」
「ゲルゲルは液体なんだよ!液体には直接斬りつけても通じないよ…。」
「じゃあ…これかな!」
僕はダガーを液体の中に浮かぶ球体に向けて突き刺した。
「ぶくぶくぶく…。」
空気の抜けるような音とともに球体は砕け、それとともに動いていた液体は地面に溶けていった。
「ふぅ、助かった助かった。キミ、まさかコアに直接攻撃するなんて、よくわかったね!すごいなぁ!もしかして天才?」
「そんなに褒められると照れるね…。」
「おっと、お礼を忘れていたよ。ありがとう!」
「たまたま見つけられてよかったよ。」
「それにしてもキミからはフリディリアの都会っぽいニオイがしないね。」
「あ、わかるんだ。僕、最近この街に来たんだ。」
「へぇ~。武器を持ってるってことは、やっぱり冒険家で街を転々としてるって感じかな?」
「いや、実は…倒さなきゃいけない怪物がいてさ。そのために修行してるんだ。」
「ほうほう!それはいいことだね!ゲルゲルを倒せたんだからキミはもう立派な冒険家だよ!」
「えへへ。」
「ボクも応援してるよ。…さてと、そろそろボクは行くね。また会えたらいいね。」
「あ、うん。」
その子はマントを風に乗せながらとたとたと走っていってしまった。
「名前…きいてなかったっけ。まあいっか。」
僕は屋敷に戻ることにした。
「ルルーさん、ただいま。」
「おかえりなさい、と簡単に済むと思いましたか?」
「あ…忘れてた…。」
「いい度胸じゃありませんか。私の話している途中で逃げ出すなんて。」
「いやあ…ごめんなさい。」
「まあいいでしょう。ご飯も用意してあります。どうぞたべてください。」
「あの…これ…。」
「たべてください。」
そこには大きな両生類が横たわっていた。
「毒とか…。」
「私がいっくんに毒を喰らわすと思いますか?」
「だって….焼いてもないし…。」
「……。」
ルルーさんは静かに微笑んだままプレッシャーをかけてくる。
「ちょっと、いらないかな…。」
僕がその場を離れようとすると…。
ガシリッ!
「…どこへ行くんですか?」
「ひぃっ…。」
肩を掴まれた僕は微動だにできなかった。そしてそこから鈍い痛みを感じると思ったら…僕の身体は宙に浮いた!
「うわわわっ!」
そのまますとんと椅子に座らされた。
「さあ、召し上がれ♡」
ルルーさんは僕の両肩に軽く手を置きにこりと笑った。少しでも動こうとするとその手に力が入り動けない。もう、逃げられない。
「い…いただきます…。」
恐怖の時間が始まる。
「さて、いっくん、これに懲りたら私には逆らわないことですよ。」
「うぅ…ごめんなさい…。」
グロテスクな生物を平らげた僕はいまだに残るその感触に吐き気を催しながら謝罪した。
「ところでいっくん、ダガーを見せてもらえませんか?」
「ダガー?はい。」
「……使ったんですね。私がいない間に何かあったんですか?」
「えっと…変なのに襲われてる子がいて…。」
「さすがいっくん、助けてあげたんですね。」
「うん…。」
「ですが、厄介事に首を突っ込むことは感心したことではないですけどね。」
「…そう言われると思った。じゃあ僕は…目の前にいる人を助けてはいけないの?」
「そういうわけではないのです。ただ、力がない者がいくら頑張っても…。」
「僕は強くなったんだ!弱そうなやつだったし、戦えない子を助けることくらいできるよ!」
「自惚れるのもいい加減にしなさい。まだ訓練を始めて間もないひよっこが、誰かを護れるとでも思っているのですか?」
「護ったよ!」
「運が良かっただけです。」
「そんなことない!もういいよ!」
僕はまた逃げた。
「待ちなさい、いっくん。もう日が暮れますよ。」
ルルーさんが呼び止めるのも聞かずに僕は街へ出た。場所を知られたくないからノーフはポストに入れて置いた。
さっきの泉に戻ってきた。ただ意地だけでここにいてやると決めて木陰に座り込んだ。しばらくすると、こんな日に限って雨が降ってきた。
「寒いね…。もう暗くなるや…。」
幸いにも木の葉のおかげで雨はあまり僕に直接当たっては来なかったけれど冷たい空気や湿った服が僕の身体を凍えさせていく。
「はぁ…。なんでわかってくれないの…。」
三角座りをしながら震えていた。
「あれ?またキミ?」
誰かに声をかけられた。
「え?」
「こ~んば~んはっ!こんな時間にどうしたの?…寒そうだね。」
「えっと…。こんばんは。その…喧嘩しちゃって…。」
「誰と?」
「僕、お世話になってる人がいるんだ。その人が鍛えてくれたんだけど…僕、調子に乗っちゃって…意地張っちゃったんだ…。」
「それがわかってるなら大丈夫だよ。うん、謝るといいよ。」
「ありがとう。」
「ううん、さっき助けてもらったし、お互い様だよね~。そうだ、お礼と言ってはなんだけど…。」
その子はマントを広げると僕の身体をマントで包んだ。
「ちょっとは暖かいかな?」
マントの暖かさもあるが、人肌の温もりが凍えていた僕を温めてくれた。
「わ…あったかい…なんかごめんね。濡れちゃうかも。」
