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第2話
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「なかなか、見応えのある舞台だったわね」
舞台の悪役令嬢が昔の自分を思い出して、感情移入しちゃったわ。
「ええ!マインセン様が格好良かったわぁ!近過ぎて緊張し過ぎちゃって、もうが膝ガクガクよう」
ステフィが赤い顔をしてよろめくと、隣にいた男性にぶつかってしまった。
「なんだ!?痛いじゃないか!」
そう言って怒ってきたのは名門伯爵家の令息リドット・ラバイスだった。
「も、申し訳ございません!」
慌てて謝るステフィにリドットはさらに怒鳴り散らす。
「申し訳ございません!?この俺にぶつかっておいて、謝っただけで済むとでも思ってるのか!」
私とステフィの家は伯爵家といえども、伯爵位の中では下位の家柄。名門伯爵家に逆らうなど出来るわけがない。
「も、申し訳ございません!」
ステフィは震えながらもう一度深々と頭を下げた。
「だーかーらー、謝っただけじゃ駄目だって言ってるだろう!!」
しかし、リドットは一向に許す気配もなく、ネチネチとステフィを責め立てる。
全く、こういう輩はいつになってもいるものね!
カーラは呆れたように溜息を吐くとリドットに向かって言った。
「ぶつかってしまったのはステフィの不注意ですけれど、謝っている者をさらに責め立てるのはどうなのですか?」
「なんだ、お前?」
割り込んできたカーラにもリドットは見下した視線を向ける。
「カーラ・ミッシェルと申します」
「ミッシェル……?ああ、なんだよ!お前も下位の伯爵家の娘じゃないか!よくも俺にそんな口を聞けるな!俺が誰なのか知らないのか!?」
「あなた様は、名門伯爵家ラバイス家のご令息、リドット様ですわね?ラバイス家の方々は、その名門の名に恥じぬ誠実な人柄であると聞いておりますが、そんなラバイス家のご令息が、まさかよろけてぶつかった令嬢に怒鳴り散らしているなどと、醜聞が広まらなければよろしいのですが……」
そう言ってカーラは周囲を見回した。
周りにはこの騒ぎに何事かと野次馬が集まっていた。
「な、なんだ!?俺が悪いとでも言いたいのか!?だ、大体この女がぶつかってきたのが悪いんだよ!!」
そう言ってリドットはステフィを力任せに押した。
「キャッ!!」
リドットに押されたステフィは、勢いよく転びそうになる。
「おっと!」
転びそうになったステフィを支えたのは背の高いサラリとした黒髪に凛々しい顔立ちの男だった。
「一体、これはなんの騒ぎですか?女性に暴力を振るうのは感心いたしませんね」
そう言うと黒髪の男はリドットを鋭く睨んだ。
「う……、そ、そっちが先にぶつかってきたんだよ!」
リドットは、黒髪の男の迫力に明らかに怖気づいているのが分かる。
「だから、腹いせに女性を力任せに押したと?」
迫力のある低い声にリドットの顔色は青くなる。
「ちゃ、ちゃんと謝らないからだろう!もういい!」
そう言うとリドットは逃げるように去っていった。
リドットが去っていくと、黒髪の男は支えていたステフィに優しく聞いた。
「お怪我はありませんか?」
「は、はい……」
ああ、ステフィの顔が乙女になっているわ。
すると、友人の心をさっそく奪った男が、今度はこちらを振り返る。
「貴方もお怪我などはありませんか?」
「ええ。私は何ともありませんわ」
「そうですか。貴方はとても勇敢でしたが、あのような傲慢な男に立ち向かうのは危険です。こういう時はどうか我らを頼ってください。では」
そう言うと、黒髪の男は颯爽と立ち去っていった。
「カーラ、どうしよう!!彼……素敵すぎる!!」
さっそくステフィが騒ぎ始めた。けれど……、平民を装っていたが、あれはアーロン王子の近衛騎士ヴェルナー・ダンテルではないかしら。以前、祝賀パレードで王子と共にいたのを見たわ。女性に人気の黒髪の近衛騎士。確か、上級貴族の令嬢でも狙っている方が多数いたはず……。
「ステフィ……、盛り上がってる所悪いけど、彼、アーロン王子の近衛騎士のヴェルナー・ダンテル様じゃないかしら?だから、とても私達が近付けるような方では……」
「え?それなら、王宮関連の行事で拝見出来るじゃない!!私は好きな殿方の活躍を遠くから拝見するのが好きなの!」
「そう?それならいいんだけど……」
どうやら、余計な心配だったみたいね。
◇◆◇
一方ステフィ達を助けたヴェルナーは、目立たぬように隠れて様子を伺っていた主君の元へ戻ってきた。
「アーロン様、お待たせして申し訳ございません」
鮮やかな金髪と青い瞳を隠すように帽子を目深に被り、平民の服を着たこの国の王子、アーロン・ハンメルンである。
「構わんが、お前がわざわざ行かなくても、そこにいる警備兵に任せればよかったんじゃないか?」
「まあ、そうなんですが……。でも私が行った方が話が早そうでしたから」
そう言ってヴェルナーは微笑んだ。
「またお前はそうやって、令嬢のファンを増やして……」
「大丈夫ですよ。今日の私は平民ですから」
とヴェルナーは自身の服を見せるようにポーズをとった。
「いや、お前、あの友人の令嬢に正体がバレていたからな。俺は知らんぞ。女達の血みどろな争いが始まっても」
「殿下の妃争いに比べれば、とてもとても」
ヴェルナーの言葉にアーロンは瞬時に嫌そうな顔付きに変わった。
「はあ。嫌な事を思い出させるな。頭が痛くなる……」
アーロンはそう言うと今度は苦悩の表情を浮かべたのだった。
舞台の悪役令嬢が昔の自分を思い出して、感情移入しちゃったわ。
「ええ!マインセン様が格好良かったわぁ!近過ぎて緊張し過ぎちゃって、もうが膝ガクガクよう」
ステフィが赤い顔をしてよろめくと、隣にいた男性にぶつかってしまった。
「なんだ!?痛いじゃないか!」
そう言って怒ってきたのは名門伯爵家の令息リドット・ラバイスだった。
「も、申し訳ございません!」
慌てて謝るステフィにリドットはさらに怒鳴り散らす。
「申し訳ございません!?この俺にぶつかっておいて、謝っただけで済むとでも思ってるのか!」
私とステフィの家は伯爵家といえども、伯爵位の中では下位の家柄。名門伯爵家に逆らうなど出来るわけがない。
「も、申し訳ございません!」
ステフィは震えながらもう一度深々と頭を下げた。
「だーかーらー、謝っただけじゃ駄目だって言ってるだろう!!」
しかし、リドットは一向に許す気配もなく、ネチネチとステフィを責め立てる。
全く、こういう輩はいつになってもいるものね!
カーラは呆れたように溜息を吐くとリドットに向かって言った。
「ぶつかってしまったのはステフィの不注意ですけれど、謝っている者をさらに責め立てるのはどうなのですか?」
「なんだ、お前?」
割り込んできたカーラにもリドットは見下した視線を向ける。
「カーラ・ミッシェルと申します」
「ミッシェル……?ああ、なんだよ!お前も下位の伯爵家の娘じゃないか!よくも俺にそんな口を聞けるな!俺が誰なのか知らないのか!?」
「あなた様は、名門伯爵家ラバイス家のご令息、リドット様ですわね?ラバイス家の方々は、その名門の名に恥じぬ誠実な人柄であると聞いておりますが、そんなラバイス家のご令息が、まさかよろけてぶつかった令嬢に怒鳴り散らしているなどと、醜聞が広まらなければよろしいのですが……」
そう言ってカーラは周囲を見回した。
周りにはこの騒ぎに何事かと野次馬が集まっていた。
「な、なんだ!?俺が悪いとでも言いたいのか!?だ、大体この女がぶつかってきたのが悪いんだよ!!」
そう言ってリドットはステフィを力任せに押した。
「キャッ!!」
リドットに押されたステフィは、勢いよく転びそうになる。
「おっと!」
転びそうになったステフィを支えたのは背の高いサラリとした黒髪に凛々しい顔立ちの男だった。
「一体、これはなんの騒ぎですか?女性に暴力を振るうのは感心いたしませんね」
そう言うと黒髪の男はリドットを鋭く睨んだ。
「う……、そ、そっちが先にぶつかってきたんだよ!」
リドットは、黒髪の男の迫力に明らかに怖気づいているのが分かる。
「だから、腹いせに女性を力任せに押したと?」
迫力のある低い声にリドットの顔色は青くなる。
「ちゃ、ちゃんと謝らないからだろう!もういい!」
そう言うとリドットは逃げるように去っていった。
リドットが去っていくと、黒髪の男は支えていたステフィに優しく聞いた。
「お怪我はありませんか?」
「は、はい……」
ああ、ステフィの顔が乙女になっているわ。
すると、友人の心をさっそく奪った男が、今度はこちらを振り返る。
「貴方もお怪我などはありませんか?」
「ええ。私は何ともありませんわ」
「そうですか。貴方はとても勇敢でしたが、あのような傲慢な男に立ち向かうのは危険です。こういう時はどうか我らを頼ってください。では」
そう言うと、黒髪の男は颯爽と立ち去っていった。
「カーラ、どうしよう!!彼……素敵すぎる!!」
さっそくステフィが騒ぎ始めた。けれど……、平民を装っていたが、あれはアーロン王子の近衛騎士ヴェルナー・ダンテルではないかしら。以前、祝賀パレードで王子と共にいたのを見たわ。女性に人気の黒髪の近衛騎士。確か、上級貴族の令嬢でも狙っている方が多数いたはず……。
「ステフィ……、盛り上がってる所悪いけど、彼、アーロン王子の近衛騎士のヴェルナー・ダンテル様じゃないかしら?だから、とても私達が近付けるような方では……」
「え?それなら、王宮関連の行事で拝見出来るじゃない!!私は好きな殿方の活躍を遠くから拝見するのが好きなの!」
「そう?それならいいんだけど……」
どうやら、余計な心配だったみたいね。
◇◆◇
一方ステフィ達を助けたヴェルナーは、目立たぬように隠れて様子を伺っていた主君の元へ戻ってきた。
「アーロン様、お待たせして申し訳ございません」
鮮やかな金髪と青い瞳を隠すように帽子を目深に被り、平民の服を着たこの国の王子、アーロン・ハンメルンである。
「構わんが、お前がわざわざ行かなくても、そこにいる警備兵に任せればよかったんじゃないか?」
「まあ、そうなんですが……。でも私が行った方が話が早そうでしたから」
そう言ってヴェルナーは微笑んだ。
「またお前はそうやって、令嬢のファンを増やして……」
「大丈夫ですよ。今日の私は平民ですから」
とヴェルナーは自身の服を見せるようにポーズをとった。
「いや、お前、あの友人の令嬢に正体がバレていたからな。俺は知らんぞ。女達の血みどろな争いが始まっても」
「殿下の妃争いに比べれば、とてもとても」
ヴェルナーの言葉にアーロンは瞬時に嫌そうな顔付きに変わった。
「はあ。嫌な事を思い出させるな。頭が痛くなる……」
アーロンはそう言うと今度は苦悩の表情を浮かべたのだった。
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