2 / 11
第2話
しおりを挟む
「なかなか、見応えのある舞台だったわね」
舞台の悪役令嬢が昔の自分を思い出して、感情移入しちゃったわ。
「ええ!マインセン様が格好良かったわぁ!近過ぎて緊張し過ぎちゃって、もうが膝ガクガクよう」
ステフィが赤い顔をしてよろめくと、隣にいた男性にぶつかってしまった。
「なんだ!?痛いじゃないか!」
そう言って怒ってきたのは名門伯爵家の令息リドット・ラバイスだった。
「も、申し訳ございません!」
慌てて謝るステフィにリドットはさらに怒鳴り散らす。
「申し訳ございません!?この俺にぶつかっておいて、謝っただけで済むとでも思ってるのか!」
私とステフィの家は伯爵家といえども、伯爵位の中では下位の家柄。名門伯爵家に逆らうなど出来るわけがない。
「も、申し訳ございません!」
ステフィは震えながらもう一度深々と頭を下げた。
「だーかーらー、謝っただけじゃ駄目だって言ってるだろう!!」
しかし、リドットは一向に許す気配もなく、ネチネチとステフィを責め立てる。
全く、こういう輩はいつになってもいるものね!
カーラは呆れたように溜息を吐くとリドットに向かって言った。
「ぶつかってしまったのはステフィの不注意ですけれど、謝っている者をさらに責め立てるのはどうなのですか?」
「なんだ、お前?」
割り込んできたカーラにもリドットは見下した視線を向ける。
「カーラ・ミッシェルと申します」
「ミッシェル……?ああ、なんだよ!お前も下位の伯爵家の娘じゃないか!よくも俺にそんな口を聞けるな!俺が誰なのか知らないのか!?」
「あなた様は、名門伯爵家ラバイス家のご令息、リドット様ですわね?ラバイス家の方々は、その名門の名に恥じぬ誠実な人柄であると聞いておりますが、そんなラバイス家のご令息が、まさかよろけてぶつかった令嬢に怒鳴り散らしているなどと、醜聞が広まらなければよろしいのですが……」
そう言ってカーラは周囲を見回した。
周りにはこの騒ぎに何事かと野次馬が集まっていた。
「な、なんだ!?俺が悪いとでも言いたいのか!?だ、大体この女がぶつかってきたのが悪いんだよ!!」
そう言ってリドットはステフィを力任せに押した。
「キャッ!!」
リドットに押されたステフィは、勢いよく転びそうになる。
「おっと!」
転びそうになったステフィを支えたのは背の高いサラリとした黒髪に凛々しい顔立ちの男だった。
「一体、これはなんの騒ぎですか?女性に暴力を振るうのは感心いたしませんね」
そう言うと黒髪の男はリドットを鋭く睨んだ。
「う……、そ、そっちが先にぶつかってきたんだよ!」
リドットは、黒髪の男の迫力に明らかに怖気づいているのが分かる。
「だから、腹いせに女性を力任せに押したと?」
迫力のある低い声にリドットの顔色は青くなる。
「ちゃ、ちゃんと謝らないからだろう!もういい!」
そう言うとリドットは逃げるように去っていった。
リドットが去っていくと、黒髪の男は支えていたステフィに優しく聞いた。
「お怪我はありませんか?」
「は、はい……」
ああ、ステフィの顔が乙女になっているわ。
すると、友人の心をさっそく奪った男が、今度はこちらを振り返る。
「貴方もお怪我などはありませんか?」
「ええ。私は何ともありませんわ」
「そうですか。貴方はとても勇敢でしたが、あのような傲慢な男に立ち向かうのは危険です。こういう時はどうか我らを頼ってください。では」
そう言うと、黒髪の男は颯爽と立ち去っていった。
「カーラ、どうしよう!!彼……素敵すぎる!!」
さっそくステフィが騒ぎ始めた。けれど……、平民を装っていたが、あれはアーロン王子の近衛騎士ヴェルナー・ダンテルではないかしら。以前、祝賀パレードで王子と共にいたのを見たわ。女性に人気の黒髪の近衛騎士。確か、上級貴族の令嬢でも狙っている方が多数いたはず……。
「ステフィ……、盛り上がってる所悪いけど、彼、アーロン王子の近衛騎士のヴェルナー・ダンテル様じゃないかしら?だから、とても私達が近付けるような方では……」
「え?それなら、王宮関連の行事で拝見出来るじゃない!!私は好きな殿方の活躍を遠くから拝見するのが好きなの!」
「そう?それならいいんだけど……」
どうやら、余計な心配だったみたいね。
◇◆◇
一方ステフィ達を助けたヴェルナーは、目立たぬように隠れて様子を伺っていた主君の元へ戻ってきた。
「アーロン様、お待たせして申し訳ございません」
鮮やかな金髪と青い瞳を隠すように帽子を目深に被り、平民の服を着たこの国の王子、アーロン・ハンメルンである。
「構わんが、お前がわざわざ行かなくても、そこにいる警備兵に任せればよかったんじゃないか?」
「まあ、そうなんですが……。でも私が行った方が話が早そうでしたから」
そう言ってヴェルナーは微笑んだ。
「またお前はそうやって、令嬢のファンを増やして……」