「ううん!いいんだよ。ボクもあったまるし!」
「それならよかったけど…あ、そうだ。さっきのこと。名前、聞きそびれたなって思って。」
「名前?…名前かぁ~。そんなに重要なこと?」
「う…そう言われてみるとそうなんだけどサ…。」
「あははっ。ごめんごめん。こういう時普通はさらっと名乗るもんだもんね。」
「答えたくない?僕の世話をしてくれてる人も、あんまり本名を言わないんだって。」
「それは…。ふぅん。」
「だから、いいよ。」
「…ふふふ。優しいんだね、キミ。でもそんな重たい話じゃなくて、ちょっとからかってみただけ。」
「なんだぁ。」
「ボクはアミィ。アミィ・ユノン。でも確かにね、ボクの名前はキミのお師匠さんには言わないで欲しいかも。」
「え?なんで?」
「…なんとなくね。ボクの名前も実は少しだけ人から嫌われたりしてるから。」
「ご…ごめん。」
「キミが謝ることないよ。やっぱりこういう大きい街だと家系にまつわる因果がひとつはあるものさ。」
「そうなんだ。」
「そ、れ、で、キミの名前は?」
「あ、そうだ。僕はジェイク。ジェイク・グリード。」
「ジェイクくんかぁ。もしよかったらこれからも仲良くしようね。」
「もちろん!」
「ボクは時々この泉に来るから、もしかしたらここに来れば会えるかもしれないね。」
「どこに住んでるの?」
「ん~?それは、ヒミツ。でも今日は帰らないから一晩暖めてあげるよ?」
「え、いいの?」
「うん!」
「…なんかアミィも事情があるんだね。ちょっとだけ安心したかも。」
「このご時世だからねぇ~。さっきみたいに変なのも出るし。」
「じゃあ今日はここで寝よう。」
「ボクの帽子が傘みたいになって丁度いいかもねぇ。」
「面白いねアミィの格好。」
「ふっふっふ~。いいでしょ。」
「うん、あったかい。」
「これならきっと眠れるよ。」
「ありがとうアミィ。」
「結構日も落ちてるしこのまま眠っちゃおう。ボクももう眠い…。」
「おやすみ…。」
2人で眠った。
鳥の鳴き声がして、目が覚めた。雨は上がっていて、濡れた草花がきらきらと朝日を浴びて輝いていた。
「ん…朝だ。」
「ん~ん。むに…。」
「あぁ、ほんとに布団みたいにあったかいや。」
「あ、おはよ~。」
「アミィも起きた?おはよう。」
「えへへ。初めてあった日に女のコと夜を明かしちゃうなんて、ジェイクくん、もうオトナだね。」
「え?」
「え?」
「おんなのこ?」
「な、何言ってるのかなぁ~?こ~んな美少女を前にして…。」
「えぇぇええ!アミィって女の子だったの!?」
「失礼なっ!ボクはれっきとした美少女なんだよ!」
「だってほら、ボクって…。」
「ボクって言ったら男のコなの?違うでしょ~?」
「え、じゃあ僕は…。」
「あはは。ジェイクくん顔赤くなってるよ?」
「だっ…だって!」
「何逃げようとしてるの~?」
マントを抜けようとした僕をアミィが抱きすくめる。
「うわぁあ!やめてー!僕はそんな男じゃないんだー!」
「あはははは。ジェイクくんおもしろ~い。」
「はぁ…はぁ…。抜けられない…。」
「ふぅ…。疲れちゃった。こんなところで勘弁してあげましょ。」
アミィはやっと離してくれた。
「まあ性別なんて関係なくて、ジェイクくんとボクはもう友達なんだからまた遊ぼうね。」
「それはそうだね…。うん、そうだよ!なんかごめんね。また遊ぼ!」
「うん!」
「じゃあ僕はそろそろ帰るね。そろそろルルーさんの怒りが頂点に達してしまう…。」
「ルルーさん?」
「うん、その、僕のお師匠さん。」
「今度紹介してね。」
「いいよ!」
「きっとまた会うことになると思うからね。ふふふふ。」
「うん、また会いに行くよ。」
僕は屋敷に帰ることにした。
「た…ただいまぁ…。」
声にならないほど小さな声で呟きながら扉をゆっくりと開く。まだ早朝であるが屋敷には灯りは灯っていなかった。
「ルルーさん、まだ寝てるかな?」
正直に謝るつもりではあったが自然と音を殺すようにゆっくりと歩いてしまう。緊張で速まる鼓動が余計にその静寂を際立たせた。静まり返った廊下に目眩がするほどだった。早くこの空間を抜け出したい僕は、ルルーさんの寝室に向かった。
コンコン…。
寝室のドアを叩いてみる。その瞬間、どたんと音がしたと思うと、扉が力強く開け放たれた。
「た…ただいま…。」
「何時だと…思ってるんですか…。」
「ごめんなさい…。」
「無事でよかった…。」
ルルーさんは寝てないようだった。
「あの…。」
「いっくん、どうしてあなたは毎回そうなんですか?」
「……。」
「ウィスプの件で恐怖を知ったと思ったんですが…あなたは止められないようです。」
「ごめんなさい…。」
「あなたはこういった大きな街で夜を明かす恐ろしさを知らないんです。凍える寒さはまだいいでしょう。しかし時には怪物よりも醜い人の心の餌食になることもあるのです。」
「……はい。」
「…はぁ。いっくんはお説教されるのがキライみたいですね。…こんなことですれ違うなんてイヤなのに…。」
