40 / 44
40.エンディングのからくり
しおりを挟む
佐倉はゲームのメインストーリーに関してはいっさい関わっていなかった。敵キャラや魔族のことだけを担当させていたからであり、また本人も進捗はおろか必要最低限のこと以外は聞いてこようともしなかったから、そもそも興味がなかったのだと思う。
同僚と雑談をしたり、飲みに行ったりもしていないようだった。自分の担当業務に関するコミュニケーションの他は取ろうともしていなかったから、耳に入れる機会もなかったはずである。
ただ、フランツを推していたくらいだから、完成したあとにプレイくらいはしているだろう。
しているはずだが、エバーアフターモードまではしていないはずだ。おそらくだが、間違いない。なぜなら、フランツの死後のおまけなんてやるわけがないからだ。
ノーフや『魔王の血清』に関しては、宣伝にも入れていた部分なので、未プレイの者が知っていてもおかしくない。ただ、それ以外の部分は実際にプレイした者しか知り得ないことなのである。
エルンストとこれからの予定を詰め終えて雑談を始めた頃合いに、ドアがノックされた。
一時間は滞在していたため、エルンストの従者かお茶のお代わりかと思いきや、応答に入室してきたのはライナーとイジドーア、そしてミヒャエルだった。攻略対象者揃い踏みの中でハンスだけが不在なのは、王太子が一神祇官の執務室を気軽に訪問するはずがない、からではないだろう。
例の一件に関して、その証拠を現在所持しているのがエルンストであることを、どこぞから、いや泳がせていた当時の責任者から聞き出したに違いない。
「わたくしのような立場の者のもとへわざわざ皆さまがたがお出でくださるとは、いかがなされたのですか?」
「面会の申し出もなく突然お伺いしてしまって、大変申し訳ございません。ですが、居ても立ってもいられない、と申しますか、一枚の書類を拝見させていただきたく、不躾を承知で参りました」
ライナーの言葉を聞いて、俺はエルンストを見た。エルンストも俺を窺っていたようで、目が合った。
もう少し先でもと考えていたが、三人揃ってやってきてくれたのなら、タイミング的にはありだ。
いいだろう。
そう、俺はエルンストに許可をした。
頷き返したエルンストは微笑を浮かべて三人をソファへと誘導し、従者を呼んでお茶の追加と俺たちの分のお代わりを命じた。
それらが運ばれて、テーブルのうえに用意され、従者が退室するまでの間、三人は話を切り出さなかった。
そして五人だけになり、ようやくライナーが口を開いた。
「ナウマン神祇官、すでにお手元にあるものと存じますので、単刀直入に申し上げさせていただきます。われわれ三人の出生に関する証明書、国王様の署名が入った機密書類を拝見させていただけませんでしょうか」
やはりだ。
エルンストは数秒ほど間を空けてからゆっくりと頷いて、一時間前、俺に見せてくれたばかりのその書類を自身の執務机から取り出した。
「こちらにあります」
ライナーに手渡し、横に座っていたイジドーアも覗き込んだ。
二人はじっとその書類に目を注ぎ、数分ほどしたのちに、ソファの背もたれに身体をどさりと預けた。
「ということは、わたしとイジドーア、そしてミヒャエルもハンスの異母兄弟ということになるのですね」
ライナーの言葉に、エルンストは神妙な顔つきで頷いた。
「……おっしゃるとおりです」
エルンストがその顔つき同様真剣なまでの声音で答えると、イジドーアの顔には力のない笑みが浮かんだ。
「俺たちにも王位継承権があるということか」
「……それも、おっしゃるとおりです」
この『聖女の剣』は、聖女アグネスが魔王を打ち倒し、攻略対象者の誰かと結ばれることが本編のエンディングであり、国に平和をもたらせたのちに王妃となることがエバーアフターモードの役割である。
今アグネス王妃ではなく王太子妃という身分であるため、その過程にいるわけだが、そもそも攻略対象者は四人いる。
今回のルートでは、王太子であるハンスを選択したので問題なく王妃への道を進んでいるが、他の三人を選んだ場合は違う。騎士団長か魔法使い、そして戦士の妻となったとしたら、普通王妃にはなれない。
そこで無理くり考え出されたのは、彼ら四人が実は異母兄弟だった、という設定だった。
