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1章
10「よくよく考えると特技ってあんまり無いよね」
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「・・・・んあ・・あ、朝?・・」
窓から差し込む朝日が眩しい。
朔夜は大きく伸びをする。
今日はどうやら王様に会わせられるらしい。
「普通に嫌だ・・・」
本音が零れる。
一般人の朔夜としては、わざわざ偉い人と会いたいなんていう気持ちはない。
しかし、自分の身の振り方が今日決まると言うのだから覚悟を決めないといけないところでもある。
顔を水で洗い髪の毛をブラシで梳かす。
鞄の中からメイクセットをかき集め、薄化粧で整える。
服の泥を落としながら、朔夜は今日の謁見のことを考えては胃を痛めていた。
「私、何ができるんだろ・・・」
無条件に「様」付で呼ばれるほど偉い存在なのだろうか。
得意なこと、特技・・・・なんとか自慢できることを探そうとする。
「暗算、とか。パソコンがあればエクセル得意なんだけどな・・・。」
やばい。何も出てこない。
自分の凡人っぷりを嘆いていると、ドアを叩く音が聞こえた。
「!は、はーーい」
慌ててドアを開ける朔夜。
「サクヤ様。おはようございます」
目の前には所謂『メイドさん』が二人いた。
「侍女のメディアと申します。こちらはライラでございます」
優雅に一礼をし微笑む美人メイドさん。
唐突な登場にフリーズしていた朔夜だが、朝食を持ってまいりました、という言葉で復活する。
「(うわーーー本物のメイドさん?メイドさん?すごい~)あ、あ、えっと、ありがとうございます・・どどどどうぞ」
侍女と名乗っているものの気品に満ちた動作に見惚れてしまう。
「サクヤ様。昨晩お越しになったとおうかがいしております。早朝より申し訳ございません」
ライラが滑らかに朝食の用意をしている間、メディアが朔夜へ心苦しそうに謝罪をする。
全てが突然のスケジュールとはいえ、目の前の『異邦人』様に負担を強いていることに変わりはない。
「絶対に『異邦人』様の機嫌を損ねるな」と厳命されているため、優秀な侍女2名は緊張していた。
「あ、いえ、とんでもないです。あ・・・このジュース美味しい・・・」
当の朔夜本人は「美人に囲まれて嬉しいやら気まずいやら」なんていうくだらないことを考えていた。
「お気に召されて何よりでございます。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
にこにこと朝食を頬張る朔夜を見てほっとする侍女。
この後朔夜を着飾るところまでが彼女達のミッションだ。気を抜かずにいきたい。
「サクヤ様。この後はご用意までお手伝いさせて頂きます。九つの鐘のなる頃に、騎士団長がお迎えにいらっしゃいます」
「あう・・・はい・・・」
朝食を食べ終わりのほほんと水を飲んでいた朔夜は現実に戻される。
「何着かご用意したけれど・・・・こちらの・・・いや、青の方が素敵かしら・・・?」
「・・・・赤もお似合いじゃない?」
「す、捨てがたいわね・・・。」
何やら顔を見合わせて相談している侍女2人だが、この後のことを考えて朔夜は緊張による震えがとまらなかった。
「(自己紹介・・・最初は自己紹介だよね?なんだ、なんて、なんて説明すればいいの・・・・)」
なるようになれ、とは割り切れず、必死に自己紹介文を考える。
「青にしましょう。アクセサリーで他の色を取り入れれば良いわ」
「・・・・そうね。華奢でいらっしゃるから、髪型は・・・」
「(大学生です、ってこの国にも大学ってあるのかな・・・・。大学って何?高等教育機関?)」
「サクヤ様、サクヤ様。失礼いたします」
「!!!は、はい」
考え込んでいた朔夜は活き活きと笑顔を浮かべる侍女を見つめ返す。
「お召し物を失礼いたします」
「お辛かったらおっしゃってくださいませ」
「え、あ、え、ドレス、ですか?」
シュパパパパという擬音語が似合うほど、侍女2人の手際が良かった。
手際が良すぎて「え、こんな恰好するの?」という朔夜の疑問もかき消されてしまう。
「お化粧失礼いたします」
「御髪を整えますね」
「(なにこのスーパーメイドさん!!表参道の美容院かな??!!)」
何も逆らえないと悟った朔夜は自己紹介スピーチのイメトレをして現実逃避することにした。
「(月海朔夜です。20歳です。大学という、高等教育機関に所属しています。専門は法律です。特技は暗算です。・・・・・いや酷すぎる。中学生の英作文みたい。つらい。)」
向こうから質問してくれるよね、と朔夜は諦めることにした。
「サクヤ様。お待たせいたしました」
「靴はこちらにご用意しております」
やりきった、という表情のメディアとライラ。
「ごめんなさい、任せっきりで・・・・!」