「ごめん…ルルーさん…。」
「まぁいいでしょう。それではお話を聞かせてもらいましょうか。ゆうべはどうしたんです?」
「あ…えっと…。」
「何かあったんですか?」
「森の中で寝たんだよ。」
「あの雨の中ですか?」
「木の下で雨宿りしながら。」
「…もうひとつ隠してることがありますね?」
「な…なんで?」
「ニオイがするんですよ。ふんふん…これは間違いなく女のコのニオイです。それもかなり近くにいたかのような濃厚さ…。いっくん、どういうことです?」
「なんでわかるの…?」
「そんな顔をしないでください。私はただ心配なだけですから。場合によってはその子にもお礼をしなくてはなりませんからね。」
「お礼って…お礼だよね?」
「ええ、そうです。たっぷりと。」
ルルーさんは妖しく笑った。
「んんー…。その…助けた子がそこに来て、ボクって言うから男の子だと思ってたんだけど…自分も帰らないから暖めてあげるって…。」
「暖めて…あげる…?な…なにをしたんですか…?」
「その子の服に入れてもらったんだ。」
「ふ…服にっ!どういうことですか!」
「あ…その…マント…?不思議な格好してたんだその子。」
「マント…マントですか…ふぅ…それならまだ…。」
寝てないからなのか今日のルルーさんはやけに殺伐としている…。
「しかし、その子も何かおかしい気がします…。危険な目にあった場所に戻ってくる…しかも日が落ちる頃、更には雨が降っているのに。そして家にも帰らない…。おかしいですよねぇ?」
「そ…そういわれてみれば…。でもあの子は僕のともだちになってくれるって言ったんだ。」
「ウィスプのことを忘れたんですか?どんな角度から襲撃されるかわからないんです。油断はなされないように。」
「わかったよ…。」
「気持ちはわからなくはないですが、戦友と信じ込まされた者を斬らされるのです。怪しければ私をも斬らなければなりませんよ。」
「ルルーさんを…?」
「あら、迷ってくれるのですか?」
「当たり前だよ!ルルーさんは大切な人だよ。」
「あぁ…いっくん…。」
「だから…心配させてごめんなさい…。僕も調子に乗ってたから…。」
「…素直に謝れましたね。それならいいんです。」
ルルーさんはにっこりと笑った。
「あ、いっくん。そういえばあなた、身体が冷えてるんじゃないですか?お風呂に入りましょうね。」
「…ルルーさんも、一緒にいい?」
「あら、あらあら。女の子と過ごして色気づいちゃいましたか?」
「そ…そんなことないよ!ただ…ルルーさん寝てないでしょ?一緒に温まって寝よう?」
「…わかったんですね。ふふ。そう言ってくださるのなら、そうさせてもらいましょうか。楽しみです。」
ルルーさんとお風呂に入って昼過ぎまで一緒に寝た。
それからまた訓練を経て数日後のことだった。僕はまた泉に行くことにした。
「今日はアミィ、いるかな。」
「じゃっじゃ~ん!呼ばれてとび出てアミィちゃんだよ!」
「うわっ!びっくりした!」
草むらからアミィが飛び出してきた!
「えへへ、びっくりした?」
「いつからここにいたの?」
「えへへ~ついさっきだよ。」
でもアミィには寝癖がついてる…。多分またここで寝てたんだろうな…。
「…ねぇアミィ、どうしておうちに帰らないの?」
「……やめてよその話は。」
「あっ…ごめん。」
「ジェイクくん、キミにもあるんじゃないかな?話したくもないようなことが…。」
「それは…ある…。」
「そう…このご時世だからさ…きっとみんなあると思うんだよ…。失ってしまったヒトは、少なくないと思うんだよ…。」
「うん…そうだった。ごめんね。」
「ううん、変な雰囲気にしちゃってごめんね。」
「…蒸し返すようで悪いんだけど…ここで暮らしてるんだったら、僕と一緒に暮らさない?」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、それはダメだよ。キミの保護者にも悪いし。」
「でもたくさん部屋も余ってるし…。」
「あのね!ジェイクくんっ!あんまり勝手なこと言わない方がいいと思うんだ!」
「勝手な…こと…?」
「キミは住ませてもらってるんでしょ?なのに部屋が余ってるから貸せるなんて決めつけたらダメだよ。」
「う…。」
「それに、許可してもらえなかったらボクは悲しいし…。期待、したくないんだ。」
「……ごめん。」
「まあまあ!せっかく来てくれたんだし遊ぼ!」
「う、うん!」
その日は暗くなるまで遊んだ。
「いやぁ、楽しかったね。うんうん!」
「もう暗くなっちゃったし僕は帰るよ。」
「また来てね!絶対だよ!」
「うん!」
「今度はともだちも連れてくるからさ…絶対だよ!みんなで遊ぶんだ!週末の夜、待ってるから!」
「またね!」
「ばいば~い!」
僕は泉を去った。
「ただいま!」
「おかえりなさい。またその子のところに行ってたんですね。」
「うん!今度はともだちも連れてくるんだって!絶対来てねってすごい嬉しそうにしてたよ!」
「……そうですか…。」
「…?」
「…あの、その子の名前はなんですか?」
「え?あ…それはヒミツなんだ。」
「何故です?」
「その子が秘密にしてほしいって。」
「…その子のおうちは?」
「ヒミツ…って言ってたけど多分あの泉に住んでるんだと思う。寝てる跡がついてたから…。」
「……もう行ってはいけません。」
「へ?」
「行ったらだめです。」
「なんでさ!ともだちと遊ぶのはいけないことなの!」
「行ったら…殺されます。」
「え…は…?な、何言ってんの?」
「怪しすぎるんですよ…。出会った時から怪物とともにいて、泉で暮らす。名前も住所も隠す。奇怪な格好と一人称。怪しむには十分すぎる要素です。」
「なんだよ…なんだよそれ…。アミィが怪物だっていうの…?」
「それがその子の名ですか。」
「あっ!」
「アミィ…フルネームはなんですか?」
「いわないよ!」
「言いなさい。ここまで言ったら一緒でしょう。」
「うぅ…アミィ・ユノンだよ。」
「アミィ・ユノン…。まさか…。」
「何か知ってるの?」
「絶対に行ってはいけません。やはり間違いないです。その子はニンゲンじゃありません。」
「なんでそんなことがわかるの!」
「アミィ・ユノンの名は多分この街で暮らしてきた者ならば1度はきいたことがあると思います。伝説の一族アミィ・ユノン。」
「一族なのにアミィ・ユノン?どういうこと?」
「そこに気づくとは流石ですね。そう、アミィ・ユノンは皆そう名乗るのです。私たちが、別種の生物に対して『ヒト』と区分するように。」
「え?じゃあ…。」
「アミィ・ユノンはアミィ・ユノンなのです。」
「だって…そんなのおかしくない?ニンゲンと変わらなかったよ!」
「彼女たちは様々な世代に登場しますが、その服飾の容姿や言葉遣いが一致する例が多いのです。また同時期に存在するアミィ・ユノンは一体のみなのだとか…。」
「それじゃあ見た目と口調がよく似た同じ名前のヒトと同じじゃないか。」
「いいえ、アミィ・ユノンは奇妙な力を持って産まれるのです。その伝説は御伽噺のようですが、ウィスプのような怪異を目にしてしまってはそうも言っていられません。」
「じゃあアミィも…。」
「私が思うに彼女は怪物と通じています。多分あなたが救ったと言った時も遊んでいただけかもしれません。あなたに取り入るような褒め方をされませんでしたか?」
「……された。」
「やはりそうです。彼女は待ち合わせの時間に仲間の怪物とともにあなたを襲うでしょう。」
「なんでそんな…アミィ・ユノンは人間の敵なの?」
「まあ…そうとは言いきれませんが…。ニンゲンと通じることもある以上怪物とも通じるのならば彼女はどちらの立ち位置にもなり得るという話です。今彼女が怪物の仲間ならば人間の敵でしょう。」
「じゃあ…僕が説得したら?」
「それが可能ならば、人間の味方にもなるかもしれませんね。過去には人間に大きな恩恵をもたらした例が多いですから。…ここまで人間に牙を剥く怪物がいなかったからかもしれませんが。」
「なら僕は行くよ!アミィは僕のともだちなんだ!」
「昨日今日会ったばかりの素性もわからない子のために命をかけるんですか。」
「約束したから。」
「それが嘘でも?」
「………。」
「はぁ…わかりました。また飛び出されては敵いません。じゃあこうしましょう。私を連れていくんです。」
「え…。」
「みんなで遊ぶって、そう言ったんですよね?」
「うん…。」
「なら私も呼ばれてもいいのでしょう?」
「そうか!確かにそうかも!それに、ルルーさんを紹介するみたいな話の流れもあったよ!」
「好都合じゃないですか。ではそうしましょう。週末が楽しみですねぇ。」
「ルルーさんがいてくれるなら…もしかして…。」
僕とアミィはきっと出会うべくして出会ったんだ。たとえ僕のエゴだったとしても、僕はそう思っている。だって、アミィが独りでいる話をした時、アミィは本当に悲しそうだったから。アミィはきっと、独りだったから怪物側にいってしまったんだ。だから僕は今度こそ本当にアミィを救いたい。
「ルルーさん…今回も僕はルルーさんに甘えてしまっているね…。」
「いいんですよ。強くなるには、経験が大事です。私が怪物をちぎっては投げますから、それを見ていてくださいな。」
「ありがとう!」
そして、週末がやってくる。
「ね、ルルーさん。今度は何するの?」
「そうですね。いっくんの成長には私も驚きました。少し前まで泣いてばかりいたのに。」
「えへへ。」
「ですが、この間も言いましたがあまり己を過信してはいけませんよ。無理をして身体を壊してもいけませんし、無謀に敵わない相手に挑むこともいけません。いいですか。鍛錬というものは積み重ねなのです。たとえ少しばかり強くなっただけでもゼロよりは大きく感じるものです。ですから、より強い者にさえ平気で挑みかかろうとする者もいるのです。そこで敗北を知り己の力の程度を知るのもいいでしょう。しかしいっくんが無謀にも異形に挑んだとしたらその先に待つのは死のみです。死んでしまったら何も残らないのです。持ち帰れないのです。つまりは日々の鍛錬を怠ることなく自身の力を最大限に高めた上で……。」