「大丈夫ですよ。今日の私は平民ですから」
とヴェルナーは自身の服を見せるようにポーズをとった。
「いや、お前、あの友人の令嬢に正体がバレていたからな。俺は知らんぞ。女達の血みどろな争いが始まっても」
「殿下の妃争いに比べれば、とてもとても」
ヴェルナーの言葉にアーロンは瞬時に嫌そうな顔付きに変わった。
「はあ。嫌な事を思い出させるな。頭が痛くなる……」
アーロンはそう言うと今度は苦悩の表情を浮かべたのだった。
舞台の悪役令嬢が昔の自分を思い出して、感情移入しちゃったわ。
「ええ!マインセン様が格好良かったわぁ!近過ぎて緊張し過ぎちゃって、もうが膝ガクガクよう」
ステフィが赤い顔をしてよろめくと、隣にいた男性にぶつかってしまった。
「なんだ!?痛いじゃないか!」
そう言って怒ってきたのは名門伯爵家の令息リドット・ラバイスだった。
「も、申し訳ございません!」
慌てて謝るステフィにリドットはさらに怒鳴り散らす。
「申し訳ございません!?この俺にぶつかっておいて、謝っただけで済むとでも思ってるのか!」
私とステフィの家は伯爵家といえども、伯爵位の中では下位の家柄。名門伯爵家に逆らうなど出来るわけがない。
「も、申し訳ございません!」
ステフィは震えながらもう一度深々と頭を下げた。
「だーかーらー、謝っただけじゃ駄目だって言ってるだろう!!」
しかし、リドットは一向に許す気配もなく、ネチネチとステフィを責め立てる。
全く、こういう輩はいつになってもいるものね!
カーラは呆れたように溜息を吐くとリドットに向かって言った。
「ぶつかってしまったのはステフィの不注意ですけれど、謝っている者をさらに責め立てるのはどうなのですか?」
「なんだ、お前?」
割り込んできたカーラにもリドットは見下した視線を向ける。
「カーラ・ミッシェルと申します」
「ミッシェル……?ああ、なんだよ!お前も下位の伯爵家の娘じゃないか!よくも俺にそんな口を聞けるな!俺が誰なのか知らないのか!?」
「あなた様は、名門伯爵家ラバイス家のご令息、リドット様ですわね?ラバイス家の方々は、その名門の名に恥じぬ誠実な人柄であると聞いておりますが、そんなラバイス家のご令息が、まさかよろけてぶつかった令嬢に怒鳴り散らしているなどと、醜聞が広まらなければよろしいのですが……」
そう言ってカーラは周囲を見回した。
周りにはこの騒ぎに何事かと野次馬が集まっていた。
「な、なんだ!?俺が悪いとでも言いたいのか!?だ、大体この女がぶつかってきたのが悪いんだよ!!」
そう言ってリドットはステフィを力任せに押した。
「キャッ!!」
リドットに押されたステフィは、勢いよく転びそうになる。
「おっと!」
転びそうになったステフィを支えたのは背の高いサラリとした黒髪に凛々しい顔立ちの男だった。
「一体、これはなんの騒ぎですか?女性に暴力を振るうのは感心いたしませんね」
そう言うと黒髪の男はリドットを鋭く睨んだ。
「う……、そ、そっちが先にぶつかってきたんだよ!」
リドットは、黒髪の男の迫力に明らかに怖気づいているのが分かる。
「だから、腹いせに女性を力任せに押したと?」
迫力のある低い声にリドットの顔色は青くなる。
「ちゃ、ちゃんと謝らないからだろう!もういい!」
そう言うとリドットは逃げるように去っていった。
リドットが去っていくと、黒髪の男は支えていたステフィに優しく聞いた。
「お怪我はありませんか?」
「は、はい……」
ああ、ステフィの顔が乙女になっているわ。
すると、友人の心をさっそく奪った男が、今度はこちらを振り返る。
「貴方もお怪我などはありませんか?」
「ええ。私は何ともありませんわ」
「そうですか。貴方はとても勇敢でしたが、あのような傲慢な男に立ち向かうのは危険です。こういう時はどうか我らを頼ってください。では」
そう言うと、黒髪の男は颯爽と立ち去っていった。
「カーラ、どうしよう!!彼……素敵すぎる!!」
さっそくステフィが騒ぎ始めた。けれど……、平民を装っていたが、あれはアーロン王子の近衛騎士ヴェルナー・ダンテルではないかしら。以前、祝賀パレードで王子と共にいたのを見たわ。女性に人気の黒髪の近衛騎士。確か、上級貴族の令嬢でも狙っている方が多数いたはず……。
「ステフィ……、盛り上がってる所悪いけど、彼、アーロン王子の近衛騎士のヴェルナー・ダンテル様じゃないかしら?だから、とても私達が近付けるような方では……」
「え?それなら、王宮関連の行事で拝見出来るじゃない!!私は好きな殿方の活躍を遠くから拝見するのが好きなの!」
「そう?それならいいんだけど……」
どうやら、余計な心配だったみたいね。
◇◆◇
一方ステフィ達を助けたヴェルナーは、目立たぬように隠れて様子を伺っていた主君の元へ戻ってきた。
「アーロン様、お待たせして申し訳ございません」