ハンスの父であった国王は、三人の母に子種を与え、非嫡出の息子を遺していた。王位継承者は一人かと思いきや三人いたのである。
もし、ハンス以外の誰かと結ばれた場合も、時間はかかるが必ず王妃となるのである。
ハンスは『魔王の血清』なくは永遠に男としての機能を果たせず、アグネスが求めなければ手に入らないそれなしでは、妃を迎えても跡取りをつくることができない。そのため、実はアグネスと結婚した相手も王位継承者であることが発覚し、国の英雄でもあるだからと、次期国王となる流れになる。
ゲームでありおまけなので、あり得ないほど無理のある話だが、現実となっている今は、その設定が生きているわけである。
「わたしたちはなぜ知らされていなかったのでしょう」
「それは、神官は姦淫してはならないという教義ゆえのことだと存じます」
「だから、異母兄弟などいてはならない、ということでしょうか」
「おっしゃるとおりです」
「でしたらなぜこのように国王様の署名入証明書が遺されているのでしょう」
「ご推察されていらっしゃると存じますが、ハンス王太子殿下以外に嫡子がいらっしゃらない現状ですので、もし、跡継ぎができなかったら、というその可能性を考慮してのことだと存じます」
この事実は、ハンス以外が選ばれた場合のみ知らされることになっていた。
なぜなら、最高神官長という責務を熱心に務めているハンスは、前国王である父を心から尊敬し、生真面目でかつ信心深い性格だからだ。
神官は結婚することは可能だが、姦淫してはならないという戒めは一般の信者の比ではない。生涯妻は一人だけであることはもちろん、死別しても再婚はおろか浮気なんて持ってのほかなのである。
そのため、父である前国王は、母である王妃以外に関係を持ってはならなかった。
この事実を知ったのちに、とても国王としての任を負うことができないほど、壊れてしまうのも無理からぬことなのである。
アグネスを王妃にするためとはいえ、王太子の精神をずたぼろにするこんな設定は哀れなものである。
ただ、そこはゲームの都合ゆえのことなので、後に回復するばかりか、王太子という足かせがなくなったことにより、ハンスにはむしろ幸福な未来が待っている。
「では、わたしの母が彼女であることは……事実なのですね」
ライナーにとっては、ハンス以上に酷な事実に直面することとなってしまった。
信心深いライナーは、忠誠を誓っていた前国王の不義を知ったばかりか、その母が人格的に受け入れがたい相手だったことも同時に知ったのである。
ギルベルタ・シュトライヒという名のポーション中毒者は、もともとこの王城で女中として働いていた。
前国王の目に留まり、王妃の目を盗んで関係を持ったのちに妊娠したギルベルトは、口止め料をたっぷりもらったうえで国境の街ハルシュッフへと秘匿されたのだが、ライナーを孤児院に捨て、豪勢にも金を使い果たしたあと、貧困に喘ぐこととなった。国王のお手つきである事実を吹聴したところで、余所に実子などいるはずがないのだから、誰がこんな女をと信じてもらえず、身を持ち崩していた。
ライナールートだった場合は、哀れなる彼女を救い、過去を赦すことで神の教えを体現し、国王兼最高神官長としての自負が芽生えるという流れだった。
しかし、今回はヨハネスの命によって動いた魔族が、彼女にポーションを渡したことで、あのような事態に変わってしまった。本来のストーリーではない方向へ彼女を誘惑してしまったのだが、性格的にはその素養があったことは残念ながら事実である。
「そのようだな。エレオノーラ様も……彼女も俺の母であるのは間違いないようだ」
イジドーアの母であるエレオノーラ・フィッシャーは、もともと王妃ともなれるほどの名門公爵家の令嬢だった。そのはずが、国王から手籠めにされ、果ては子を身籠ってしまったことで、結婚できない身体となってしまった。恨みに恨んでいたエレオノーラだったが、幼少期より姉のように慕ったいた元侍女が、結婚したのちにその話を聞きつけ、息子を養子に迎えてくれると申し出てくれたのである。安心できる彼女ならと息子を託し、自らは俗世を捨て神官になるべく宣誓をしたのだった。
エレオノーラは、イジドーアが自身の息子であることは知っており、立派に育った息子が、魔王を倒し国を救う英雄にまでなったことを、陰ながら誇りに思っていた。