「ああああ!わかったよー!」
「あっ!いっくん!そうやって話をきかないのはフラグなんですよ!」
僕は走って街に逃げた。
「ふぅ、ここまでくればとりあえずは…。」
街の中でも人気の少ない森の泉に来た。
「ルルーさんの言うこともわかるけど、やっぱりちょっと試してみたいんだよね…。武器だってもらったんだし。」
僕は懐から銀色に光るダガーを取り出した。身の軽さからルルーさんが僕に合わせて用意してくれた武器だ。訓練のおかげで体力もスピードもついた僕はこれがあればムテキなのだ。
「まあそう簡単にモンスターみたいなものは出るはずもないんだけどね。」
「うわぁあぁあ!」
「え、なに!?」
森の中に唐突に叫び声が響いた。
「誰かが襲われてる!」
僕は声のした方へ走った。そこにはとんがった帽子を被ってマントをつけた10代くらいの子がいて、緑色の液体状の何かに片足を引き込まれていた。
「うわあぁあ!助けてぇえ!ボクはおいしくないよ~!」
ルルーさんは、こういう時こそ冷静に観察するべきだと言っていた。この人が危険に直面してる今は急ぐべきかもしれないがひとまずこの何かの特徴から対処法を考えなければ…。
じたばたとしているが液体状の何かに突っ込んだ足は動いていない。包まれて重いのか、或いは麻痺にするような効果があるのか。…よく見ると、この液体の中にボールのようなものが浮かんでいる。
「おや?おやおやぁ?こんなところにヒトが来るなんて思わなかった…。いや、思わぬ助けが来てくれたよ!見ての通りボクは襲われてるんだよぅ!叫び声を上げて正解だった!ね、ね、お願い!助けて!このままだとゲルゲルにもにゅもにゅされちゃうよぉ~!」
「そ、そうは言っても…。」
「手にもってるそれ!キミって戦える子じゃないの?お願いはやくぅ!」
「う…えーい!」
僕は思い切ってその液体にダガーを斬りこんだ。
「あれっ!通り抜けちゃった!」
「ゲルゲルは液体なんだよ!液体には直接斬りつけても通じないよ…。」
「じゃあ…これかな!」
僕はダガーを液体の中に浮かぶ球体に向けて突き刺した。
「ぶくぶくぶく…。」
空気の抜けるような音とともに球体は砕け、それとともに動いていた液体は地面に溶けていった。
「ふぅ、助かった助かった。キミ、まさかコアに直接攻撃するなんて、よくわかったね!すごいなぁ!もしかして天才?」
「そんなに褒められると照れるね…。」
「おっと、お礼を忘れていたよ。ありがとう!」
「たまたま見つけられてよかったよ。」
「それにしてもキミからはフリディリアの都会っぽいニオイがしないね。」
「あ、わかるんだ。僕、最近この街に来たんだ。」
「へぇ~。武器を持ってるってことは、やっぱり冒険家で街を転々としてるって感じかな?」
「いや、実は…倒さなきゃいけない怪物がいてさ。そのために修行してるんだ。」
「ほうほう!それはいいことだね!ゲルゲルを倒せたんだからキミはもう立派な冒険家だよ!」
「えへへ。」
「ボクも応援してるよ。…さてと、そろそろボクは行くね。また会えたらいいね。」
「あ、うん。」
その子はマントを風に乗せながらとたとたと走っていってしまった。
「名前…きいてなかったっけ。まあいっか。」
僕は屋敷に戻ることにした。
「ルルーさん、ただいま。」
「おかえりなさい、と簡単に済むと思いましたか?」
「あ…忘れてた…。」
「いい度胸じゃありませんか。私の話している途中で逃げ出すなんて。」
「いやあ…ごめんなさい。」
「まあいいでしょう。ご飯も用意してあります。どうぞたべてください。」
「あの…これ…。」
「たべてください。」
そこには大きな両生類が横たわっていた。
「毒とか…。」
「私がいっくんに毒を喰らわすと思いますか?」
「だって….焼いてもないし…。」
「……。」
ルルーさんは静かに微笑んだままプレッシャーをかけてくる。
「ちょっと、いらないかな…。」
僕がその場を離れようとすると…。
ガシリッ!
「…どこへ行くんですか?」
「ひぃっ…。」
肩を掴まれた僕は微動だにできなかった。そしてそこから鈍い痛みを感じると思ったら…僕の身体は宙に浮いた!
「うわわわっ!」
そのまますとんと椅子に座らされた。
「さあ、召し上がれ♡」
ルルーさんは僕の両肩に軽く手を置きにこりと笑った。少しでも動こうとするとその手に力が入り動けない。もう、逃げられない。
「い…いただきます…。」
恐怖の時間が始まる。
「さて、いっくん、これに懲りたら私には逆らわないことですよ。」
「うぅ…ごめんなさい…。」
グロテスクな生物を平らげた僕はいまだに残るその感触に吐き気を催しながら謝罪した。
「ところでいっくん、ダガーを見せてもらえませんか?」
「ダガー?はい。」
「……使ったんですね。私がいない間に何かあったんですか?」
「えっと…変なのに襲われてる子がいて…。」
「さすがいっくん、助けてあげたんですね。」
「うん…。」
「ですが、厄介事に首を突っ込むことは感心したことではないですけどね。」
「…そう言われると思った。じゃあ僕は…目の前にいる人を助けてはいけないの?」
「そういうわけではないのです。ただ、力がない者がいくら頑張っても…。」
「僕は強くなったんだ!弱そうなやつだったし、戦えない子を助けることくらいできるよ!」
「自惚れるのもいい加減にしなさい。まだ訓練を始めて間もないひよっこが、誰かを護れるとでも思っているのですか?」
「護ったよ!」
「運が良かっただけです。」
「そんなことない!もういいよ!」
僕はまた逃げた。
「待ちなさい、いっくん。もう日が暮れますよ。」
ルルーさんが呼び止めるのも聞かずに僕は街へ出た。場所を知られたくないからノーフはポストに入れて置いた。
さっきの泉に戻ってきた。ただ意地だけでここにいてやると決めて木陰に座り込んだ。しばらくすると、こんな日に限って雨が降ってきた。
「寒いね…。もう暗くなるや…。」
幸いにも木の葉のおかげで雨はあまり僕に直接当たっては来なかったけれど冷たい空気や湿った服が僕の身体を凍えさせていく。
「はぁ…。なんでわかってくれないの…。」
三角座りをしながら震えていた。
「あれ?またキミ?」
誰かに声をかけられた。
「え?」
「こ~んば~んはっ!こんな時間にどうしたの?…寒そうだね。」
「えっと…。こんばんは。その…喧嘩しちゃって…。」
「誰と?」
「僕、お世話になってる人がいるんだ。その人が鍛えてくれたんだけど…僕、調子に乗っちゃって…意地張っちゃったんだ…。」
「それがわかってるなら大丈夫だよ。うん、謝るといいよ。」
「ありがとう。」
「ううん、さっき助けてもらったし、お互い様だよね~。そうだ、お礼と言ってはなんだけど…。」
その子はマントを広げると僕の身体をマントで包んだ。
「ちょっとは暖かいかな?」
マントの暖かさもあるが、人肌の温もりが凍えていた僕を温めてくれた。
「わ…あったかい…なんかごめんね。濡れちゃうかも。」
「ううん!いいんだよ。ボクもあったまるし!」
「それならよかったけど…あ、そうだ。さっきのこと。名前、聞きそびれたなって思って。」
「名前?…名前かぁ~。そんなに重要なこと?」
「う…そう言われてみるとそうなんだけどサ…。」
「あははっ。ごめんごめん。こういう時普通はさらっと名乗るもんだもんね。」
「答えたくない?僕の世話をしてくれてる人も、あんまり本名を言わないんだって。」
「それは…。ふぅん。」
「だから、いいよ。」
「…ふふふ。優しいんだね、キミ。でもそんな重たい話じゃなくて、ちょっとからかってみただけ。」
「なんだぁ。」
「ボクはアミィ。アミィ・ユノン。でも確かにね、ボクの名前はキミのお師匠さんには言わないで欲しいかも。」
「え?なんで?」
「…なんとなくね。ボクの名前も実は少しだけ人から嫌われたりしてるから。」
「ご…ごめん。」
「キミが謝ることないよ。やっぱりこういう大きい街だと家系にまつわる因果がひとつはあるものさ。」
「そうなんだ。」
「そ、れ、で、キミの名前は?」
「あ、そうだ。僕はジェイク。ジェイク・グリード。」
「ジェイクくんかぁ。もしよかったらこれからも仲良くしようね。」
「もちろん!」
「ボクは時々この泉に来るから、もしかしたらここに来れば会えるかもしれないね。」
「どこに住んでるの?」
「ん~?それは、ヒミツ。でも今日は帰らないから一晩暖めてあげるよ?」
「え、いいの?」
「うん!」
「…なんかアミィも事情があるんだね。ちょっとだけ安心したかも。」
「このご時世だからねぇ~。さっきみたいに変なのも出るし。」
「じゃあ今日はここで寝よう。」
「ボクの帽子が傘みたいになって丁度いいかもねぇ。」
「面白いねアミィの格好。」
「ふっふっふ~。いいでしょ。」
「うん、あったかい。」
「これならきっと眠れるよ。」
「ありがとうアミィ。」
「結構日も落ちてるしこのまま眠っちゃおう。ボクももう眠い…。」
「おやすみ…。」
2人で眠った。
鳥の鳴き声がして、目が覚めた。雨は上がっていて、濡れた草花がきらきらと朝日を浴びて輝いていた。
「ん…朝だ。」
「ん~ん。むに…。」
「あぁ、ほんとに布団みたいにあったかいや。」
「あ、おはよ~。」
「アミィも起きた?おはよう。」
「えへへ。初めてあった日に女のコと夜を明かしちゃうなんて、ジェイクくん、もうオトナだね。」
「え?」
「え?」
「おんなのこ?」
「な、何言ってるのかなぁ~?こ~んな美少女を前にして…。」
「えぇぇええ!アミィって女の子だったの!?」
「失礼なっ!ボクはれっきとした美少女なんだよ!」
「だってほら、ボクって…。」
「ボクって言ったら男のコなの?違うでしょ~?」
「え、じゃあ僕は…。」
「あはは。ジェイクくん顔赤くなってるよ?」
「だっ…だって!」
「何逃げようとしてるの~?」
マントを抜けようとした僕をアミィが抱きすくめる。
「うわぁあ!やめてー!僕はそんな男じゃないんだー!」
「あはははは。ジェイクくんおもしろ~い。」
「はぁ…はぁ…。抜けられない…。」
「ふぅ…。疲れちゃった。こんなところで勘弁してあげましょ。」
アミィはやっと離してくれた。
「まあ性別なんて関係なくて、ジェイクくんとボクはもう友達なんだからまた遊ぼうね。」
「それはそうだね…。うん、そうだよ!なんかごめんね。また遊ぼ!」
「うん!」
「じゃあ僕はそろそろ帰るね。そろそろルルーさんの怒りが頂点に達してしまう…。」
「ルルーさん?」
「うん、その、僕のお師匠さん。」
「今度紹介してね。」
「いいよ!」
「きっとまた会うことになると思うからね。ふふふふ。」
「うん、また会いに行くよ。」
僕は屋敷に帰ることにした。
「た…ただいまぁ…。」
声にならないほど小さな声で呟きながら扉をゆっくりと開く。まだ早朝であるが屋敷には灯りは灯っていなかった。
「ルルーさん、まだ寝てるかな?」
正直に謝るつもりではあったが自然と音を殺すようにゆっくりと歩いてしまう。緊張で速まる鼓動が余計にその静寂を際立たせた。静まり返った廊下に目眩がするほどだった。早くこの空間を抜け出したい僕は、ルルーさんの寝室に向かった。
コンコン…。
寝室のドアを叩いてみる。その瞬間、どたんと音がしたと思うと、扉が力強く開け放たれた。
「た…ただいま…。」
「何時だと…思ってるんですか…。」
「ごめんなさい…。」
「無事でよかった…。」
ルルーさんは寝てないようだった。
「あの…。」
「いっくん、どうしてあなたは毎回そうなんですか?」
「……。」
「ウィスプの件で恐怖を知ったと思ったんですが…あなたは止められないようです。」
「ごめんなさい…。」
「あなたはこういった大きな街で夜を明かす恐ろしさを知らないんです。凍える寒さはまだいいでしょう。しかし時には怪物よりも醜い人の心の餌食になることもあるのです。」
「……はい。」
「…はぁ。いっくんはお説教されるのがキライみたいですね。…こんなことですれ違うなんてイヤなのに…。」
「ごめん…ルルーさん…。」
「まぁいいでしょう。それではお話を聞かせてもらいましょうか。ゆうべはどうしたんです?」
「あ…えっと…。」
「何かあったんですか?」
「森の中で寝たんだよ。」
「あの雨の中ですか?」
「木の下で雨宿りしながら。」
「…もうひとつ隠してることがありますね?」
「な…なんで?」
「ニオイがするんですよ。ふんふん…これは間違いなく女のコのニオイです。それもかなり近くにいたかのような濃厚さ…。いっくん、どういうことです?」
「なんでわかるの…?」
「そんな顔をしないでください。私はただ心配なだけですから。場合によってはその子にもお礼をしなくてはなりませんからね。」
「お礼って…お礼だよね?」
「ええ、そうです。たっぷりと。」
ルルーさんは妖しく笑った。
「んんー…。その…助けた子がそこに来て、ボクって言うから男の子だと思ってたんだけど…自分も帰らないから暖めてあげるって…。」
「暖めて…あげる…?な…なにをしたんですか…?」
「その子の服に入れてもらったんだ。」
「ふ…服にっ!どういうことですか!」
「あ…その…マント…?不思議な格好してたんだその子。」
「マント…マントですか…ふぅ…それならまだ…。」
寝てないからなのか今日のルルーさんはやけに殺伐としている…。
「しかし、その子も何かおかしい気がします…。危険な目にあった場所に戻ってくる…しかも日が落ちる頃、更には雨が降っているのに。そして家にも帰らない…。おかしいですよねぇ?」
「そ…そういわれてみれば…。でもあの子は僕のともだちになってくれるって言ったんだ。」
「ウィスプのことを忘れたんですか?どんな角度から襲撃されるかわからないんです。油断はなされないように。」
「わかったよ…。」
「気持ちはわからなくはないですが、戦友と信じ込まされた者を斬らされるのです。怪しければ私をも斬らなければなりませんよ。」
「ルルーさんを…?」
「あら、迷ってくれるのですか?」
「当たり前だよ!ルルーさんは大切な人だよ。」
「あぁ…いっくん…。」
「だから…心配させてごめんなさい…。僕も調子に乗ってたから…。」
「…素直に謝れましたね。それならいいんです。」
ルルーさんはにっこりと笑った。
「あ、いっくん。そういえばあなた、身体が冷えてるんじゃないですか?お風呂に入りましょうね。」
「…ルルーさんも、一緒にいい?」
「あら、あらあら。女の子と過ごして色気づいちゃいましたか?」
「そ…そんなことないよ!ただ…ルルーさん寝てないでしょ?一緒に温まって寝よう?」
「…わかったんですね。ふふ。そう言ってくださるのなら、そうさせてもらいましょうか。楽しみです。」
ルルーさんとお風呂に入って昼過ぎまで一緒に寝た。
それからまた訓練を経て数日後のことだった。僕はまた泉に行くことにした。
「今日はアミィ、いるかな。」
「じゃっじゃ~ん!呼ばれてとび出てアミィちゃんだよ!」
「うわっ!びっくりした!」
草むらからアミィが飛び出してきた!
「えへへ、びっくりした?」
「いつからここにいたの?」
「えへへ~ついさっきだよ。」
でもアミィには寝癖がついてる…。多分またここで寝てたんだろうな…。
「…ねぇアミィ、どうしておうちに帰らないの?」
「……やめてよその話は。」
「あっ…ごめん。」
「ジェイクくん、キミにもあるんじゃないかな?話したくもないようなことが…。」
「それは…ある…。」
「そう…このご時世だからさ…きっとみんなあると思うんだよ…。失ってしまったヒトは、少なくないと思うんだよ…。」
「うん…そうだった。ごめんね。」
「ううん、変な雰囲気にしちゃってごめんね。」
「…蒸し返すようで悪いんだけど…ここで暮らしてるんだったら、僕と一緒に暮らさない?」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、それはダメだよ。キミの保護者にも悪いし。」
「でもたくさん部屋も余ってるし…。」
「あのね!ジェイクくんっ!あんまり勝手なこと言わない方がいいと思うんだ!」
「勝手な…こと…?」
「キミは住ませてもらってるんでしょ?なのに部屋が余ってるから貸せるなんて決めつけたらダメだよ。」
「う…。」
「それに、許可してもらえなかったらボクは悲しいし…。期待、したくないんだ。」
「……ごめん。」
「まあまあ!せっかく来てくれたんだし遊ぼ!」
「う、うん!」
その日は暗くなるまで遊んだ。
「いやぁ、楽しかったね。うんうん!」
「もう暗くなっちゃったし僕は帰るよ。」
「また来てね!絶対だよ!」
「うん!」
「今度はともだちも連れてくるからさ…絶対だよ!みんなで遊ぶんだ!週末の夜、待ってるから!」
「またね!」
「ばいば~い!」
僕は泉を去った。
「ただいま!」
「おかえりなさい。またその子のところに行ってたんですね。」
「うん!今度はともだちも連れてくるんだって!絶対来てねってすごい嬉しそうにしてたよ!」
「……そうですか…。」
「…?」
「…あの、その子の名前はなんですか?」
「え?あ…それはヒミツなんだ。」
「何故です?」
「その子が秘密にしてほしいって。」
「…その子のおうちは?」
「ヒミツ…って言ってたけど多分あの泉に住んでるんだと思う。寝てる跡がついてたから…。」
「……もう行ってはいけません。」
「へ?」
「行ったらだめです。」
「なんでさ!ともだちと遊ぶのはいけないことなの!」
「行ったら…殺されます。」
「え…は…?な、何言ってんの?」
「怪しすぎるんですよ…。出会った時から怪物とともにいて、泉で暮らす。名前も住所も隠す。奇怪な格好と一人称。怪しむには十分すぎる要素です。」
「なんだよ…なんだよそれ…。アミィが怪物だっていうの…?」
「それがその子の名ですか。」
「あっ!」
「アミィ…フルネームはなんですか?」
「いわないよ!」
「言いなさい。ここまで言ったら一緒でしょう。」
「うぅ…アミィ・ユノンだよ。」
「アミィ・ユノン…。まさか…。」
「何か知ってるの?」
「絶対に行ってはいけません。やはり間違いないです。その子はニンゲンじゃありません。」
「なんでそんなことがわかるの!」
「アミィ・ユノンの名は多分この街で暮らしてきた者ならば1度はきいたことがあると思います。伝説の一族アミィ・ユノン。」
「一族なのにアミィ・ユノン?どういうこと?」
「そこに気づくとは流石ですね。そう、アミィ・ユノンは皆そう名乗るのです。私たちが、別種の生物に対して『ヒト』と区分するように。」
「え?じゃあ…。」
「アミィ・ユノンはアミィ・ユノンなのです。」
「だって…そんなのおかしくない?ニンゲンと変わらなかったよ!」
「彼女たちは様々な世代に登場しますが、その服飾の容姿や言葉遣いが一致する例が多いのです。また同時期に存在するアミィ・ユノンは一体のみなのだとか…。」
「それじゃあ見た目と口調がよく似た同じ名前のヒトと同じじゃないか。」
「いいえ、アミィ・ユノンは奇妙な力を持って産まれるのです。その伝説は御伽噺のようですが、ウィスプのような怪異を目にしてしまってはそうも言っていられません。」
「じゃあアミィも…。」
「私が思うに彼女は怪物と通じています。多分あなたが救ったと言った時も遊んでいただけかもしれません。あなたに取り入るような褒め方をされませんでしたか?」
「……された。」
「やはりそうです。彼女は待ち合わせの時間に仲間の怪物とともにあなたを襲うでしょう。」
「なんでそんな…アミィ・ユノンは人間の敵なの?」
「まあ…そうとは言いきれませんが…。ニンゲンと通じることもある以上怪物とも通じるのならば彼女はどちらの立ち位置にもなり得るという話です。今彼女が怪物の仲間ならば人間の敵でしょう。」
「じゃあ…僕が説得したら?」
「それが可能ならば、人間の味方にもなるかもしれませんね。過去には人間に大きな恩恵をもたらした例が多いですから。…ここまで人間に牙を剥く怪物がいなかったからかもしれませんが。」
「なら僕は行くよ!アミィは僕のともだちなんだ!」
「昨日今日会ったばかりの素性もわからない子のために命をかけるんですか。」
「約束したから。」
「それが嘘でも?」
「………。」
「はぁ…わかりました。また飛び出されては敵いません。じゃあこうしましょう。私を連れていくんです。」
「え…。」
「みんなで遊ぶって、そう言ったんですよね?」
「うん…。」
「なら私も呼ばれてもいいのでしょう?」
「そうか!確かにそうかも!それに、ルルーさんを紹介するみたいな話の流れもあったよ!」
「好都合じゃないですか。ではそうしましょう。週末が楽しみですねぇ。」
「ルルーさんがいてくれるなら…もしかして…。」
僕とアミィはきっと出会うべくして出会ったんだ。たとえ僕のエゴだったとしても、僕はそう思っている。だって、アミィが独りでいる話をした時、アミィは本当に悲しそうだったから。アミィはきっと、独りだったから怪物側にいってしまったんだ。だから僕は今度こそ本当にアミィを救いたい。
「ルルーさん…今回も僕はルルーさんに甘えてしまっているね…。」
「いいんですよ。強くなるには、経験が大事です。私が怪物をちぎっては投げますから、それを見ていてくださいな。」
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そして、週末がやってくる。
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