鮮やかな金髪と青い瞳を隠すように帽子を目深に被り、平民の服を着たこの国の王子、アーロン・ハンメルンである。
「構わんが、お前がわざわざ行かなくても、そこにいる警備兵に任せればよかったんじゃないか?」
「まあ、そうなんですが……。でも私が行った方が話が早そうでしたから」
そう言ってヴェルナーは微笑んだ。
「またお前はそうやって、令嬢のファンを増やして……」
「大丈夫ですよ。今日の私は平民ですから」
とヴェルナーは自身の服を見せるようにポーズをとった。
「いや、お前、あの友人の令嬢に正体がバレていたからな。俺は知らんぞ。女達の血みどろな争いが始まっても」
「殿下の妃争いに比べれば、とてもとても」
ヴェルナーの言葉にアーロンは瞬時に嫌そうな顔付きに変わった。
「はあ。嫌な事を思い出させるな。頭が痛くなる……」
アーロンはそう言うと今度は苦悩の表情を浮かべたのだった。
303
あなたにおすすめの小説
【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。
キーノ
恋愛
わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。
ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。
だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。
こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、推しと穏やかに過ごしますわ。
※さくっと読める悪役令嬢モノです。
2月14~15日に全話、投稿完了。
感想、誤字、脱字など受け付けます。
沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です!
恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
虐げられて過労死した聖女は平凡生活を満喫する。が、前世の婚約者が付きまとうんですけど!?
リオール
恋愛
前世は悲惨な最期を遂げた聖女でした。
なので今世では平凡に、平和に、幸せ掴んで生きていきます。
──の予定だったのに。
なぜか前世の婚約者がやって来て、求愛されてます。私まだ子供なんですけど?
更に前世の兄が王になってやってきました。え、また王家の為に祈れって?冗談じゃないです!!
※以前書いてたものを修正して再UPです。
前回は別作品に力を入れるために更新ストップしちゃったので一旦消しました。
以前のでお気に入り登録してくださってた方、申し訳ありません。
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
筋書きどおりに婚約破棄したのですが、想定外の事態に巻き込まれています。
一花カナウ
恋愛
第二王子のヨハネスと婚約が決まったとき、私はこの世界が前世で愛読していた物語の世界であることに気づく。
そして、この婚約がのちに解消されることも思い出していた。
ヨハネスは優しくていい人であるが、私にはもったいない人物。
慕ってはいても恋には至らなかった。
やがて、婚約破棄のシーンが訪れる。
私はヨハネスと別れを告げて、新たな人生を歩みだす
――はずだったのに、ちょっと待って、ここはどこですかっ⁉︎
しかも、ベッドに鎖で繋がれているんですけどっ⁉︎
困惑する私の前に現れたのは、意外な人物で……
えっと、あなたは助けにきたわけじゃなくて、犯人ってことですよね?
※ムーンライトノベルズで公開中の同名の作品に加筆修正(微調整?)したものをこちらで掲載しています。
※pixivにも掲載。
8/29 15時台HOTランキング 5位、恋愛カテゴリー3位ありがとうございます( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
【完結】私のことが大好きな婚約者さま
咲雪
恋愛
私は、リアーナ・ムスカ侯爵子女。第二王子アレンディオ・ルーデンス殿下の婚約者です。アレンディオ殿下の5歳上の第一王子が病に倒れて3年経ちました。アレンディオ殿下を王太子にと推す声が大きくなってきました。王子妃として嫁ぐつもりで婚約したのに、王太子妃なんて聞いてません。悩ましく、鬱鬱した日々。私は一体どうなるの?
・sideリアーナは、王太子妃なんて聞いてない!と悩むところから始まります。
・sideアレンディオは、とにかくアレンディオが頑張る話です。
※番外編含め全28話完結、予約投稿済みです。
※ご都合展開ありです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる