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第9話
しおりを挟む翌日から他の妃候補と共にカーラも妃教育が始まった――
「まあ!流石、ジャクリーナ様!リネッセル語もよく理解されてますわ」
語学の先生はジャクリーナを褒め称えた。
「当然よ。他国の言語だって理解出来なければ、王子の妃になんてなれないもの」
ジャクリーナはそう言って、他の妃候補に得意気な笑みを浮かべた。
リネッセル語は大国リネッセル大国の母国語で、現在は各国の共通言語として使われている言語である。確かに王子妃候補ともなれば、このリネッセル語は習得しなければならない最重要言語である。きっと公爵令嬢として幼い頃から他国の言語に触れていたであろうジャクリーナにとっては簡単な問題だっただろう。
リネッセル語は前世でも、とても厳しく指導されたわね。リネッセル国は前世でも他国より大きな力を持っていたから。そして、今ではいくつもの国を吸収して大国となった……。私の前世の国もリネッセル国に吸収されてしまったのよね。
「それでは、続きはジェナ様、ケイシー様、カーラ様の順番で読んでください」
カーラはジェナとケイシーをチラッと見ると、ジャクリーナ程ではないが、ある程度はリネッセル語を話せる二人も流石、上級令嬢だと関心した。
そして、自分の番にはジェナとケイシーよりも少し劣るようにカーラは、リネッセル語の文章を読み上げた。
「ジェナ様とケイシー様もリネッセル語は大体、理解が出来ておりますね。カーラ様はもう少し頑張って下さい」
と先生は言った。
「あら、でも下位の伯爵令嬢にしてはなかなか良かったんじゃないかしら。リネッセル国の方に通じるかは分かりませんけれど。ホホホホッ!」
とジャクリーナは高らかに笑い、私の方を見て得意気な顔をした。
あ、あれ?もしかして今のジャクリーナはフォローのつもりかしら?
なんか、フォローの仕方も今の得意気な顔も全て悪役令嬢感があるのは、ジャクリーナが公爵令嬢たる所以かしら?
そして、その後もカーラ達は他国の言語を勉強していく事となった。その中にはリーブシス語もあったが、カーラは素知らぬ顔で余り話せないフリをした。そして、他の言語もカーラが前世に覚えた国々の言語であった為、前に覚えた時と微妙に言い回しが違ったりするものもあったが、カーラにとってはさほど難しくはなかった。しかし、ジャクリーナはともかく、ジェナとケイシーはかなり苦戦しているようだ。
この歳になって、いくつも新しい言語を覚えるのは大変よね。私も前世の知識があったから、カーラとして生まれてからも他国の本を読んで折角の知識を忘れないように勉強は続けていた。
だって下級伯爵家だから、将来的にミッシェル家に何かあったり、地味な令嬢には結婚相手も現れなかったとなれば言語の知識を活かして、何処かの令嬢の家庭教師の職にもつけるもの。
でも、今回アーロン王子の妃候補になって選ばれなかったとなれば、私は腫れ物扱いになって、縁談話も来なくなるだろうし、家庭教師の道が現実的になってきたわね。
次の日はダンスのレッスンであった。
「流石ジャクリーナ様ですわ!まるで蝶のようですわ!」
とここでもジャクリーナは、ダンスの先生に大いに褒められていた。ダンスはもちろん舞踏会では必須になる。これも前世でステップは勿論、姿勢から顔の動かし方一つにしてもみっちりと教えられた。ダンスは元々余り得意ではなかったけれど、それこそ血の滲むような努力をして、美しい姿勢やステップを見に付けたのよね。
ダンスはジャクリーナだけでなく、ジェナもケイシーも得意なようで、皆上手く踊っている。
これなら、私も手を抜く必要はなさそうね。
そう思いカーラも音楽に合わせて踊り始めた。
そして音楽が終わると何故か静まり返り、皆がカーラを見ていた。
あ、あら?やっぱりやり過ぎちゃった!?
焦るカーラに、驚いた顔で止まっていた先生はコホンと咳払いして言った。
「カーラ様のダンスは、基本に忠実でとても姿勢が美しく、ステップも正確でとても素晴らしかったです。しかし……カーラ様の年齢ではもう少し若々しい振付が好まれますね」
と苦笑いした。
「いつの時代の振り付けかしら?」
「いくら基本に忠実でも、あれでは殿方も引いてしまうわ」
とジェナとケイシーがコソコソと話している。
き、聞こえてるわよ。そりゃあもう50年以上も前に習ったものだから、古いけどさあ!
「あらあら、二人共あまり言っては可哀想よ。派手な顔立ちではないのだから、古い振り付けの方がカーラにはお似合いじゃない?」
オホホホホッと笑うジャクリーナに合わせて、ジェナとケイシーが「その通りですわね!」と相槌を打つ。
ジャクリーナはフォローのつもりかもしれないけれど、ジェナとケイシーには伝わってないみたいね。
それにしても、目立たない方が良いのだから、古いと言われて良かったんだけれど、この腑に落ちない気分はなんなのかしら……。
それからもカーラ達は毎日、歴史学やマナー教育など妃教育を受けていった。そして、そのどれもでカーラは目立たないようにジェナやケイシーよりも少し下になるように力を調節していた。
◇◆◇
その頃アーロンの執務室では――
「ああ!忙しいな!全然、時間が取れないじゃないか!!これでは、いつカーラとお茶の時間を取れるか分からない!!折角、宮廷に居るというのに……」
アーロンは机に溜まった書類に目をやると大きな溜息を吐いた。
「ヴェルナー!カーラの様子はどうなんだ?妃教育は上手くやってるのか?リーブシス語が得意なようだが、他の言語はどの位のレベルだ?」
「そうですね。語学教師によりますと、カーラ様の語学レベルは下位の伯爵令嬢よりは少し出来る程度だと。他のご令嬢、特にジャクリーナ様と比べるとかなり劣るとの事です」
「し、しかしリーブシス語は堪能なはずだろう?」
「いいえ、リーブシス語に関しても同じような評価ですね。……それから、他の歴史学やマナーでもやはり他のご令嬢よりも劣るとの事です」
「うーん。そうか……」
アーロンは眉間に皺を寄せて難しい顔をした。
アーロンはカーラには何処か他の令嬢と違うものを感じていた。彼女には他の令嬢にない将来王妃となるに相応しい何かがあると。
俺の見当違いだったのか?いや、そんな筈はない!!
と思案するアーロンに
「あ!しかし」
とヴェルナーが言った。
「なんだ?やはり何か他の令嬢よりも秀でた所があるんだな!」
とアーロンはワクワクするように次のヴェルナーの言葉を待った。
「ダンスがとても基本に忠実で姿勢やステップがとても美しいと……」
「おお、そうか!それは、舞踏会で一緒に踊るのが楽しみだな!」
とアーロンの顔が嬉しそうに綻ぶ。
「しかし、振り付けが古く地味で派手さがなかったと……今は、最近流行りの振り付けを習っているようですが、なかなか古いステップが抜けず苦労されているようです」
言語やマナーは他の令嬢より劣り、ダンスは古い……か……。
「ヴェルナー」
「はい」
「明日は何が何でもカーラとティータイムを過ごすぞ!!」
「何が何でもですか?」
「そうだ!」
するとヴェルナーはドスンと書類の束をアーロンの前置いた。
「それでは、ここにある書類全て、明日のティータイムまでに終わらせて下さいね」
と言ってニッコリと笑った。
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