まさか20歳にもなってお着替えを手伝ってもらうとは・・・・気恥ずかしさが溢れてくる。
「サクヤ様!とんでもございません」
「これより末永くお仕えさせて頂きます」
「・・・?お、おつかえ?」
しずしずと当たり前のように傅く二人。
呆気にとられていると、ドアが強く叩かれる。
出なきゃ、と動こうとする朔夜をライラが引き止め、メディアが対応する。
「サクヤ様。今後はお側に私達がおりますので」
にっこりとほほ笑むライラ。
「(お仕えってそういうこと?!しょ、庶民には慣れないよ~~)」
ライラには引き攣った笑みしか返すことが出来なかった。
「サクヤ様。ニール騎士団長がお迎えにいらっしゃいました」
メディアに声をかけられ振り向くと、相変わらず華やかな騎士団長がいた。
「サクヤ殿!・・・お疲れのところ申し訳ない。王の間へ起こし頂きたく」
着飾った朔夜に一瞬見惚れてしまうニール。
慌てて一礼をし、手を差し出す。
「おはようございます。どうぞ宜しくお願いいたします」
緊張でガチガチになっている朔夜はニールの手に気付かない。
「サクヤ様・・・手を・・・」
メディアに囁かれ、朔夜はハッとする。
「サクヤ殿。王は穏やかな方だ。落ち着かれよ」
引き攣っている朔夜の姿に苦笑しつつ、ニールは改めて手を差し出す。
「ご、ごめんなさい」
気まずそうに手を差出し返す朔夜の手を優しく握り、ニールは歩き出す。
「痛みは大丈夫か?」
歩くのが辛ければ抱えるが?というニールの問いに慌てて首を横に振る。
「副団長様のおかげですっかり治りました!」
「おお、それは僥倖。サクヤ殿、アデルバートや俺のことは呼び捨てで良い。貴方は王族に並ぶ方なのだから」
「そそそそそんな、滅相も、ないです。とんでもないです!!!」
副団長さんを呼び捨てになんてしたら睨まれて死ぬ!絶対に無理!
なんて心臓に悪いことを言うんだ。団長さんのバカ。
「(アデルバート、あいつ第一印象最悪だったんだろうな・・・)まあ、気楽に、な。うん」
青ざめてプルプルしている朔夜を横目で見つつ、ニールはアデルバートを哀れに思う。
雑談を重ねる中で朔夜も落ち着きを取り戻しつつあった。
この世界にきて数日であろうとも、顔見知りである団長が側にいるのは有難い。
・・・・・できれば気さくなレイが良かったが。
「サクヤ殿。間もなく到着だ。なに、素直にありのまま、で問題ない」
穏やかなニールの言葉に覚悟を決める。
こくりと頷いた朔夜を確認し、ニールは扉の前に待機している兵士に対して堂々と伝える。
「『異邦人』、サクヤ・ツキウミ様である!」
窓から差し込む朝日が眩しい。
朔夜は大きく伸びをする。
今日はどうやら王様に会わせられるらしい。
「普通に嫌だ・・・」
本音が零れる。
一般人の朔夜としては、わざわざ偉い人と会いたいなんていう気持ちはない。
しかし、自分の身の振り方が今日決まると言うのだから覚悟を決めないといけないところでもある。
顔を水で洗い髪の毛をブラシで梳かす。
鞄の中からメイクセットをかき集め、薄化粧で整える。
服の泥を落としながら、朔夜は今日の謁見のことを考えては胃を痛めていた。
「私、何ができるんだろ・・・」
無条件に「様」付で呼ばれるほど偉い存在なのだろうか。
得意なこと、特技・・・・なんとか自慢できることを探そうとする。
「暗算、とか。パソコンがあればエクセル得意なんだけどな・・・。」
やばい。何も出てこない。
自分の凡人っぷりを嘆いていると、ドアを叩く音が聞こえた。
「!は、はーーい」
慌ててドアを開ける朔夜。
「サクヤ様。おはようございます」
目の前には所謂『メイドさん』が二人いた。
「侍女のメディアと申します。こちらはライラでございます」
優雅に一礼をし微笑む美人メイドさん。
唐突な登場にフリーズしていた朔夜だが、朝食を持ってまいりました、という言葉で復活する。
「(うわーーー本物のメイドさん?メイドさん?すごい~)あ、あ、えっと、ありがとうございます・・どどどどうぞ」
侍女と名乗っているものの気品に満ちた動作に見惚れてしまう。
「サクヤ様。昨晩お越しになったとおうかがいしております。早朝より申し訳ございません」
ライラが滑らかに朝食の用意をしている間、メディアが朔夜へ心苦しそうに謝罪をする。
全てが突然のスケジュールとはいえ、目の前の『異邦人』様に負担を強いていることに変わりはない。
「絶対に『異邦人』様の機嫌を損ねるな」と厳命されているため、優秀な侍女2名は緊張していた。
「あ、いえ、とんでもないです。あ・・・このジュース美味しい・・・」
当の朔夜本人は「美人に囲まれて嬉しいやら気まずいやら」なんていうくだらないことを考えていた。
「お気に召されて何よりでございます。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
にこにこと朝食を頬張る朔夜を見てほっとする侍女。
この後朔夜を着飾るところまでが彼女達のミッションだ。気を抜かずにいきたい。
「サクヤ様。この後はご用意までお手伝いさせて頂きます。九つの鐘のなる頃に、騎士団長がお迎えにいらっしゃいます」
「あう・・・はい・・・」
朝食を食べ終わりのほほんと水を飲んでいた朔夜は現実に戻される。
「何着かご用意したけれど・・・・こちらの・・・いや、青の方が素敵かしら・・・?」
「・・・・赤もお似合いじゃない?」
「す、捨てがたいわね・・・。」
何やら顔を見合わせて相談している侍女2人だが、この後のことを考えて朔夜は緊張による震えがとまらなかった。
「(自己紹介・・・最初は自己紹介だよね?なんだ、なんて、なんて説明すればいいの・・・・)」
なるようになれ、とは割り切れず、必死に自己紹介文を考える。
「青にしましょう。アクセサリーで他の色を取り入れれば良いわ」
「・・・・そうね。華奢でいらっしゃるから、髪型は・・・」
「(大学生です、ってこの国にも大学ってあるのかな・・・・。大学って何?高等教育機関?)」
「サクヤ様、サクヤ様。失礼いたします」
「!!!は、はい」
考え込んでいた朔夜は活き活きと笑顔を浮かべる侍女を見つめ返す。
「お召し物を失礼いたします」
「お辛かったらおっしゃってくださいませ」
「え、あ、え、ドレス、ですか?」
シュパパパパという擬音語が似合うほど、侍女2人の手際が良かった。
手際が良すぎて「え、こんな恰好するの?」という朔夜の疑問もかき消されてしまう。
「お化粧失礼いたします」
「御髪を整えますね」
「(なにこのスーパーメイドさん!!表参道の美容院かな??!!)」
何も逆らえないと悟った朔夜は自己紹介スピーチのイメトレをして現実逃避することにした。
「(月海朔夜です。20歳です。大学という、高等教育機関に所属しています。専門は法律です。特技は暗算です。・・・・・いや酷すぎる。中学生の英作文みたい。つらい。)」
向こうから質問してくれるよね、と朔夜は諦めることにした。
「サクヤ様。お待たせいたしました」
「靴はこちらにご用意しております」
やりきった、という表情のメディアとライラ。
「ごめんなさい、任せっきりで・・・・!」
まさか20歳にもなってお着替えを手伝ってもらうとは・・・・気恥ずかしさが溢れてくる。
「サクヤ様!とんでもございません」
「これより末永くお仕えさせて頂きます」
「・・・?お、おつかえ?」
しずしずと当たり前のように傅く二人。
呆気にとられていると、ドアが強く叩かれる。
出なきゃ、と動こうとする朔夜をライラが引き止め、メディアが対応する。
「サクヤ様。今後はお側に私達がおりますので」
にっこりとほほ笑むライラ。
「(お仕えってそういうこと?!しょ、庶民には慣れないよ~~)」
ライラには引き攣った笑みしか返すことが出来なかった。
「サクヤ様。ニール騎士団長がお迎えにいらっしゃいました」
メディアに声をかけられ振り向くと、相変わらず華やかな騎士団長がいた。
「サクヤ殿!・・・お疲れのところ申し訳ない。王の間へ起こし頂きたく」
着飾った朔夜に一瞬見惚れてしまうニール。
慌てて一礼をし、手を差し出す。
「おはようございます。どうぞ宜しくお願いいたします」
緊張でガチガチになっている朔夜はニールの手に気付かない。
「サクヤ様・・・手を・・・」
メディアに囁かれ、朔夜はハッとする。
「サクヤ殿。王は穏やかな方だ。落ち着かれよ」
引き攣っている朔夜の姿に苦笑しつつ、ニールは改めて手を差し出す。
「ご、ごめんなさい」
気まずそうに手を差出し返す朔夜の手を優しく握り、ニールは歩き出す。
「痛みは大丈夫か?」
歩くのが辛ければ抱えるが?というニールの問いに慌てて首を横に振る。
「副団長様のおかげですっかり治りました!」
「おお、それは僥倖。サクヤ殿、アデルバートや俺のことは呼び捨てで良い。貴方は王族に並ぶ方なのだから」
「そそそそそんな、滅相も、ないです。とんでもないです!!!」
副団長さんを呼び捨てになんてしたら睨まれて死ぬ!絶対に無理!
なんて心臓に悪いことを言うんだ。団長さんのバカ。
「(アデルバート、あいつ第一印象最悪だったんだろうな・・・)まあ、気楽に、な。うん」
青ざめてプルプルしている朔夜を横目で見つつ、ニールはアデルバートを哀れに思う。
雑談を重ねる中で朔夜も落ち着きを取り戻しつつあった。
この世界にきて数日であろうとも、顔見知りである団長が側にいるのは有難い。
・・・・・できれば気さくなレイが良かったが。
「サクヤ殿。間もなく到着だ。なに、素直にありのまま、で問題ない」
穏やかなニールの言葉に覚悟を決める。
こくりと頷いた朔夜を確認し、ニールは扉の前に待機している兵士に対して堂々と伝える。
「『異邦人』、サクヤ・ツキウミ様である!」
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