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 ここは王宮、オリヴェルの部屋――

「オリヴェル殿下、紅茶をお持ちしました」

「そこに置いといてくれ」

 侍女がテーブルに置いたカップを手に取り、俺は軽く香りを楽しむと口を付けた。

 俺はこの国の王子オリヴェル・アヴェルダ。王族の証である赤い髪に、青い瞳の凛々しい目元。どこからどう見てもイケてる俺は、加えて地位も財産もある。
 俺と結婚したい女なんて五万といる。

 なのに、何を悩む事があるのか、俺の将来の妃となるマリッタ・リストンは、未だ婚約の返事をしてこない。

「恥ずかしがっているのか?フンッ、可愛いな」

 俺はカップをソーサーに戻してソファにもたれると、ニヤニヤと口元を綻ばせた。

 マリッタは、クレディの恋人であるエリーナの友人として紹介された。

 ハッキリ言って顔が超絶タイプであった。

 フワリとしたブラウンの髪に綺麗なグリーンの瞳でシャープな顔立ちのマリッタは、控え目でいつもエリーナとクレディと一緒にいた。二人といる時はブラウンのフワリとした髪を揺らして、コロコロと笑う。そうして、マリッタを目で追って……、いや、王族として気にかけていると綺麗なグリーンの瞳がいつもエリーナとクレディを追っていて、二人を羨ましそうに見つめて頬を染めているのに気が付いた。

 マリッタはクレディが好きなのか!?

 マリッタはいつも二人ばかり見ていた。王子である俺がすぐ近くにいるにも関わらず。全然、俺の事を見ていないと思い知った時、俺が二人を別れさせたらマリッタが喜ぶと思ったんだ。そうしたら、マリッタのあの綺麗なグリーンの瞳に俺の姿を映してくれると思った。

 しかし、一番最悪な状況で俺はマリッタの瞳に映し出される事となる。
 噴水に落ちたマリッタは、濡れた前髪の間から俺を初めて真正面から睨み見た。

 怖かった。正直あの視線は震え上がった。その後の事は言うまでもない。マリッタは俺を噴水に投げ入れると「二人を別れさせるならただじゃ置かないから!」と怒って行ってしまったのだ。

 控え目だと思っていたマリッタの意外な一面は、俺の心臓は撃ち抜いた。

 その後のマリッタは、可愛いの連続だった。
 クレディが好きじゃないと必死に否定したのも、俺を旧校舎の裏庭に呼び出して抱き付いて来たのも、「後ろから抱き締めて」と可愛くお願いして来たのも、マリッタが俺に向ける気持ちに気づかせるには十分過ぎた。それに今度は一緒に舞台を観に行こうだって。

「フッフフフフ。自分からデートに誘って来るなんて、本当に可愛いやつ」

今度のデートで最高にロマンチックなプロポーズをしてやる!そうすれば、恥ずかしがって返事も出来ないマリッタも首を縦に振るだろう。
そして王宮主催の舞踏会でマリッタをエスコートして、一緒にダンスを踊るんだ。

「クフフフ」

 オリヴェルの部屋からは今日も不気味な笑い声が聞こえてくるのだった――
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