その息子があの日ルクルー教会へとやってきたことは、彼女の平穏な生活を一変する出来事となった。
本来であれば、アグネスと結婚し、母を探して親子関係を取り戻すだけの話で、最高神官長となるイジドーアにとって神官である母は敬い慕う存在となるはずだった。
そのはずが、恋にやぶれ傷心だったイジドーアは、愛したアグネスとそっくりだったエレオノーラに一目惚れしてしまったのである。設定としては、恋愛に疎いイジドーアにとって、乳児期を共に過ごした母の面影があるアグネスに惚れるという流れなのだが、今回は思慕を募らせたアグネスに似た母へと思いを寄せてしまったのである。
悩みに悩んだエレオノーラは、イジドーアの育ての母である元侍女やバルテンから背中を押されて、会合を機にフグルーアへと上り、息子に母であることを打ち明けた。
そのことでイジドーアは、前国王への不信の念と、二度目の失恋という苦い思いを噛みしめることとなってしまった。
ハンスには相談できないからと、ライナーとミヒャエルが帰って来るまで待ち、戻ってすぐ彼らにその話をして、三人で今日、確認すべくエルンストの元へとやってきたのである。
「まさか国王様が父上だったとは」
「ああ。証明書を見ても信じられない」
「……最高神官長ともあろうお方だ」
「ハンスには伝えないほうがいい」
「……そうだな。戦友が血を分けた兄弟であったことは喜ぶべきことだが、ハンスが知ったらどうなるか」
ライナーとイジドーアは、王位継承者であることを知った喜びなどいっさいないという様子で、それぞれ別の意味で肩を落としながら、エルンストの執務室を後にした。
同僚と雑談をしたり、飲みに行ったりもしていないようだった。自分の担当業務に関するコミュニケーションの他は取ろうともしていなかったから、耳に入れる機会もなかったはずである。
ただ、フランツを推していたくらいだから、完成したあとにプレイくらいはしているだろう。
しているはずだが、エバーアフターモードまではしていないはずだ。おそらくだが、間違いない。なぜなら、フランツの死後のおまけなんてやるわけがないからだ。
ノーフや『魔王の血清』に関しては、宣伝にも入れていた部分なので、未プレイの者が知っていてもおかしくない。ただ、それ以外の部分は実際にプレイした者しか知り得ないことなのである。
エルンストとこれからの予定を詰め終えて雑談を始めた頃合いに、ドアがノックされた。
一時間は滞在していたため、エルンストの従者かお茶のお代わりかと思いきや、応答に入室してきたのはライナーとイジドーア、そしてミヒャエルだった。攻略対象者揃い踏みの中でハンスだけが不在なのは、王太子が一神祇官の執務室を気軽に訪問するはずがない、からではないだろう。
例の一件に関して、その証拠を現在所持しているのがエルンストであることを、どこぞから、いや泳がせていた当時の責任者から聞き出したに違いない。
「わたくしのような立場の者のもとへわざわざ皆さまがたがお出でくださるとは、いかがなされたのですか?」
「面会の申し出もなく突然お伺いしてしまって、大変申し訳ございません。ですが、居ても立ってもいられない、と申しますか、一枚の書類を拝見させていただきたく、不躾を承知で参りました」
ライナーの言葉を聞いて、俺はエルンストを見た。エルンストも俺を窺っていたようで、目が合った。
もう少し先でもと考えていたが、三人揃ってやってきてくれたのなら、タイミング的にはありだ。
いいだろう。
そう、俺はエルンストに許可をした。
頷き返したエルンストは微笑を浮かべて三人をソファへと誘導し、従者を呼んでお茶の追加と俺たちの分のお代わりを命じた。
それらが運ばれて、テーブルのうえに用意され、従者が退室するまでの間、三人は話を切り出さなかった。
そして五人だけになり、ようやくライナーが口を開いた。
「ナウマン神祇官、すでにお手元にあるものと存じますので、単刀直入に申し上げさせていただきます。われわれ三人の出生に関する証明書、国王様の署名が入った機密書類を拝見させていただけませんでしょうか」
やはりだ。
エルンストは数秒ほど間を空けてからゆっくりと頷いて、一時間前、俺に見せてくれたばかりのその書類を自身の執務机から取り出した。
「こちらにあります」
ライナーに手渡し、横に座っていたイジドーアも覗き込んだ。
二人はじっとその書類に目を注ぎ、数分ほどしたのちに、ソファの背もたれに身体をどさりと預けた。
「ということは、わたしとイジドーア、そしてミヒャエルもハンスの異母兄弟ということになるのですね」
ライナーの言葉に、エルンストは神妙な顔つきで頷いた。
「……おっしゃるとおりです」
エルンストがその顔つき同様真剣なまでの声音で答えると、イジドーアの顔には力のない笑みが浮かんだ。
「俺たちにも王位継承権があるということか」
「……それも、おっしゃるとおりです」
この『聖女の剣』は、聖女アグネスが魔王を打ち倒し、攻略対象者の誰かと結ばれることが本編のエンディングであり、国に平和をもたらせたのちに王妃となることがエバーアフターモードの役割である。
今アグネス王妃ではなく王太子妃という身分であるため、その過程にいるわけだが、そもそも攻略対象者は四人いる。
今回のルートでは、王太子であるハンスを選択したので問題なく王妃への道を進んでいるが、他の三人を選んだ場合は違う。騎士団長か魔法使い、そして戦士の妻となったとしたら、普通王妃にはなれない。
そこで無理くり考え出されたのは、彼ら四人が実は異母兄弟だった、という設定だった。
ハンスの父であった国王は、三人の母に子種を与え、非嫡出の息子を遺していた。王位継承者は一人かと思いきや三人いたのである。
もし、ハンス以外の誰かと結ばれた場合も、時間はかかるが必ず王妃となるのである。
ハンスは『魔王の血清』なくは永遠に男としての機能を果たせず、アグネスが求めなければ手に入らないそれなしでは、妃を迎えても跡取りをつくることができない。そのため、実はアグネスと結婚した相手も王位継承者であることが発覚し、国の英雄でもあるだからと、次期国王となる流れになる。
ゲームでありおまけなので、あり得ないほど無理のある話だが、現実となっている今は、その設定が生きているわけである。
「わたしたちはなぜ知らされていなかったのでしょう」
「それは、神官は姦淫してはならないという教義ゆえのことだと存じます」
「だから、異母兄弟などいてはならない、ということでしょうか」
「おっしゃるとおりです」
「でしたらなぜこのように国王様の署名入証明書が遺されているのでしょう」
「ご推察されていらっしゃると存じますが、ハンス王太子殿下以外に嫡子がいらっしゃらない現状ですので、もし、跡継ぎができなかったら、というその可能性を考慮してのことだと存じます」
この事実は、ハンス以外が選ばれた場合のみ知らされることになっていた。
なぜなら、最高神官長という責務を熱心に務めているハンスは、前国王である父を心から尊敬し、生真面目でかつ信心深い性格だからだ。
神官は結婚することは可能だが、姦淫してはならないという戒めは一般の信者の比ではない。生涯妻は一人だけであることはもちろん、死別しても再婚はおろか浮気なんて持ってのほかなのである。
そのため、父である前国王は、母である王妃以外に関係を持ってはならなかった。
この事実を知ったのちに、とても国王としての任を負うことができないほど、壊れてしまうのも無理からぬことなのである。
アグネスを王妃にするためとはいえ、王太子の精神をずたぼろにするこんな設定は哀れなものである。
ただ、そこはゲームの都合ゆえのことなので、後に回復するばかりか、王太子という足かせがなくなったことにより、ハンスにはむしろ幸福な未来が待っている。
「では、わたしの母が彼女であることは……事実なのですね」
ライナーにとっては、ハンス以上に酷な事実に直面することとなってしまった。
信心深いライナーは、忠誠を誓っていた前国王の不義を知ったばかりか、その母が人格的に受け入れがたい相手だったことも同時に知ったのである。
ギルベルタ・シュトライヒという名のポーション中毒者は、もともとこの王城で女中として働いていた。
前国王の目に留まり、王妃の目を盗んで関係を持ったのちに妊娠したギルベルトは、口止め料をたっぷりもらったうえで国境の街ハルシュッフへと秘匿されたのだが、ライナーを孤児院に捨て、豪勢にも金を使い果たしたあと、貧困に喘ぐこととなった。国王のお手つきである事実を吹聴したところで、余所に実子などいるはずがないのだから、誰がこんな女をと信じてもらえず、身を持ち崩していた。
ライナールートだった場合は、哀れなる彼女を救い、過去を赦すことで神の教えを体現し、国王兼最高神官長としての自負が芽生えるという流れだった。
しかし、今回はヨハネスの命によって動いた魔族が、彼女にポーションを渡したことで、あのような事態に変わってしまった。本来のストーリーではない方向へ彼女を誘惑してしまったのだが、性格的にはその素養があったことは残念ながら事実である。
「そのようだな。エレオノーラ様も……彼女も俺の母であるのは間違いないようだ」
イジドーアの母であるエレオノーラ・フィッシャーは、もともと王妃ともなれるほどの名門公爵家の令嬢だった。そのはずが、国王から手籠めにされ、果ては子を身籠ってしまったことで、結婚できない身体となってしまった。恨みに恨んでいたエレオノーラだったが、幼少期より姉のように慕ったいた元侍女が、結婚したのちにその話を聞きつけ、息子を養子に迎えてくれると申し出てくれたのである。安心できる彼女ならと息子を託し、自らは俗世を捨て神官になるべく宣誓をしたのだった。
エレオノーラは、イジドーアが自身の息子であることは知っており、立派に育った息子が、魔王を倒し国を救う英雄にまでなったことを、陰ながら誇りに思っていた。
その息子があの日ルクルー教会へとやってきたことは、彼女の平穏な生活を一変する出来事となった。
本来であれば、アグネスと結婚し、母を探して親子関係を取り戻すだけの話で、最高神官長となるイジドーアにとって神官である母は敬い慕う存在となるはずだった。
そのはずが、恋にやぶれ傷心だったイジドーアは、愛したアグネスとそっくりだったエレオノーラに一目惚れしてしまったのである。設定としては、恋愛に疎いイジドーアにとって、乳児期を共に過ごした母の面影があるアグネスに惚れるという流れなのだが、今回は思慕を募らせたアグネスに似た母へと思いを寄せてしまったのである。
悩みに悩んだエレオノーラは、イジドーアの育ての母である元侍女やバルテンから背中を押されて、会合を機にフグルーアへと上り、息子に母であることを打ち明けた。
そのことでイジドーアは、前国王への不信の念と、二度目の失恋という苦い思いを噛みしめることとなってしまった。
ハンスには相談できないからと、ライナーとミヒャエルが帰って来るまで待ち、戻ってすぐ彼らにその話をして、三人で今日、確認すべくエルンストの元へとやってきたのである。
「まさか国王様が父上だったとは」
「ああ。証明書を見ても信じられない」
「……最高神官長ともあろうお方だ」
「ハンスには伝えないほうがいい」
「……そうだな。戦友が血を分けた兄弟であったことは喜ぶべきことだが、ハンスが知ったらどうなるか」
ライナーとイジドーアは、王位継承者であることを知った喜びなどいっさいないという様子で、それぞれ別の意味で肩を落としながら、エルンストの執務室を後にした。
49
あなたにおすすめの小説
完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました
禅
BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。
その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。
そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。
その目的は――――――
異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話
※小説家になろうにも掲載中
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
オメガのブルーノは第一王子様に愛されたくない
あさざきゆずき
BL
悪事を働く侯爵家に生まれてしまった。両親からスパイ活動を行うよう命じられてしまい、逆らうこともできない。僕は第一王子に接近したものの、騙している罪悪感でいっぱいだった。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる